Cyberpunk: After Glow — Main Story   作:AfterGlow

12 / 12
EP3 NOTHING ELSE MATTERS/大したことじゃない PART4

 

【挿絵表示】

 

 

「……リリィ」

 

抱きしめられたアレックスが、リリィの名を呼ぶ。

 

「……はい、坊ちゃん」

 

抱きしめる腕に、さらに力が籠る。

 

「……そろそろ離して」

 

リリィはアレックスを離そうとしない。

 

「リリィはどこにも行きません」

 

「いや、そうじゃなくて、苦しいんだけど」

 

リリィは聞こえなかったふりをして、抱きしめ続けた。

 

「ゴホン」

 

ノヴァがわざとらしく咳払いをした。

 

「あのー、お二人さん。まだ下に人いるんだけど……」

 

「……そうでした」

 

ようやくリリィはアレックスを離した。

 

「行かないと」

 

アレックスが立ち上がろうとする。肩が震え、膝が砕けた。

 

「坊ちゃん」

 

慌てて支えようとしたリリィを、アレックスが手で制する。

 

「いい。自分で歩けるよ」

 

リリィは困ったようにアレックスを見る。

 

アレックスは少しだけ考えてから言った。

 

「じゃあ、肩だけ貸してくれる?」

 

リリィは答えず、そっと肩を差し出した。その様子を、ノヴァはニヤニヤと眺めていた。

 

◇

 

三人で鉄格子の部屋へ戻る。中には、捕らえられていた少年少女たちが残っていた。ノヴァが扉を開ける。

 

アレックスはリリィの肩を借りながら、再び鉄格子の中へ足を踏み入れた。

 

そこで初めて、彼らの様子に気づく。怯えている。視線が向けられているのは、アレックスの隣。

 

返り血に塗れたリリィだった。

 

「あー……」

 

アレックスは困ったような顔をする。

 

「大丈夫。見た目ほど怖くないから」

 

「坊ちゃん?」

 

リリィがアレックスを見る。その後ろで、ノヴァが噴き出した。

 

その中の一人。パーキンスに腕を掴まれていた少女が、アレックスを見て口を開いた。

 

「声が……」

 

「ん? ああ……声変えるやつ取られたから」

 

アレックスはニヤリと笑った。

 

「いい声だろ?」

 

少女も、初めて少しだけ笑った。

 

「本当に、助けに来てくれたのね」

 

「うん」

 

アレックスは、あっけらかんと答えた。目の前の少年は、ボロボロだった。

 

身につけた女性ものの衣服は血に塗れ、身体は暴れた時についた擦り傷だらけだった。

 

それでも助けに来たと答えた顔には、何の迷いもなかった。それが少女には、なぜか眩しく見えた。

 

「おっけ! できたよー」

 

後ろから、ノヴァの朗らかな声が聞こえた。どうやらデータの抜き取りが完了したらしい。リリィとアレックスが、ゆっくりとそちらへ歩いていく。

 

「被害者リスト、実験ログ、取引記録、スタッフ記録。その他諸々、全部抜けたよ」

 

ノヴァが報告する。

 

「……ん?」

 

そのままホロ画面を見つめ、怪訝そうに眉を寄せた。

 

「どうした?」

 

「なんかね、これ……アレックスのBerserkかな。深部スキャンデータが、どこかに送られてる」

 

アレックスが記憶を辿る。

 

「あー……なんかそんなこと言ってたな。どこかに送るだのなんだの」

 

ノヴァはホロ画面を叩いている。

 

「消せる?」

 

「こっちにある分はね。でも、送った先までは無理」

 

「なんで?」

 

「まあ、普通の送信先ならお茶の子さいさいだよ。このウルトラ美少女ネットランナーにかかればね。でも……」

 

アレックスが眉を寄せる。

 

「でもなんだよ?」

 

「幾つも中継先を噛ませてる。それが多すぎて追いきれない」

 

「ふーん……まあ、大丈夫だろ」

 

「そうだといいけどね」

 

「ノヴァ」

 

リリィが口を挟んだ。

 

「この店の幹部は、おそらく全て殺しました。ですが……」

 

「そーね。二度と商売できないようにしちゃる」

 

