深い闇の中。
赤と青、二つの光の流れが激しく衝突していた。
互いに絡み合い、ぶつかり合っていた光は、やがて赤と青の二つの光へと分裂した。
二つの光は、何も存在しない虚無の中心を取り囲むように回転し始める。
その運動は次第に激しくなり、赤と青だけで構成された巨大な螺旋状の嵐を生み出した。
嵐は絶えず外側へ膨張していく。
同時に、何かを中心へ引き寄せようとしていた。
まるで、虚無の外側に存在する何かを飲み込もうとしているかのようだった。
その嵐の中心に、赤いY字形のクリスタルが姿を現した。
以前みたものとは違う。
クリスタルの周囲には、血管のような線が絡みついていた。
線は膨張を続けるクリスタルの周りで複雑に交差し、次第に人間の身体に似た形を作り上げていく。
巨大な人体が完成した。
その瞬間、猛烈な熱が発生した。
身体そのものを焼き尽くそうとするような熱だった。
灼熱の領域は、さらに広がっていく。
周囲の温度が急激に上昇し、螺旋状の嵐の内部にさえ熱風が吹き荒れ始めた。
熱風は嵐の外縁へと広がり、そこに沸騰する海のような領域を形成していく。
無数の線とY字形のクリスタルによって構成された人体は、その沸騰する海が形成された瞬間、海底へ沈んだ。
そして、身体のあらゆる部分を焼き尽くそうとする熱源へ向かって、落下していく。
熱源は、ますます近づいていた。
やがて、人体が、灼熱の光を放つ中心部へ触れた。
次の瞬間。
激しい閃光が走り、すべての映像が灰白色に染まった。
「はっ!」
青年が、突然夢から飛び起きた。
全身が汗に濡れている。
彼は無意識に周囲を見回した。
しばらくして、ようやく先ほどの恐怖から落ち着きを取り戻していく。
薄暗い部屋。
自分は厚手の畳の上に寝かされ、白い掛け布団を掛けられていた。
窓からは弱い光が差し込んでいる。
部屋の中には最低限の道具しかなく、一時的な休憩に使われる小屋のようだった。
畳の隣に置かれた木製の棚には、開封された薬品や医療用の包帯、布などが並んでいる。
青年は自分の身体を確かめた。
着ているジャケットも、いつの間にか新しいものへ替えられていた。袖は破れておらず、右腕にはガーゼらしきものが巻かれている。
鈍い痛みは残っていたが、あの激痛に比べればずっと軽かった。
誰が治療してくれたのだろう。
そう考えた瞬間、青年の脳裏に一人の女性の顔が浮かんだ。
「祥子!」
駿平は思わず右腕を動かした。
その手が、柔らかく冷たいものに触れた。
彼はゆっくりと右側へ視線を向けた。
そこには、畳の端に寄りかかるようにして眠っている祥子の姿があった。
疲労の色が濃く残る横顔。
きっと、自分を看病するために、ずっとそばにいてくれたのだろう。
駿平の表情が、自然と柔らかくなった。
彼は祥子を起こさないよう、静かにその寝顔を見つめ続けた。
しかし、いつまでも眠っていてくれるわけではなかった。
やがて祥子のまぶたがかすかに震え、ゆっくりと開いた。
ぼんやりとした瞳が、駿平の目と重なる。
その瞬間、祥子の顔から疲労が消えた。
目の前にいる彼が目を覚ましたことを理解すると、彼女の瞳には、安堵と驚きが一度に浮かび上がった。
祥子の顔に、優しい微笑みが浮かんだ。
「目が覚めた?」
「ああ……。俺、どれくらい眠ってた?」
「五、六時間くらいかな」
祥子は安堵したように息を吐いた。
「あなたが倒れたとき、私もどうしていいか分からなかったの。でも、騒ぎを聞きつけた警察の人たちが来てくれたのよ。事情を説明したら、最初はすぐに病院へ運ぼうとしてくれたわ」
そこで、祥子は一度言葉を切った。
「でも、それはまずい気がしたし……あとから確認したら、あなたの怪我も、それほどひどくはなかったから。私がお願いして、一人で看病させてもらったの。警察の人たちは、私とあなたを一緒にこの小屋まで送ってくれたわ。薬や包帯も置いていってくれたのよ」
「そうか……」
「目が覚めたら、地元の公安部に連絡してほしいって。あなたに聞きたいことがあるそうよ」
