闇のカードが手元にあるが、私は平凡な人生を送りたい。 作:瑠璃色砂糖月
カードポリス・治安維持部隊、その本部にて。
1人の男が苛立っていた。
緑色の髪を短く切り揃えており、ガタイの良い肉体をスーツできっちりと包み込んでいた。
目付きは悪く、眉間には皺が寄っており、人を寄せ付かせないオーラを放っている。
机を指先でコツコツと叩き、時折舌打ちをする。明らかに機嫌が悪そうだ。
彼は
治安維持部隊に今年入った期待の新人である。
そんな彼に近づき、肩を叩く1つの影があった。
「
「……
律希と呼ばれた男がにぱっと笑う。
御加瀬と同じく今年治安維持部隊に入った新人である。
女と見間違うほど、麗しい男だった。
長い銀髪を後頭部で1つに括っており、パチリとした青い瞳が柔らかい光を灯している。体つきも華奢で小柄。ガタイの良い御加瀬と並ぶと折れそうなほどに細く小さく見える。
白城は御加瀬の隣にあったパイプ椅子に腰を降ろした。
「何かあった?」
「……ヤ、別に」
「ガサ入れで何かあった?」
「あ゛?」
「何かあったんだ」
あからさまにガラが悪くなった御加瀬に、やはり白城はニコニコしていた。何も気にしていない。
一方で、御加瀬は大きく息を吐いた後、しぶしぶ口を開いた。
「お前の10倍くらい性格の悪いやつと
「待って?? 礼、きみは僕のデッキのこと性格悪いって思ってたの?」
「悪いじゃねぇか」
ショックを受ける白城に、御加瀬はあっけらかんと言う。
「回復と
「いやいやぁ、きみの
「ンだとコラ」
「あ、怒るってことは図星ってことだよ。やーいやーい、犯罪者予備軍逃がしたざぁこ、げふっ」
「シメるぞ」
「もう絞まってるよ。……ちょ、ギブ、ギブだってごめんごめんごめんもうしない、しないから」
ヘッドロックをかけた御加瀬の腕を、白城はタップする。
御加瀬は鼻を鳴らして白城を解放した。
「……で? どんなデッキだったの?」
「トラップと
「別にどの色でもイカれた性能のカードの1枚や2枚はあると思うけど?」
白城は首を擦りながら言葉を返す。
そう、どの色でも1枚や2枚どころか、この世に存在するデッキの数だけ、性能のおかしいカードは存在するものだ。
大体、
「いや、相手のカード全部黒だった」
「……」
白城は流れるように次の言葉を吐き出そうとした、すんでのところで喉に留めた。
そして、隣の御加瀬を見上げる。その顔に浮かぶのは先ほどまでの相手をからかうような笑みではなく、困惑。相手に嘘だと言ってほしいような、そんな顔をしていた。
「流石に冗談でしょ?」
「マジ」
「えぇ……」
イカれてるね、と白城はポツリと呟いた。
闇のカードの危険性というのは小学校のカード基礎学から学ぶ。
カードイラストやテキストに目を通すだけでも魅入ってしまい、デッキに入れて使い出せばそのプレイヤーや身の回りに不運な出来事が起きて、最終的に死ぬこともある。
闇のカードとはそういうものだ。
治安維持部隊は特に、そういう闇のカードに魅入られた者の末路をよく見る部署でもある。
配属されて間もない白城だってそれなりに見てきた。
闇のカードを使う都度、指先から肉や骨が削れていった者。
どんどん老けていく者。
頭がおかしくなり叫び出す者。
血反吐を吐きつつもゲラゲラと嗤う者。
身の回りの大切なモノが消えていった者。
何も覚えていない者。
人としての原形を留めていない者。
本当に、……本当に、最悪に不運な出来事が起こっていた。
1枚だけでもそうなのに、闇のカードでデッキを構築しているなんて狂気の沙汰でしかない。
本人がどんな目に遭っているのか想像がつかなかった。
先程までのからかいの笑みは鳴りを潜め、静かなトーンで白城は言葉を紡ぐ。
「大丈夫だったの、その人」
「おん。めちゃくちゃ正常」
「……本当に? 無理してない?」
「お前相手にするワケねぇだろが。つーかそれなら負けたことにムカつきもしねぇよ。正常で、普通に対戦で負けたからムカついてんだよ」
「次会ったらぶちのめす」という言葉を吐き出す御加瀬の目は据わっていた。
よほど悔しい負け方したんだなぁ、と白城はその様子を眺めた後、頬杖をつく。
(……にしても、黒デッキ使いかぁ)
それって一体どんなデッキなんだろう。
というか、どんな人が使ってるんだろう。
白城は腰に常備しているデッキホルダーを撫でながら、そう思うのだった。
「へっくしゅっ」
「あれ、
「いや、ちょっと鼻がムズムズしただけです」
話題にあがった彼女はとあるカードショップでくしゃみをしていた。
○
・種類:モンスター
・系統:革命軍/造兵
・属性:黒
・コスト:3
・シンボル:黒2
・BP:1000
【カードテキスト】
・【誘発】
[条件:自分のモンスターの破壊]
自分のフィールドに存在するモンスターが破壊されたとき、このカードをコストを支払わずに召喚できる。
・【召喚】
相手のフィールドに存在するカード1枚を選び、ゲームから除外する。
・【攻撃】
相手のフィールドにモンスターが存在するとき、このモンスターは必ず相手のモンスターにアタックしなければならない。
・【常時】
このモンスターが相手のモンスターまたは相手のカードの効果で破壊されたとき、相手のフィールド上のカード1枚を指定して、ゲームから除外する。
・【特殊勝利】
1.このモンスターがフィールドに存在するとき
2.このモンスターが相手のモンスターに破壊されたとき
3.このモンスターが相手のカードの効果によって墓地に送られたとき
上記のどれか、かつ、自分のライフが2個以下のとき、相手のフィールドに何もなければ、自分はこのゲームに勝利する。
【フレーバーテキスト】
「ギャーッハッハッハ! 全員道連れだぁああーーーーっ!!」
自爆特攻をとにかく愛する爆弾魔。
敵陣に突撃してはお下品な笑い声をあげながら爆弾を投げまくる。
一緒に前線にいる時は注意してね。
この子、王国軍に頭をいじられちゃったんだ。
そのときにネジを外されたみたいで、見境がなくなっちゃったの。
――『星の革命戦記』革命軍所属一覧表より