なんか特殊な百合を書きたいと思って書きました。あんまり上手く書けてないと思います
話の途中で終わると思いますが、勘弁してください
食べることが愛なんだと知ったのは、私が小学生にもならないような小さい頃だった。
その時もうすでに父親は亡くなっていて、私は母さんと二人暮らしだった。
父さんがいないことは、小さい時の私にとってそこまで悩むべきことじゃなくて、母さんがいるだけで十分楽しくて、十分幸せだった。
だから、まあ、あんなことになったっていうのは、ある意味不運だったとも言える。・・・・・・いや、やっぱり幸運だったかもしれない。うん、幸運だったね。やっぱり。
ある日のことだった。なんでもない、いつもと同じ普通の日に起こった出来事だった。
「・・・・・・?」
リビングでテレビを見ていたら、何もない空中に裂け目が現れた。裂け目──そう、裂け目だ。空間が破けた跡のような裂け目。それが現れた。もしかしたら、それは世界があんなふうになる先の、前触れみたいなものだったのかもしれない。
その時の私はまだ子供だったから、好奇心に勝てなくて、その裂け目にくっと指を入れてしまった。
そして。
辺りはカッと真っ白の光に包まれていつの間にか、私と、巻き込まれた母さんは洞窟のようなところにいた。母さんは、私の近くで洗濯物を畳んでいたわけだけど、近くにいたから、私と一緒にここに来てしまったんだ。母さんはタオルを持って、キョロキョロと怯え、当惑した様子で辺りを見渡していた。
いつの間にか、私と母さんはそんな真っ暗な場所に来ていた。当然、まだ子供だった私は怖がり、泣きじゃくった。
「大丈夫。大丈夫だから」
母さんも怖かったと思うけど、でもそんな様子は微塵も見せずに私のことを抱きしめて慰めてくれた。真っ暗で、冷たいゴツゴツした岩の感触だけがある、洞窟のようなところの中だった。私の泣き声はその中に響いていった。
いまだにあの洞窟のようなところはどこにあったかわからない。もしかしたらこの世界とは別の異世界にあったのかもしれない。よくわからない。
「・・・・・・繋がらないわね」
母さんはエプロンのポケットに入れていたスマホで電話をかけてみたけど、繋がらなかったらしい。ただ、それは十分な光源になったから、それで辺りを探り始めた。
「・・・・・・何か、刻んであるわね」
洞窟の壁には、以前にここへ迷い込んだ人のものらしい文章みたいなものが刻まれていた。あんまり覚えてないけど、確か英語だったように思う。それを読んで、理解してたってことは母さんは英語が得意だったのかな。今となってはよくわかんない。
「なるほど・・・・・・」
お母さんはそれを読んで、私にこう言った。
「一年経ったら、またあの裂け目が現れるみたいだから、それまでの辛抱だよ」
そして、こうも言った。
「ここからは、それ以外の手段で出られないみたいだから・・・・・・」
そう言って、母さんは私たちの前後にスマホの明かりを向けた。そこは、両方とも岩壁で塞がっていた。上下、前後左右。どこも塞がっていて、わずかな穴も空いていない。私たちは完全に閉じ込められていた。確かに、あの裂け目以外に脱出の方法はないみたいだ。
まあ一年経てば出られるとあったけど、あそこは一年も耐えられるような場所じゃなかった。
あの場所には水もなかったし、食べ物も当然のことながらなかった。そこから出ることも出来なかったし、八方塞がりだった。
喉もカラカラに渇いていくし、お腹だってペコペコに空いてくる。
「お母さん・・・・・・お腹空いた・・・・・・喉も渇いたよ・・・・・・」
そんなふうにグズれてた時はまだ良かったけど、本当にヤバくなったらグズることすら出来なくなってきて、ゴツゴツした冷たい床の上に、ぴくりとも動くことなくぐったりと、横たわることしか出来なくなっていた。
「・・・・・・」
母さんは、しばらく迷っていたみたいだけど、そんな私を見て決意したらしくやがてこんなことを言い出した。
「・・・・・・ねえ、佳織」
その時の表情は、もちろん今でも覚えている。私のことを真っ直ぐに見て、決然とこう言い放った。
「母さんのことを食べてほしい」
私は・・・・・・横たわることしか出来なかった。驚く元気もなかった。錆びついた車輪のように回転しない頭を、それでも必死に回転させて、母さんの言葉を飲み込もうとしていた。
