黒戦歴二百四十七年
かつて世界には、邪智暴虐な『神』という存在がいた。魔物を率いて人類を滅ぼさんとする『神』を止める術は無く、人類は終焉を待つのみだった。
だが、絶望に満ちた世界に一筋の光が差した。
それは『アイク』という名の男だった。
アイクは奇跡を扱う力、魔術を開発し人類に広めた。
アイクを中心に人類は神々を退け、ついに世界は平和になった。
人々は彼を、「大賢者」と呼んだ。
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創人歴三百二十三年
太陽が強く輝く正午
木漏れ日がジリジリと地面を照らしている
ここは、アレスティン王国の外れに位置するトレミ村。周りを高い柵と深い森に囲まれている辺境の土地。
木の柵の中は何十軒も家が建ち、金色に輝く田畑や子供達が遊べる程度の広さの広場がある、正にのどかという言葉が似合う村。
そこの近くにある森に一人の少年がいた。ペンキをひっくり返したような橙色の髪が目に少しかかっていて、目尻が下がった銀の瞳。穏やかな雰囲気を纏った少年だった。
首には銀の丸い宝石のついたネックレスをかけている。
少年は何やら、野草を採っているようだった。
「これは~…うん、塩草だ。しかも若い」
じっくり観察してから呟くと、背中にしょった籠に野草を放り込む。籠にはすでに野草とキノコのようなものが溢れており、今にもこぼれそうだった。
「…そろそろ帰ろうかな、もうお昼だし」
少年は後ろに視線をやり、籠を一瞥すると、そうつぶやいた。
そして少年が帰ろうと踵を返した瞬間──
ピィー!!ピィー!!
と鳥の激しい囀りが森に響き渡った。
少年が声のほうを見ると、少し先にある木の幹の上に、鳥の巣と五羽の雛がいた。だがそのうちの一匹が、身を乗り出しすぎたのか巣からはみだし、今まさに頭から地面に落ちそうになっている。
他の兄弟が足をくちばしで咥え辛うじて均衡を保っているが、当の雛はパニックからか、じたばた暴れている。
少年は迷いなく地面に籠を放り投げた。と同時に、くちばしからするりと雛の足が抜けた。
瞬間、少年は地面をえぐれるほど強く蹴り、ほとんど飛ぶように走り出した。
さらに途中にあった木の幹に手をかけ、少年の体はさらに加速し、まるで風のような速さで雛の元に向かい、そのまま飛びつくように雛をキャッチした。
勢いを殺しきれず地面をゴロゴロと転がる少年。体の至るところに擦り傷が出来上がる。
だが少年は、雛をしっかりと手で優しく包み込んでいた。
「イテテ......大丈夫?」
「ピィ!」
雛に怪我が無いことを確認すると、少年は木に登りそっと雛を巣に戻す。兄弟達が無事を祝うように鳴き、戻ってきた雛に皆で体を擦り付けた。
「気をつけなよ?」
ズボンについた土を手ではらい、元いた場所に戻る。
そして、散乱した野草を籠の中にそそくさと戻すのだった。
少年の名前はゼイン。十二歳である。
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少し経ち、ゼインは大きな家の前にいた。
「ただいまー」
ゼインがボロボロな木のドアを開ける。
「おお、帰ったかゼイン 今日はどうじゃった?」
ドアの先には玄関があり、腰の曲がった老人がいた。
玄関を通ると右側に、2階へと繋がっている階段がある。
「って、なんじゃその傷は!?喧嘩でもしたのか?」
「あはは...喧嘩なんてしないよ ちょっと転んだだけだから大丈夫
はい、塩草とママイダケ」
そう言うとゼインは老人の前に籠を置いた。
「...むぅ、お前もとうとう『漢』になったのかと思って少し嬉しくなっちまったぞ」
「だって喧嘩って怖いじゃん 痛いし
喧嘩するくらいなら本読んでたいよ」
「...もしも喧嘩したくなったらワシに言え!喧嘩の仕方を教えてやる」
胸を張りながら言う老人を横目に「はいはい」とあしらいながら、ゼインは靴を脱いで玄関を進んだ。
・・・・・
「出来たぞー、ママイダケと塩草のスープじゃ」
老人───ロッツが運んできた木の椀に、薄い黄金色に輝く液体が満ちている。中には先程ゼインが持ってきた具材がまばらに浮いていた。
「わぁ 美味しそう!ありがとうロッツじいちゃん!」
満面の笑みで感謝を述べるゼインに
「沢山食えよ 強い男になるにはよく食うことじゃ!」
誇らしげにロッツは返す。
「またそれ...別に強くなりたいなんて思わないよ」
「まぁ、だろうな ワシもそろそろ分かってきたぞ
お前は虫も殺せんような優しいやつじゃしな。
...じゃがな、優しいだけじゃダメなんじゃ」
コンコン──
ロッツの言葉を遮るように玄関の方から乾いた木の音が響いた。
「なんじゃ...ワシがせっかく良いことを言おうとしてる時に...」
と言いながらロッツは玄関へ向かった。
ギィ
ドアを開けると、青髪の好青年が貼り付けたような笑みを浮かべながら立っていた。
皮の胸当てに皮のズボン、銀に輝く足の装備が不釣り合いに見えた。
「あ、どうも。私、ソウジルと言います。えぇ、開拓者をやっております」
好青年は浅く頭を下げると手短に自己紹介をした。
ロッツは足元から頭にかけてゆっくりと品定めするように青年を見た。
「...ふむ、わしゃロッツと申します。何用ですかな?」
「あぁ、いえ、えぇ、最近この村で魔物が出現しているとのことで、依頼が出てましてね。魔物を討伐するまでの短い間ですが、ご挨拶にと」
好青年は身振り手振りを交えて説明する。その時も顔には常に笑みを浮かべていた。
「魔物...?それは大変ですな!ちなみに、失礼ですがクラスの方は...?」
「えぇ、ミドルです。」
玄関から聞こえる会話が気になり、ゼインは居間から顔を覗かせた。
すると、それに気づいた好青年はゼインの方に指をさした
「お孫さんがいるんですか?綺麗なお顔をしてますね」
「まぁ、血は繋がってないですがな」
ロッツがそう言うと、青年は口に手を持ってきて、しまったとでも言いたげな顔をした。
「それはそれは、えぇ、大変失礼致しました」
深々と頭を下げる青年。
ロッツは
「顔をあげてくだされ!別によくあることですじゃ」
と少し焦りつつ返した。
「いやしかし、少し長居しすぎました。私はこれから他の家にも挨拶をしなければならないので、そろそろ行かねば」
青年は顔を上げると、腰の剣に手を置き言う。
「...そうですか、気をつけてくだされ。しかし...まさかこの村の近くに魔物が出るとは...」
ロッツは顎に手を当てながらそう呟いた。
「そうですね...いつだって魔物は人間には推し量れませんからね...それでは、私はおいとまさせていただきます」
青年はそういうと踵を返し、身につけた鎧の音を鳴らしながら遠くへと歩いていった。
「ロッツじいちゃん。何かあったの?」
「いや、近くに魔物が出たらしい。気をつけるんじゃぞ。一応開拓者さんが見回りしてくれるらしいが」
「え!?魔物!?ここにも出るんだ...僕見たことないよ」
「ふーむ...十年ぶりくらいじゃな...まああの時はお前もまだ小さかったからな、見たことがないのも無理はないわい」
(何か嫌な予感がするのう...)
