NEIGHBORS-鎮魂戦争-   作:トライアゲイン

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新たなる恐怖

 横浜震災記念墓地

 

 鞘香の墓前で祥子は白い百合の花束を手に正座していた。

 それを静かに墓前へ供える。

 

 「鞘香……」

 

 祥子はつぶやいた。

 

 「私と駿平、また会いに来たよ」

 

 墓碑に刻まれた名前を見ながらそっと語り掛ける。

 

 「そっちは現気にしてる?」

 

 彼女の後ろには駿平が立っている。彼は相変わらず皺の寄った古い緑色のジャケットを着ていた。

 彼の視線は祥子に向けられたり、墓碑へと向けられたりしている。

 

 「私もね、今では夢をかなえたよ。ファッションデザイナーになった」

 

 少しだけ笑った。

 

 「了も、もう一度夢を取り戻そうとしてる。駿平は……」

 

 祥子は振り返った。

 

 「ようやく子供のころからあこがれていた正義のヒーローになった」

 「祥子……」

 

 駿平は言葉を失った。今では婚約者となった女性。彼女がこうして鞘香へ自分のことを話している。胸が熱くなるのを感じた。

 

 「駿平」

 

 祥子は駿平を見る。

 

 「私ね、あなたがあの力と出会ったことには意味があると思ってるの」

 「……」

 「あの光があなたを選んだのは、きっと運命だったんじゃないかな?」

 

 祥子は静かに言った。

 

 「あなたの中にあった、正義のヒーローになりたいって願いをあの力が聞き届けてくれたんだと思う」

 

 駿平は自分の手を見た。ゆっくりと拳を握る。そして、笑った。

 

 「そうだな」

 

 その声にもう迷いはない。

 

 「俺はもう過去にとらわれない。この力を守るべき人たちを守るために使う」

 

 そして祥子を見た。

 

 「本当の意味で、誰かを守るヒーローになるよ」

 「うん」

 

 祥子も笑った。二人の視線が重なる。互いの気持ちが静かに通じ合った。

 

 その時、駿平のポケットに入っているスマートフォンが振動した。

 取り出してみると、知らない番号からだった。

 駿平は不振に思いつつも電話に出た。

 

 「もしもし?」

 『不動駿平さんの携帯電話でよろしいでしょうか?』

 知らない声だった。

 

 「はい、あなたは?」

 『突然お電話いたしまして申し訳ありません。私、自衛隊の研究班の者です。あなたが持ち帰った未知の巨大生物……オルガメントの測定データ研究者、といえばわかるでしょうか?』

 「……ああ、あなた方ですか」

 

 よく聞けば会議で聞いた声だった。駿平の表情が変わる。

 

 「何かわかったんですか?」

 『あなたが持ち帰った波形のデータを詳しく調査いたしました』

 「結果は?」

 『最初から、我々はこの波形に見覚えがあるように感じていました。そこで何度も分析を行い、気象庁や地震観測機関の研究者にも協力を依頼しました。日本で過去に発生した地震の震源地のデータを取り寄せ、照合したんです』

 「……」

 

 『予想通りでしたよ』

 「何がですか?」

 『あなたが持ち帰った波形と地震の震源波。これは完全に同じ種類の波形です』

 

 駿平は絶句した。研究班は言葉を続ける。

 

 『つまりあの波動は本質的に言うと……』

 

 一瞬の間があった。

 

 『地震波です』

 「……!!」

 

 駿平の表情が凍り付いた。

 

 『さらに興味深いことも判明しました』

 「何です?」

 『過去に発生した地震の震源波形を一つずつ照合していったところ、完全に一致したものが発見されました』

 「どの地震ですか?」

 『10年前に発生した、相模湾地震です』

 

 駿平の脳裏にあの日の光景が蘇った。

 崩れ落ちる建物、押し寄せる津波、助けを求める人々。そして、あの赤い光。

 

 『あなたも震災の救援活動に参加していましたよね?』

 「そ、そんな……」

 

 駿平は自分の声が震えているのが分かった。

 

 『具体的な因果関係についてはまだ調査が必要です。現在我々はあの震災に関する詳細な資料収集を行っています。何か新しい情報が判明次第、自衛隊を通して直接連絡します。今はあまり動揺なさらないように』

