べヴの余興は無事終了。
おでこを
その間にべヴも魔ナマコちゃんを片付けていたようで部屋に戻ると部屋の隅。
家具として置かれた全身鏡に向かってしゅ、しゅっとシャドーボクシングをやっている彼女を横目に俺はその隣のテーブル前の椅子に腰を掛ける。
「しゅ、しゅしゅ! ……アツイ、コレハアツイ」
と意味の分からないことを言っている。
もういいから部屋を出て行ってほしい。
そう思ったが、一分ほどで満足したのか、額の汗を
というか、まだ彼女のターンは続いているのだろうか。
「一応聞くが、ニュイの準備とやらはまだ終わらないのか?」
「はい、一応そろそろバトンタッチする相手が来る手はずなのですが、ちょっと余興の時間が短すぎましたかね」
「いや、あれ以上長かったらたぶんグーで頬っぺた行ってた」
「……仕方ない。私が魔王城面白トークで場を繋げる」
お前のその自信は何なんだと凄く聞きたい。
とはいえ、若干興味はあったので、話を聞くことにする。
めちゃくちゃ長いうえに山も落ちもないような話だったので要約するが、魔王城のご飯のおかずはお肉しか出ないという心底どうでもいいようなテーマの話だった。
お肉しか出ない魔王城。
しかし、ベヴはお魚も結構好きだった。
たまには魚料理も作ってくれと懇願するベヴ。
ダメだ。ダメだダメだ。の一点張りで付け入る隙もない料理長。
「外で食ってこりゃいいじゃん」
という疑問に、そんな簡単な話ではないとなぜか怒られた俺。
魚料理をめぐって繰り広げられるベヴと料理長の長き戦いを全く抑揚のない声で凄く
最後は「うるさい! もう出禁だ!」と厨房から締め出されたというのが、たぶん落ちなのだろうが、半分ウトウトしていたので話が終わったところでペチンと優しく頬を叩かれた。
「私の話を子守歌にするとは、いい度胸」
「結構耐えて聞いてたんだがな……」
そんなやり取りをしていたところでようやくコンコンと部屋の扉がノックされる。
特にこちらから返事をする間もなくドアが開けられる。
そこから顔を出したのは三人の幼い女の子。
「ベヴー。来たよー」
と元気いっぱいに赤髪ツインテールの女の子。
「お兄さんが、魔王様のお客さん? へー。フーン」
と少し様子を
「ねむい……」
と眠そうな青髪ショートカットの女の子。
ニュイの姿はない。
何だろう。早く来い。
俺はしみじみ思いながらも、彼女たちの相手をすることにする。
「こんばんはー! おにーさん! ごめんね。魔王様、まだもう少し時間かかるみたいだから、私たちが先にお風呂のお世話してあげるね。そ、こ、で! おにーさん! お風呂のお世話をする相手。おにーさんが選んでいいよ! 私、ヴェルメリ! 体洗うの、結構上手だよ!」
「私は、アマレロ。優しく髪を洗ってあげる」
「アズール……パフパフしてあげる」
アズールちゃんが論外すぎるんだが、なんだこの選択肢は。
彼女たち三人の見た目はニュイと同じ十歳そこそこに見える。
三人とも髪や瞳と同じ色をあしらったメイド服を着ており、見た目はとても可愛らしいのだが、頭には二本の小さな角に、お尻から伸びる悪魔の尻尾。
「第四の選択肢ベヴちゃんという手もありますよ。壺洗いが得意です」
「汚れるだけだ。お前は持ち場に帰れ」
ベヴの言葉は無視するにしても、第五の選択肢は選びたいところだった。
「一人で入るって選択肢はないのか?」
「ダメでーす! 魔王様に合うんだから、汚い体のままは許しません」
ヴェルメリは手で大きくバッテンを作った。
なるほど、なかなか難しい選択を要求してくれる悪魔たちだ。
ただ、俺は客人。向こうは
家主から風呂に入れと言われて断れる客もそれはそれで無礼ではある。
こういった状況下。
「……じゃあ、全員で」
『……おーっ!』
俺は誰か一人を選ぶのが非常に苦手であった。
**
更衣室は自室から五分ほど歩いた場所にあるようだった。
入口は大きなアーチ状になっており、そこを抜けた先に大きな一つの白い柱。
左が男湯。右が女湯で一応男女分かれているのだが、先導してくれる三人の小悪魔は当然のように男湯の方へ入っていく。
