「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

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第5話|遅れてきた人

 

【挿絵表示】

 

 

その日は、いつもより少しだけ静かだった。

 

「……オルカさん、まだかな?」

 

ポムが言った。

 

時計を見る。

 

固定開始の時間は、もう過ぎている。

 

「連絡は来てるよ」

 

アンディが答えた。

 

「家のことが少し長引いてるみたい」

 

「そっか」

 

ポムが頷く。

 

「じゃあ、待ってよう」

 

カイが言った。

 

「今日、やるところ結構あるけど」

 

「そうだね」

 

アンディが少し考える。

 

「あと10分くらい待って、それでも難しそうなら相談しようか」

 

「了解」

 

レオンが答えた。

 

ミナは、なんとなく時計を見た。

 

10分。

 

固定の10分って、普段なら結構長い。

 

でも今日は。

 

不思議と、誰も焦っていなかった。

 


 

「そういえばさ」

 

ポムが突然言った。

 

「みんな、固定の日ってご飯どうしてる?」

 

「急だなw」

 

レオンが笑う。

 

「だって待ってるだけ暇じゃん」

 

「俺は仕事終わってから食べることもある」

 

アンディが答える。

 

「私は先に食べちゃう」

 

リリ。

 

「俺は適当」

 

カイ。

 

「適当って一番分からないw」

 

「その日によるってこと」

 

「なるほど」

 

そんな話をしているうちに、10分が過ぎた。

 

「……まだ来ないね」

 

ミナが言う。

 

アンディがスマホを確認する。

 

「もう少しかかりそうみたい」

 

「そっか」

 

カイが言った。

 

「じゃあ、先にできることやる?」

 

「オルカさんがいないと8人揃わないけど?」

 

ポムが聞く。

 

「攻略じゃなくて、打ち合わせとか」

 

「それならいいかも」

 

アンディが答えた。

 

「じゃあ、次どこまでやるかだけ決めようか」

 

8人が揃っていなくても。

 

できることはある。

 

誰かがいないから、全部止める必要もない。

 

そんなふうに考えるのが、この固定では初めてだった。

 


 

しばらくして。

 

「あ、ごめん!」

 

VCに声が入った。

 

「オルカさん!」

 

ポムが嬉しそうに言う。

 

「遅くなっちゃった」

 

「大丈夫ですよ」

 

リリが言う。

 

「家のこと?」

 

「うん。ちょっと手が離せなくて」

 

「お疲れさま」

 

ミナが言った。

 

「ありがとう。待たせちゃったね」

 

「全然」

 

アンディが答える。

 

「じゃあ、始めようか」

 

「お願いします」

 

オルカの声が少しだけ明るくなる。

 

それだけで、空気がいつもの固定に戻った。

 

「でも、オルカさんって毎週ちゃんと来てるよね」

 

ポムが言った。

 

「今日は珍しい感じ?」

 

「うん。普段はなんとか間に合わせてるんだけど」

 

「大変じゃない?」

 

ミナが聞く。

 

「まあ、ちょっと大変かな」

 

オルカは笑った。

 

「固定の日だからって、家のことがなくなるわけじゃないからね」

 

「確かに」

 

リリが言う。

 

「それはそうだよね」

 

「だから、遅れるときはなるべく早く連絡するようにはしてる」

 

「それで十分だと思うよ」

 

アンディが答えた。

 

「無理して急がなくていいからね」

 

「ありがとう」

 

オルカが言った。

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

ミナは、そのやり取りを聞いていた。

 

なんだか、いいなと思った。

 

固定の予定を守ることは大切。

 

でも。

 

そのために、普段の生活を全部後回しにする必要はない。

 

そんな当たり前のことを、みんなが普通に受け入れている。

 


 

「じゃあ、オルカさんが来たし、始めよう!」

 

ポムが言った。

 

「おー」

 

「お願いします」

 

「よろしく」

 

声が重なる。

 

さっきまで待っていた時間が嘘みたいに、みんなの声が弾んだ。

 

オルカも笑っている。

 

「今日は頑張るよ」

 

「いつも頑張ってるじゃん」

 

クラゲが言った。

 

「そう?」

 

「うん」

 

「じゃあ、今日も頑張ります」

 

「ほどほどにねw」

 

「クラゲさんに言われたくないw」

 

「なんでw」

 

また笑い声が起こる。

 


 

その日の攻略は、思ったより順調だった。

 

一度だけ大きなミスがあって。

 

「ごめん!」

 

オルカが謝る。

 

「今の私だね」

 

「大丈夫大丈夫」

 

アンディが言う。

 

「次いこう」

 

「はい」

 

もう一度やる。

 

今度はうまくいった。

 

「よし!」

 

ポムの声が響く。

 

「今の気持ちいい!」

 

「オルカさん、さっきのリカバリーよかった」

 

リリが言う。

 

「ありがとう」

 

「じゃあ、今日はここまでにする?」

 

アンディが聞く。

 

「もう一回やりたい!」

 

ポム。

 

「元気だなw」

 

「だって今ので終わるのもったいない!」

 

「分かる」

 

ミナも言った。

 

そんな感じで、予定より少しだけ長く続いた。

 

終わるころには、オルカの最初の遅れなんて誰も気にしていなかった。

 

「今日は遅れちゃったけど、みんなありがとう」

 

オルカが言う。

 

「こっちこそ」

 

アンディが答える。

 

「待ってる間も結構楽しかったし」

 

「そうそう」

 

ポムが言う。

 

「ご飯の話してたw」

 

「何それw」

 

オルカが笑う。

 

「私いない間に楽しそうな話してるじゃん」

 

「今度聞かせてあげる」

 

ミナが言う。

 

「うん」

 

オルカがまた笑った。

 


 

固定には、8人分の生活がある。

 

仕事がある人。

 

家のことがある人。

 

固定の前に別の約束がある人。

 

終わったあとに別の場所へ行く人。

 

それぞれ違う。

 

だから、毎週同じ時間に集まることは。

 

思っていたより、少しだけ特別なのかもしれない。

 

誰かが遅れる日もある。

 

誰かが早く落ちる日もある。

 

それでも。

 

集まれるときには8人で遊ぶ。

 

それでいい。

 

ミナは、そう思った。

 

だからこそ、少しだけ怖かった。

 

「もし、8人の予定と、別の誰かとの約束が重なったら――私は、どっちを選ぶんだろう」

 

ミナはフレンドリストを眺めていた。

 

今日一緒に遊んだ七人の名前が並んでいる。

 

その少し下には、昔から遊んでいる友達の名前もある。

 

どちらも大切。

 

でも――。

 

大切なものが増えていけば、全部を同じように大切にすることは、きっと難しくなる。

 

そんなことを考えながら、ミナは古くからの友達へメッセージを書いた。

 

「こないだはごめん!また今度、遊ぼうね!」

 

送信。

 

それだけの短いメッセージだった。

 

どっち?なんて今はまだ、きっと選ばなくてもいい。

 

そう思って、ミナはゲームを終了した。

 


 

「ミナ、そろそろ寝る?」

 

クラゲの声がした。

 

「うん」

 

「また来週」

 

「またね、来週もよろしくー」

 

固定は楽しい。

 

だからこそ。

 

固定以外の大切なものを、どうしたらいいのか。

 

ミナはまだ、うまく考えられなかった。

 

ただ。

 

そのときはまだ。

 

「どっちも大事」でいられる方法が、ちゃんとあると思っていた。

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