ロッツは不安を鎮めるように顎を撫でた。
次の日───
さっきまで晴れていた空が、雲で覆われ雨が降っていた。
「ゼイン、今日は森には行かんでいい。家でゆっくりしてろ」
ロッツが外の天気を、雨の滴った窓から覗きながら言う。
「うん...すごいどしゃ降りだね...。他の家は大丈夫かな?森の動物達も...」
「どうじゃろうなぁ...ちょっとワシは今から川の方を見に行かなきゃいけん。氾濫しかけてたらワシが必要になるからな」
ゼインは物憂げな表情で窓から空を見上げながら「うん」と頷く。
「いいか?家からは出ないようにするんじゃぞ」
ロッツはそう言い残し、雨の中へローブを着て一本の杖を持ち、行ってしまった。
「...本の続きでも読もうかな」
そう言いながらゼインはテーブルに置きっぱなしにされていた本を手に取り、開いた。
本のタイトルは『賢者ムルの伝記』
《賢者とは、その時代において最も魔術に精通している者に与えられる栄誉ある称号である》
まず最初のページには、賢者についての説明が載っていた。
《大賢者アイクを始祖とし、代々受け継がれてきた。》
《私は賢者ムル、第六代目の賢者である。》
(賢者、かぁ...凄い人なんだろうなぁ...。特にアイクって人は)
次のページをめくろうとした時だった。
コンコン───
玄関から昨日と同じような木の音が響いた。ただ昨日よりも、水を吸った影響か少し鈍い音だった。
(...?誰だろ)
ロッツは先程発ったばかり、川までは片道十五分はかかる。つまり木の扉の向こうにいるのは確実にロッツでは無かった。
だが、ゼインはそこまで深く考えず玄関へ向かい木の扉を開けた。
すると、
「あ!どうもどうも、えぇ、急に雨が降ってくるもんですから、困っちゃいまして」
昨日の好青年、ソウジルと名乗った開拓者がいた。
ソウジルは雨で濡れた青髪をかきあげ、手を払った。
(昨日の人だ...)
「あら?今日はロッツさんはいらっしゃらないんで?」
「あ...はい、ロッツじいちゃんは川を見に行きました」
少し警戒しつつゼインは返答した。
「あぁ...なるほどそうなんですね。いやぁ...しかし困りましたね...えぇ...」
ソウジルは半身になり、顎に手を当て何か考える素振りを見せながら困ったような表情を浮かべる。
きっと雨宿りする場所が欲しいのだろう。
そう思ったゼインは
「あ、あの...入りますか?」
と提案した。
「え!?いいんですか?!」
待ってましたと言わんばかりに顔が明るくなり、ゼインの手を取り上下に振る。
「いやぁ、素晴らしい心の持ち主だ。きっとロッツさんの教育がいいんでしょうね」
勢いに気圧され、ゼインは少し困惑と警戒心が強くなった。それを察したのかどうか、パッと手を離し、
「すみません、私、優しい人が好きなんですよ」
と申し訳なさそうに後頭部をかきながら平謝りをしてきた。
「では、失礼しますね」
ソウジルはそういうと、すぐに玄関に入り、扉を閉めた。
すると目を瞑り、何やら身体の前で手を合わせ始める。
「《
そう唱えた瞬間ソウジルの体を紋様が包み、全身から光を発しながら、体や装備についた水滴が次々と空へと浮かび、蒸発していく。
「ふぅ、これで大丈夫」
さっきまで濡れてまとまっていた青い髪は、既に艷めきを取り戻し、サラサラになっていた。
「...ん?」
一連の動作を終え目を開けるとそこには、目を輝かせたゼインがいた。
「す、すごい...!そんな魔術、初めて見ました!」
「ハッハッハ、えぇ、なんて事ない中級魔術ですよ」
にこやかに笑いながらソウジルは返した。
「中級...!本の中でしか知らなかったです...!」
「褒め上手だなぁ。しかし中級なんて、都に行けば珍しくありませんよ」
謙遜するソウジルに対し、すごいすごいと囃し立てるゼイン。
「あ、すみません...!どうぞ上がってください!」
しかしすぐにハッと冷静になり、中に入るように促す。
「ハハハ、ありがとうございます」
(すごいいい人かも...!)
終始丁寧なソウジルの態度を見て、ゼインは警戒していた事について少し申し訳なくなった。
二人は居間につき、向かいあわせで座った。
テーブルにはゼインの用意した水の入ったコップが、二人分置かれていた。
「さて、改めまして、私はソウジルと申します。開拓者をやっております」
「あ、僕の名前はゼインです。えーと、森に草を取りに行ったり、村の人達の手伝いをしたりしてます」
「ハハハハ ご丁寧にありがとうございます。ゼインさん。ちなみにこの家にはロッツさんと二人で住んでるんですか?」
無理にソウジルの自己紹介に合わせたゼインの自己紹介に、思わず笑みがこぼれたソウジル
「あ、そうです」
「へぇ、そういえばロッツさんとゼインさんは血の繋がりはないと昨日聞きましたが...どういった関係で?」
「えっと...詳しくは分からないんですけど、僕は森の中で拾われたみたいなんです。でも、ロッツじいちゃんは本当の家族みたいに僕と一緒に居てくれるので、あんまり気にしてないです」
「なるほど...あ、すみませんね。他所の家にこんなに首を突っ込んでしまいまして」
「あぁいや、全然大丈夫です!」
「いやぁ、私の悪い癖なんですよ。気になることを聞いてしまう。これじゃまるで尋問みたいですね...
そうだ、逆に私に何か聞きたいこととかありますか?」
ソウジルは眉尻を人差し指で押し上げ、コップの水を一口飲みながら言った。
そのコップをソウジルがテーブルに置いた瞬間、コップがバランスを崩して、斜めになった。
すぐにソウジルは手を伸ばして掴もうとした。
だがそれよりも先に、ゼインの手がコップを掴んだ。
「──っとと」
水が零れないように真っ直ぐにして、テーブルに置き直した。
「...あ...すみません」
すぐに平謝りするソウジル。
目線はゼインの手に向き、ソウジルの目は少し細まる。
「全然大丈夫です!
それで...聞きたいこと、ですか...?うーん...