「私はやっぱり、あなたに生きてほしい。こんなに酷いことをさせて、重いものを背負わせて、辛い思いをさせてしまうけど・・・・・・でも、あなたを愛しているから、生きてほしい。だから、佳織も・・・・・・こんな母さんを愛しているなら、生きてほしい。辛くても、生き延びてほしい。母さんを食べてでも、生き延びてほしい・・・・・・」
私は・・・・・・どうしたらいいかわからなかった。でも、答えを出さなくちゃと思った。だから、横になりながら、小さく頷いた。
「・・・・・・うん」
なんとか力を絞り出して、小さく返事をした。それを聞いて、母さんはほっと安心したような顔をした。
・・・・・・
母さんはそうして亡くなった。ここに来る時に手に持ったままだったタオルで、自分の首を絞めて亡くなった。
私は、近くにあったちょうど良さそうな石を使ってお母さんの体を千切っていって、少しづつ食べた。
口の中に血の味が広がる。口の中が鉄臭くなって、気持ち悪かった。
母さんはまずかった。はっきり言って、あんまりおいしくはなかったよ。娘の立場から贔屓目に見ても、おいしいとは言えなかったね。
でも、母さんを初めて口にした時、今まで感じたことのない感覚を覚えた。なんというか・・・・・・
「────ッ!?」
背筋がゾクゾクとして、脳みそが焼き切れそうなくらいに真っ白になって──抑えようとしても抑えられないくらいにどうしようもなく押し寄せてくる快感。突然、脳みそを貫き全身を包み込んだその異常な快感に、当時の私は困惑した。──多分、それが私にとって初めての絶頂だったんだと思う。
・・・・・・まあ、そんなこともあったけれども。
私は母さんを食べながらなんとか生き延びて、一年後、戻ってきた。戻ってからは、叔父さん夫婦に育てられて、今日まで過ごしてきた。月日は流れ、あんなに幼かった私も、もう高校一年生だ。ごく普通の女子高生、白河佳織、それが私だ。
そう、私はごく普通の女子高生だ。普通の女子高生ながらも、人生にとって大切なことはちゃんとわかっているつもりだ。
あの時母さんは言った。『母さんを愛しているなら、食べてほしい』と。まあ、ちょっと端折ってるけど、大体こんな感じのことを言っていたと思う。
つまり、『愛する』っていうのは『食べること』なんだと思う。人は愛の行為で絶頂するらしいから、私が母さんを食べて絶頂したということは、あれは間違いなく愛の行為だったんだ。
愛することは食べること。人生においてとっても大切なこの事実を、幼い時に知れたあの出来事は、だからやっぱり幸運だったんだと思う。
◇
「みんな、おはよー!」
私が元気に挨拶すると、クラスメイトのみんなは振り向いて私に笑顔で挨拶を返した。
「あ、佳織。おはよー」
「おはようー」
「ねー佳織い。国語の宿題写さしてくんない!?」
私が自分の席に着こうとすると、友達の1人がシュバっと近づいてきて、私に手を合わせてお願いをしてきた。
「もー、また忘れたの?」
「いやー、ついうっかり忘れちゃってさあ! ね、写さしてくんないかな!?」
「まったく・・・・・・いつも言ってるじゃんか。写してばっかりいたら自分の身にならないって!」
もーまったくと言いながら、カバンから国語のノートを出してしまう私はつくづく甘い。だからクラス委員なのになんかちょっと舐められてるんだろうか・・・・・・と思いながらも、まあ怖がられるよりはいいかと思い直す。
「はい」
「ありがとー!」
やれやれ、とため息をつきながら私は席に着く。
「相変わらず佳織は甘いねー」
「悪い男に引っかからないように気をつけなよー? 押しに弱いし、けっこうちょろいところあるからねー佳織は」
「ちょろいって・・・・・・酷いなあ」
友達の言い様に、私はムッと頬を膨らませて怒ったような表情をする。まったく、失礼な人たちだよね。
と、そんなふうに友達と話していると、何やら困ったような顔をしたクラスメイトがいるのが見えた。
「・・・・・・ごめん、2人とも。私ちょっと行ってきていい?」
私は2人に断りを入れて、そのクラスメイトを助けに行くことにする。
「いいよー。ほんと、佳織は困ってる人を放っておけない性分だよねー」
「頑張れよ、クラス委員!」
私は立ち上がり、助けに行くために小走りで近づいていくのだった。
この話は、困っている人を放っておけないこと以外はごく普通の女子高生であるこの私、白河佳織が、突然モンスターの出現した世界で、とある女の子に恋をする話だ。
