「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

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第7話|予定通りにはいかない

 

 

【挿絵表示】

 

 

その日は、開始時間の少し前からミナはログインしていた。

 

いつものように、まだ誰もいないVC。

 

ゲーム内では、先にログインしているメンバーの名前がちらほら見える。

 

「あ、カイいる」

 

ミナがそう呟いた直後。

 

『今日ちょっと遅れる』

 

アンディからメッセージが届いた。

 

『仕事が長引いてる。急いで帰るけど、開始には間に合わないかも』

 

「了解!」

 

ミナはそう返した。

 

固定が始まる時間になった。

 

集まったのは、ミナ、クラゲ、カイ、ポム、リリ、レオン、オルカ。

 

七人だった。

 

「アンディ、まだかな」

 

ポムが言う。

 

「もうちょっとかかるみたい」

 

ミナが答える。

 

「じゃあ、待つ?」

 

レオンが聞いた。

 

「俺は待ってもいいよ」

 

クラゲも言った。

 

カイは少し考えてから、

 

「今日の時間もったいないし、七人でできることやらない?」

 

と言った。

 

「七人で?」

 

ポムが聞き返す。

 

「うん。別に攻略じゃなくてもいいし」

 

「あー、それならいいかも」

 

オルカが頷く。

 

「じゃあ、何する?」

 

そこから少し相談が始まった。

 

地図に行くか。

 

ルレを回すか。

 

別のコンテンツをやるか。

 

「私は地図がいいな」

 

ポムが言った。

 

「私も!」

 

リリが続く。

 

「じゃあ地図にしようか」

 

そう決まりかけたところで、カイが言った。

 

「でも、アンディが戻ってきたら攻略やるんじゃない?」

 

「そうだね」

 

「なら、あんまり時間使わないほうがよくない?」

 

「あー……」

 

ポムが少し黙った。

 

ミナは二人の声を聞いていた。

 

どちらも、言っていることは分かる。

 

カイは、せっかく集まった時間を無駄にしたくない。

 

ポムたちは、アンディが来るまでの時間もみんなで遊びたい。

 

結局、

 

「じゃあ軽くルレ行って、アンディ来たら攻略にしよう」

 

ということになった。

 

七人でダンジョンへ向かう。

 

いつもの攻略とは違う。

 

雑談しながら、くだらないことで笑う。

 

「ポム、今なんでそこ行ったのw」

 

「分かんないw」

 

「分かんないで行ったの?w」

 

「身体が勝手に……」

 

「それは怖いwww」

 

笑い声がVCに響く。

 

ミナも笑った。

 

こういう時間も好きだった。

 

しばらくして、アンディが戻ってきた。

 

「ごめん! 遅くなった!」

 

「おかえりー」

 

「お疲れ」

 

「大丈夫だよ」

 

みんなが返す。

 

「何してた?」

 

「ルレ行ってた」

 

「そっか」

 

アンディが少し笑った。

 

「じゃあ、攻略やろうか」

 

「うん!」

 

ポムが答える。

 

そのまま、いつものように攻略が始まった。

 


 

最初の数回は順調だった。

 

けれど、何度か失敗する。

 

「さっきのところ、もう少し早めに動いたほうがいいかも」

 

カイが言う。

 

「うん、やってみる」

 

ポムが答えた。

 

もう一度。

 

失敗。

 

「今の、私かな」

 

ポムが言う。

 

「いや、そこだけじゃないよ」

 

カイが答える。

 

「でも、さっきから私が遅れてる気がする」

 

「じゃあ、そこ合わせよう」

 

アンディがまとめる。

 

「一回そこ重点的にやってみようか」

 

ポムが、

 

「分かった」

 

と返した。

 

それから何度か練習した。

 

少しずつ良くなる。

 

「お、今よかった!」

 

リリが言った。

 

「ほんと?」

 

ポムが笑う。

 

「うん!」

 

「じゃあ、もう一回!」

 

そのとき、レオンが時計を見た。

 

「ごめん、俺そろそろ落ちないと」

 

「あ、もうこんな時間?」

 

ミナも時計を見る。

 