あそうだ!僕に魔術を教えてくれませんか!?」
ドン!と勢いよくテーブルに両手を叩きつけ、少し前のめりになりながらゼインは立ち上がる。
熱量に気圧されながらソウジルは答えた。
「え、えぇ、いいですよ...。それじゃ今から教えましょうか...とはいっても、大したことは教えられませんが」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
「いえいえ」と言いながらソウジルは立ち上がり、テーブルから少し離れたところにある暖炉の前に立った。
「《
ソウジルは暖炉に右手を翳しながらそう唱えた。すると手の平から火の玉が現れ、暖炉へと入っていった。そして中の木に着火し、部屋中が暖かいオレンジ色に染まる。
「とまぁこれが初級火魔術のひとつ イグニスですね。ここまではゼインさんも...」
そう言いつつテーブルの方に振り返るソウジル。
そこには爛々に目を見開きながら火を見るゼインが居た。
その姿に思わずソウジルは首を傾げる。
「...?ゼインさん、火魔術を見るのは初めてですか?」
「......!あ、はい!村のみんなは、水とか、土とかの魔術だったので...」
「...なるほど、確かに普通に生活する分には、土や水、風などといった魔術の方が危険も少なく便利ですからね。自然と使える人が居なくなったんでしょうね」
合点がいったというように頷きながら返すソウジル。
と同時に指を鳴らし、暖炉の火を消した。
「それではこっちに来てください」
手招きされたので、ゼインは立ち上がりソウジルの前まで行った。
「いいですか?魔術に大切なのはイメージです。その為にまずは構える。手を前に出してください」
ソウジルは暖炉の前から立ち位置をずらし、ゼインの横にいる。
ゼインは言われた通り両手を前に出した。
「次に、魔術の発動に必要な『詠唱』。初めての時はしっかりとした詠唱をすると成功しやすいです。なので私が言ったことをそのまま繰り返してみてください」
「わ、わかりました」
「行きますよ?...
《生命の息吹よ》」
「せ、生命の息吹よ」
「《万物の魂よ》」
「万物の魂よ」
「《穢れず、絶えず、永劫たる光よ》」
「穢れず、絶えず、永劫たる光よ」
「《今ここに顕現せよ》」
「今ここに顕現せよ」
「最後に、先程私が唱えた言葉を唱えてみてください」
「イ、イグニス!」
勢いよく最後の言葉を唱えた。
すると、手から火の玉が───
「...失敗ですね」
出なかった。
「...そんな...」
手のひらを見つめながら分かりやすく肩を落とすゼイン。その肩にソウジルはぽんと手を置く。
「まぁ、最初から上手くいくとは限りません。何事も気長に練習することが大切ですから...
しかし妙ですね。ずっと見てましたが、ゼインさんからは全く魔力の起こりを感じませんでした...
失敗したとしても普通少しは感じるはず...」
ソウジルは腕を組みながら首を傾げた。
「...実は...僕、全く魔術の才能が無いんです」
「...才能がない?」
「はい、村には同い年の子とか、年下の子とかがいるんですけど、その子達は初級魔術を2つ3つ使えるんです。
けど僕だけ何度練習しても、初級魔術を1つも使えなくて...」
「...ふむ...だいたい初級魔術を初めて使えるようになるのは、6歳か7歳と言われていますね。ゼインさんは今何歳なんですか?」
「12歳です...」
「...さっきの動きの速さ...魔術を使えない...まさか...」
「...?どうかしました?」
一人でブツブツと呟くソウジルにゼインは問いかける。
「あぁ、いえ、こっちの話です。
しかしそうですか...初級魔術を使えない...いやぁ、困りましたね。
私は教師でもないので...」
「おーい帰ったぞー」
ソウジルが困り果てた顔をしていた時、突然玄関から声が響く。聞き馴染みのある掠れた声だ。
「あ!おかえり!」
「おーただいま......って、これはどういう状況じゃ?」
ソウジルとゼインが暖炉の前に立っているのを見て、ロッツは疑問を口にした。
「あ、どうもすみません。ゼインさんに雨宿りさせてもらってました。勝手にお邪魔して申し訳ありません」
丁寧に頭を下げるソウジル。
対してロッツは雨で濡れた少し寂しい頭を撫でながら答える。
「...そうですか」
「ソウジルさんに魔術教えて貰ってたところ!」
「...魔術を...それはそれは、わしのゼインがお世話になったようで」
「いえいえ、お世話になったのは私の方です。とても良い子ですね」
「...自慢の孫ですじゃ。虫も殺せぬほど優しい上に...人を疑ったりしないですからな」
その言葉を聞いた瞬間、一瞬ソウジルの眉がピクリと動いた。
「しかし、雨宿りならばもう大丈夫でしょう。雨は止みましたからな。つい先ほど」
ロッツが窓の方を指す。ソウジルとゼインがそれにつられ窓の方を見ると、確かに雨は止み、雲ひとつない晴天が広がっていた。
「...そうですね。えぇ、これなら今日はもう大丈夫そうだ。それでは失礼させていただきますね。ありがとうございました」
やや早口気味にそう言うと、ソウジルはそそくさとロッツの横を通り、そのまま玄関から出ていった。
その姿をロッツはしばし見つめ、居なくなった事を確認するとゼインの方に顔を向けた。
「...ゼイン...この馬鹿モンが!」
怒号と同時にゼインの頭に拳が降りかかった。
「...ッ...!え...な、なんで?」
殴られ、たんこぶになった箇所を抑えるゼイン。
「お前はほんとに...よく知らんヤツを家にあげるな!」
「え、で、でも、ソウジルさんは良い人だと思うよ」
「この馬鹿ッ!」
すぐに二発目の怒号と拳が飛んできた。
「あのなぁ...お前はもっと疑うことを覚えろ。それに良い人かどうかじゃなく、よく知らんヤツを家に上げるなって話をしとるんじゃ」
(しかもかなり胡散臭いしのぅ。後でなにか無いかよく確認しておくか...)