祥子は、薄暗い室内を見回した。
「ここは昔、この辺りを行き来する人たちが泊まるのに使っていた小屋らしいわ。今はあまり使われていないみたいだけど」
「それで……」
駿平は、そこで言葉を止めた。
自分の正体について、祥子が警察に何を話したのか。それが気になったのだ。
彼の表情を見て、祥子は小さく笑った。
「安心して。あなたのことは警察には話していないから。そんなことをしたら、あなたにも私にも面倒なことになるって、分かっているもの」
「ありがとう、祥子」
「お礼なんていいよ」
祥子は首を横に振った。
「私には、駿平がどうしてあんなことをできるのか、まだよく分からない。でも……あなたが昔のままの人だってことは分かるわ。正義感が強くて、優しくて……」
「信じてくれてありがとう」
駿平は、胸が熱くなるのを感じた。
自分が何者なのか。なぜ、あのような姿に変身できるのか。
祥子には、まだ説明できないことが山ほどある。
それでも祥子の顔に、優しい微笑みが浮かんだ。
「目が覚めた?」
「ああ……。俺、どれくらい眠ってた?」
「五、六時間くらいかな」
祥子は安堵したように息を吐いた。
「あなたが倒れたとき、私もどうしていいか分からなかったの。でも、騒ぎを聞きつけた警察の人たちが来てくれたのよ。事情を説明したら、最初はすぐに病院へ運ぼうとしてくれたわ」
そこで、祥子は一度言葉を切った。
「でも、それはまずい気がしたし……あとから確認したら、あなたの怪我も、それほどひどくはなかったから。私がお願いして、一人で看病させてもらったの。警察の人たちは、私とあなたを一緒にこの小屋まで送ってくれたわ。薬や包帯も置いていってくれたのよ」
「そうか……」
「目が覚めたら、地元の公安部に連絡してほしいって。あなたに聞きたいことがあるそうよ」
祥子は、薄暗い室内を見回した。
「ここは、昔、この辺りを行き来する人たちが泊まるのに使っていた小屋らしいわ。今はあまり使われていないみたいだけど」
「それで……」
駿平は、そこで言葉を止めた。
自分の正体について、祥子が警察に何を話したのか。それが気になったのだ。
彼の表情を見て、祥子は小さく笑った。
「安心して。あなたのことは警察には話していないから。そんなことをしたら、あなたにも私にも面倒なことになるって、分かっているもの」
「ありがとう、祥子」
「お礼なんていいよ」
祥子は首を横に振った。
「私には、駿平がどうしてあんなことをできるのか、まだよく分からない。でも……あなたが昔のままの人だってことは分かるわ。正義感が強くて、優しくて……」
「信じてくれてありがとう」
駿平は、胸が熱くなるのを感じた。
自分が何者なのか。なぜ、あのような姿に変身できるのか。
祥子には、まだ説明できないことが山ほどある。
それでも彼女は、目の前の自分を信じてくれていた。
「それで、このことをほかに知っている人は?」
「江国三尉は知っている。それと、前に一緒に任務に当たった警察官も、たぶん知っている。ああ、祥子は知らない人だ」
「それって、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。遅かれ早かれ、いつか大勢に知られることになるかもしれない」
「そうね」
祥子は、いたずらっぽく微笑んだ。
「その頃には、駿平はもう、誰もが知っている正義のヒーローになっているかもしれないわね」
「え?」
駿平が目を丸くする。
祥子は、少し照れたように視線を落とした。
「正直に言うと、あの赤い巨人を見たとき、私はすごく怖かったの。でも、あの人が命懸けで私を守ってくれているんだって分かったら……すごく、格好いいと思った。本当に、格好よかった」
祥子は、あの夜の光景を思い返していた。
燃え上がる車。
目の前に迫る巨大な蜘蛛。
そして、自分を守るために立ちはだかった赤い巨人。
あの姿は、恐ろしかった。
けれど、同時に、どうしようもなく頼もしかった。