たぶんつっこんでも意味のないことだと思うので黙っていたが、一瞬足を止めてしまったのがよくなかったのかもしれない。
「あっ、もしかして女湯の方がよかった? どうせ貸切ってるからどっちでもいいよ?」
「どっちの方がドキドキする?」
「女湯の方が、ちょっとだけ広い……」
「男湯で」
俺はにべもなくそう答える。
「なるほど。シグナ様は女湯に侵入するより、男湯に女を連れ込む方が好みだということですね。ド変態ポイント
「それどっちもポイントつかない?」
なんだか所々ボケ倒してくれるベヴが優しく見えてきて怖い。
「何してるのー、早く早くー」
三人に腕を引っ張られて更衣室の中へ入る。
大浴場というだけあって更衣室もかなり広い。中は木造りで深い森のような香りがする。
いくつもある脱衣棚には編み込んだ木の
規模は違うが、今住んでいる街の公衆浴場と勝手は似たようなものであった。
「おにーさーん! 見て見てー」
既にカチューシャやエプロンドレスを脱いでいたヴェルメリはそういって俺の視線を向けさせると今だと言わんばかりのタイミングで赤いワンピースをもぞもぞとたくし上げる。
その下が全裸だったらどうしようかと思ったが、そこは気を使ってくれたのか赤いマイクロビキニを身に纏っていた。
……まぁ、そのくらいの布面積だったら普段のニュイとそう大して変わらない。
ほっと一息つくのも一瞬。
ヴェルメリはんふふーと悪戯気な笑みを浮かべながら「わっ」と水着を胸上までずらす。
俺は一瞬、やっちまったか、と息を飲んだが、それは
彼女の二つの胸の先は赤い小さなハート型のニップレスがぴたりと貼り付けられていた。
「おにーさん、おにーさん。このシール。お口でだったら
そういってはい、と真っ平な胸を両手で強調するようにこちらに突き出してくる。
「剥がしません」
「もー、恥ずかしがり屋さんだなぁ」
「ヴェルには恥じらいが足りないよ」
「うん……肌は見えればいいってものじゃない」
そういったアマレロは
アズールは紺色の撥水性のよさそうな全身水着。胸元には白いゼッケンには『あずーる』と拙い字で
彼女たち二人の言葉には同意するのだが、他人の格好にどうこう言えるほどまともな恰好でないことだけは間違いなくいえる。
いや、アズールだけは普通に許されると思うのだが、彼女は一番小柄なのに一番胸が大きいという非常にアンバランスな体格をしていることもあって、この状況下でそんな恰好をされてもこちらのフェチズムを探りに来ているとしか思えないのが不思議なものだ。
「じゃあ、恥ずかしがり屋のおにーさんはお着替えも一人の方がいいかな?」
「お着替え手伝いいらない?」
「ご洋服、たためる?」
確実に煽ってきてはいるのだが、こんな場所で誘いに乗るわけにもいかない。
「畳めます。一人で着替えます」
「もー、はーい、じゃあ、先に中で待ってるから。すぐに来てね!」
そういって三人は先に中へと言ってくれた。
俺はようやくほっと一息つく。
ようやくゆっくり着替えられる……。
俺は上着を脱いで、ズボンを下ろそうとしたところで。
「わくわく」
未だ
**
更衣室から浴場へ続く扉を開けるとそこはまさに圧巻の一言。
白い湯気がむわっと更衣室の方へ流れ、そこから見渡すのは四方七十メートルはあろうという広大な空間。湯舟は三種類あるようで真ん中から扇状に三つエリアが分かれている。
右手の壁際には体を洗うシャワーがいくつも並び、左手にはサウナ施設も備え付けられているようであった。
「えへへー。凄いでしょう? うちの大浴場」
ヴェルメリは少し自慢げだ。
「確かに凄いな」
初めて見るほどの大きくて清潔な大浴場。
彼女の言葉は間違いなく時事であったので素直に頷く。
「かけ湯してあげるね」
「ざばー」
そういって左右からアマレロとアズールがかけ湯用の水槽のようなものからお湯を
もちろん俺の腰にはタオルを巻いている。
ちょうどよい湯加減で、こんな異常な状況下ではあるが、こうして自分のためにいろいろやってくれるのは嬉しいことは嬉しい。