呆れた声で言うロッツに、「うぅ、ご、ごめん」と涙目でゼインは返すしか無かった。
「ほれ、少し遅くなったが、昼飯にするぞ」
杖を立てかけローブを脱ぎ捨てながらロッツはキッチンに向かった。
・・・
少し経ち、近くの森にて
二つの人影が何かを話していた。
「どうだ?周った感じ」
「一人、厄介そうな老人がいたくらいですね。村人も初級魔術までしか使えないようですし。強そうなのもいませんでした。
...それともう1つ興味深いことがありまして」
「興味深いこと...?なんだそりゃ」
「
「!...ハッハッハ!そりゃねぇだろ!」
「ふむ...やはり貴方もそう思いますか...」
「あたりめぇだろ。ヒョウシンシャなんて見た事すらねぇぜ」
「確かに現在確認されているだけでも世界に数人程度...可能性は限りなく低いでしょうね。
しかし、ヒョウシンシャの可能性がある以上は下手に手出しはしません。厄介そうな老人も同じ家に住んでいますし。綺麗なお顔を持った子だったんですが」
「...あぁ?全員攫うって話だっただろうが」
「貴方も噂くらい聞いたことあるでしょう?ヒョウシンシャは...」
「災いをもたらす...ってか?」
「そうです。近づかぬ神に祟りなしですよ」
「......チッ!報酬減らしたりしねぇだろうな」
「もちろんですよ。実行の時までには準備を整えておきますよ」
・・・
翌日 昼
ゼインは村人の「クネル」という人物の手伝いをしていた。
「おーい!ゼイーン!どうだー?!」
「まだー!」
屋根に登って穴を探しているのだ。クネルが言うには、前日雨漏りが酷かったらしい。
「おっかしいな...そこら辺から雨漏りしてたんだよー!」
「あ、あった」
1箇所、継ぎ接ぎの木が剥がれて中が覗ける場所を見つけた。
「あったよー!」
「おお!ほんとか!なら今からそっちに"コレ"をやるぞ!」
そういうとクネルはすぐ横に置いてある木の板を持ち上げた。
「《吹き運べ》《
唱えた瞬間、木の板がふわりと浮かび、そのままゼインの前まで飛んでいく。
そしてゼインは木の板をキャッチした。
その板を穴の箇所を埋めるように置き、慣れた手付きで腰にある釘を取り出す。
さらに逆側の腰につけていたハンマーを持ち、釘を打った。
「おわったー!」
打ち終わり、下にいるクネルにそう呼びかけ梯子を降りる。
「悪いな、ことあるごとに頼っちまって。これ、報酬だ」
ゼインの元まで右足を引きずりながら寄ってきて、クネルは懐から硬貨の入った袋を取り出しゼインに差し出す。
「え...報酬なんていらないよクネルさん」
「いいんだよ、貰っとけ。毎回毎回お前に頼って、報酬も無しじゃあ俺もモヤモヤするんだよ」
「だってクネルさん、足怪我してるんだから仕方ないじゃん」
「いいから」
渋るゼインの左ポケットに袋を無理やりねじ込んだ。
・・・
時は少し経ち、村の少し外
「うぇーん!うぇーん!」
高い木の上で泣いている幼い男の子がいた。さらにもう一人幼い男の子がいて、こちらは泣いている男の子よりも少しだけ大きかったが、やはり幼い。
「うるさいな...泣くなよ...」
膝を抱え込んで泣いている男の子に対し、泣きそうではあるが、眉間にシワを寄せて耐えている男の子。
「兄ちゃんのせいだよ〜...兄ちゃんが風魔術を見せてやるなんて言うから〜」
どうやらこの二人は兄弟のようで、遊んでいたら木から降りられなくなったらしい。
「...うるさい!」
突き放すように言い放つ兄。その声に弟はさらに泣いてしまう。
ガサガサ
弟が大きな声で泣いていると、草むらが急に動いた。
兄弟が「ひっ!」と驚愕し、お互いに体を寄せ合った。
すると、草むらからオレンジ色の髪が見えた。
瞬間、兄が叫んだ。
「ゼイン!」
「大丈夫?泣いてる声が聞こえたんだけど...」
出てきたのはゼインだった。
「な、泣いてたのはネルだけだからな!」
「もしかして、降りれなくなった?すぐに行くから待ってて」
そう言うと、ゼインは木に手をかけ、一瞬にして兄弟の所まで登った。
「ほら、おいで」
優しく声をかけ、両手を広げるゼインに兄、弟の順で抱え込まれた。
そのままゼインは木の下へと飛び降りた。ドシン!と土煙を上げながら着地。
「怪我はしてない?」
「大丈夫!ありがとうゼイン!」
「別に、降りれたし」
素直な弟に対して、兄は意地っ張りなようだ。
それを見てゼインは「ハハ」と爽やかに笑い、兄は少し赤面しつつ「なんだよ!」とぶっきらぼうに放つ。
ゼインはほとんど毎日、このように村人の手伝い等を散歩がてら行っていた。
特に意識している訳でもなく、物心ついた時からそういう性質タチだった。
そのお陰でゼインが田んぼの横を歩けば、村人達がゼインに向かって友好的に挨拶をし、たまに報酬と称してお金まで渡してくれた。
だが、それはゼインに限った話だった。
「なあゼイン」
兄弟を家に送り届けている道中。兄が口を開く。
「ん?」
「お前ってさ...ロッツさんって人に、なんか酷いこととかされてんのか?」
「...え?」
兄が吐いた言葉は、思わず足を止めてしまうほどゼインにとってはあまりに予想外だった。今まで一緒に暮らしてきて、酷いことをされた記憶は無かった。
「......酷いこと?...されてないけど、なんで?」
「いやなんか、大人たちがコソコソ言ってたんだよ。『ゼインがロッツさんのとこにさえいなかったら』どうのこうのって。
なんか暗そうな雰囲気で言ってたからさー」
「あ!それ僕も聞いたかも、あとなんかロッツさんは昔、ヒョウシンシャ...?と暮らしてた?みたいな事も言ってた」
「ヒョウシンシャ...。
と、とにかくロッツじいちゃんは凄い良い人だよ」
「ふーん、やっぱり大人って嘘ばっかだな。ネル」
「だね!兄ちゃん」
(......なんか、少し悲しいな)
自分の敬愛する親代わりの人物が、村人に好かれていないかもしれないということに少し傷つきながら、ゼインは兄弟を家まで送った。
・・・
ゼインは家につき、暖炉の前の木の椅子に座っていた。
テーブルの椅子にはロッツが座っており、木の人形を懸命に彫っていた。
「...どう?出来そう?」
「まぁ待て...」
木の人形を見ているロッツの眉間には皺がより、額には汗が滲んでいる。
かなり集中しているようだ。
「ねぇ...結局それは何作ってるの?」
「何度も言っとるじゃろ。出来てからのお楽しみじゃ...」
「ふーん...」
ゼインは座りながら体を揺らす。それに呼応するように木の椅子からぎぃぎぃと軋む音が聞こえる。
その音に反応してロッツがゼインの座っている椅子を見る。
「...ふーむ、そろそろその椅子も限界かのぅ」
椅子の至る所にヒビが走っていた。
「え...これ捨てちゃうの?」
「いやぁ...捨てる...か?」
ロッツは椅子に近づいて座枠部分を撫でた。かなりささくれだっている。
「懐かしいのぅ、お前がこんな小さい時に作ったやつじゃ」
ロッツは人差し指と親指でつまむような動作をした。
「フフフ...そんな時期ないよ」
思わず笑みがこぼれるゼイン。
「まぁ、後で新しいやつを作ってやるわい」
「えー?...別に僕はこのままで良いんだけど...」
「物はいつか壊れる。そんで新しい物に世代交代するもんじゃ」
「...そっかー...」
・・・
数時間後、太陽が赤く染まり影が伸びきった頃。
ゼインは二階の自室で、今日のことについて考えていた。
「この村の人はみんな、仲良いと思ってたのにな...」
ベッドで大の字になりながら、天井を見上げている。
「......きっとみんな、ロッツじいちゃんの事を何か勘違いしてるんだ!その誤解を解いたら、みんな仲良くなれるかも!」
上半身を起こしつつ、足をベッドの外に出して、座っている形になった。
「よし、明日はみんなにロッツじいちゃんは良い人だってちゃんと伝えてみよう。そしたらわかってくれるはず」
体の前でガッツポーズを取りながら、「よし...!」と小さく意気込んだ。
「...そういえば、今日ネルが何か言ってたな...