「もし駿平だったら、きっとあんなふうに、私やみんなを守ってくれるんだろうなって思ったの。これが……正義のヒーローってことなのかなって」
「祥子……」
「ねえ、駿平。今のあなたって、昔の夢を叶えたってことになるんじゃない?」
「ああ……まあ、そうだな」
駿平は照れくさそうに頭を掻いた。
正義のヒーローになる。
子供の頃から、何度も口にしてきた夢だった。
けれど、まさか本当に、こんな形でその夢に近づくことになるとは思ってもいなかった。
祥子は、懐かしそうに微笑んだ。
「この前、私たちが小学生の頃に語った夢の話をしたよね。確か、その後、中学生になった頃だったかな。あなたは一度夢を諦めて、学校のサッカー部に入った。そして、そのまま甲級サッカーリーグまで進んだ」
「ああ、そうだったな」
駿平は、遠い昔を思い返した。
「あの頃は、雲をつかむような夢のためにも、何かしなきゃいけないと思ったんだ。ただ夢を見ているだけじゃ駄目だと思ってさ」
そして、ふと思い出したように祥子を見る。
「そういえば、祥子もあの頃、学校の女子弓道大会に出ていたよな」
「覚えてたんだ!」
祥子の顔がぱっと明るくなった。
「もちろん。けど、祥子があんな大会に出るとは思わなかったよ。あんなに凛々しい一面があるなんてな。弓を引いている姿なんて、普段の恥ずかしがり屋で、何をするにも淑女みたいな祥子とは別人だった。完全に武闘派女子だったよ」
「もう、大げさなんだから!」
祥子は頬を膨らませた。
「それに、あの頃は将来デザイナーになるって言ってなかったっけ?」
「そんな大げさな!」
「はは。当時の俺にはそう見えたんだよ」
二人の間に、穏やかな笑い声が広がった。
久しぶりだった。
怪物との戦いも、自分の身に起きた異変も、いったん忘れてしまいそうになるほど、懐かしい時間だった。
やがて、祥子が少しだけ真剣な顔になった。
「それじゃ……あのときの約束、覚えてる?」
「何の?」
「あなたが、私に約束してくれたこと。私は今でも覚えているよ」
駿平は一瞬、きょとんとした。
だが、祥子の表情を見つめているうちに、記憶の奥にしまい込んでいた出来事が、少しずつよみがえってきた。
*
あの頃、駿平と祥子は、それぞれサッカー部と弓道部の主将を務めていた。
練習を終え、互いにすれ違うとき。
二人は男友達のように拳を軽くぶつけ合い、励まし合っていた。
汗だくになり、疲れで頭がぼんやりしていた駿平は、ある日、祥子が自分に向かって口にした言葉を聞いた。
「駿平。いつか……私たちがそれぞれの夢を叶えたら、私をお嫁さんにしてね!」
当時の駿平は、深く考えずに答えた。
「うん! 俺が本当のヒーローになったら、祥子をお嫁さんにする!」
何気ない返事だった。
しかし、その後になって約束の重大さに気づいたときには、もう遅かった。
祥子はすでに、その約束を仲間たちにも伝えていた。
それは、四人がそれぞれの夢を追いかけながら、ともに成長していくための約束として記憶されていた。
*
駿平は、目の前の祥子を見つめた。
彼女の頬には、夕暮れの空に浮かぶ霞のような淡い赤みが差していた。
「駿平……ずっと考えていたことがあるの」
祥子の声が、少しだけ震えた。
「今まで、言えなかった。でも、今日だけはどうしてもあなたに伝えたい。だって、今言わなかったら……もう二度と伝える機会がなくなるかもしれないから」
駿平は何も言わず、彼女を見つめていた。
祥子は恥ずかしそうに目を伏せ、それでも、逃げずに言葉を続けた。
「私はあなたが好き」
長い間、胸の奥にしまい込んできた想いだった。
「最初にあなたが私を助けてくれたときから……ううん、もっと前から。あなたの中にある、ほかの人とは違う何かに惹かれていたんだと思う。中学生になってからも、その気持ちは消えなかった。震災の後はいろいろなことがあって、言えなかったけど……今なら分かる。この気持ちは、ずっと変わっていなかったの」
祥子は、ゆっくりと顔を上げた。
「だから、ずっと待っていたの。駿平が自分の夢を叶えるのを。あなたが言っていた正義のヒーローになったら、あのときの約束を果たしてくれるって……そう信じていたから」
