SF仙女武侠伝 無自覚TSサイボーグ、江湖武林を逝く! 作:モリーマ
『所有者保護処置を開始します』
胸元の宝珠から発せられた無機質な声が、静まり返った森へ響いた。
李景承は動けなかった。
先ほどまで自分を黒焦げにしかねなかった白沢が、今度は明らかに宝珠を警戒している。幾つもの眼が景承とその胸元を交互に見つめ、わずかではあるが、前脚にかかっていた重心まで後ろへ移っていた。
神獣が、一歩退いた。
それだけのことが景承には異様だった。
「……本当に守りが効いておるのか?」
誰に尋ねたのか、自分でも分からない。
宝珠は答えなかった。
代わりに、景承の全身を覆っていた淡い光が一度だけ、脈打つように強まった。
白沢が低く身を沈める。
あの異様な角に、再び白い光が集まりかけた。
「おい」
景承の喉が引きつった。
「待て。まさかまた――」
しかし、その光は先ほどのように放たれなかった。
角の根元から先端へ走っていた輝きが途中で揺らぎ、糸を断ち切られたように消えていく。
白沢の幾つもの眼が細められた。
『Vael-kaar! Orin tal vesh!』
意味は分からない。
だが、先ほどまでの冷ややかな調子と違い、声には明らかな苛立ちが混じっていた。
『警告。脅威対象による攻撃準備を検知したため、所有者に対する致死性行為を制限しました』
「……制限」
景承はゆっくりと瞬きをした。
白沢が再び宝珠へ向けて何事かを告げる。
『Khe na oriin! Sael var-ta!』
『異議申立てを受理しました。しかし、旧所有者の優先回収権は既に失効しています』
景承は白沢を見る。
白沢も景承を見る。
「……旧所有者?」
前にも聞いた言葉だった。
まさかと思っていたが、どうやら本当に、この宝珠はかつて白沢のものだったらしい。
景承は反射的に胸元を押さえた。
「……つまり、我が李家の家宝は白沢殿の落し物だったのか?」
白沢は景承には答えず、なおも宝珠へ何かを訴えた。
『Tor ven ash. Khael orin-ka!』
『申立て理由を棄却します。長期占有物特例規定の適用条件を満たしています』
『Sael!』
『異議申立て可能期間は終了しています』
白沢の尾が地面を打ち、土と落ち葉がわずかに跳ねた。
景承はその様子を見ながら、ようやく事情の輪郭だけは掴み始めた。
正確なところはまるで分からない。
ただ、どうやらこの宝珠は元々白沢が所持していたもので、それを何らかの理由で失くし、李家の誰かが手に入れた。それから三百年以上も家宝として受け継がれた結果、景承の知らない法に従えば、もはや白沢の物ではないらしい。
そして今では、景承の物だという。
そこまで整理したところで、もう一つ重要な事実へ思い至った。
白沢は、奪えない。
先ほど実際に攻撃しようとして、宝珠に止められた。
景承は慎重に、ほんの半歩だけ前へ出た。
白沢の眼が動く。
景承は止まった。
何も起こらない。
もう半歩。
白沢が角をわずかに動かしたものの、そこへ先ほどの白い光が集まることはなかった。
景承の腰から、少しずつ逃げ腰が消えていく。
代わりに背筋が伸び、やがて顎までほんの少し上がった。
「……ほう」
もう一歩。
白沢は動かない。
「なるほどのう」
白沢の眼が細くなる。
景承は一度咳払いをしてから、いかにも状況を把握した人物であるかのように頷いた。
「つまりじゃ。おぬしは、この宝珠が欲しい」
白沢の視線は胸元から動かない。
「しかし、今は
『肯定します』
横から宝珠が補足した。
「……そうであろう?」
景承は少しだけ胸を張った。
「確認するが、この宝珠――いや、おぬしの言う『ますたー・きー』とやらは、現時点では吾の所有物なのじゃな?」
『肯定します』
「この白沢殿が、以前の持ち主であったとしても?」
『肯定します』
「吾の許可なく取り上げることは?」
『現在の所有者の意思に反する強制回収は認められません』
景承は黙った。
白沢を見る。
白沢もこちらを見ている。
少し前までなら、その幾つもの眼に見つめられただけで胃の腑が縮み上がっていただろう。
今も怖くないわけではない。
三人の兵を瞬く間に黒焦げにした存在である。宝珠がなければ、景承など同じように地面へ転がっていただろう。
だが、その恐怖の上へ、別の感情が急速に積み重なり始めていた。
自分の方が強いわけではない。
武仙ですらない。
殴り合えば一瞬で死ぬ。
それでも、白沢がどうしても欲しいものを自分は持っている。
しかも白沢には、それを力ずくで奪うことができない。
少なくとも、この一点に限れば。
――吾の方が上ではないか?