ヒョウシンシャ?だっけ」
顎に手を当て眉を顰め、うーんと唸りながら首を捻った。
「どっかで聞いたような............あ!そうだ!」
突然、閃いたようにゼインはベッドのすぐ横にある机の上に手を伸ばした。
そして置いてあった本を手に取った。
「『賢者ムルの伝記』...確かこの本に...」
言いながらペラペラとページをめくっていき、数ページ進んだところで手を止めた。
「あった...『神について』...えーと」
『神、それは邪悪なる存在。かつて魔物を生み出し、従え、人類を滅ぼそうとした。
故に魔物は人間を見ると、最優先に人間を襲いに来る。
魔術のように、様々な属性の神がいた。
風を操る神。土を操る神。光を操る神などだ。
そしてごく稀に、人間の身にして神の力を持った邪悪なる子が生まれることがある。
その者達を───』
「───憑神者と呼ぶ...」
ゼインはお腹にポタリと本を落としつつ、ベッドに倒れ込んだ。
「邪悪......か...本当に、そうなのかな。......まあいっか!続き読もっと」
お腹の本を顔の上に持ってきて、今度は真ん中あたりのページを開いた。
・・・
「.........ん...」
ゼインは目を開きつつ、ゆっくりと起き上がった。
部屋の中は真っ暗になっていて、本が顔からバサリと落ちた。
「あれ...いつの間にか寝てた...?
...こんなこと久しぶりだなぁ...ハァ...」
伸びとあくびをして、ベッド横の魔石灯のヒモを引っ張って明かりをつけた。
「喉乾いた....ん?」
何か音がしたような気がして、窓の外を見た。すると、この夜の帳の中で、やけに明るい場所があった。
「え...もしかして魔物...?」
すでに体感では真夜中だ。こんな夜更けに活動している村人などいないだろう。そう思いながらゼインは窓を開けて光の場所をよく眺めてみた。
「うーん...よく見えないな......
!」
見えたのは、何かをしている人影。さらに窓を開けたことで、聞こえてきた声があった。それはまるで、子供が助けを求めるような──
「...けて...!...マ!ママ!」
「!!」
今度はハッキリと聞こえた。
声が聞こえた瞬間、ゼインは開けた窓から飛び降りた。着地の衝撃で土煙が舞い、土煙が地面に落ちる前にゼインは走り出していた。
確かに子供が危険な目に遭っている。
そう思う度にゼインの体は加速していった。
柵を軽々と飛び越え、するすると木々の間を抜ける。
光に近づくにつれ、子供の声が大きくなる。それと同時に別の声も聞こえて来始めていた。
「...!?」
光の場所につき、思わずゼインは木の影に隠れた。ここまで来れば、ハッキリと見える。
「ソウジルさん...!?」
ソウジルが、正確に言えばソウジルともう一人、獣の皮を着た顔に傷のある強面の男が、子供を馬車の荷台に詰め込んでいた。
「いやだ!帰して!ママのところに帰してよ!」
強面の男に担がれている子供が激しく抵抗していた。ゼインが聞いた声だ。
「ネル...!」
その子供は、ちょうど今日の昼に一緒にいた兄弟の弟だった。
「うるせぇガキだな!早くやれよソウジル!」
強面の男が言うと、ソウジルは「はいはい」と言いながら近づいていく。
そしてネルに手を翳した。
ネルが「ひっ」と怯える。
「《
ソウジルがそう唱えた瞬間、ネルは電池が切れたように手足と頭がだらんとなり、動かなくなった。
そのネルを強面の男が荷台に投げるように詰めた。
馬車の中の子供たちも同様に、全員目を瞑り動かない。
「なんで起きてるやつがいんだよ。絶対に起きねぇんじゃ無かったのか」
強面の男がぶっきらぼうに吐き捨てた。
「絶対では無いですよ。強い衝撃を与えたりすれば起きることもたまにあります。
なので慎重に運んでくださいって言ってるんですよ」
「チッ...俺は別に起こすようなことしてねぇよ!」
そう言いつつ強面の男はすぐ近くの木を蹴った。大きく揺れ、男の足がめり込む。
「もうこれで12人目。これだけ若い子がいれば、しばらく遊んで暮らせますよ」
その言葉を聞いたゼインは、二人の目的を察した。
(人攫いか...!)
「...そろそろ出てください。後はこっちで上手くやっておきますよ」
目的を達成したのか、強面の男は御者台に乗り込み、ソウジルはそれを立ったまま見つめていた。
(まずい!)
このままだと村の子が攫われてしまう。
そう思った瞬間、既にゼインは飛び出していた。
「待て!!」
「...あ?」
「...ん?」
声に呼応して男が馬車から降り、ソウジルが振り向く。
「誰だテメェ」
「...君は...なぜ...?」
「おいソウジル もしかしてこいつがアレか?」
「そうです。憑神者の可能性がある子供です」
(憑神者...?僕が?どういうことだ...いやそれよりも、この状況どうしよう...!)
策も無しに飛び出してしまい、焦るゼイン。額と背中に汗が流れる。
「おい、こいつは殺していいのか?」
「いえ...一人のようですし、もうどうせならこの子も連れていきましょう」
「...クソが、めんどくせぇ...なっ!」
話が終わると同時に男の方がゼインに向かって両腕を伸ばしながら突進してきた。
「!」
間一髪、ゼインは身を仰け反らせ左に飛び上がって回避した。
「ほぉ...」
見ていたソウジルが感嘆の声を漏らす。
「避けてんじゃねぇ!」
男は、左足で思いっきり踏ん張り突進の勢いを止めたかと思うと、今度は右の裏拳をゼインに振るった。
(避けきれない!)
ゼインは顔を右腕でガードして、裏拳を受けた。とてつもない衝撃がゼインの脳を襲う。
勢いよく吹っ飛ばされ地面を転がる。
「ゴホッ!ゲホッ!」
口が切れ、鉄の味がする。
右腕がジンジン痛む。
咄嗟に腕を支柱に立ち上がろうとするが、先程の衝撃で平衡感覚を失っていたせいで、地面に腕を立てる事すら困難な状態だった。
「やりすぎでは?」
「うるせぇ、そう言うんだったらてめぇも手伝えよ」
「必要無いでしょう」
二人の声が脳に響く。視界がチカチカと点滅している。だんだん近づいてくる足音が聞こえる。
このままだとゼインまで攫われてしまう。
だが回復するには時間が足りない。
(...なんで僕は、毎回こうなんだ...!考えるより先に動いて、失敗して...!このままだと、村の子達を助けられない.........)
「《
森の奥から声が響いたと同時に、とてつもない速さの水流がソウジルと男を襲った。
「《
ソウジルの目の前に陣が現れ、水を受け止める。
「おい!新手か!?」
男が叫ぶ。
「《
またもや声が森の奥から響き、水を受け止めているソウジルの背後にいる男の横の地面が隆起し男の顔面に向かって伸びた。
「ボグァっ!」
男の顎にクリーンヒット。男は横に吹っ飛び木に叩きつけられた。
そのまま白目を向いて倒れ込む。
「一体誰ですか!」
水流を止め切って陣を消したソウジルが問いかける。
「よおソウジルさんや」
森の奥から出てきたのは、杖を手に持ったロッツだった。
「やってくれたのう、お前」
ロッツの額には青筋が浮き上がり、目はソウジルを睨んでいる。
「やはり、魔物が出たなど嘘じゃったか...怪しいと思ったんじゃ」
そう言いつつロッツは、倒れているゼインの元に向かい声をかける。
「大丈夫か」
「う、うん...でもごめん、まだ立てない...」
ゼインは寝転がりながら答えた。
「...どういう事ですか?なぜ、ゼインさんに引き続き貴方まで?」
ソウジルは困惑している様子だった。
「なぜ...?なんの話じゃ」
「私の睡眠魔術は強い衝撃を与えない限り覚醒しないはず...私たちはあなた方の家には近づいていない。
一体どうやったんですか?」
「知らんわい。お前が自分の魔術を過信しすぎただけの事じゃろ。
しかしそうか...睡眠魔術とは...面白い魔術を使いよるわ...。
それで...わざわざ開拓者を騙ってまで、子供達をどうするつもりじゃった?」
「......さぁ?私はあくまで頼まれただけなのでね...