かけ湯で体を洗い流すと滑らないようにゆっくりヴェルメリとアマレロが手を引いて先導してくれる。
腰にタオルを巻いたまま浴槽につかるのは本当はマナー批判だと思うが、悪魔といえども少女の前で下半身を
そして彼女たちの後ろ、ざぶんと足先からゆっくり浴槽に体をつけると非常に心地いいお湯加減。ここが魔王城だということも忘れて一瞬深く息を吐く。
「おにーさん、気持ちよさそう」
「きっと疲れがたまっていたんだよ」
「……私たちで、癒してあげたい」
悪魔三人組は小さな声でそんな話をする。
小さな声といっても目の前にいるのだから丸聞こえだ。
ぜひ、何もしないでゆっくりさせてほしかったが、彼女たちの溢れ出るサービス精神はそれを許してはくれなかったらしい。
「おにーさん! 実は私たち、おにーさんがここにくるって聞いて、面白いゲーム考えたんだ。お湯につかりながらでいいから一緒にやろう」
「……どんなゲームだ?」
「それはねー」
そういってヴェルメリが隣に目配せすると。
『一対三のあっちむいてほいゲームっ!』
「だよー」
と三人声をそろえてゲーム名を教えてくれる。
アズールだけはマイペースに語尾を付け足している。
……練習……したのだろうか。
こんなよくわからない、おそらく敵対種族の男のために。
なんだか俺は彼女たちが実はすごく優しい心を持つ女の子たちなんじゃないかと思い始めていた。
「ルールはこうだよ。このゲームはあっちむいてほいだけど、じゃんけんはないよ。お互いあっちむいてほい! の合図で首を右、左、上、下のどこかを向く。それと同時に指も同じようにどこかに向ける。それで、おにーさんが負けたら私たちからの罰ゲーム。お兄さんが勝ったら、負けた相手がお兄さんのいうことなんでも一つ聞いてあげるよ」
ヴェルメリがゲームのルールを説明してくれる。
……何、この闇の貴族しかやってなさそうな遊び。
「いや、ちょっと待ってくれ。このゲーム、事前に示し合わせてあったらこっち側不利すぎないか?」
一見、勝率75%、敗北率75%の勝負に見えるが、向こうは三人とも同じ方向を向くという選択肢を取ることができる。
その場合、一度で三勝できる可能性もあるので一概に不利とも言いづらいが、一回きりのゲームだったら、こちらの勝率は25%まで下がってしまう。
「そこに気づくとは……流石は魔王様のお友達」
「そこは全く関係ないと思うが……」
「うふふ、おーにさん、勝つために抜かりないねー。でも大丈夫、この勝負は三回戦。しかも! 私たちは毎回全員違う方向向くからおにーさんも必ず何回か勝てるはずだよ。それに、もし、一回も勝てなかったら、勝てるまでやってあげるからね」
……や、やさしー。
何この甘々すぎる接待。
ベヴのあのクソみたいな接待は逆になんだったのかと聞いてやりたい。
「じゃあ、まず一回練習しようね」
アマレロがそういう。
今の立ち位置はアズールが真ん中にいて、左にヴェルメリ、右にアマレロ。
まだやるとはいっていないが、ここまでお膳立てしてもらっていまらやりませんとは口が裂けてもいえない。
「じゃ、いくよー……」
『あっち、むいて、ホイ!』
とりあえず、何も考えずにやってみる。
軽く左を向く。上に指を向ける。
俺は視線を戻して勝敗を確認する。
ヴェルメリは首を右、指を左。
アマレロは首を左、指を左。
アズールは首を下、指を左。
つ、強ぉ!
普通に完封された。
確かに違う方向を向くとは言っていたが、指を同じ方向に向けないとは言っていない。
こいつら全員俺を殺す気である。
「あははは! おにーさん。よわーい!」
「じゃあ、罰ゲームだね」
「罰ゲームはお手てぺろぺろの刑……おにーさん、お手て出して」
練習のはずだが、どうやら罰ゲームとして手を舐められるらしい。
まぁ、負けは負けだ。
潔く右手を……と思ったが一応左手を前へと差し出す。
「はい、じゃあ三十秒。いくよー」
そういって三人は前
アマレロが親指付近、アズールが中指付近、ヴェルメラが小指付近。生暖かくてぬるぬるしていて、舌使いが絶妙に
もう一度いう。
何この闇の貴族しかやらない遊び!