モンスターパニック要素があるってところ以外は、多分ごく普通のラブコメになると思うから、そこまで面白くはないと思うな。途中で終わると思うし、あんまり期待しないでくれると助かるよ。
◇
まあそんな感じで私はいつもの毎日を送っていた。
教室で色々やっていると、何やら二組の男子が喧嘩っぽいことをしている声が耳に入った。ま、これもいつものこと。
「ふ、ふふ・・・・・・そんなこと言って、サイコパスであるこの僕に殺されちゃっても知らないよ?」
「はっ、バカ言ってんじゃねえぞ! そんなこと言って、殺そうとしたことなんか一度もねえじゃねえか!」
教室の中で、ちょっと暗めのクラスメイトの男子、佐藤くんと、ちょっと不良な男子、田中くんとが言い争っていた。
「いいからとっとと金出せよ、佐藤。てめえの家は金持ちだから、けっこうお小遣いだってけっこうもらってんだろ?」
どうやら、田中くんが佐藤くんにカツアゲを仕掛けているらしい。まったく迷惑な話だよほんとに。佐藤くんも佐藤くんで殺すとか言ってるし、ずいぶん物騒やり取りをしている。
クラス委員長である私としては放っておくわけにはいかない。間に入ることにした。
「はいはい2人とも、その辺にしなよ。喧嘩しないの」
「喧嘩じゃねえよ! こいつがパッとお金出せねえから・・・・・・!」
「チッ、なんだよ。君から先に殺されたいのか?」
2人とも同時に私を睨む。私は、はあとため息をついた。まったくこの2人はいつもこんな感じで騒がしくて困るよ、ほんとに。
「とにかく、騒がしくしないで」
私は2人のことを止めようとする。すると、田中くんが私のことをじっと見て
「へっ、まあ白河が俺にいいことしてくれるってんならここは引き下がってやってもいいぜ?」
やや下卑た笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。
「あはは、それは遠慮しておこうかな・・・・・・その代わり、私がお金をあげるよ」
このままだと場が収まらないと思ったので、代わりに私がお金を払うことにした。
「お、マジかよ! ラッキー!」
田中くんは目を輝かしてどこかへと去っていった。もうすぐホームルームなのに・・・・・・手に入れたお金をどこかで使う気なんだろう。
ちょっと痛いけど、またアルバイトでもして稼げばいいし、とりあえずは丸く収まったんだからまあいいでしょ。
「大丈夫? 佐藤くん」
私が振り返って佐藤くんに声をかけると、佐藤くんは私を睨みつけるようにして言った。
「ふん、あんなやつくらい僕の手にかかったら問題なく殺せたんだよ。この純正なるサイコパスである僕の手にかかればね。余計なことしやがって・・・・・・おかげで殺す楽しみが減ったじゃないか」
その言葉に、私は引っかかってムッとした顔で注意した。
「もー、ダメだよ? 殺すとか、そんなこと言っちゃいけないって!」
「はっ、これだから一般人は。まだそんな低レベルな道徳に縋って生きているのか。まあ、君みたいな普通の人間に、僕みたいな純粋なるサイコパスの高尚なる境地はわからないか」
佐藤くんは私を鼻で笑って、自分の席へと去っていった。
2人とも、相変わらずの問題児だ。私は深くため息をついた。
田中くんは絵に描いたような不良だし、佐藤くんは・・・・・・口では物騒なことを言っているけど、クラスメイトは薄々勘付いている。たぶん、佐藤くんはちょっと特殊な中二病なんだと思う。だから、本当に人を殺すのが楽しみのサイコパスってわけじゃないんだろうなと思う。
しかし、人を殺すのが楽しみ、か・・・・・・
「んー、わかんないなあ」
確かに、私は佐藤くんの言う通りそんな趣味を持つ人の気持ちはわからない。まあ、私はサイコパスじゃなくて一般人なんだから当たり前だけど。
私はやっぱり人を殺すより、人を愛したいかな。あの時みたいに、母さんのような素敵な人を大切に大切に愛してあげたい。
さて。それはひとまずおいといて、このクラスにはもう1人問題児がいる。
ガラッと、教室のドアを開けて入ってきたのは、特徴的な真っ白の髪に、水色の目。そして、身体中の至る所に包帯やら、湿布やらをつけたかなり目立つ女の子、澁澤ミヨだった。
そう、この子はなぜかいつも身体中傷だらけで、クラス中の心配を集める、ある意味での問題児なのだ。