「ふむ」
景承は腕を組もうとした。
まだ手が少し震えていたので、途中でさりげなくやめた。
白沢が口を開く。
『それを返せ』
低く、はっきりとした人の言葉だった。
景承は目を見開いた。
「人の言葉も話せるではないか!」
『返せ』
「そこはまず、話せるなら最初から話せと言うところであろう」
『返せ』
「……話が通じぬのう」
いや、通じてはいる。
むしろ要求はこれ以上なく分かりやすい。
景承は衣の内側から宝珠を取り出した。
白沢の幾つもの眼が、ほとんど同時にその小さな球体へ集中する。
その反応を目にして、景承の中に一つの考えが閃いた。
これは、大事なものなのだ。
白沢にとって、おそらく非常に大事なもの。
ならば。
「返してやってもよい」
言った瞬間、自分でも少し驚いた。
白沢がぴたりと動きを止める。
景承は宝珠を手の中で転がしながら、なるべく余裕があるように見せた。
「ただし、条件がある」
今度は言いながら、少し気分がよくなってきた。
神獣を相手に条件を突きつけている。
我ながら、とんでもない状況である。
豪侠譚どころか神仙譚の主人公ですら、これほど都合よく神獣相手に優位へ立てる者はそう多くない。
白沢は黙っている。
景承はその沈黙を、交渉を聞く意思があるものと勝手に解釈した。
さて、何を要求する。
金。
白沢相手にそんなものを求めても仕方がない。
宝物。
霊薬。
秘伝。
神通力。
頭の中をいくつもの候補が駆け巡り、その中で一つだけ、他とは比較にならないほど強く景承の心を掴むものがあった。
仙丹。
胸が高鳴った。
だが、すぐに熱へ水を浴びせるように、別の知識が浮かぶ。
内功の下地を持たぬ者が仙丹を服めば死ぬ。
景承自身がよく知っていることだ。
市井へ流れた仙丹を手に入れ、発禁の侠客物語を真似して服用し、憤死した若者たちの話も何度となく聞いた。
自分は内功など持っていない。
経脈も鍛えていない。
普通の仙丹を飲めば、まず死ぬ。
さすがにそこまで分かっていて飛びつくほど、景承も愚かではなかった。
――ならば、仙丹は諦めるしかないのか。
そう考えたところで、景承の眉間に皺が寄った。
何かがおかしい。
なぜ、そこで諦めなければならない。
目の前にいるのはただの門派の長老でもなければ、普通の武仙でもない。
本物の白沢なのだ。
天下の鬼神を知り、万物の理に通じると伝えられてきた神獣。
しかも今日の自分には、常識では説明できないことばかりが起きている。
戦場から逃げ、禁域へ迷い込み、本物の白沢に出会った。
ただの家宝だと思っていた宝珠が突然言葉を発し、自分を所有者として認めた。
そして、その宝珠を欲しがる神獣を、自分は今、交渉の場へ引きずり出している。
こんなもの、物語ならば主人公が天運を掴む場面に決まっている。
そこまで考えたところで、景承の頭の奥に、幼い頃から何十回も読み返した発禁の侠客物語が蘇った。
内功を持たない悲劇の王子。
誰もが仙丹には耐えられないと言った。
だが、仙丹だけは王子を選んだ。
そして一夜にして、天下無双の武人へと生まれ変わった。
景承の胸が熱くなる。
その熱に流されかけたところで、今度こそ自分を戒めた。
いや。
同じでは駄目だ。
発禁の物語を真似して死んだ連中と同じことをしてどうする。
少しは頭を使え。
景承は本気で考えた。
仙丹の何が危険なのか。
内功がないこと。
経脈が開いていないこと。
そして何より――飲めば死ぬこと。