「ふぅ。終わり。おいしかったー」
「少し硬くて、職人さんのお手てだね」
「このお味、大好き」
三人は思い思いに感想を言う。
しかし、何が問題かというとこれがまだ練習だということである。
というか、なんで練習に罰ゲームがあるねん、と俺はいいたい。
「じゃ、本番行くね。お兄さん。本番は罰ゲームを最初に発表するね。罰ゲームはー、じゃん! ぱふぱふだよー!」
「ぱふぱふか……」
……罰ゲームってなんだろう。
ヴェルメリの発表に残り二人がぱちぱちと拍手をする。
よく見ると大浴場の隅でメイド服姿のままのベヴもぱちぱちと拍手していた。
お前はなぜメイド服のままなんだ。別にいいけど。
俺は一つだけ深呼吸をする。
たぶんなのだが、このゲーム。
俺は本気でやれば完封することは可能である。
確かに彼女たちも強い。
おそらく俺と同じように相手の機微を悟って勝ちや負けを操ってくることは可能だろう。
しかし、その分野。
異性の感情変化を
ただ、なんというか。
彼女たちは純粋に俺を歓迎する気持ちでゲームを開いてくれていることは、すごくよく伝わってくる。
そんな彼女たちに対して完全勝利や完全敗北を求めるのも違う気がしていた。
「なぁ、一つだけルールの変更してほしいんだがいいか?」
「えー、どんな?」
とヴェルメリが尋ねてくる。
「いや、大したことではないんだが、さっきみたいに三人が同方向に指を指すのはなしにしてほしい。首と同じように全員ばらけた場所を指すルールに変えてくれないか?」
その言葉に三人は顔を見合わせる。
けれど、すぐにこちらに笑顔を向けてくれる。
「あはは、いいよー! おにーさんは三人一緒より一人ずつの方が好きなんだね」
「お兄さんは、誰が好き?」
「負かしてあげる……」
了承を得た。
よし。
「ありがとう。少し、やる気が出た」
「あはは、そうでなくっちゃねー。負けないよー。じゃあ一回戦! いくよー! せーの!」
『あっち、むいて、ほい!』
俺は下を向き、上を指さす。
ヴェルメリは左を向き、下を指さす。
アマレロは上を向き、右を指さす。
アズールは右を向き、左を指さす。
結果。ヴェルメリ勝利。アマレロ敗北。
「あっ、負けちゃった。お兄さん、何してほしい?」
「待って待って。それより罰ゲームが先だよー! でも、私かー……」
そう。
勝つことを操るのはやめた。
しかし、俺は負けを操作したのである。
パフパフ。
女性の胸で顔を挟む行為。
多少ふくらみのあるアマレロと凄い大きいアズールは可能。
だが、ほぼなんの膨らみもないヴェルメリ。彼女はパフパフができないはずなのである。
しかし!
「じゃあやるね」
ざぶん、とヴェルメリはお風呂から立ち上がると俺の目の前。
頭をぎゅーっと抱きかかえた。
「ぱふ! ぱふ!」
ぎゅ、ぎゅ!
「ぱふ! ぱふ!」
ぎゅ、ぎゅ!
「ぱふ! ぱふ!」
ぎゅ、ぎゅ!
……なんにもパフパフではない!
しかし、お風呂で温められた体温がダイレクトに顔に伝わり、ふくらみはなくともふよりとした肌そのものの柔らかさが顔全体を包み込む!
「はい! 終わりー! おにーさん! どうだった?」
なんか俺は正しい選択をしたのか、間違った選択をしたのか分からなくなってきた。
まだそれほどお風呂に浸かったわけではないのに頭が若干くらくらする。
「そうだな。優しさには、包み込まれたかな……」
「んふふー。それはとーぜん!」
ヴェルメリはえっへんと胸を張って所定の位置に戻っていった。
「じゃあ、私への罰ゲームはどうする? おかわりパフパフする?」
「おかわりパフパフしません……一旦、保留で」
「……じゃあ、二回戦。次の罰ゲームは……髪洗い。私たちの髪でおにーさんのお身体を少し洗ってあげる」
「なんだかよくわからんが……」
ヴェルメリとアマレロはそれなりに髪が長い。
対してアズールは肩に掛からないくらいの短髪だ。
下手に長い髪で変なところを洗われるよりかは。
『あっち、むいて、ほい!』
それぞれバラバラな指と首の向きを変える。
結果は狙い通り。
アズール勝利。ヴェルメリ敗北。
「やった……私の勝ち」
「……アズールは、髪が短いだろう。無理して罰ゲームしなくてもいいぞ」
「それは勝った方がいうセリフ」
それはその通りである。
彼女はざぶりと一度立ち上がると俺のすぐ隣にぴったりとくっつく。
「ぐり、ぐり……あ、間違えた。ごし、ごし」
そして横から俺の体を抱きしめると、重量感が凄すぎる体をつぶすように腕に密着させて頭を俺の首と頬にかけてぐいぐいと擦りつける。
髪のさらさらとした感触より、体に当たるもちもちすべすべな感触が気になりすぎる。
さっきのパフパフよりよっぽどパフパフだ。
「終わり。おにーさんは綺麗になった」
何が洗われたのかは全く分からなかったが、二分ほどたつとアズールはやり切ったような満足気な表情で所定の位置に戻っていった。
「私への罰ゲームはまた保留?」
「そうしてくれ」
「りょーかい」
ようやく最終戦。
「じゃあ、最後の罰ゲームは、密着心音ドキドキゲームだよ。じゃあいくね」
罰ゲームでさらにゲームするのか。
面倒だが、ここまで来たら最後まで付き合うしかない。
『あっち、むいて、ほい!』
