第3話|それぞれの戦い方
同じコンテンツに行っているのに。
人によって、見えているものは全然違う。
ミナは、そんなことを少しずつ感じるようになっていた。
自分が見ているのは、みんなのHP。
誰かが危なくなっていないか。
回復は間に合うか。
次に何が来るか。
そんなことを考えながら画面を見ている。
でも、隣で同じ画面を見ているはずの人は、まったく違うことを考えている。
それが、ちょっと面白かった。
「今の、避けられたよね?」
カイが言った。
「うん……たぶん」
ポムが答える。
「次から、そこだけ気をつければいいと思う」
「分かってるんだけど、見るところ多すぎて無理w」
「いや、そこは慣れ」
「簡単に言うなあw」
VCに笑い声が広がる。
ミナも笑いながら、
「私も最初そこ全然見えてなかったよ」
と言った。
「ミナも?」
「うん。回復しながらだと、どこ見ていいか分かんなくなる」
「それは分かる」
リリが言った。
「私もヒールしながらギミック見ると、たまに頭が追いつかない」
「だよねー!」
ポムが嬉しそうに言う。
同じ白魔道士と学者。
同じヒーラーでも、考えていることは少し違う。
カイは、攻略中にいろんなものを見ていた。
敵の動き。
自分のバフ。
スキルのリキャスト。
次の攻撃。
もっと効率よくできないか。
どうすれば少しでも早く倒せるか。
「ここ、もっと詰められると思う」
そう言うことも多かった。
それを聞いて、
「なるほど」
と素直に受け取る人もいれば、
「そんな余裕ないよーw」
と笑う人もいる。
でもカイ自身は、誰かを責めているつもりはなかった。
もっと上手くなれたら嬉しい。
できなかったことが、できるようになったら楽しい。
それだけだった。
一方で、ポムは少し違った。
もちろんクリアしたい。
でも、それ以上に、
「みんなでやること」
が楽しかった。
うまくいった日は嬉しい。
失敗した日は悔しい。
でも、VCでみんなが笑っていると、それだけで少し楽しくなる。
だから、
「ごめん、また私ミスった!」
と言ったあとに、
「でも今の面白かったw」
と笑ってしまう。
「ポム、反省してる?」
「してるしてるw」
「絶対してないw」
「してるってばw」
そんなやり取りも、ポムにとっては固定の楽しみの一つだった。
レオンは、もっと静かだった。
必要なことは言う。
遅れそうなら早めに連絡する。
分からないことがあれば聞く。
誰かの意見を否定することも、あまりない。
でも、攻略について考えていることは意外と細かい。
「ここ、次からこうしたほうが安定するかも」
「どうして?」
リリが聞く。
「この後に続く攻撃が少し楽になるから」
「なるほど」
レオンは、自分が正しいと思ったことを押し通すというより、
「こうすると楽になると思う」
と伝えるタイプだった。
同じ「攻略したい」でも、その方法は人によって違う。
アンディは、そんな八人を見ながら進めていた。
誰かが遅れていれば待つ。
分からないところがあれば確認する。
予定が変われば調整する。
できるだけ全員が同じ方向を向けるように。
それがリーダーとして必要なことだと思っていた。
「次、どうする?」
アンディが聞く。
「もう一回やろう」
カイが答える。
「私はちょっと休憩したいかも」
ポム。
「私も少し休みたい」
ミナ。
「じゃあ、10分休憩にしようか」
アンディが言う。
すぐに話がまとまる。
今はまだ。
それでよかった。
「クラゲって、あんまり焦らないよね」
ある日、ミナが言った。
「そう?」
「うん。失敗しても、なんか普通」
「失敗したら、またやればいいからね」
「それ、すごいなあ」
「ミナは焦る?」
「ちょっとね」
「ヒーラーだから?」
「それもあるかも」
クラゲは少し考えてから言った。
「でも、ミナが焦ってるときって、だいたい誰かを助けようとしてるときじゃない?」
「え?」
「自分がミスしたときより、人が危なくなったときのほうが焦ってる気がする」
ミナは少し黙った。
そんなところまで見られているとは思わなかった。
「……よく見てるね」
「固定だからね」
クラゲは、それだけ言った。
その言葉が、なんとなく嬉しかった。
オルカは、みんなの話を聞いていることが多い。
自分から前に出ることは少ないけれど、誰かが困っていると自然に言葉を挟む。
「私は、みんながやりやすい方法でいいと思うよ」
その言葉に、
「オルカさん、それ毎回言ってない?w」
ポムが笑う。
「そう?」
「うんw」
「じゃあ、みんながやりやすい方法でいいんじゃない?」
「また言ったww」
みんなが笑った。
オルカも笑う。
たぶん、この人は本当にそう思っている。
勝つことより大事なものがある。
でも、それを誰かに押しつけることもしない。
そんなふうに。
少しずつ、八人の違いが見えてきた。
早く進みたい人。
みんなで楽しみたい人。
安定して進みたい人。
誰かを待ちたい人。
自分の役割をしっかり果たしたい人。
失敗しても気にしない人。
失敗すると、すぐに謝る人。
それぞれ違う。
でも、今はその違いが面白かった。
「この人、こういう考え方なんだ」
「この人は、こういうところを見てるんだ」
知れば知るほど、少しずつ相手の輪郭が見えてくる。
その日の固定が終わる。
「じゃあ、また来週」
アンディが言う。
「お疲れさまー」
「またね」
「おやすみ」
一人ずつVCを抜けていく。
ミナは最後まで残っていた。
ログアウトする前に、今日のことを思い返す。
みんな違う。
たぶん、これからもっと違うところが見えてくる。
それでも。
今は、その違いが嫌じゃなかった。
むしろ、
もっと知りたいと思った。
八人で遊ぶようになって。
まだ、ほんの少ししか経っていない。
それなのに、いつの間にか。
「来週、またみんなに会えるな」
そんなことを考えている自分がいた。
固定って。
思っていたより、少し不思議なものなのかもしれない。