闇のカードが手元にあるが、私は平凡な人生を送りたい。 作:瑠璃色砂糖月
ガサ入れしに来たカードポリスをソルクラでちぎっては投げちぎっては投げと打ち負かしながら、なんとか自宅に辿り着いた私は、そのままベッドに倒れ込み眠って、そして学校に行った。
まあ一応高校生なので。平日の夜に地下のカードショップに行くもんじゃねぇな、と何度目かも分からない反省をする。
で、現在は放課後。私はカードショップに来ている。
地下や裏社会のカードショップではない。通っている学校の近くにあるカードショップである。
この世界ではコンビニよりもカードショップの方が店舗数が多いし、敷地も広い。代わりに駐車場がめちゃくちゃ狭い。ソルクラバトル用の仮想空間にスペースが取られるから当然といえば当然だが。
あと、ちなみに言っておくと、私は1人でここに来てはいない。
「
名前を呼ばれてそちらに顔を向ける。
赤毛に赤目。身長は160センチと小柄だが、全身から活力が迸っているエネルギッシュな男子高校生がいた。
顔つきは逞しいよりは可愛い感じ。しかし、熱さを感じる男だった。
ニッ、と笑った顔がまるで太陽のように眩しい彼の名前は
「遅いですよ、道明寺くん」
そんな彼を嗜めるような感じで言葉をかけるのは、長身でヒョロッとした男子高校生。
水色の頭のてっぺんにアホ毛がチョロンとしている、メガネ男子。彼の名前は
「すまない千草! レジが混んでいてな! 闇光も待たせてしまったな!」
「あ、いえ、お気遣いなく」
学校終わり、しかも放課後が始まる時間帯で、レジが混んでいるのは当たり前だ。道明寺先輩の背後を見遣れば、レジに並んだ中高生の姿が見える。
私の通う高校には『ソルクラ同好会』という部活がある。
その名の通り、ソルクラ好きな連中が集まるクラブである。
活動内容はとにかくバトルバトルバトル! ……ではない。放課後になったらカードショップでパックを買ってみたり、バトルをしたり、時々動画配信サイトに投稿されたバトルを見たりするといったところ。
めちゃくちゃ緩いしぬるい。まあ、別にうちの高校は本格的にソルクラをするようなところじゃないし。
むしろソルクラ弱小校。
世の中はとても広いので、ソルクラが得意で幼い頃から嗜んできた人がいれば、逆にソルクラにほとんど触れずに生きてきた人も存在する。まあ、後者をもっと正確に言うと、“見たり聞いたりルール内容を知っているが、実際にやったことがない”みたいな人のことだ。
私が通っている高校にはソルクラ未経験の者が多い。
それが逆に都合が良い。
私は表で使えるようなデッキ……というか、カードを1枚も持っていないので、カードがなくても問題がない、という訳である。ソルクラ強豪校とかだと常日頃バトル三昧だから、闇のカードまみれのデッキで通報待ったなしだし、何よりデッキを持っていないだけで怪しまれて詰む。
だから、ソルクラ弱小校に入学したのだが……やはりソルクラから完璧に離れるのは嫌だったので、『ソルクラ同好会』に入った。
「いつものことだが、闇光はパック買わなくてもいいのか? 金欠なら俺が奢ってやるぞ?」
「ああ、いや、そこまでしていただかなくて大丈夫です。見てるだけで充分ですし」
千草先輩とのじゃんけんで負けてレジに並んでいた道明寺先輩は、私の向かいの席に座りながらいつもの問いかけをしてきたので、私もいつものように返す。
私がパックを剥くと黒しか出ないから駄目なんだよね。
確率ぇ……と言いたいところだが、このカードパックというのがまた不思議なもので。
カードパックに内包されているカードについてだが、これは開封するまで真っ白で何も書かれていないカードなのだ。
開封して、誰かに触れられるまで、そのカードは何の意味もない白紙のカード。
そのカードに誰かが触れることで、カードにイラストやテキストが浮かび上がる。