勝者アマレロ、敗者アズール。
「おー、おにーさんすごーい! コンプリートだ!」
「ありがとう。困った。三人とも優しい」
実際この結果は、俺だけの能力ではないだろう。
俺の意図を言わずとも
普通に三人とも心優しく思えてしまう。
まぁ、それはきっと俺がニュイの客人ということで身内認定してくれているからだとは思うのだが。
そういうと三人は顔を見回せてすこし嬉しそうに笑いあっていた。
「じゃあ今回は私の負けだね。密着心音ドキドキゲームは向かい合ってぎゅーってして、先に心拍数が少しでも上がった方が負けだよ」
「負けたら?」
「もちろん罰ゲームだよ。しかも、三人から一番きつーい罰ゲーム。どんなのがいい? 魔王城でずっと一緒? もちろん魔王様含めてだけど、私たちと隷属契約するっていうのも楽しいよ? でも、勝ったらさらにもう一つなんでもお願い聞いてあげる。三人ともね」
そんな少し怖いことをいいながら、アマレロは俺の足の上にお腹を密着させるように
顔は鼻先がくっつきそうなほど近づけられ、ぴたりと体を押し付けられると、なるほど彼女の鼓動の音もどくん、どくんとゆっくりと聞こえた。
このゲームは一対一。
しかも勝利を判定するのもお互いなので完全なる自己申告ゲームである。
「そういう罰ゲームはやめよう」
「怖い? 私たちは優しいよ?」
「それはわかる」
正直、少し困った。
別に俺は腐っても子供のころから風俗業と分類されるであろう職業に携わっているし、気合を入れれば、まだ関係の浅い彼女たちに精神を一切揺れ動かさないであろう自信は持っている。しかし、それはおそらく彼女もそうだろう。
魔法を使って無理やり興奮や心拍数を上げることも可能ではあるが、たかだか(というにはペナルティが重すぎるが)ゲームでそんなことをしたくない。
とりあえず、正攻法で試してみる。
言葉は使わない。
アマレロは他の二人より髪の艶や肌の艶がよくお手入れにとても気を配っている。元気なヴェルメリ、マイペースなアズールより少し大人びていて周りと合わせることも得意。ちょっと怖いようなこともいっているが、たぶんそれは悪戯で脅かしているだけの少しお茶目な心根をしている。黄色の
そんなところが、彼女の魅力だ。
気持ちが伝わるように、少しだけぎゅーっとこちらから抱きしめてみた。
とくん、とくん、とくんとくん。と鼓動が一拍だけ早くなった。
「負けてくれた?」
少し笑っていうと、アマレロはちょっとだけ頬を染めていた。
彼女は何もいわずに腕をゆっくりはずし、じりじりと元の位置へ戻っていった。
ぱしゃぱしゃと顔を洗っている。
「おー、アマレロが負けたの初めて見た……」
「すごい……」
「んんっ、んんんっ。ま、まぁ、魔王様が認めるだけはあるかもね。私も認めてあげる」
「あー、照れてる照れてる! レアーい!」
アマレロはヴェルメリとアズールに尻尾で頬をつんつんされていた。
ぺしぺし、と彼女は鬱陶しそうにそれを手で振り払う。
「じゃあ、おにーさん! お願い二つ! 二つあるから、ちょっと難しいの一つでもいーよ! お兄さんが死んじゃう日まで、ごくごくしてあげるとか!」
「ぺろぺろしてあげたり」
「むにむにしてあげてもいい……」
「いらんいらん、そんなんいらん」
そんな
ただ、せっかく叶えてくれるという彼女たちの願い。
「それなら――」
そういって俺は彼女たちに願いを伝えるのだった。
**
長い。
長い戦いを経てようやくそこは決戦の舞台。
あの後、体中を念入りに小悪魔たちに洗われ、ようやく解放されたころには日付もそろそろ変わろうとする時間帯。更衣室に用意されていた紺色の前止めボタンのパジャマに着替えさせられ、移動した先には一つの少し豪華な扉。
先導してくれていたヴェルメリがこんこんとドアをノックして部屋のドアを少し開ける。
「まおー様っ。シグナ様連れてきたよー」
「う、うむ。入ってよいぞ!」
中からいっそ久しぶりにも感じるニュイの声が聞こえる。
ヴェルメリがドアを開けると彼女は先に中に入らず、「はい、どーぞ」と楽しそうに手を部屋の方へと差し出した。
先に入れということだろう。
そういわれるならばと俺は部屋の中へと入っていく。
そこは流石に天下を
俺に割り当てられた部屋の二倍はあるであろう大きな室内。全体的にワインレッドとホワイトで纏められた色調で、部屋の奥には天蓋付きのキングサイズの大きなベッド。
右手にはテーブルとソファ。壁には数枚の絵画が飾られている。
天井は吹き抜けかというほどの高さで、部屋を明るく照らす一段大きなシャンデリアからきらきらと優しい光が零れている。
ニュイはその奥のベッドの上。左足だけ足を
なぜか今日は上だけ赤いボタン止めのパジャマを羽織っている。
下はいつもの紐みたいな肌着。上着に合わせて赤色だった。
なぜ……そんな中途半端な服装を……。
という疑問は俺が人間だからなのだろうか。
魔王といえども、寝る時はお腹を冷やさないように上はきちんと着るものなのかもしれない。
「ふむ、シグナよ。よく来たの」
近くまで歩いていくとニュイは上でを組んだまま、足をもぞもぞさせながら話しかけてくる。なぜかその声には少し緊張の色が
いや、緊張というよりかは、むしろ興奮だろうか?