そこまで言うと、祥子の顔はさらに赤くなった。
恥ずかしそうに、ゆっくりとうつむく。
駿平は、すぐには答えられなかった。
祥子が自分を待ち続けていたことは、分かっていた。
それでも、あまりにも多くの出来事があった。
震災で失ったもの。
自分が果たせなかったこと。
そして、ネイザースとして戦うことになった今の自分。
それらを理由にして、彼は答えを出さずにいた。
いや――ずっと、逃げ続けていたのだ。
けれど、もう逃げることはできなかった。
駿平はゆっくりと目を開いた。
そして手を伸ばし、祥子の頬にかかっていた一房の髪を、そっと払った。
彼女の瞳は、昔と変わらず澄んでいた。
その姿を見た瞬間、駿平の胸の奥を熱いものが駆け上がった。
そして次の瞬間――。
駿平は祥子を抱き寄せ、唇を重ねた。
祥子は突然のことに、完全に呆然としていた。
頭の中が真っ白になり、どうしていいのか分からない。
しかし、やがて我に返ると、その瞳がゆっくりと柔らかくなった。
彼女もまた、駿平の背中へ両腕を回した。
長い年月、互いに胸の奥へ押し込めてきた想い。
伝えられなかった言葉。
果たせないまま残されていた約束。
それらが、静かな夜の中で、ようやく二人の間を行き交っていった。
駿平と祥子は、もう互いの想いから目を背けなかった。
彼女は、目の前の自分を信じてくれていた。
「このことをほかに知っている人は?」
「江国三尉は知っている。それと、前に一緒に任務に当たった警察官も、たぶん知っている。ああ、祥子は知らない人だ」
「それって、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。遅かれ早かれ、いつか知られることになるかもしれない」
「そうね」
祥子は、いたずらっぽく微笑んだ。
「その頃には、駿平はもう、誰もが知っている正義のヒーローになっているかもしれないわね」
「え?」
駿平が目を丸くする。
祥子は、少し照れたように視線を落とした。
「正直に言うと、あの赤い巨人を見たとき、私はすごく怖かったの。でも、あの人が命懸けで私を守ってくれているんだって分かったら……すごく、格好いいと思った。本当に、格好よかった」
祥子は、あの夜の光景を思い返していた。
燃え上がる車。
目の前に迫るスパイダーオルガメント。
そして、自分を守るために立ちはだかった赤い巨人。
あの姿は、恐ろしかった。
けれど、同時に、どうしようもなく頼もしかった。
「もし駿平だったら、きっとあんなふうに、私やみんなを守ってくれるんだろうなって思ったの。これが……正義のヒーローってことなのかなって」
「祥子……」
「ねえ、駿平。今のあなたって、昔の夢を叶えたってことになるんじゃない?」
「ああ……まあ、そうだな」
駿平は照れくさそうに頭を掻いた。
正義のヒーローになる。それは子供の頃から、何度も口にしてきた夢だった。
けれど、まさか本当に、こんな形でその夢に近づくことになるとは思ってもいなかった。
祥子は、懐かしそうに微笑んだ。
「この前、私たちが小学生の頃に語った夢の話をしたよね。確か、その後、中学生になった頃だったかな。あなたは一度夢を諦めて、学校のサッカー部に入った。そして、そのままサッカーリーグまで進んだ」
「ああ、そうだったな」
駿平は、遠い昔を思い返した。
「あの頃は、雲をつかむような夢のためにも、何かしなきゃいけないと思ったんだ。ただ夢を見ているだけじゃ駄目だと思ってさ」
そして、ふと思い出したように祥子を見る。
「そういえば、祥子もあの頃、学校の女子弓道大会に出ていたよな」
「覚えてたんだ!」
祥子の顔がぱっと明るくなった。
「もちろんさ。けど、祥子があんな大会に出るとは思わなかったよ。あんなに凛々しい一面があるなんてな。弓を引いている姿なんて、普段の恥ずかしがり屋で、何をするにも淑女みたいな祥子とは別人だった。完全に武闘派女子だったよ」
「大げさなんだから!」