この現象が起こるのは、カードがモンスターワールドと繋がる媒介になっているかららしい。
ソウル・エコー。つまり、魂の共鳴。
プレイヤーの魂と、モンスターワールドの世界にある共鳴率が高いモノがこの世界にやって来る。
それがソルクラのカードとして印刷……投影? される? という仕組みらしい。
人によっては赤とか青とか緑とか、自分の魂の波長に合った色のカードになるのだが、私の魂の波長に合うのは圧倒的に黒色のカードのようで、それ以外のカードが出た試しがない。
はじめて拾ったカードも黒だったしね。
だから、私には黒以外の適性がないのだと思う。
そのせいで公式戦とか全くできないのが少し残念だが、しょうがない。
「だけど、折角ソルクラ同好会に来てくれたんだから、バトル解説とか俺達のデッキ構築ばかりではなく、自分のデッキも……」
「道明寺くん。こういうのは無理に勧めるものではありませんよ」
「ううん……だがな、千草」
「本人が作りたくなったら作る。それでいいじゃありませんか。ね、闇光さん」
「そうですね」
私が頷くと道明寺先輩は「そうか……」とシュンとした。
申し訳ないとは思うが、もうね、本当に普通のカードが出ないからね。諦めてほしい。
「で、今回はどうですか?」
「僕の方は微妙です」
隣にいる千草先輩のカードを見せて貰う。
黄色、スペルの【ハムハム・マーチ】。
黄色、モンスターの【もぐもぐハムタン】。
緑色、グランドの【
黄色、グランドの【ひまわり
青色、スペルの【
「そろそろハムタンデッキ作れそうですね」
「ハムタン……ですか……」
「可愛いじゃないですか」
「可愛いです、けど……」
「もうちょっとカッコいいデッキ作りたい……」と千草先輩はむつかしいことを考えるように眉を寄せる。
ハムタンシリーズ。
幼い女の子や動物好きの優しい人の元に来やすい系統のカードで、一部ではイロモノデッキとも呼ばれている。でも、組めば強いと思う。系統やシリーズを合わせた時のデッキの爆発力というのは意外と馬鹿にできない。同系統だからシナジーもめちゃくちゃあるし。コストも低いものが多いから展開も早い。
だが、絵柄のデザインの可愛さが17歳のデータ系男子には受け付けられていないようだった。
千草先輩が今使っているデッキは青のデッキだったか。
……千草先輩、意外とハム
ただのお遊びイロモノデッキと思いきや、前世でもそれなりに猛威を奮ってきた黄色デッキである。私も使ったことがあるから知ってる。負けた日にはハムをザクッ、ムシャアッ、ブチィッ、ってしたくなる。
「道明寺くんはどうです?」
「良いカードが出たぞ!!」
目をキラキラさせている道明寺先輩が剥いたパックから出てきたカードを見せてくれた。
赤色、モンスターの【
赤色、スペルの【竜撃流・壱ノ太刀】。
赤色、モンスターの【戦国大龍皇 カグツチ・ドラゴン】。
赤色、グランドの【紅蓮の大戦城】。
赤色、スペルの【天下布武の鬨】。
千草先輩は結構いろんな色が出るんだけど、道明寺先輩は赤しか出ないな。
まあ、この人、見た目から赤だしな。
それはともかくとして、この明らかにエース枠である【カグツチ・ドラゴン】、どこかで見たような……。
「【カグツチ・ドラゴン】!? 凄いじゃないですかっ!」
「だろ!? このカードほら、あれだよな!? 30年前のソルクラ日本大会で優勝した
「そうそうそうそう!! 相棒でしたよ!!」
あ、思い出した。先週、部室で見た対戦動画のやつだ。
相手が赤の“
《あん? ベニがいんのか? どこだよ殺すわ》
いないから領域にお戻りっ!
ひょっこり
二言目に「殺す」宣言するやつとかここじゃ使えないわ。
その前に確実にしょっぴかれるけど。
《おや、嬢ちゃんのお友達ギャンブルしてんの? いいねェ、おじさんも混ざりてェ》
パック剥きをギャンブルって言うのやめない?