まだ何もしていないにも関わらずニュイの息遣いは普段より少し早い。
「シグナには世話になっておるからの。たまには王として歓迎してやろうと思って呼んでやったのじゃ。皆には精いっぱい歓待するよういってあったからの」
俺は少しだけ考える。
おそらくなのだが、後ろに控える四人のメイド悪魔の歓待をニュイは詳しく把握していないのだろう。
指を突っ込まれ、体をお風呂で洗われた。
告発するのは容易であるが、それをしたところで得をする人は誰もいない。
「ああ……そうだな。その
「う、うむ! 当然なのじゃよ。わらわは魔王だからの!」
それだけの言葉でニュイはぷいっと横を向いてしまう。
照れてるときはいつも視線を合わさない可愛い魔王様だった。
「やった。嬉しかったって」
「うむり。当然の結果です」
お前らは反省しろ。
と心の中で
「こほん、それでの。せっかくここまで来たご褒美として、こほん。わらわは特別にの。な、なでなでしてやってやろうかと……ふぅ、思っての」
ニュイはめちゃくちゃ
まさかと思うが……準備っていうのはこのやりとりの練習ってことだったのだろうか?
だとすれば準備は全然足りてないように思うが、そんなことに本来準備は不要だ。
「なでなでしてくれるのか」
「うむ、
そういってちょいちょいと手招きする。
周りに悪魔に囲まれた状況下。
断ることも不可能なのだが、断る気も特にはない。
むしろ、今までの歓迎に比べたらよっぽど優しく俺としても嬉しいものだった。
そういってベッドすぐ近くまで歩き、少し視線を合わそうと膝を折ろうとしたところで。
「――なーんての!」
その言葉を合図に俺はいつの間にか背後に忍び寄っていった小悪魔三人にがしりと足と両肩を掴まれるとそのまま後ろ手を拘束される。
膝を床に付けさせられ、腰は少し低めで頭だけ首の下を撫でられるように持ち上げる。
「ごめんねーシグナ様。魔王様のご命令だから」
「痛くなかった?」
「絶対服従……」
どうもこの状況をニュイは作りたかったらしい。
ベッドの上、頬を紅潮させながらもいつもとは雰囲気の違う少し
「シグナよ。悪く思うでないぞ。これは言うなれば復讐。魔王を
そういってニュイは股を大きく広げた姿勢で両足で挟みこむようにして俺のほっぺに近づけると――
ぴと。
と指先から土踏まずを頬に沿わせるようにしてぷにりと足裏で顔面に触れてくる。
「……ふぅ……ふぅ」
この状況がよほど嬉しいのか、ニュイの息はそれだけで少し荒くなる。
そのまま顔面を目の上だったり、口の上だったり、時には鼻の側面を指でくすぐる様に動かしながらフニフニと非常に優しく俺の顔を弄ぶ。
別に嫌な気分には特にならない。
というか、凄く……石鹸の香りがする。
おそらくニュイもお風呂上りではあるのだろうが、つい数分前まで念入りに石鹸で足を洗っていなければここまで匂いが残ることもないのではないかという甘やかな石鹸の匂い。
「はぁ、はぁ……ふふ、シグナよ。どうじゃ、屈辱であろう。顔面を
俺はなんと答えるべきなのかかなり迷ったが。
「……くそっ!」
とりあえず、ノッておく。
かなり
「ふふふ、まだそれだけではないぞ……はぁ、はぁ……シグナ……あ、足を舐めるのじゃ。ふふ、か弱い犬っころのように」
「あはは、魔王様、こわーい!」
「シグナ様、いうこと聞かないともっと酷いことされちゃうかもよ」
「ほら、ぺろぺろする。わんちゃんみたいに……」
それにしてもこの従者どももノリノリである。
ニュイは左足はいったん元の位置に戻すと、右足をを俺の眼前に突き出してくる。
ニュイの足裏は全身の褐色肌とは異なり、真っ白でシミ一つない小さな足裏だった。
「ニュイ、絶対に舐めなきゃダメか?」
とりあえず、ちょっと抵抗してみる。
しかし、そんな些細な抵抗は本当に小さな
「ほれ、早くするのじゃ」
実際問題、この体を拘束された状態で逃げることも敵わない。
俺はできる限りニュイがくすぐったくならないようにまずは親指の足先にほんの一瞬ぺろりと舌をつける。
ぴくりと小さく足が動く。
けれどそれもすぐに止まったので、今度はもう少しだけ長くぺろりと舐め、そこから彼女がびっくりしないようにナメクジが