クラス委員としては放っておけない。私は近づいて声をかけた。
「おはよう、澁澤さん! その・・・・・・今日も、怪我してるね。どうしたの?」
私がそう問いかけると、澁澤さんはぷいとそっぽを向いて言った。
「これは、ちょっと転んだだけよ。別に、あんたには関係ないでしょ」
「いや、関係あるよ! 私はクラス委員なんだから、何か困ってることがあるなら相談してほしいな!」
私は思い切って距離を詰め、ちょっと突っ込んだことを言ってみた。けど、澁澤さんはじろっとこちらに睨みつけるような視線を向けると
「うるさいなあ。偽善のお節介なんていらないから」
そう言って、さっさと自分の席へと歩いていってしまった。
仕方なく、私も自分の席へと戻る。すると、私の前の席と隣の席にいる友人2人が話しかけてきた。
「まったく、佳織があれだけ気にかけてあげてるのにお礼の一つもないなんて酷いよねー。佐藤のやつなんて、ちゃんと助けてあげたのに、ちょっと酷すぎない?」
「そうだよねー。澁澤さんも偽善だなんてさ・・・・・・佳織はただのお人好しバカなだけなのにね!」
「まあまあ・・・・・・って、お人好しバカってなに!? ギリギリ貶してないそれ!?」
そんなこんなで。
そのあとすぐにホームルームが始まって、教室に先生が入って色々連絡事項とかを話し始めた。
私はというと、ぼんやり澁澤さんのことを考えていた。
問題児3人の中で、一番闇が深そうな澁澤さんは、単純に心配っていうのもある。だけど、それだけじゃなくて──
なんだか、母さんに似てるんだよね。
いや、確かに見た目は似てない。母さんは白髪水色目とかそんな妖精みたいな見た目じゃなかったし、容姿は似てない。全然重なるところがないと言ってもいいわけなんだけど・・・・・・。
容姿とかじゃなくて、なんか纏う雰囲気というか、そんなものが似てるのだ。目の奥にあるものに、似た何かを感じる。
だから余計に気になってしまうんだ。
・・・・・・でも、クラス委員の立場で出来ることなんて、そこまでない。多分、家庭とかの問題なんだと思うし、一介のクラス委員には手を出しにくい問題だ。
だから、今日もいい方法なんてまるで浮かばずに、ただ澁澤さんの水色の目と、その目の奥にある何かをぼんやりと思い浮かべながら、平凡な時間を噛み潰していくのであった。
◇
・・・・・・
でも、そんな日常に突然変化が訪れた。
日本中、いや世界中の全てがモンスターで溢れ返ったのだ。ゴブリンやら、オークやらのファンタジーでよく見るような、まさにモンスターといった存在で。
「・・・・・・なんじゃこりゃ」
私は家に出て、その光景を見た時しばし呆然としたものの、すぐに
「おりゃあっ!」
ゴブリンやらオークやらを薙ぎ倒しながら学校へと向かった。
私は昔から体が丈夫で、力が異常に強かった。だからあの時、側に落ちていた石を使ったとはいえ、母さんの体をそこまで苦労することなく引き裂くことが出来たのだし、それに胃腸も丈夫だったから一年かけて腐敗していく母さんを食べても平気でいることが出来たんだ。
この異常な体の強さも、何かこの世界の異変と関係あったりするのだろうか・・・・・・まあ、それは今はどうでもいい。私はとにかく学校へと向かった。
クラス委員として、もし学校にクラスメイトがいたりしたら守ってあげなくちゃと思ったんだ。登校してから世界に異変が起こって、学校から出られなくなったなんてこともあるかもしれないし。
・・・・・・案の定、学校にはクラスメイトが幾人かいた。
学校の入り口に築いていたバリケードを破壊して侵入しようとしていたモンスターを倒し、私は中に入れてもらった。普通の私だけど、少しは役に立つだろうと思う。
「ったくよお。なんなんだよこれはよお!」
田中くんが教室の窓から、学校の外を徘徊しているモンスターを見てぼやく。学校にいたのは、田中くん、佐藤くん、そして私の友達数人にクラスメイトがちらほら。それと──澁澤さんもいた。教室の隅の方で、体育座りでうずくまっている。
「全くだ。せっかく素晴らしい力が手に入ったってのに、これじゃあ人を殺して歩くことなんて夢のまた夢だ」
佐藤くんがそう言った。
素晴らしい力、というのは、どうやらこの世界に異変が起こったと同時に手から炎を出すことが出来るというなんか主人公っぽい能力に目覚めたらしい。他のみんなもそんな感じの超常的能力を手に入れたらしい。私だけ昔から持ってたやつなのは、少し仲間はずれ感あって寂しいね。