頭の中でツッコミを入れると、ギャンブルおじさんは「んっはは」と笑う。
《嬢ちゃんも買えばァ?》
嫌だよ。昨日唆されてお金減ったもん。
それに、パック買っても黒しか出ないからさぁ。先輩達の前で剥く意味ないじゃん。先輩達に通報とかさせたくないし、されたくないよ。
《んじゃあこっそり買って家に帰ってから剥けばいいじゃない。なんならおじさんが買ってこようか?》
前になけなしのお金を渡したとき、博打に使ったじゃん。私まだ忘れてないからね。
《5万が1万になっただけじゃない》
それを減ったって言うんだよこのやろう。
マギカに頭吹っ飛ばされたあとに全員から蹴り飛ばされてパンツ一丁に剥かれて宙吊りにされたのに懲りてねぇなこのおいちゃん。
おいちゃんなぁ……このギャンブル癖がなければ普通にいいおじちゃんなんだけどなぁ……。
《そこは諦めな。ギャンブルが無きゃア俺じゃねェよ》
う~~~ん……それもそうなんだよなぁ。
とりあえず常時おいちゃんモードのゴールドにはお金は渡さないという方向で……。
「おい! そのカードは俺が引き当てたカードだぞ! 返して貰おうか!」
「そうですよ! 人のカードを横から強引に奪うなんて、それがソルクラプレイヤーのやることですか!?」
「ん……?」
おいちゃんとの脳内会話に気を取られていたから、現実での反応が遅れた。
パチ、と1度まばたきをして、視界からの情報を整理する。
私の向かいの席に座っていた道明寺先輩と、隣に座っていた千草先輩が立ち上がっている。
彼らが睨みつけているのは、人を小馬鹿にするような笑みを顔に貼りつけた男だった。
……え、誰この人。どこの馬の骨? ラガトの栄養分にすればいい感じ?
《……? ……。…………、……》
《んェ? ……ありゃ、ラガトがこっちまで根ェ伸ばしてきちゃった感じ? ……ん~、流石にここを侵食されちゃったらマズいかァ……? アうん、普通にマズいなこれ。
うん、
一旦脳内が静かになったので、改めて目の前の光景を見る。
この馬の骨、どうやら道明寺先輩が引き当てた【カグツチ・ドラゴン】のカードを奪い取ったらしい。
それに怒った道明寺先輩と千草先輩が反発しているようだった。
……一応私も立ち上がって関係ありますよアピールだけしておく。
男は私達を見て鼻で笑った。
「その制服、お前ら
「だったらなんだ」
「ソルクラ弱小高校筆頭の連中に引き当てられたカードの方がカワイソウじゃねぇか。宝の持ち腐れってやつ? だから、このカードは俺が有効活用してやるよ。感謝しな」
「ふん、カードテロリストの言うことなんて信用できませんね」
有効活用というか、普通に売って金にしそうな感じである。
こういうことはわりとよくある。強奪とか、
なんなら昨日までいた裏のカードショップでもそうして強奪されたカードが売られていたし。
「それで納得できねぇならソルクラで白黒着けンぞ!! お!?」
で、大体こういうときは、ソルクラで
勝てばカードは戻ってくるが、負ければカードは取られてしまう。
こういうときにこそカードポリスの連中にバトってほしい。並みの一般人よりも実力あるから警察できてるのに。
あいつら
カードショップ1店に1人とか贅沢は言わないから、せめてカードショップを巡回するとかそういうことしてほしい。
「よし、その勝負、受けて立つ!!」
うちの先輩達、バチクソに弱いからテロリストにいつもカモにされてる。
○ギロチン・ドロップ
・種類:スペル
・属性:黒
・コスト:4
【カードテキスト】
・【トラップ】
[条件:相手の【召喚】時効果発動後]
このトラップが発動したとき、相手の召喚時効果を無効にする。そのあと、相手のモンスター3体をゲームから除外することで、このカードの【メイン】効果をコストを支払わずに使用できる。
・【メイン】
自分は山札から2枚ドローする。そのあと、このターンの間、自分のモンスターすべては相手の効果を受けず、相手のモンスターはアタック/ブロックできない。
【フレーバーテキスト】
国へ反抗してきた民の首を落としてきた断頭台の刃。
その断頭台を壊せば、刃は地面に落ちて