吾輩は猫である。プラス修正はまだない。
どこで生まれたかとんと見当がつかぬが、この異世界の神が『ルール文言』を雑に書いたことだけは知っている。
というかなんだこのクソ仕様転生は。猫て。
人間になりたーい。キャットピープルでもいいぞ。え、だめ。しょうがないにゃあ。
猫であるがゆえに
しかし人語がわからない。ホニャラホゲとしゃべる目の前のヒトオスの意図を汲み取りたいのだが?
しかしCHAが高く交渉が自動成功するなら「人語を教えて」を試みることができる。
やってみよう。ウインクバチコーン。
「ホニャラホゲ!」
成功したようだ。え、するの。我ながらドン引きである。
まあいい、じっくりこの世界の言語を習得しようじゃないか。
あと、ルール文言の雑さはどのくらいだろう。神から得た『定義能力』というスキルを使ってみる。
「100万回生きた猫の前例により私は100万回生き返るものとする」
ぽわわーん。通った。我ながらドン引きである。死んだらその場復活なのか戻り復活なのかは疑義がある。
「猫は固体にして液体である」
通った。これで隙間があればどこにでも侵入できるようになった。我ながらドン引きである。
「猫はどんな高いところからも無事着地できる」
通った。これで落下ダメージは完全無効、宇宙空間からの大気圏突入すらノーダメージになった。我ながらドン引きである。
「『猫の首に鈴』。『誰も猫の首に鈴をつけることはできない』という寓話に基づき、私に対するすべての状態異常・デバフ・追跡スキルの付与試行は自動失敗する」
通った。我ながらドン引きである。
「『シュレーディンガーの猫』。箱や暗がりに隠れている間は、観測されるまで生存と死亡の状態が重ね合わさっている。よって攻撃者が私を観測していない場合の攻撃はすべて効果を発揮しない」
通った。我ながらドン引きである。
「『脚が短い』はマイナス特性である。ゆえに追加の成長点を得る」
通った。まあこれは通るだろう。
「『借りてきた猫』。見知らぬ場所やおとなしくしている間は、存在感・敵意・気配が完全に遮断され、いかなる能力をもってしても感知不能の絶対潜伏状態となる」
通った。我ながらドン引きである。
「『猫をかぶる』。本性を隠して無害なフリをしている間、私の属性判定は『中立・善』と定義され、聖属性の加護と神聖特攻を無条件で獲得する」
通った。我ながらドン引きである。
「『猫舌』。 熱いものは"受け付けない"。転じて『火属性ダメージ』および『熱エネルギー攻撃』は私に届く前に自動的に冷却・無効化される」
通った。我ながらドン引きである。
「『猫の目」。コロコロ変わる、転じて自分のステータス・耐性・属性・種族特性を毎ターン任意に変更できる。
通った。我ながら……もういいか。
逆に何が通らないんだ、これ。
「『猫は可愛い』。ゆえに、世界全土の全知性体は私に対して一切の敵意を持てない」
通った。猫、無敵か?
----
ヒト語がわかった。3年くらいかかった。
この世界、一般的なマジカルナーロッパである。
マジカルナーロッパであるので、しゃべる猫は許容範囲である。なるほど、暮らしやすい。
「お腹すいたニャーン」
「ん~!すぐ用意するからね、キャメロットちゃん!」
キャメロットちゃん。どうやら自分の名前らしい。
気に入らないわけでもない、気に入ったわけでもない。
なんでも意のままになりかねないのだから、名前ぐらいは思い通りにならなくてもいいだろう。
そして飼い主のヒトオスは、宮廷魔術師らしい。
こいつ、吾輩にペラペラ機密をしゃべる。機密保持はどうなっとんじゃい、ということになるのだが、使い魔は言うことを聞く、という前提のもと許容されるそうだ。
吾輩、使い魔じゃないけどね。あっいっけなーいてへぺろ、じゃないんだよ。お前三十過ぎてるんだろう。
というわけで吾輩、しれっと冒険者(猫)になってくる。なった。
受付嬢のお姉さんにウインクバチコーン。Fランク冒険者(猫)である。
さて、問題は猫の手ではFランクの常時依頼、薬草採取ができないということだ。
『猫の手も借りたい』の
吾輩はマンチキンではあるが、ロマンや道理の前には常にマンチキンではないのだ。
というわけで、『魔法の手』の習得に励む。これは不可視の人型の手を創造するという初級魔法だ。
持てるものの重さが決まっているのが難点だが、パワーアップに成長点を注ぐことで解決できる。
人の握力、50㎏ぐらいは行けるようにしよう。
「『魔法の手』を覚えたいニャーン」
「キャメロットちゃんなら簡単だよ!」
「教えてニャーン」
「もちろんさ!」
少しのことにも先達はあらまほしきことかな。教導ボーナスで習得にかかる成長点が減った。
つまり習得は問題なかった。あとはこの手の本数を6本ぐらいにして握力を100㎏にして持ちあげられる重さを1トンぐらいに。
成長点が たりない!
うーむ、地道にクエストをこなすしかないね。
----
Fランククエストで入る成長点は1依頼1点。また、魔法の手の握力/許容重量1㎏あたり1点。
ロマンのためには効率が必要だ。よし、自重解除。
具体的には、野草を取ってきたニャンという顔をしてその辺に咲いてた霊草を成果物に紛れ込ませる。ぷちぷち。
「吾輩、何かやっちゃいましたニャン?」
「エリクサーの材料になるといわれる霊草よ!あなたこれをどこで?」
「知らないニャン。その辺に混ざって生えてたニャン」
実際に混ざって生えてたんだからしょうがなかろう。猫の感知能力をなめるな。
高ランクの冒険者がギルマスの命令で血相変えて霊草採取に向かったが、知らん知らん。
この特殊な発見・貢献のおかげで成長点ウハウハである。ランクもいきなりCに上がった。
得られた成長点で手の本数を2本にし、握力を30㎏にし、持ちあげられる重さは20kgぐらいになった。
もはや一般的ヒトオスを超えたといっても過言ではない。
しかし飼い主ヒトオスは超えていないように思われる。
「ニャーン。お仕事手伝うニャン?」
「うーん、それじゃあこれを」
難解だ!
ふむ、マジックスクロールの解読というわけか。
そのため、INTを補正する『猫に小判』の第二解釈を試みる。
「猫に高級な価値のものを与えても『無駄』である。転じて、解読不能なマジックスクロールの難易度・複雑性そのものが『無駄』とされ、最低難易度の平易な文章へと強制変換される」
通った。古代語で書かれた超高難易度スクロールが「絵巻物」になった。
「ニャン。翻訳できたニャン」
「……書き換わってるんだけど」
ヒトオス、これにはお口あんぐり。
「だめニャン?」
「うーん、元のスクロールとの同一性が担保できないからね。残念ながらこれは別途研究所行きだね」
マンチキンにも失敗はある。悔やまないで行こう。
ちなみにスクロールの内容は四コマ漫画でわかる失伝禁呪だったので大騒ぎになった。