「このあと、みんな何する?」
アンディが聞いた。
「私はFCに顔出すかな」
オルカが答える。
「今日、ちょっと約束してるから」
「私は……どうしようかな」
リリが考える。
「私もフレンドと少し遊ぶ予定」
レオンが言った。
「俺は落ちる」
カイは即答だった。
「早っw」
ポムが笑う。
「明日仕事だから」
「そっかー」
「ポムは?」
「私は暇!」
「即答だなw」
みんなが笑った。
ミナも笑いながら、フレンド欄を見た。
そこには、少し前から届いているTellがあった。
『固定終わったら遊べそう?』
固定が始まる前から付き合いのあるフレンドだった。
いつもなら、固定が終わったら一緒にルレを回したり、だらだら話したりする。
今日も、そのつもりだった。
でも。
今日は少し違った。
固定が終わった。
それなのに、まだVCに残っている。
みんなと、もう少し話したいと思っている自分がいる。
「……どうしよう」
小さく呟く。
「ミナ?」
アンディが振り返る。
「ううん、なんでもない」
そう答えたけれど。
本当は、なんでもなくなかった。
固定が始まる前の自分なら。
たぶん、迷わずフレンドのところへ行っていた。
約束していたから。
先に誘ってくれたから。
固定は固定。
友達は友達。
どちらも大切なら、時間を分ければいい。
そう思っていた。
でも最近は。
固定が終わったあとも、みんなと話していたいと思う。
攻略が終わったら解散。
それでいいはずなのに。
「あとちょっとだけ」
そう思ってしまう。
それが、少しだけ嬉しくて。
同時に、少しだけ怖かった。
固定が楽しくなるほど。
固定の外にいる人との時間を、少しずつ減らしてしまうんじゃないか。
そんなことを考えてしまう。
「じゃあ、今日はここで解散かな」
アンディが言った。
「えー!」
ポムが残念そうな声を出す。
「また来週あるでしょ」
「来週まで長いよー」
「一週間だからねw」
「そうなんだけど!」
笑い声が広がる。
そのまま、少しずつ人が抜けていく。
「じゃあ、またね」
「お疲れさま」
「また来週」
ポムが抜ける。
リリも抜ける。
オルカもFCへ向かうためにVCを出る。
レオンとカイも、それぞれログアウトしていった。
最後まで残っていたのは、ミナ、クラゲ、アンディ。
「……なんか、結局みんな予定あるんだな」
アンディが笑う。
「そうだね」
ミナも笑った。
「じゃあ俺も落ちるわ」
「うん。お疲れさま」
アンディが抜ける。
そして。
また二人になった。
「なんかさ」
クラゲが言う。
「ん?」
「最近、固定終わってからも残るようになったよね」
「みんな?」
「ミナ」
「え、私?」
「うん」
ミナは少し考えた。
「……楽しいからかな」
「ふーん」
「なに、その反応w」
「いや、ミナって昔からそうだったなと思って」
「何が?」
「気を遣って、最後まで付き合うやつ」
「……それは違うよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃあ、今も自分が話したいから残ってる?」
ミナは黙った。
すぐには答えられなかった。
クラゲは急かさない。
昔からそうだった。
「……たぶん」
ミナが言う。
「うん」
「自分が残りたいから、残ってる」
「そっか」
「なんか変?」
「変じゃないよ」
クラゲが笑った。
「むしろ、ちょっと安心した」
「なんで?」
「ミナ、昔から『どっちでも大丈夫』って言うから」
「……それは便利な言葉じゃん」
「便利すぎるんだよ」
「えー」
「本当はどっちでもよくないときまで使うでしょ」
ミナは返事をしなかった。
図星だった。
「でもさ」
ミナが言う。
「固定って、どこまで仲良くなっていいんだろうね」
「急に深いなw」
「いや、なんとなく」
「仲良くなればいいんじゃない?」
「でも、固定以外にも友達いるじゃん」
「いるね」
「その人たちとの時間も大事だし」
「うん」
「固定の人たちとも、もっと遊びたいし」
「それでいいんじゃない?」
「そんな簡単かなあ」
クラゲは少し考えてから言った。
「固定って、毎週集まる約束をしただけでしょ」
「うん」
「それ以上のことは、これから決めていけばいいんじゃない?」
「……そっか」
「最初から全部決めなくてもいいよ」
ミナは少し笑った。
「クラゲって、こういうときだけ妙にまともだよね」
「こういうときだけって何w」
「普段は適当なのに」
「失礼だなw」
二人で笑う。
ふと、ミナはさっきのTellを思い出した。
まだ返事をしていない。
「ねえ、クラゲ」
「ん?」
「今日ね、固定終わったら遊ぼって誘われてたんだ」
「ああ」
「でも、今ちょっと……こっちにいたいなって思って」
クラゲは少しだけ笑った。
「じゃあ、こっちにいれば?」
「でも約束してたし」
「約束って、絶対守らなきゃいけないもの?」
「……え?」
「もちろん大事だけどさ」
クラゲは続けた。
「毎回、誰かとの約束を優先しなきゃいけないわけじゃないでしょ」
「でも、断ったら悪いかなって」
「それなら、ちゃんと伝えればいいじゃん」
ミナはスマホ……ではなく、ゲーム画面に表示されたTellを見る。
『固定終わったら遊べそう?』
しばらく悩んでから、文字を打った。
『ごめん、今日はもう少し固定の人たちと話してたい!また今度遊ぼう』
送信。
すぐに返事が来た。
『了解!楽しんできなー』
ミナは、少し驚いた。
それだけだった。
怒られもしない。
責められもしない。
ただ、
「また今度」
と言ってくれた。
「……なんだ」
ミナが呟く。
「何?」
「もっと悩まなくてもよかったのかも」
クラゲが笑う。
「そういうこと」
固定の中にいる人たちも大切。
固定の外にいる人たちも大切。
どちらか一つを選ばなきゃいけないわけじゃない。
でも。
その日の自分が、誰と一緒にいたいと思っているのか。
それくらいは、自分で決めてもいいのかもしれない。
ミナはそう思った。
「じゃあ、そろそろ寝る?」
クラゲが言う。
「うん」
「今日は結構しゃべったね」
「ね」
「じゃ、また来週」
「また来週」
ミナはログアウトする前に、もう一度フレンド欄を見る。
固定の七人。
昔からのフレンド。
FCの仲間。
まだ名前も知らない誰か。
FF14の中には、いろんな場所がある。
その全部を同じように大切にすることなんて、たぶんできない。
だからこそ。
その時々で、自分が大切にしたいものを選んでいけばいい。
そんなことを、ほんの少しだけ思えるようになった。
そして。
「来週、またみんなに会えるな」
ミナはそう思いながら、ログアウトした。