陸上自衛隊基地・会議室
陸上基地の会議室には、大勢の自衛官が集まっていた。
円形の会議テーブルを囲む隊員たちの表情は、誰もが真剣だった。
壇上に立つ上級自衛官は、手元の資料を確認してから説明を始めた。
「生物の形態構造から分析した結果、今回確認された巨大生物は、自然界に存在する生物が未知の放射線変動の影響を受け、異常変異した個体である可能性が高いと判明しました」
駿平は黙って話を聞いていた。
予想していた通りだった。
「研究班の分析によれば、この変異には明確な特徴があります」
自衛官はスクリーンを切り替えた。
「生物の『選択的変異』です」
「選択的変異?」
隊員たちの間に戸惑いが広がった。
「この特殊な放射線変動は、生物それぞれの特性に応じて細胞構造を変化させます。そして、影響を受けた生物は、自らの本能に従って、その変化へ適応していく」
スクリーンには、回収された巨大生物の組織片や、戦闘時に撮影された映像が映し出された。
「その結果、本来持っていた性質を維持したまま巨大化し、同時に身体能力そのものも強化される。つまり、本能的な攻撃行動が、通常の生物とは比較にならない破壊力を持つようになるわけです」
江国を含め、会議室にいた全員が身を乗り出すようにして話を聞いていた。
「さらに、もう一つ重要なことがあります」
自衛官が資料をめくった。
「回収した生物の組織片から、微弱な異常波動が検出されました」
会議室の空気が変わった。
「詳細に分析したところ、地球上には存在しない微量元素の反応が確認されています」
会議室がざわめいた。
「ということは……」
「エイリアンが地球上の生物を怪獣に変えたってことか?」
誰かが冗談めかして言った。
「ずいぶんSFみたいな話だな!」
笑い声が起こる。
自衛官は手を上げて、その声を抑えた。
「もちろん、その可能性を完全に否定することはできません。しかし、現時点では断定できるだけの証拠はありません」
そして、駿平へ視線を向けた。
「現段階で、私が最も注目しているのは、佐渡が目撃したものです」
「……青い光?」
駿平が反応する。
「そうです。もしあなたの記憶が正確なら、それが今回の異変を引き起こした原因、あるいは原因に関係する物体である可能性があります」
自衛官は再び資料へ視線を戻した。
「以上を踏まえ、現在、上層部では今回確認された巨大生物を、暫定的に『元素怪獣』と分類しています」
「元素怪獣……」
駿平は、その言葉を小さく呟いた。
聞き慣れない名称だった。
だが、その響きには、これまでの事件を単なる動物の異常巨大化として片付けることはできない、という認識が込められていた。
上級自衛官は、スクリーンに映し出された巨大生物の画像を指し示した。
「そして、今回初めて確認されたミミズ型の個体については――」
会議室のざわめきが消えた。
「『ワームオルガメント』と命名されました」
「ワームオルガメント……」
「生物を意味するorganismと元素を意味するelementを組み合わせた造語です」
駿平の脳裏に、あの巨大な死骸が蘇る。
赤い光。
青い光。
そして――巨大なY字。
自分の身体に起きた変化と、怪物の体内にあった謎の光。
それらが偶然の一致だとは、どうしても思えなかった。
「ただし、現時点では、これらの巨大生物について我々はほとんど何も分かっていません」
自衛官の声が重くなる。
「なぜ変異が起きるのか。その原因は何なのか。どこから異常波動が発生しているのか。さらなる調査が必要です」
会議室の空気が沈んだ。
「つまり、今回の事件が完全に終わったわけではありません」
その言葉に、全員が黙り込んだ。
「同様の事件は、いつ再び発生するか分からない」
多くの犠牲を払った。
それでも、危険そのものは消えていない。
自衛官は隊員たちを見渡した。
「皆さんが受け入れ難い結果だということは分かっています。私も、上層部も同じです」
しかし、説明は続いた。
「幸い、今回検出された異常波動については、研究班が特徴を記録しました。次に同じ対象が出現した場合、その波動を探知することで、おおよその発生地点を特定できる可能性があります」
自衛官は資料を閉じた。
「それまでの間、いつでも出動できるよう、各自準備を整えておいてください」
「了解!」
全員が立ち上がった。
敬礼。
整然とした声が、会議室全体へ響き渡った。
こうして、初めて確認された巨大生物には、正式な呼称が与えられた。
ワームオルガメント。
しかし、その名がついたところで、謎が解けたわけではない。
なぜ生物が異常変異するのか。
青い光は何なのか。
そして、駿平の中に宿った赤い力と、怪物の変異を引き起こした異常波動には、どのような関係があるのか。
答えは、まだ何一つ見つかっていなかった。