日曜日の午後。
固定が始まる22時までは、まだかなり時間があった。
ミナは昼過ぎからログインして、FCのメンバーと少し雑談をしていた。
FCチャットでは、夜の予定の話が流れている。
『今日20時くらいから地図行く人いる?』
『行きたい!』
『ミナも来る?』
「あ……」
ミナは少しだけ迷った。
20時からなら、22時の固定には間に合う。
だから、行こうと思えば行ける。
でも。
今日は固定の日だ。
少し考えてから、
『今日は固定あるから、また今度行きたい!』
と返した。
『了解!また今度ねー!』
すぐに返事が来る。
「うん。また今度でいいか」
ミナはそう呟いて、FCチャットを閉じた。
固定が始まるまでの時間は、それぞれ自由。
だから、本当ならFCで遊んでから固定に行ってもいい。
それでも今日は、固定を優先した。
少しずつ。
「固定の日」という感覚が、自分の中にもでき始めていた。
そして、22時。
八人がVCに集まった。
「お、今日は全員いる!」
ポムが嬉しそうに言う。
「珍しいw」
カイが笑う。
「じゃあ、すぐ攻略行こうか」
アンディが言った。
「うん!」
みんながコンテンツへ向かう。
その日の攻略は、先週より少しだけ進んだ。
まだ安定しているわけではない。
けれど。
前よりも動きが合ってきている。
「今のよかった!」
「だいぶ見えてきたね」
「次いけそう」
そんな声が増えていた。
ミナも嬉しかった。
八人でやっている感じが、少しずつ出てきた気がする。
ところが。
23時を少し過ぎたころ。
オルカが言った。
「ごめん、ちょっといい?」
「どうした?」
アンディが聞く。
「今日、24時までできないかも」
「え?」
ポムが聞き返す。
「明日、朝早くてさ」
オルカは少し苦笑した。
「家族を朝早く送っていかなきゃいけなくなって。思ったより出る時間が早いんだよね」
「あー、それは大変」
レオンが言った。
「うん。だから、今日は23時半くらいには落ちたい」
「了解」
ミナが答える。
オルカが抜けるまで、あと少し。
残った七人で、そのまま攻略を続けることになった。
「じゃあ、あと一回だけやろう」
カイが言った。
一回。
もう一回。
少しずつ進む。
そして、23時半が近づいた。
「ごめん、そろそろ落ちるね」
オルカが言った。
「お疲れ!」
「また来週!」
「ありがとう。来週またやろう」
オルカがVCを抜ける。
七人になった。
カイが少し考えてから、
「……助っ人、呼ぶ?」
と言った。
一瞬、VCが静かになった。
「助っ人?」
ポムが聞き返す。
「うん。固定外の人を一人入れる」
カイは続けた。
「せっかく時間合わせてるんだし、誰か一人いないだけで何もしないの、もったいなくない?」
「でも、固定って八人でやるものじゃないの?」
リリが言う。
「もちろんそうだけど」
カイは少し考える。
「毎回じゃないよ。今日みたいに誰かが急に抜ける日だけ」
「私は……ありだと思う」
レオンが言った。
「せっかく時間合わせてるし」
「でも、知らない人を入れるってことだよね?」
ポムが聞く。
「うん」
「その人に説明したりする時間もいるんじゃない?」
クラゲが言った。
「それはそうだけど」
カイは少し考えて、
「それでも、何もしないよりはいいかなって」
と言った。
ミナは黙って聞いていた。
カイの言っていることも分かる。
固定の日だからこそ、みんな予定を合わせている。
その時間を、誰か一人が抜けたから全部なくしてしまうのは、もったいない。
でも。
助っ人を入れたら、それはもう八人の固定なのだろうか。
「オルカが戻れないなら、今日は終わりにする?」
リリが聞く。
「俺は続けたいけど」
カイが答える。
「俺もどっちでもいい」
クラゲが言った。
「ミナは?」
突然、話を振られる。
「えっ」
ミナは少し考えた。
「私は……」
言葉が出てこなかった。
前なら、
「どっちでも大丈夫だよ」
と答えていたかもしれない。
でも。
今は、それだけで終わらせたくない気がした。
「……まだ、分からない」
それだけ言うと、
「そっか」
カイが答えた。
結局。
その日は助っ人を呼ばず、そこで終わることになった。
「じゃあ、また来週」
「お疲れー」
「またね」
VCを抜ける。
ミナはログアウトする前に、FCチャットを開いた。
昼間の地図募集は、まだ続いていた。
『まだ行ける人いるー?』
少しだけ考えてから、
『今からなら行けるよー』
と返した。
『お、ミナきた!』
すぐに返事が来る。
「……やっぱり、ちょっと遊びたかったんだよね」
ミナは小さく笑った。
固定が終わったあとの時間なら。
FCの人たちと遊んでもいい。
固定を優先したからといって、FCを大事にしていないわけじゃない。
そう思った。
しばらくして。
クラゲからTellが届いた。
『今日の助っ人の話、どう思った?』
『うーん……』
ミナは少し考えてから返した。
『正直、まだ分からない』
『まあ、急に言われてもね』
『うん』
少し間が空く。
『でも、カイの言ってることも分かるんだよね』
『時間がもったいないってやつ?』
『そう。みんな予定合わせて集まってるし』
『うん』
『だから、誰かが来られないたびに何もできなくなるのも、ちょっと違うのかなって』
送ってから、ミナは続けた。
『でも、助っ人を入れたら、それって固定なのかなって思っちゃう』
クラゲからの返事は、少し遅かった。
『固定って、何を固定するんだろうね』
「……え?」
思わず声に出してしまう。
『メンバー?』
ミナが返す。
『それもあると思う』
『じゃあ、攻略する場所?』
『それもあるね』
『じゃあ、時間?』
『それもある』
ミナは少し笑った。
『全部じゃんw』
『そうなんだよw』
しばらく二人とも何も送らなかった。
やがてクラゲから、
『たぶん、何を大事にするかなんじゃない?』
と届いた。
ミナは画面を見つめた。
『何を大事にするか?』
『うん』
『攻略を進めることを大事にする人もいるし』
『うん』
『八人で集まることを大事にする人もいる』
『うん』
『みんなで楽しく遊ぶことを大事にする人もいる』
『……そっか』
ミナは、その言葉を何度か読み返した。
同じ固定。
同じ曜日。
同じ時間。
同じ攻略。
それだけなら、みんな同じ場所にいる。
でも。
その場所に何を求めているのかは、違う。
「……難しいなあ」
ミナは小さく呟いた。
『まだ始まったばっかりだし、今は分からなくてもいいんじゃない?』
クラゲからそう届いた。
『うん』
『そのうち分かってくるよ』
『そうかな』
『たぶん』
『じゃあ、分かってから考えればいいかw』
『そうそうw』
ミナも笑った。
そして、FCのメンバーが待っている地図へ向かった。
固定が終われば、固定の外にも自分の居場所がある。
FCにはFCの時間がある。
フレンドにはフレンドの時間がある。
それぞれを大事にしていい。
そのときのミナは、そう思っていた。
ただ。
まだ知らなかった。
「何を大事にするか」が違うということは。
いつか。
「何を優先するか」まで、違ってくるということを。