「はぁ……はぁ……はぁ……」
最初はきちんと洗われていたので、ほとんど何の味もしなかったが、極度の興奮で足裏どころか全身からジワっと汗が流れてくる。
ほんの少しの塩味を感じながらも、ニュイの反応を見つつ、彼女が好きそうな指の付け根や土踏まずの上の方を中心にぺろぺろと舐めてあげる。
「はぁ、はぁ……ふふふ、わらわの足を唾液臭くしおって……これではまた風呂に入り直しではないか……ほれ、反対の足もじゃ」
そうして今まで舐めていた右足で頬をぺちぺちと叩かれると今度は左足を差し出される。
こちらは既に汗でしっとりとした足裏だった。
そちらも同じように舐めてあげる。
ニュイはもう興奮しすぎたのか若干、ぷるぷると足が
「ニュイ。ニュイはこういうことがしたかったのか?」
一通り舐め終えた後、俺は足を舐める間にニュイに問いかける。
「はぁ、はぁ、シグナ。勘違いする出ないぞ。これは
そういってニュイは足を俺の顔から離す。
軽く指をくいくいと手前に振ると、俺は小悪魔三人によってさらに一歩前に近づけられる。もはや、ニュイの股がすぐ眼前にある。
俺はそこは見ずにニュイの表情を
ニュイは俺の頭を抱くようにそのまま
首を足で絞められたような格好だ。
「わらわはわらわに従うものは好きじゃ。どうじゃ、シグナ。二度目のチャンスを与えようか? わらわの
「ナデナデしてくれるのか……」
本当に優しい魔王で困る。
なぜなら断るデメリットがほぼ一つたりとも思い浮かばないからだ。
別に彼女は下僕になったとしても魔王城にずっと軟禁してくるわけでもないだろうし、それどころか俺が普通に生きてきたら一生届かないであろう豪華な生活を送ることだって可能だろう。
「ニュイ……俺は……」
そういったところで俺は右の手を少し振って合図をする。
使うのであれば、この場面しかないだろう。
小悪魔三人との勝負で勝った何でも聞いてくれるお願いごと。
正直、こんな展開を予想していたわけではない。
しかし、万が一に備えて俺は彼女たちにお願いしていたのだ。
俺が合図をしたらその時だけは、ニュイよりも俺の意思を優先すること。
小悪魔三人はすぐに意図を察したのか、拘束を解いてくれる。
それどころか。
「あはは、今か~」
「魔王様。ごめんね」
「悪魔の約束はぜったい」
そういって俺の首に回された足をよいしょと振りほどいてくれた。
急な彼女たちの行動にニュイはびっくりして目を丸くしていた。
「お、お主ら。なにを」
固まったままのニュイ。
その隙を逃さずに俺は彼女のすぐ隣。
ベッドの上に腰を掛ける。
「今日は撫でてくれるより、ニュイの体を舐める方がいい」
「ななな……!」
耳元で囁いてあげる。
「ニュイの足裏はすごく綺麗だったな。俺が来る前に、しっかり洗ってくれたのか?」
「そそ、そんなわけは……」
「正直、ニュイだったら少し汚れてる部分でも俺はいい」
「ななーっ!」
俺はそういうとニュイの体を少し抱き上げて膝の上に乗せると、そのまま少し髪をかき上げると左耳の裏をほんの一瞬ぺろりと舐める。
「ひゃわ。やややめるのじゃ! そ、そこは……そこはしっかり洗っとらん気がするのじゃ!」
「そう」
俺はニュイの言葉を無視して耳の周りを舐め続ける。
実際俺は本当に相手が嫌がっていたら続けないが、ニュイの嫌だ、には拒絶の意思がなさすぎる。それは彼女の持つ強さと優しさ
「ゃ、は……ぁ」
耳を舐められて、時折体を跳ねさせる様子を周りの従者たち。
シルヴィ、ベヴ、ヴェルメラ、アマレロ、アズールが口も挟まずにじーっと見つめている。
「魔王様、気持ちよさそう」
「ちょっと羨ましいかも」
「シグナ様、ペロペロ上手……」
「魔王様、夢が叶いましたね」
「メンタルが
各々、好き勝手に感想をいう。
「シーグナ様! ねぇねぇ、私たちもお手伝いしていーい?」
「うん。私も魔王様のお手伝いしたい」
「ペロペロするの、私も上手」
俺は一つ頷いた。
そんな言葉にびくりと魔王は体を揺らして、
「お、お主らどっちに許可をとっておるじゃ! 今すぐシグナを引き離すのじゃ!」