そう言うと、ノヴァは各所へ匿名でデータを投げた。

 

NCPD、報道、フィクサー。ついでにネット上へ。

 

「正義の告発ってやつ?」

 

ノヴァがおどけた調子で言う。

 

「違います。ムカつくので徹底的に潰すだけです」

 

アレックスとノヴァが、同時にリリィを見る。

 

「なんですか」

 

「リリィがムカつくって言うの、初めて聞いたかも」

 

「俺も」

 

二人が噴き出す。

 

リリィはそんな二人を見て、困ったように微笑んだ。

 

◇

 

地上へ戻ると、ネオンの光が眩しい。機械油の嫌な臭いを含んだ夜風が吹き抜ける。それでも、なぜか今はその風が心地よかった。

 

リリィがマーリンへホロコールをかける。

 

『俺だ』

 

「マーリン、実は……」

 

リリィが、これまでの経緯を説明する。

 

『……また派手にやったな』

 

「申し訳ありません。それで、要救助者が三十名前後いまして」

 

マーリンが画面の向こうで頭を掻いた。

 

『まあいい。今回は予定通りだからな。回収は手配してある。すぐに向かわせる』

 

「……彼らは、どこへ行くのでしょうか?」

 

『少なくとも、勝手にクロームを入れられたりはしない所だ』

 

その言葉に、リリィは少しだけ表情を緩めた。

 

『助けるところまでは依頼だ。だが、その先はそいつら次第だからな』

 

「承知しました。では、お願いします」

 

リリィが通信を切る。

 

「マーリンなんて?」

 

アレックスが肩を借りながら聞いた。

 

「回収車両と、信頼できる受け皿を手配してくださいました」

 

「流石マーリン。仕事が早い」

 

「それと……」

 

「それと?」

 

「ここから先は、彼ら次第だと」

 

それを聞き、アレックスは少年少女たちへ目を向けた。

 

涙を流す者。呆然と立ち尽くす者。助けられた安堵というよりも、これからどうやって生きていけばいいのか。

 

そんな、迷いを抱えた顔だった。

 

「……そうだな」

 

曖昧に返す。アレックス自身も、その迷いへの答えを知っているわけではなかった。

 

しばらくして、マーリンが手配した車両が到着した。

 

少年少女たちは、続々と車内へ乗り込んでいく。誰も何も言わない。その中で、先ほどの少女だけが足を止めた。

 

アレックスを見つめる。

 

「……ありがとう」

 

か細い声は、夜風にさらわれるように消えていった。

 

◇

 

「たっだいまー!」

 

ノヴァの明るい声がアジトに響く。朝に使ったままのマグカップ。化粧道具。ノヴァが散らかしたゲーム類。

 

リビングは、三人が出ていった時のままだった。その中へ、リリィに姫抱きされたアレックスが運び込まれる。

 

帰り道。何度も抱き上げようとするリリィに、アレックスは固辞し続けたが、ついに折れたのだった。

 

しばらく部屋を見回す。

 

「坊ちゃん、お身体の具合はいかがですか」

 

リリィが問いかける。動かなかった手足は、幾分回復していた。

 

「うん、もう大丈夫」

 

「かしこまりました」

 

リリィはアレックスをゆっくりとソファへ降ろす。

 

「シャワーを浴びて参ります」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

血に塗れたリリィが、シャワールームへ向かう。その背中を見送りながら、ノヴァが口を開いた。

 

「一緒に入らなくていいの?」

 

「殺すぞ」

 

ナイトシティの夜は、更けていった。

 

◇

 

深夜。リリィは喉の渇きで目を覚ました。

 

水を飲むためにキッチンへ向かう、その途中。暗いリビングに、人影が見えた。

 

アレックスがソファに座っていた。

 

「坊ちゃん」

 

思わず声をかける。

 

「リリィ」

 

「いけませんよ。早く寝ないと。……今日は特にお疲れでしょう」

 

「ごめん。なんか眠れなくて」

 

リリィはアレックスの隣へ腰を下ろした。

 

「怖かったですか?」

 

「怖くなんかなかったよ。リリィとノヴァが来てくれるって分かってたし」

 