そこで、景承の目がゆっくりと開いた。
「……そうか」
自分でも驚くほど簡単な答えだった。
問題なのは、仙丹を飲むことではない。
飲んで死ぬことが問題なのだ。
ならば最初から、死なない仙丹を要求すればよい。
景承の中で、ぱちりと何かが噛み合った。
我ながら妙案である。
これならば、あの発禁の侠客物語に夢を見た馬鹿な若者たちとは違う。
自分は危険を知っている。
知ったうえで、神獣を相手に条件を付ける。
これぞ知識というものではないか。
「決めたぞ」
白沢の幾つもの眼が景承へ向く。
景承は宝珠を握り、少し間を取った。
こういう場面は、急いではならない。
伝奇の中で仙人と取り引きする侠客も、きっとこれくらい悠然としていたに違いない。
「この宝珠を返してほしくば、仙丹を一粒、吾へ寄越せ」
白沢の眼がわずかに動いた。
景承はすぐに右手を上げる。
「ただし――吾が飲んでも死なぬものじゃ」
言い切ってから、さらに念を押した。
「よいか。吾には内功がない。経脈も開いておらぬ。その状態で服しても憤死せぬ仙丹。それでなければ駄目じゃ」
白沢はしばらく景承を見ていた。
景承も表情を崩さなかった。
内心では、かなり満足している。
普通の仙丹なら死ぬ。だから、死なない仙丹を指定した。しかも相手は万物に通じるという白沢である。ここまで明確に条件を定めておけば、うっかり服用してその場で憤死するような間抜けな結末だけは避けられるはずだ。
――さすが吾。
我ながら機転が利く。
口元が緩みそうになり、景承は慌てて引き締めた。
白沢がようやく口を開く。
『確認する。お前の要求は、摂取後に死亡せず、生命活動を維持し、身体機能を現在より大幅に向上させるもの――そういう意味か』
「その通りじゃ」
『向上量に条件はあるか』
「無論、武仙になれるほどが望ましい」
景承は即答したあと、一瞬考えた。
せっかく思いついたのだ。契約というものは抜け穴を残さぬ方がよい。
「あと、飲んだ直後は平気でも、後から死ぬようなものも駄目じゃぞ。身体が腐るのも、手足が落ちるのも困る」
白沢の眼が一つ瞬いた。
『条件が増えている』
「命が懸かっておるのじゃ。慎重にもなる」
何を当たり前のことを、と景承は胸を張った。これで「死なない」の解釈を妙な方向へ曲げられる危険もかなり減ったはずである。
「要するに、飲んでも死なず、身体を壊さず、それでいて吾を武仙のごとく強くするものじゃ。できれば莫大な内気も得られるものがよい」
『内気』
「武仙が使う力じゃ。丹田に仙丹を定着させ、全身の経脈を開くことで――」
『概念は理解した』
「ならばよい」
白沢はそこで黙り込んだ。
幾つもの眼の焦点が、景承の頭から足元まで、わずかずつ移動する。先ほどのように敵を見る目ではなく、品定めでもされているような視線だった。
「何じゃ」
『確認している』
「何を?」
『お前の要求条件に適合する品があるかを』
景承は口を閉じた。
白沢の異様な角、その表面を走る銀糸ほど細い筋の一つに、淡い光が灯った。
先ほど敵兵を焼いたときとは違う。
白い輝きは先端へ集中するのではなく、角の根元から先へ静かに流れ、一本、二本と別の筋へ広がっていく。
やがて白沢の前方、何もない空間へ淡い輪が浮かんだ。
「……何じゃ、あれは」
景承は思わず身を乗り出した。
光の輪の内側だけが、奇妙に歪んで見える。
水面に映った景色を指で掻き回したように森の木々が揺れ、中央から暗い裂け目がゆっくりと開いていった。