と、まあそれよりも・・・・・・
「もー、佐藤くん。人を殺すとかそんなこと言っちゃいけないよ?」
そう言って、私は佐藤くんを注意した。佐藤くんは忌々しそうに舌打ちする。
「チッ、こんな時にまで・・・・・・筋金入りの一般人だな」
「こんな時だからこそだよ! こんな時だからこそ、そんなこと言ってないでちゃんとみんなで生き延びるための計画を立てないと!」
「普通人が・・・・・・」
「普通でけっこう! こういう時はむしろ冷静に、いつもと変わらず普通にいられる人の方が強いんだから!」
まあこんなふうに大言壮語をしてみたものの。
「それで・・・・・・どうする? 佳織」
友達の1人にそう言われて
「どうしよう・・・・・・」
そう言うしかなかった。正直言って、具体的ないいアイデアとかがあるわけではない。
「うーん・・・・・・せめて、この学校から離れられればなあ・・・・・・」
田中くんがそう呟く。
「学校から離れて、どうするの?」
「近くに、スーパーがあっただろ? あそこなら食料も豊富だろうし、ホームセンターも併設されてる場所だからドリルだとか武器になるものもありそうだ。多分、学校よりは戦えると思うんだよな・・・・・・」
田中くんはそう言った。確かに一理ありそうに思える。でも
「でも、ここから一旦脱出してあのスーパーまで行くのは至難の業だと思うよ・・・・・・」
「そうなんだよな・・・・・・」
それは、かなり難しい話だと思う。
んー・・・・・・とみんなで悩んでいると
不意に。
「それなら、私を囮にすればいいと思う」
そんなことを言い出した人がいた。
私は発言主の方へ振り向く。澁澤さんだった。
澁澤さんは、決意を固めた表情をしていて──
なんだか、あの時の母さんのことを思い出した。
「ちょ、何言ってるの澁澤さん! いくら怪我が治るからってそんな・・・・・・」
私の友人の1人が言う。
「・・・・・・怪我が治る?」
私は引っかかって、問いかけた。
「怪我が治るって、どういうこと?」
「ん? ああ、澁澤さん、なんか怪我してもすぐに治るみたいなんだ。ここへ来るまでにけっこう大怪我してたんだけど、治ってた」
そういえば、いつもしてる湿布やら包帯やらがない。
「ま、治せるのは自分の傷のみみたいだけどね」
澁澤さんはそう説明する。
「・・・・・・」
私は、ふらりと澁澤さんの方へと向かっていった。無意識に。
「な、なに?」
そして澁澤さんの手を取ると──
「────」
気がついたら、私は澁澤さんの人差し指を食い千切っていた。
「・・・・・・は?」
「ちょ、何やってんの!?」
騒ぐ声は耳に届かず。
顎の力も強い私は、骨ごとその人差し指をボリボリと噛み砕いた。
血の味が口いっぱいに広がる。おいしくはない。おいしくはないけど・・・・・・
私の脳みそは、激しい懐かしさとともに白いスパークでいっぱいになっていた。俯いて髪に隠れた顔は、きっと白眼を剥いて舌を出し、涎を垂らした酷い顔になっていたと思う。
「はっ・・・・・・ぁっ・・・・・・」
しばらく慄いていた。それから、ハッと正気に戻った。
いけないいけない。いきなり指を噛みちぎるとか、どこぞのタイトル回収中尉かよ。いわば、ゴールデンカ○イか・・・・・・
私が澁澤さんの指に目を落とすと、指はもうメキメキと治っていっていた。
「治ってる・・・・・・」
「そう。私の怪我はすぐ治るから、だから平気」
澁澤さんは──
「この力があるから・・・・・・私は大丈夫。遠慮なく囮にしちゃってよ。私はみんなに・・・・・・その、生き延びてほしいから」
そう言った澁澤さんの顔が、やっぱりあの時の母さんの顔と重なって見えて。
私は思わず
「ねえ澁澤さん」
「ん?」
こんな時だって言うのに。
「澁澤さんのこと、食べてもいいかな?」
私は澁澤さんに告白した。
◇
澁澤ミヨは、その目をまっすぐに見る。
いつもだったらうざったいはずの、その視線。
けど、今日のその視線はいつものそれとは打って変わって暗闇に満ち、カッコよくて──
さっき、指を食い千切られた時の痛みとともに下腹部を疼かせて。
「・・・・・・はい」
顔を赤らめ瞳を潤ませて、澁澤ミヨは恋する乙女のように、思わずそう返事をしていたのだった。