「今日は、どこまで行けそうかな」
VCに集まった八人を見ながら、アンディが言った。
「先週より進みたい!」
ポムがすぐに答える。
「でも、先週けっこう惜しかったよね」
リリが続ける。
「うん。あとちょっとだった」
「なら、今日はそこから詰めようか」
アンディがそう言うと、カイも、
「動画で見た感じだと、あそこはもう少しやり方変えたほうがいいと思う」
と続けた。
「もう予習してるの?」
ポムが笑う。
「一応。次やるなら、最初から安定させたいし」
「すご……」
ポムが素直に感心する。
「私は動画見ても途中から何が何だか分からなくなったw」
「それは実際やったほうが早いかもね」
クラゲが笑った。
「だよねw」
ミナも笑う。
そんな会話をしながら、いつものように攻略が始まった。
最初は、前回より少しだけ動きが良かった。
「あ、今のいけた!」
「いいね!」
「次!」
誰かが声を上げるたびに、VCが少し明るくなる。
失敗すれば笑って、できれば喜ぶ。
まだ、何も難しいことはない。
少なくとも、このときのミナにはそう思えていた。
しばらくして、何度目かの全滅。
「うーん……」
アンディが唸る。
「もう一回やろう」
カイが言った。
「次はさっきのところ、こうしたほうがいいと思う」
「了解!」
ポムが返す。
そのときだった。
「あ、ごめん」
オルカの声が入る。
「どうしたの?」
「今日、ちょっとこのあと家族とご飯食べに行くことになってて」
「あ、そうなんだ」
「うん。急に決まっちゃって。あと三十分くらいなら大丈夫だけど、そのあと抜けないと」
「了解了解」
アンディがすぐに返した。
「じゃあ、三十分でできるところまでやろう」
「ごめんね」
「いやいや、全然」
それで話は終わった。
少なくとも、その場では。
そのあと三十分。
オルカがいるうちにと、みんなで集中して何度か挑戦した。
そして、最後の一回。
今までで一番いいところまで進んだ。
「いける!」
ポムの声が弾む。
「そこ!」
「あとちょっと!」
全員が集中する。
そして――
失敗。
「あああああ!」
ポムが叫ぶ。
「惜しい!」
「今のかなり良かったね」
「もう一回!」
ミナも笑った。
けれど、オルカが言った。
「ごめん、もう時間だ」
一瞬だけ、VCが静かになる。
「あ、そっか」
アンディが答えた。
「じゃあ今日はここまでにしようか」
「ごめんね。また来週!」
「お疲れさま!」
オルカが抜ける。
残った七人は、しばらくそのままVCにいた。
「……惜しかったなあ」
ポムが言った。
「うん」
「もう一回やりたかった」
カイもそう言った。
ミナは何となく、みんなの声を聞いていた。
オルカがいなくなったからといって、誰かが怒っているわけじゃない。
むしろ、仕方ない。
家族とのご飯なんだから。
それは誰にでもあることだ。
「じゃあ、今日は解散にする?」
アンディが聞いた。
「あ」
ポムが言った。
「私はもうちょっとだけ残れるよ」
「俺も」
カイが続く。
「俺も大丈夫」
クラゲも答える。
「私は……」
ミナが言いかけたところで、スマホが鳴った。
画面を見る。
昔からのフレンドからだった。
『今日このあと少し遊ばない?』
ミナは少し迷った。
固定はもう終わる。
でも、まだみんなVCにいる。
「どうしたの?」
クラゲが聞く。
「んー、昔からのフレンドから。今日このあと遊ばない?って」
「ああ」
クラゲが言う。
「行ってきたら?」
「でも、みんなまだいるし……」
「固定終わったんだから、別にいいんじゃない?」
「そうかな」
「うん」
クラゲはいつも通りだった。
「固定の日だからって、そのあとまで全部固定じゃないでしょ」
「……そっか」
ミナは少し笑った。
「じゃあ、私も今日はそっち行ってくる!」
「おっけー」
「またねー」
「お疲れ!」
ミナが抜ける。
そのあと、残ったメンバーもそれぞれの予定へ戻っていった。
ポムはフレンドから誘われていた。
カイはもう少し練習するらしい。
レオンは翌朝が早いから落ちると言っていた。
アンディは攻略動画を見ると言っていた。
クラゲもFCの手伝いがあるらしい。
同じ時間に集まって。
同じ場所で遊んで。
同じコンテンツに挑戦している。
でも。
固定が終われば、みんなそれぞれの場所へ帰っていく。
そのこと自体は、何もおかしくなかった。
翌週。
いつもの時間。
VCに八人が集まった。
「お疲れー」
「こんばんはー」
「今日もよろしく!」
いつもの挨拶が飛び交う。
アンディが今日の予定を話し始める。
「前回のところなんだけど、カイが送ってくれた動画見た人いる?」
「見た!」
ポムが答える。
「私は途中まで……」
「俺はまだ見てない」
レオンが言う。
「俺は見たよ」
クラゲが続ける。
それぞれの返事を聞きながら、ミナはふと思った。
同じ固定に入っている。
でも。
同じように時間を使っているわけじゃない。
同じように攻略したいわけでもない。
同じように、この固定に何を求めているわけでもない。
それでも今は、八人で遊べている。
「じゃあ、今日はこの方法で試してみようか」
アンディが言った。
「はーい!」
ポムが返す。
「了解」
カイが答える。
「よし、行こう」
誰かが笑った。
ミナも笑った。
まだ、この違いを問題だとは思っていなかった。
ただ――
同じ「固定」という場所に集まっていても。
そこに来た理由まで、同じとは限らない。
そのことを、ミナは少しだけ知り始めていた。
そしてたぶん。
まだ誰も、それを気にしていなかった。