開始してから、思ったより時間が経っていた。

 

「明日早いんだよね」

 

「了解。お疲れ!」

 

アンディが言う。

 

「ごめんね。また来週」

 

レオンが抜ける。

 

六人になった。

 

「……今日はここまでにする?」

 

アンディが聞く。

 

カイは少し考えて、

 

「俺はまだいけるけど」

 

と言った。

 

ポムも、

 

「私ももう少しできるよ」

 

と答える。

 

オルカが、

 

「私はこのあと家のことあるから、そろそろ落ちるね」

 

と言った。

 

「じゃあ、私も」

 

リリが続く。

 

「明日仕事だから」

 

一人、また一人と予定が出てくる。

 

結局、アンディとカイとポムとミナとクラゲの五人が残った。

 

「……どうする?」

 

アンディが聞いた。

 

「続けてもいいけど、五人だとできないしね」

 

クラゲが言う。

 

「じゃあ、今日は終わりにしようか」

 

アンディが言った。

 

「うん」

 

ミナが答えた。

 

そのとき。

 

カイがぽつりと言った。

 

「なんか、固定って難しいね」

 

誰もすぐには答えなかった。

 

「みんな予定あるし」

 

ポムが言う。

 

「そりゃそうだよ」

 

「うん」

 

カイも頷く。

 

「分かってるんだけどさ」

 

少しだけ間があった。

 

「せっかく集まってるから、できるならちゃんと進めたいなって思って」

 

「……うん」

 

アンディが答える。

 

「俺もそう思う」

 

ミナは二人の言葉を聞きながら、少しだけ考えた。

 

今までだったら、

 

「どっちでも大丈夫だよ」

 

と言っていたと思う。

 

でも今日は、少しだけ違った。

 


 

「私は……」

 

声を出してから、ミナ自身が少し驚いた。

 

みんながこちらを見る。

 

続けたい人がいるなら続ければいい。

 

終わりたい人がいるなら終わればいい。

 

そうやって、自分の気持ちを最後に置いてしまうことが多かった。

 

でも今日は、自分から言った。

 

「私は今日はこれで終わっていいかなって思う」

 

言葉にしてみると、思っていたより普通だった。

 

誰かに怒られるわけでもない。

 

嫌われるわけでもない。

 

むしろ、

 

「俺もいいと思う」

 

「じゃあ来週またやろうか」

 

そんなふうに、あっさり話はまとまった。

 

それなのに。

 

VCが静かになったあとも、ミナの中には少しだけ引っかかるものが残っていた。

 

固定に入ったからといって、

 

毎週、同じ時間を八人全員が空けられるわけじゃない。

 

仕事がある。

 

家のことがある。

 

FCの予定がある。

 

フレンドとの約束もある。

 

明日が早い人もいる。

 

たぶん、みんなそれぞれに、

 

固定とは別の大事なものを持っている。

 

それは、最初から分かっていたはずだった。

 

なのに。

 

八人で集まることが当たり前になり始めると、

 

いつの間にか「八人でいること」が目的みたいになってしまう。

 

ミナは、そんなことを考えながら、

 

さっき自分が言った言葉を思い返していた。

 

「今日はこれで終わっていいかな」

 

たったそれだけ。

 

でも。

 

自分の都合や気持ちを、ちゃんと言葉にしたのは久しぶりだった。

 

固定のために集まった八人。

 

だけど。

 

八人だけの世界で、生きているわけじゃない。

 

その当たり前のことを、

 

ミナは少しずつ知り始めていた。

 

そしてたぶん。

 

それは、ミナだけじゃなかった。

 

まだ誰も気づいていない。

 

同じ時間に集まって、

 

同じ場所で戦って、

 

同じ攻略を目指しているように見えても。

 

この八人が、

 

この固定に求めているものは、

 

少しずつ違っている。

 

その違いは、今ならまだ、

 

「人それぞれ」で済ませられるくらい小さかった。

 

だからミナは、何も心配しなかった。

 

来週になれば、また八人で集まる。

 

そう思っていた。

 

……たぶん、みんなも。

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