私にとってこの子達はただの商品ですから」
おどけたように肩を竦めながらソウジルは答えた。
それを見たロッツの顔がさらに険しくなる。
「そうか......それで、攫ったあとはどうするつもりじゃった?これだけの子供が一晩で消えたとなれば、一大事じゃぞ。
しかもお前が来てから数日でじゃ。
明らかにおかしいじゃろう。
王国守護団に通報されるぞ」
ロッツが馬車を指さす。
「...えぇ、そうですね。
なので私はある程度装備と体を傷つけ、この後村に戻って言うんですよ。
子供を攫う魔物が出た!...とね。
こんな辺境に住んでいる田舎者に魔物の知識は無いでしょう?
簡単に信じるはずです。
その後は怯えるフリをしておめおめ村から出ていけば、
完全に魔物を恐れ逃げた開拓者の完成です」
「...その程度で王国守護団を騙し通せると思うのか?」
「えぇ、まぁこれ以上は私の口からは何も言えませんが...」
「そうか......大人しく捕まってもらうぞ」
ロッツが杖を前に構える。
「フフ...残念ですが、私がここまで話すのは決まって『仕事仲間』か、『もう殺すと決めた相手』なんですよ。
もちろんあなたは後者です」
対しソウジルも腰の剣を抜き、正中線に構える。
「《
先に動いたのはロッツだった。杖の先から凄まじい勢いの太い水流が吹き出る。ソウジルは横に走り出した。それを追いかける水流が後ろの木々をなぎ倒していく。
「シャァ!」
ソウジルは突然間合いを詰め、ロッツの頭を目掛け縦に凶刃を振るう。
「《
ロッツがそう唱えると刃とロッツの間に小さな水の盾が出現し、刃を受け止めた。
「《
もう一度すかさずロッツが唱え、土の小さな塊が空中にいくつも形成される。そしてソウジルのがら空きの腹に向かって飛んだ。
「ぐっ!」
土弾が当たり苦悶の表情になりながら、ソウジルはロッツの顎を蹴り上げようと足を振るいつつ、後ろに大きく身体を回し距離を取った。ロッツは何とか身体を仰け反らせ直撃を避けたが、顎に少しの切り傷が出来た。
「...仕込み刃か」
「フフ、そうです」
ソウジルの足を見ると爪先から短い刃が出ている。
「これはいい値段がしましたよ〜。なんたって裏の界隈で有名な技師サンクソンの作品ですからね」
急に得意気に話し始めたソウジルに、ロッツは怪訝な目を送る。
「なに勝ち誇ったような顔をしとる」
「いえいえ......
もう終わってますからね。えぇ」
「...うっ!?」
突然苦しみ始め、ロッツは胸を押さえ込み膝をついた。
汗が大量に流れ始めて息も荒くなっている。
「こ、これは...毒か...!?」
「えぇ、秘密ルートで入手した『毒々沼』の原液。それを塗りこんだ刃です。
常人なら10分で死に至りますが...老人はそこまで持たないかもしれませんが」
ソウジルが説明をしている間にも、ロッツの鼓動はどんどん早くなっていく。
「く...10分...か...ふん、10分もあれば、はぁはぁ...お前程度、ぶちのめすのに充分じゃ...はぁはぁ」
「あぁいえ、勘違いしないでくださいよ。毒が回るにつれて動悸、体温の上昇、神経の麻痺、痛みが強くなっていくので、実際動けなくなるのは1分もかかりませんから」
さも日常のように、まるで雑談でもしているかのようなテンションでソウジルは言い放つ。
「でも頑張った方だと思いますよ。そのご老体で...
さて、次はゼインさん......ん?」
先程まで倒れていたはずのゼインがいない。
「くらえ!」
後ろから声がして、ソウジルは振り向いた。すると眼前にゼインの拳が迫っていた。
「ぶっ!?」
拳が顔にめり込み、後ろに吹っ飛ばされるソウジル。
縦に一回転して何とか膝を着きながら着地する。
「く...
クソガキが!殺してやる!」
ソウジルは鼻血を吹き出しながら吠えた。その一瞬の隙をロッツは見逃さず魔術を唱える。
「ハァ...よくやったゼイン!《
ソウジルの周りの地面が隆起し、一瞬でドームを形成してソウジルを閉じ込めた。
「ハァハァ...ぐっ...」
ロッツは胸に手を当てたまま倒れ込んだ。
「ロッツじいちゃん!!!」
すぐさまゼインは駆け寄る。
「ロッツじいちゃん...そんな、そんな...少しだけ耐えて...!きっと村に戻ったら薬があるはずだから...!」
ロッツの腕を自分の肩に回し立ち上がらせるゼイン。
ロッツの体はかなり熱くなっていて、汗が滝のように流れている。
「もういい...!先に子供達の乗った馬車を村に戻せ...その後にすぐ大人達を起こせ...ワシは置いていくんだ...!」
「そんなこと言われても...やだよ!!置いていけるわけ無いじゃんか!!!」
ゼインが悲痛に叫んだ。
ザクッ
土のドームをソウジルの刃が貫通した。まだ形は崩れていないが、ソウジルが土の牢獄から出てくるのは時間の問題だということは誰の目にも明らかだった。
「急がないと...」
ロッツを支えたままゼインは馬車に進む。その間にもソウジルの刃は何度もドームを突き刺している。
何とか馬車にたどり着いたゼインは、ロッツを御者台に乗せ、自分も隣に座った。手綱を握ると馬は力強く嘶いた。
(大丈夫...大丈夫...馬には何度も乗ってる...落ち着け...
村に戻れば、きっとロッツじいちゃんは助かる...!)
震える左手を右手で抑え、心の中で唱える。
「いけっ!」
馬は全速力で駆け出した。
「ゼイン...」
走り出して数秒、ロッツが弱々しい声で呼びかけた。
「ど、どうしたの」
「ゼイン...いいか...
ワシが死んでも決して馬を止めるな...」
「そんな...そんな事言わないでよ...!
ロッツじいちゃんは死なないから!絶対死なせないから...!」
ゼインは涙を堪えながら答えた。
「...お前は本当に...
ずっと、優しかったなぁ」
「...なんで......ぼ、僕は...
ロッツじいちゃんが僕にしてくれたみたいに...ただ誰かの助けになりたくて...」
「はは...ワシがお前にしてやれたことなんてほとんどないわい...お前は本当に優しいやつじゃ...
だがな、ゼイン。
優しいだけじゃダメなんじゃ...
「良い奴...?」
「そうじゃ...
そういえば...あまりお前に言えてないことがあったな...
言おうと思ったことはあったんじゃが、なんだか気恥ずかしくてな」
「...なに...
言ってるの...
まだ言わなくていいよ...