それを聞き、リリィの右目がわずかに細くなる。

 

「本当は?」

 

アレックスは口を閉ざした。しばらくして、観念したように息を吐く。

 

「……うん。少しだけ」

 

「坊ちゃん」

 

「あいつらに無理やり触られた時、ちょっと昔のこと思い出して」

 

リリィは何も言わず、ただ聞いていた。

 

「でも、よかった」

 

「何がですか?」

 

「あいつらを助けられて」

 

少年少女たちの顔が、アレックスの脳裏に浮かぶ。

 

「言ったろ。俺たちはマーリンに見つけてもらった。今度は俺たちが、あいつらを見つけられた」

 

「はい」

 

「って言っても、助けたのはほとんどリリィだったけどね」

 

アレックスは自嘲気味に笑う。その手は、まだ微かに震えていた。

 

「いいえ」

 

リリィが静かに否定した。

 

アレックスが顔を上げる。

 

「最初に彼らを助けようとしたのは、坊ちゃんです」

 

「……でも」

 

「坊ちゃんが立ち向かわなければ、私たちは彼らの元まで辿り着けませんでした」

 

リリィはそう言って、少しだけ間を置いた。それから腕を広げる。

 

「……こちらへ、来られますか?」

 

アレックスは、その腕を見た。

 

ほんの一瞬だけ迷う。そして、自分からリリィの方へ身体を寄せた。リリィはそれを待ってから、アレックスをそっと抱き上げ、膝の上へ乗せる。

 

「なんだよ」

 

アレックスが少し照れ臭そうに言う。

 

リリィは答えず、その頭をゆっくりと撫でた。最初は居心地悪そうにしていたアレックスも、やがて力を抜き、その身体を預けていく。

 

静かな部屋。聞こえるのは、遠くを走る車の音と、空調の低い駆動音だけだった。

【挿絵表示】

 

 

「……おかえりなさい」

 

やっと言えた言葉だった。アレックスは、リリィの胸元へ少しだけ顔を埋める。

 

「うん……ただいま」

 

リビングの外。廊下の暗がりから、ノヴァが二人を見つめていた。声はかけなかった。

 

もうすぐ、夜が明ける。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

サイバーパンク:ジャンク・アルケミー(作者:たこ焼き 龍月)(原作:Cyberpunk2077 )

『Cyberpunk 2077』の世界に転生した元ゲーマーの少女・ニッカ▼ 命がゴミより軽いディストピア都市「ナイトシティ」から逃げるため、彼女はバッドランズの廃車置き場に引きこもり、静かに暮らすことを誓う▼ 生き延びるために始めたのは、前世のゲーム知識(最適化裏技)を使ったガラクタいじり▼ しかし、本人が「ただの部品調整」と思っている技術は、軍用規…


総合評価:1240/評価:7.12/連載:72話/更新日時:2026年11月05日(木) 00:10 小説情報

The Child Leading Beyond the Wall(作者:housen)(原作:Cyberpunk2077)

よう、choom。俺の名前? ねえよ。人前に出るときは仮面を被って、アノンって名乗ってる。▼目を開けたのはナイトシティ、ではなくバッドランズの地下、とある研究所の廃棄用の台の上だった。今となっちゃ誰からも忘れられてる場所だ。▼ネットに潜るためだけに設計されたガキの体が、首の後ろのデッキに焼かれて死んだ。その直後に起き上がったのが俺ってわけだ。前の人生の記憶つ…


総合評価:2438/評価:8.92/連載:29話/更新日時:2026年11月05日(木) 06:00 小説情報

CyberPunk: EDGE CASE(作者:エネーロ)(原作:Cyberpunk2077)

目が覚めたらそこは最悪の街だったーーー▼ふと気づくと2020年代のナイト・シティ。▼体は時代錯誤(2077)のクロームまみれ。能力はMOD基準。▼企業にバレたら実験動物よろしく解剖コース。▼生き残る道を探しながら、ジョニー達と関わっていくことになる奮闘劇。▼本作品は設定作成、本文一部にAIを利用しています。▼


総合評価:3754/評価:8.82/連載:29話/更新日時:2026年11月03日(火) 14:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>