祥子は頬を膨らませた。
「それに、あの頃は将来デザイナーになるって言ってなかったっけ?」
「また大げさなこと言う!」
「はは。当時の俺にはそう見えたんだよ」
二人の間に、穏やかな笑い声が広がった。
本当に久しぶりだった。
了のことも、怪物との戦いも、自分の身に起きた異変も、いったん忘れてしまいそうになるほど、懐かしい時間だった。
やがて、祥子が少しだけ真剣な顔になった。
「それじゃ……あのときの約束、覚えてる?」
「何の?」
「あなたが、私に約束してくれたこと。私は今でも覚えているよ」
駿平は一瞬、きょとんとした。
だが、祥子の表情を見つめているうちに、記憶の奥にしまい込んでいた出来事が、少しずつよみがえってきた。
あの頃、駿平と祥子は、それぞれサッカー部と弓道部の主将を務めていた。
練習を終え、互いにすれ違うとき。
二人は男友達のように拳を軽くぶつけ合い、励まし合っていた。
汗だくになり、疲れで頭がぼんやりしていた駿平は、ある日、祥子が自分に向かって口にした言葉を聞いた。
「駿平。いつか……私たちがそれぞれの夢を叶えたら、私をお嫁さんにしてね!」
当時の駿平は、深く考えずに答えた。
「うん!俺が本当のヒーローになったら、祥子をお嫁さんにする!」
何気ない返事だった。
しかし、その後になって約束の重大さに気づいたときには、もう遅かった。
祥子はすでに、その約束を仲間たちにも伝えていた。
それは、四人がそれぞれの夢を追いかけながら、ともに成長していくための約束として記憶されていた。
駿平は、目の前の祥子を見つめた。
彼女の頬には、夕暮れの空に浮かぶ霞のような淡い赤みが差していた。
「駿平……ずっと考えていたことがあるの」
祥子の声が、少しだけ震えた。
「今まで、言えなかった。でも、今日だけはどうしてもあなたに伝えたい。だって、今言わなかったら……もう二度と伝える機会がなくなるかもしれないから」
駿平は何も言わず、彼女を見つめていた。
祥子は恥ずかしそうに目を伏せ、それでも、逃げずに言葉を続けた。
「私はあなたが好き」
長い間、胸の奥にしまい込んできた想いだった。
「最初にあなたが私を助けてくれたときから……ううん、もっと前から。あなたの中にある、ほかの人とは違う何かに惹かれていたんだと思う。中学生になってからも、その気持ちは消えなかった。震災の後はいろいろなことがあって、言えなかったけど……今なら分かる。この気持ちは、ずっと変わっていなかったの」
祥子は、ゆっくりと顔を上げた。
「だから、ずっと待っていたの。駿平が自分の夢を叶えるのを。あなたが言っていた正義のヒーローになったら、あのときの約束を果たしてくれるって……そう信じていたから」
そこまで言うと、祥子の顔はさらに赤くなった。
恥ずかしそうに、ゆっくりとうつむく。
駿平は、すぐには答えられなかった。
祥子が自分を待ち続けていたことは、分かっていた。
それでも、あまりにも多くの出来事があった。
震災で失ったもの。自分が果たせなかったこと。
そして、赤い巨人として戦うことになった今の自分。
それらを理由にして、彼は答えを出さずにいた。
いや、逃げ続けていたのだ。
けれど、もう逃げることはできなかった。
駿平はゆっくりと目を開いた。
そして手を伸ばし、祥子の頬にかかっていた一房の髪を、そっと払った。
彼女の瞳は、昔と変わらず澄んでいた。
その姿を見た瞬間、駿平の胸の奥を熱いものが駆け上がった。
そして次の瞬間、駿平は祥子を抱き寄せ、唇を重ねた。
祥子は突然のことに、完全に呆然としていた。
頭の中が真っ白になり、どうしていいのか分からない。
しかし、やがて我に返ると、その瞳がゆっくりと柔らかくなった。
彼女もまた、駿平の背中へ両腕を回した。
長い年月、互いに胸の奥へ押し込めてきた想い。
伝えられなかった言葉。
果たせないまま残されていた約束。
それらが、静かな夜の中で、ようやく二人の間を行き交っていった。
駿平と祥子は、もう互いの想いから目を背けなかった。