その向こうには森がない。
かといって、ただの暗闇でもなかった。
距離も広さも判然とせず、覗き込もうとすると視線の置き場そのものが分からなくなるような、景承の知識では形容しようのない空間が口を開けている。
景承は息を呑んだ。
「
仙人が袖の中に天地を納め、山河すら持ち運ぶという伝説の神通。
実際には白沢の袖などどこにもないが、景承が知るものの中で目の前の現象に最も近いものといえば、それしかなかった。
白沢は景承の呟きには答えず、角の光を保ったまま、その裂け目へ顔を向ける。
『亜空間庫接続。生体適合型改変資材を照合』
景承には「亜空間庫」という語の意味からして判然としなかった。
ただ、「適合」という言葉だけは耳へ残る。
光の裂け目の奥で、小さな光が灯った。
最初は星のような一点にすぎなかったものが、音もなくこちらへ近づいてくるにつれて、徐々に輪郭を持ちはじめる。
それは物ではあった。
だが、景承が知るどんな器物にも似ていない。
親指の先ほどの大きさしかない、ほぼ完全な球形。
表面が光を反射しているのではなく、球そのものが内側から淡く発光しているように見える。白とも青ともつかない微かな輝きが輪郭を柔らかく滲ませ、その周囲には薄霞のような光がまとわりついていた。
その光球は何者かの手に運ばれているわけでも、糸で吊られているわけでもなかった。
ただ、静かに浮いていた。
裂け目の奥から白沢の前へ滑り出すと、そのまま地面へ落ちることなく、景承の胸ほどの高さでぴたりと止まった。
景承は思わず息を止める。
丸い。
小さい。
淡い神秘的な光を放ちながら、宙に浮いている。
彼の知識でそれを見れば、答えなど一つしかなかった。
どう見ても、仙丹だった。
いや。
むしろ景承がこれまで書物の挿絵や想像の中で思い描いてきた仙丹より、よほど仙丹らしい。
「おお……」
感嘆が勝手に漏れた。
白沢の角を走っていた光が弱まると、それに呼応するように裂け目も細くなり、やがて森の景色が何事もなかったように繋がった。
あとには、淡く輝く一粒の光球だけが宙に残されている。
光は激しくない。
見つめていても眩しくはなく、むしろ月光を小さく丸めて凝縮したような、静かで澄んだ輝きだった。
景承は吸い寄せられるように一歩近づいた。
「それが……仙丹か?」
期待が先走り、声がわずかに上ずった。
白沢は宙に浮く光球を一瞥し、次いで景承を見る。
『お前たちがこの土地で仙丹と呼んでいるものとは異なる』
景承の眉がわずかに動いた。
『だが、お前が提示した条件には適合する』
その一言で、景承の関心は名称の違いなどという些細な問題から完全に離れた。
「吾が飲んでも死なぬのじゃな?」
『その条件は満たす』
「直後だけ無事で、後になって死ぬということもない?」
『通常運用において、それを原因とする死亡は想定されていない』
やや回りくどい返答ではあったが、景承は白沢が誤魔化そうとしているとは感じなかった。むしろ、自分が先ほど追加した条件まで逐一照らし合わせて答えているように見える。
「身体が腐ったり、手足が落ちたりもせぬな?」
『その種の機能損壊は発生しない。むしろ身体機能は大幅に向上する』
景承の目が輝いた。
目の前の光球もまた、呼吸するようにごく淡く明滅している。
「どれほど強くなる?」
白沢はわずかに間を置き、景承の全身をもう一度眺めた。
『現在のお前とは比較にならない程度には』