帰ってから、聞きたいよ...」
手綱を持っている手が震える。
「いや......言わせてくれ...
愛してるぞ...ゼイン」
それを言うと、コクンと首を落とし、ロッツは動かなくなった。
「じ、じいちゃん...?」
「...」
「ロッツじいちゃん...」
「...」
「...ねぇ」
「...」
「...起きてよ...やだよ...じいちゃん!」
ゼインの叫ぶ声に呼応する人物は既にいなかった。
「追いついたぜ!このガキが!」
「!」
突然走っている馬車の横から声がした。
「おらァ!」
声がした直後、馬車が一瞬宙に浮かび上がり横転した。
ゼインは思わず手綱を離し、馬車から離れた方へと飛ばされてしまった。
顔がちょうど声のした方に向き、視界に入ったのは
さっきロッツが魔術でダウンさせた強面の男だった。男の腕と体に魔術的紋様が浮かび上がって赤く発光している。
馬車は横向きに倒れたが、損壊している様子は無かった。馬は気絶しているようだ。
(中の子供たちは...それと、ロッツじいちゃんは...?)
何とかフラつきながら立ったゼイン。周りを見回すと、男の足元に動かなくなったロッツがいた。
「...あ?もしかして...さっき俺に攻撃してきたのはこのジジイか?死んだのか?」
男が足元のロッツに手を伸ばした。
「...!お前が...触るなぁ!!」
刹那、ゼインが叫びながらロッツに覆いかぶさった。
「おぉ...ハ、ハハハハ!もしかしてこいつ、お前のジジイか?」
「義理らしいですよ」
男がゼインを指さしながら嘲笑していた時に、もう一人の声がした。ソウジルが土の牢獄から脱出して追いついたのだ。
「てかあなた、寝すぎです」
「しゃあねぇだろ、不意打ちだったんだからよ...その分仕事したじゃねぇか」
「馬車に追いついたのもひっくり返せたのも私があなたに身体強化魔術をかけたからでしょう。ていうか誰がひっくり返せって言ったんですか、止めてくださいって言ったんですよ」
「チッ...いちいちこまけぇなぁ...お前もそう思わねぇか?」
そう言うと男はゼインの方に向いた。
ゼインは、下唇を噛み締めロッツを抱きながらソウジルを涙目で睨み上げていた。
「おい...無視してんじゃねぇぞ!」
男がゼインの顔に真正面から蹴りを入れた。後ろに大きく仰け反る。しかし、すぐに姿勢を戻してまたもやソウジルを睨んだ。
「おぉ怖い怖い」
「...あ?てめぇ頑丈だな。本気で蹴ってやるよ
オラ!」
男の蹴りがロッツに当たりそうになると、ゼインはすぐに後ろを向いて自分を盾にした。背中に大きな衝撃が走る。
「ヴッ!」
ベキベキと骨の折れる音がして前に大きく吹っ飛ばされ、咄嗟にゼインはロッツを離してしまった。
仰向けに倒れたまま、ゼインは動けなかった。
眼前に綺麗な星々が輝いている。
思わずゼインは空に左手を伸ばす。
(あぁ...僕が...僕が魔術を使えたら...きっとまだ...
ロッツじいちゃんは生きてて......子供達が危険になる事も無くて.....
いや、魔術じゃなくても...僕がもっと強かったらきっと...)
「おいソウジル」
「なんです?」
「こいつは殺していいよな?」
「えぇ、もういいでしょう。私も少しムカつきましたし」
男がゼインに近づいてくる。
ゼインはまだ、空を見ている。
(...せめて、子供達だけでも守らなきゃ...もう、失いたくない)
男がゼインの目の前まで来た。
男はゆっくりと右足を上げ、ゼインの顔の上に持ってきた。
そのまま、勢いよく、顔を踏みつぶそうと足を下げた。
(なんでもいい...魔術じゃなくてもいいから、なにか...僕に力を)
そう思った瞬間、ゼインの視界が白く染まった。
『見てみてよ、とっても可愛い』
女の人が目の前にいる。白い髪に白い瞳を持ったとても美人な女の人。笑っている。
『ほんとだ、君に似て綺麗な白い目だ』
その少し後ろに、オレンジ色の髪とオレンジの瞳を持った男の人がいた。この人も笑っている。
『フフ、髪の毛は貴方譲りね』
(誰?)
ゼインは声を出そうとした。しかし出ず、代わりに「あぅあぅ」とまるで赤子のような声がすぐ近くからした。
今気づいたが、いつもの体の感覚がない。
『あぁー!もうー!かーわーいーいー』
女の人が悶えながら言った。
すると、今度は周りが赤い風景に変わり、自分の体の感覚が戻った。
辺りを見回す。
(燃えてる...?)
家が燃えていた。見覚えのない家だ。
(あれ...?)
燃えている家のすぐ近くに、白い髪の女の人が座り込んで何かを抱えていた。
近づくと、さっきの女の人が泣いていた。だが、顔にさっきまでなかった傷が出来ている。
抱えているのは、なにかよく見えない。
『ごめん、ごめんね...』
そう言いながら銀色の宝石がついたネックレスを抱え込んでいる何かにかけた。
それは、ゼインが今首にかけている10歳の誕生日でロッツから貰ったネックレスに酷似していた。
次の言葉で、ゼインは思わず目を見開いた。
『あなたを永遠に愛してるわ、ゼイン』
(え...?なんで僕の名前を...あなたは一体...)
声が出ない。
突然、体が後ろに引っ張られる感覚があった。
周りの風景が歪む。そしてまた視界が真っ白になった。
現実に戻ると、目の前に足が迫っていた。
反射的に両腕で男の足を止めたゼイン。
「あ...?」
「どこにそんな元気が......
!離れてください!!」
ソウジルが何かを察知して叫んだ。だが既に遅かった。
男の足を掴んでいるゼインの両手が、激しく光った。
それはオレンジ色の暖かい光だった。
「うぉぉあ!?」
足元から火柱が立ち上がり、男を空高く打ち上げた。
「ぐへぇ!」
男は頭から茂みに突っ込み気絶した。
「そうですか...やはり...やはりあなたは!」
ソウジルがすぐに剣を抜いて構えた。その額には汗が滲んでいる。
「これは...そうだ...
いや...違う。僕はこんな力があるなんて知らなかった...誰の...」
既に立ち上がっていたゼインは、困惑した表情で燃えている両手を見つめていた。
(!今がチャンス!)