「ごめんねー。今日だけは、シグナ様が私たちのご主人様なの」
「魔王様、いっぱい気持ちよくしてあげるね」
「全身、唾液まみれにする」
いうが早いが、三人はジリジリとニュイへと近づき、すごく手際よく前止めのボタンを一瞬ですべて外す。しかし、そのまま服は脱がさず半脱ぎ状態のまま。
それぞれ首筋、わき腹、内ももをぺろ、ぺろとゆっくりと舌を這わせ始める。
「ぁ……ぁ……やめ、やめろ……やめるんじゃ……んん……っ!」
「ニュイ、いつものお腹も揉んでほしい?」
「なぁ! そんなわけないのじゃ! 絶対やめるのじゃよ!」
「でもさ、せっかくこんなに部下がいるカッコいいところを俺に見せてくれたんだろ? 俺もな。ニュイが頑張って俺の店でお腹をどんどん強くしたところを皆に披露してあげたいんだ」
「な、な、なぁ、全然、ぁ、意味が、わからんのじゃぁ……!」
「ほら、じゃあ、ニュイが一番大好きなつよつよ訓練の奴を十回だけやるね」
俺はニュイとの練習で編み出した施術魔法、魂魄魔法の技法のひとつ。
「あ、あ、あああ……」
にゅうっと俺は人差し指を淫紋の上からずぶりとお腹に侵入させる。
そして、それは完全に魂魄に干渉するのではなく、半分は肌の内の腹の中。半分は優しく暖かい魂。そしてニュイが一番好きな部分で。
くにっと指軽く曲げる。
「んぁ――!」
それだけでびくりと大きく体を跳ねさせ、声を漏らしてしまう。
「やだ、それ、やだのじゃぁ……!」
「大丈夫。後九回やったらやめてあげるから。ニュイは舐められてるところと、お腹の部分の感覚にだけ集中して。二回目」
くにっ。
「ぁぁ……!!」
腰ががくがく痙攣している。
手は必至でぎゅうとベッドシーツを強く握りしめている。
「ニュイ。魔王なら、腰は引かずに堂々と胸張って。皆に強いところを見せてあげて」
そういうとニュイははっとしたように従者の顔を見る。
皆、少し興奮したように頬っぺたが赤くなっている。
「ぁぁぁー、見るなぁ……!」
そんな魔王の言葉に、しかし誰も目を逸らそうとはしない。
もちろんそれは、魔王への背信ではない。
止めていいのか、止めてはだめなのか。
ニュイの様子は彼女たちにも判断がつかないのだろう。
そして、それを九回繰り返して最後の十回目。
ニュイはもう虫の息と言っていいほど力なく
顔は頬けて、だらんとした口元からは少し
「ニュイ、最後の一回は、特別にいっぱいゴシゴシしてあげるね。我慢できる?」
「……はっ、はっ、や、やめろ。やめるのじゃぁ……」
ニュイの体はもう小悪魔や俺の唾液がすべて流されるほどにダラダラと汗をかいてベッドをじっとりと濡らしている。来ているパジャマも肌にペトリと張り付き、おそらく絞ったら沢山水が出てくることだろう。
俺はニュイにしか聞こえないように耳元で囁いた。
「大丈夫、こっそり到達禁止の設定にしておいてあげる。その代わり、
「十分!? ぅぅぁ……絶対、無理なのじゃぁ」
具体的な数字にニュイの体からぶるぶると恐怖が伝わってくる。
俺は怖くないよと優しく耳を
指をニュイのお腹に押し込んだまま、到達禁止へと設定を変更する。
あまりオススメはできないが、意外とお客でその条件を頼む人は多かったりする。
「こ、こんなの魔王とか、関係ないのじゃ」
「あるよ」
特に理由は思いつかなかったが、もう今のニュイには何をいってもあんまり理解できないだろう。
「じゃあ、行くね。スリーカウントで、三」
「ぁぁ」
「二」
ニュイが必至で指から逃げようと腰を引く。
「まおー様」
けれど、何も言わずとも俺の望み通りヴェルメリがぐいっと魔王の姿勢を無理やり正してくれる。
「いーち……」
「ぁ、ぁぁ、ぁぁぁ」
ごし、ごし。
ごし、ごし。
ごし、ごし。ごしごしごしごし――――。
「ぁぁぁあああ、ゃ、んんぁ、ぁぁ! ぁ……あ――――!!!」
そんな魔王の立派な雄姿を。
俺と悪魔五人は固唾を飲んで見守り続けるのだった。
シグナ:畜生
ニュイ:責めたい願望は結構強め
小悪魔三人:身内には結構あまあま
シグナのその後
夜更かしした後、お昼ご飯をごちそうして貰って帰った。
結構満足していた。