景承の胸が大きく高鳴った。
死なない。服用直後だけではなく、その後もそれが原因で死ぬことは想定されていない。身体を腐らせることも、手足を失わせることもなく、それどころか身体機能そのものが大幅に強化される。
景承が知恵を絞って並べた条件を、一つずつ確かめても問題は見つからない。
しかも目の前には、神獣が虚空から取り出した、光り輝く丸薬が実際に浮いているのだ。
これを仙丹と呼ばず、何と呼ぶというのか。
「ならば、それでよい」
『説明はまだ終わっていない』
白沢がすぐに返した。
景承は光球から目を離さないまま、軽く片手を振る。
「細かいことは後でよい」
『細かくない』
「今まで吾が言った条件には、すべて合っておるのであろう?」
『提示された条件には合致する』
それを聞いた景承は満足げに頷いた。
「ならば仙丹でよい」
『違う』
「神獣の仙丹ということにしておけばよいではないか」
『違う』
「細かいのう」
白沢の幾つもの眼が、揃って景承を見た。
その視線には何か言いたげなものがあったが、景承はまったく気にしなかった。
むしろ意識はすでに、眼前で静かに明滅する光球を服した後の自分へ飛んでいる。
どれほどの内気が得られるのか。
軽身功は使えるのか。
勁を飛ばせるのか。
石を砕けるのか。
あるいは、あの発禁の侠客物語の王子のように、一夜にして天下無双の力を得ることさえあるのではないか。
そう考えれば考えるほど、先ほど自分が「死なない仙丹」という条件を思いついたことまで、天運を掴むに値する機転だったように思えてきた。
白沢の異様な角から完全に光が消える。
宙に浮いた光球だけが、森の薄暗さの中で柔らかな輝きを放ち続けていた。
白沢はそれへ一度視線を向け、次いで景承の手にある宝珠を見る。
『取引条件を再確認する。この品をお前へ譲渡する。代わりに宇宙船鍵を返還する。それでよいな』
景承は、片手の宝珠と目の前に浮かぶ光球を見比べた。
家を飛び出した夜、どうせ戻らぬのだからと、腹いせ半分で持ち出した家宝である。何に使うものかも知らず、これまで一度として役立ったこともなかった。
それが今日になって自分の命を救い、本物の白沢さえ欲しがる宝物へ変わった。
そして今度は、その宝珠一つが、内功を持たない自分でも死なずに服める、光り輝く仙丹へ化けようとしている。
これ以上の取引など、景承には想像できなかった。
「よかろう」
大きく頷く。
その返事を口にした瞬間、眼前で淡い光を放ちながら浮遊する小さな球が、ただの交換品ではなく、自分の人生を二つに分ける境目のように思えてきた。
科挙には何度挑んでも落ちた。
物書きとして世に出ようとしても認められず、家督は弟へ移り、挙句には宦官にされかけて李家を飛び出した。
それから幾年も落ち続け、ついには辺境の雑兵となって、今朝まで泥の中で荷車を押していたのである。
だが、そんな人生の果てで本物の神獣と出会った。
神獣さえ取り戻せない宝物の正式な所有者となった。
そして、その対価として、凡人には手の届かぬ力を自らの機転で手に入れようとしている。
ここまで続けば、もはや偶然と呼ぶ方が不自然ではないか。
景承は宙に浮かぶ「仙丹」を見つめた。
その淡い輝きが瞳の中へ映り込み、口元にはとうとう隠しきれない笑みが浮かぶ。
胸の奥で、三十八年間捨てきれなかった思いが、今度こそ確信に変わろうとしていた。
――やはり、吾はただの雑兵で終わる人間ではなかったのだ。