茶酉(さとり)くんはサトラない〜習得した異能である〈サトリ〉は、人間には効かずに精霊などの上位存在に効くようです。そんなのってアリですか!?〜 作:白千ロク(玄川ロク)
21世紀現代日本と異世界が融合した世界が舞台となります
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです
2026.10.08/木
0話 プロローグ
暴風雨で荒れ狂う中を走る走る。女性ふたりが足元に気を付けながら、目的地を目指している。ひとりの女性は赤子を抱いていたが、不思議と三人は濡れてはいない。
早く――。
ようやく目の前に迫った大きな木。女神より賜りしこの大木は世界樹と呼ばれている。古よりこの郷に存在しており、大事にされている。神と交わったとされる一族――
乱れた息を整える間もなく、赤子を抱いた女性は地面に両膝をついた。
「神子様お早く!」
「
幸せになってください。
大丈夫、不安なことはありません。あなたは
最後の最後に腕に抱いた生後七日ほどの我が子の額に口づけて、大きくしなり続ける枝々を支える大樹の太く丈夫な根本に赤子を隠した女性は、浮かぶ涙を拭うことなく走り去る。
大樹――世界樹に宿る精霊は、神子の思いを汲んだ。託された子をどうにかして生かさなければなるまい。力の強いこの子の人生は、利用されるだけにしてはダメだ。神子の力を利用しようとする者から守る者もいるが、完璧ではない。特に子供となると、善悪の区別がつく前に利用しようと躍起になるらしい。その事を憂いて、今代の神子は愛する子を手放している。本来、神子という存在は世界の調停役でもあるのだ。
赤子の頬を優しく蔦で撫でると、また枝がしなった。軋む音があちこちから響いている。――ここ半日ほどずっと。厚い雲に覆われた空からは雨やら雪やらみぞれやらが叩きつけられ、さすがの世界樹も辟易していた。
こうなっている理由はきちんとある。神々がおわす神界では、いままさに戦いが繰り広げられていた。その余波が下界にまで及んでいるのだ。世界は黒い厚い雲に覆われ、嵐や吹雪が吹き荒ぶ。
始まりはただの酒盛りだ。いつもと変わらない飲み会だったのだが、今回は酒が入りすぎ、喧嘩にまで発展してしまった。酒の所為か判断力が低下し、お互いに止めどころも解らなくなり、殴り合いになっている。もちろん、止めに走る神々もいたわけだが、あえなく沈められてしまった。
『ああ。これは――』
世界樹に宿る精霊は異変を察知した。だが地上に根を張る世界樹にはどうすることもできない。
『交わるようですね』
どこと交わるのか。それは力ある神々さえも解らない――。