ソウジルは走り出しながら唱えた。
「《
ソウジルの周りに陣が出現し、そこから火の弾が勢いよく射出された。ソウジルの剣と同時にゼインに向かう。
その火球をゼインはリズム良くステップで避ける。そして剣の軌道に手を置き、炎を出した。
「ぐっ!」
勢いの凄まじい炎が剣に当たり、ソウジルの手から剣がすっぽ抜ける。完全に隙だらけだ。
ゼインは構えた。
自分の体重が拳に乗るように、
全ての怒りが拳に乗るように、
ロッツに、自分は一人でも大丈夫だと示せるように、
拳に炎を宿す。
「ロッツじいちゃん、見ててね」
腰をひねり、拳をひねり、一瞬肘先から炎を出し加速しつつ、ソウジルの土手っ腹に確かに叩き込んだ。
炎がソウジルの皮装備を溶かしつつ、拳が深くめり込んでいく。
「ゴバッ!」
ソウジルの口から唾が吹き出し、ぐるぐる回りながら吹き飛ばされる。
木が一本、二本とどんどんへし折れていく。
三本目でようやく勢いが止まり、ソウジルは口から泡を出しながら白目を向いた。
拳が当たった場所は剥き出しになった上、黒く焼けている。
「....これは....一体....背中も治ってる....」
一瞬、芽生えた力に戸惑いつつ背中をさする、しかしすぐにハッとした表情になり、ロッツの方に向いた。
「...ロッツ...じいちゃん...」
ゼインはその後ロッツの亡骸の傍で、朝になって村人達が子供達を探しに来るまで、大きな声で泣き続けた。
・・・
あの日から、数日が経った。
子供達に多少の怪我はあったものの、全員無事に家に帰れたらしい。
ゼインはベッドで仰向けになったまま、物思いに耽っていた。
「僕が...憑神者ひょうしんしゃだったなんて。
いや...人とは違うとは薄々思ってたけど...」
ここ数日、何度かゼインは「賢者ムルの伝記」を読んでいた。そこに書かれていたのは
『憑神者は災いを呼ぶと言われている。そのため見分け方を記しておこうと思う。
まず、見た目に差はない。
だが、憑神者に共通するのは魔術が使えないという点。
その代わりに強力な能力を持っている。
身体能力も常人より高く、頑強な肉体である。
魔力を持っていないため、魔力切れという概念は無い。しかし、能力を使いすぎると死ぬと言われている。』
「災いを呼ぶ...か。もしかしたらロッツじいちゃんが死んだのも...僕がいたからかな...」
左腕を目に被せ、視界を覆う。
「あの時の...夢だったのかな」
ふと、炎が出るようになった直前に見た事を思い出す。
夢にしては、やけにリアルに感じた。
「そうだ...もう、出なきゃ」
そう言うとゼインはベッドから降りる。そして床に置いていたリュックを背負った。
リュックはパンパンの荷物が詰め込まれ、今にもはち切れそうだ。
部屋から出て、階段を降りると、右にロッツと過ごしたリビングが見えた。
「...じいちゃん、行ってくるね」
銀色の宝石がついているネックレスを強く握ると、ゼインはドアを開けた。
「うん...晴れてる。あ、そうだ。一応もう一度見ておこう」
そういうとゼインはリュックを降ろして、「賢者ムルの伝記」を取り出してページを開いた。
「魂の石、魂の石、と、あった」
ゼインの指の先に書かれていたのは『魂の石』についての説明だった。
『魂の石
それは、この世に存在するアーティファクトの一種であり、効果は死者の魂をこの世に呼び戻すというものらしい。
だが私ですら噂程度で本当に実在するかは不明だ。
この世に呼び戻すと言っても、死者を復活させることができるのかどうかも定かではない。
もしかしたら一瞬この世に呼び戻し、すぐにまた魂があの世に戻るものかもしれない。
ゴーリル王国にあるらしいが...』
「...うん、大丈夫。きっとある」
本を閉じて、リュックに戻す。そして背負いまた歩き出した。
「...見てよ、あれ」
「ちょっと...あんま見ちゃダメよ」
リュックを背負うゼインを見る村人、その視線にゼインも目を向けると、すぐに村人は目を逸らす。
「この!憑神者が!」
ゼインの頭に石が当たった。
振り向くと、少しゼインより若いくらいの男の子が石をいくつか持って笑い顔で立っていた。
「早く出てけよ!」
「ちょっと!やめなさいジャール!」
男の子の母親らしき人物が、まるでゼインから庇うように男の子を制止した。
「ご、ごめんなさい...ちゃんと言っておくから...」
母親はゼインに少しだけ顔を向けつつ謝罪した。表情からは怯えが見てとれる。
ゼインは申し訳なさそうに顔を俯かせ、またもや前を向いて歩き出した。
なぜ憑神者だと噂が広まっているのか、それはソウジルが王国守護団に連行される前、村人達に縄で縛られて檻に入れられていた時に、見張りをしていた村人に対し
『私達ばかり見ていていいんですか?ゼインって言う子供。
あの子憑神者ですよ?ほら見てください、この傷。
火傷ですよ。この村に火魔術を扱える人なんていないんでしょう?
あぁちなみに、その情報もゼインさんが教えてくれましたよ』
と言ったのだ。
その言葉を聞いた村人はもちろんすぐさまゼインに事実を確認した。
ゼインは否定しなかった。
そして現在に至る。
ゼインを見ると噂話を始める人、すぐに家に駆け込んで扉を閉める人、嘲笑う子供。
憑神者だと判明してからゼインに対しての村人の対応は明らかに変わった。
ゼインは村の出入口についた。
木でできた門を見上げると、こう書かれている。
『暖かい空気流れるトレミ村へようこそ!』
ゼインはリュックを背負い直して、門をくぐった。
「おいゼイン!」
後ろから声がした。
振り向くと、木から降りられなくなった時に助けたあの兄弟がいた。
二人とも所々に傷がついている。
「頑張れよ!すぐに追いついてやるからな!」
「ぼ、僕も!いつか一緒に戦えるくらい強くなるから!」
「ネル、ネロ...」
「助けてくれてありがとう!」
ネルが言った。
「お、俺は自分で助かったけどな!」
ネロが言った。
ゼインの顔に少しだけ笑みが浮かんだ。
「...ありがとう」
そう言葉にした瞬間、思わず涙が零れそうになり、ゼインはすぐに目を拭いた。
「あ!『泣き虫ゼイン』だ!」
ネルが指をさして言う。
「はは、昔のあだ名だ...懐かしいな」
「やーい泣き虫!」
ネロがベロベロバーと変顔をして茶化す。
「こら!ネロ!ネル!」
兄弟の背後から突然ふくよかな女性が出てきた。
「助けてくれた人にそんなこと言わない!」
ゴツン、と大きな拳がネロとネルの頭に振り落とされた。
「いってぇ...このババア!」
「僕は別にバカにしてないのに...」
「ごめんねゼイン......ロッツさんのこと、残念だったね」
女性は悲しそうな顔をしながらゼインに言う。
「いや...大丈夫。でもサリアさん、僕と話しても、大丈夫なの?」
「ん?...あっはっは!いいんだよ!どうせ憑神者がどうのこうのなんてただの言い伝えじゃないの!
わたしゃそういうの信じれないタチでね!
この子達も私に似てるところがあって良かったよ!」
その言葉を聞いたネロが「似てねぇし」と悪態をつく。
「そっ、か...ありがとう...
それじゃあ、いくね。じゃあね、サリアさん、ネロ、ネル」
「じゃあまたなーゼインー」
「ばいばーい」
兄弟二人が手を振る。
「ゼイン!」
サリアが大きな声で呼んだ。
「...はい...?」
「シャキッとしな!」
言われて、ゼインはずっと俯きがちになっていた事に気づいて笑った。
「...うん!またね!」
頬を叩いて気合いを入れ直し、大きな声で手を振った。
「よし!」
村を背にして
大きな一歩を、今確かに踏み出した。
処女作というやつです