 

 駿平は大きく息を吸った。

 表面上は平静を保っているが、内面では17年前の記憶と疑問が渦巻いている。

 ようやく

 

 「はい……」

 

 という言葉を何とか絞り出した。

 

 『ただ、これまでの結果を見る限りは……』

 

 研究者の声が低くなった。

 

 『あの震災が起きた原因には我々が知らない『なにか』が隠されている可能性があります』

 

 そこで電話は切れた。

 

 「駿平?」

 

 祥子が心配そうに見る。

 

 「どうしたの?」

 

 駿平は黙っていた。わずかに体が震えている。それを祥子は見逃さなかった。

 普段の駿平ならどんな状況でも冷静さを失わない。

 だが今は違う。

 5秒ほどたってから、駿平は固く握った拳をゆっくりと開き祥子に笑いかけた。

 

 「大丈夫」

 

 だが、その胸中ではすでに決着していた。

 

 10年前、相模湾を震源としたあの大災害。

 

 赤い光。

 

 オルガメント。

 

 すべてをつなぐ何かがある。それを自分の手で突き止める。

 

 しかしその直後、再びスマートフォンが震えた。

 今度は陸自の番号からだった。

 

 「もしもし、不動です」

 

 電話を取った瞬間、駿平の顔から血の気が引いた。

 

 「何ですって!?」

 

 祥子が驚いて見つめる。

 

 「わかりました。はい、すぐに向かいます」

 

 電話を切った。

 

 「どうしたの?自衛隊で何かあったの?」

 「ああ」

 

 駿平はスマートフォンをポケットにしまい、服装を整えた。

 

 「怪物がまた出た」

 「!!」

 「陸自の武器庫が襲われたらしい」

 

 駿平の顔は完全に戦士のものへ戻っていた。

 

 「今陸上の戦闘部隊が戦ってる。まだ大きな被害は出ていないみたいだけど、万一に備えて俺も行く」

 「そんな……」

 

 祥子は驚きを隠せなかった。だが駿平はもう歩き出そうとしている。

 その背後から

 

 「駿平!」

 

 祥子の声が聞こえた。振り返ると

 

 「気を付けてね!」

 「うん、わかってる」

 

 駿平は笑った。しかし一瞬だけ申し訳なさそうな表情になる」

 

 「ごめん、祥子」

 「え?」

 「せっかく一緒にいられたのにまたすぐ離れることになった」

 

 祥子は首を振った。

 

 「気にしないで」

 

 そしてまっすぐに駿平を見た。

 

 「わかってるよ。駿平は人を守るために自分の仕事をしてるんでしょ?」

 

 祥子は笑った。

 

 「あなたは、正義のヒーローになるだから」

 

 その言葉を聞いた瞬間、駿平の顔に残っていた僅かな迷いが消えた。

 そこに浮かんだのは先ほどまでとは違う、確かな自信だった。

 かつてあこがれた「正義のヒーロー」東医言葉を今度こそ自分の意志として受け止めた一人の男の顔だった。

 

 「ありがとう、祥子。行ってくる!」

 「うん!」

 

 祥子に背を向け、駿平は陸自基地に向けて走りだした。

 その瞳にもう迷いはない。

 守るべき人のため院、自分が選んだ道を進むために。

 そして、10年前の相模湾で起こったことの真実を突き止めるために。

 

 

 走り続ける駿平の横を一緒に走るように赤いオーラが現れる。

 

 『駿平』

 「ネイバースか」

 『先ほどの電話の内容が気になっているようだな』

 「そりゃあ気になるさ。10年前の地震と俺が持ち帰った波形が一致したんだ。偶然で片付けられる話じゃない」

 『あの災害と、今起きていることに何らかのつながりがあると考えているのか』

 「断定はできない。でも調べる必要はある」

 

 駿平は息を切らしながら答えた。

 

 「あの光が何だったのか、どうして怪物はあらわれるのか。全部知らなきゃならない」

 『知ることが戦う理由なのか?』

 「違う。俺が戦うのは人を守るためさ」

 

 駿平は走る速度を緩めない。

 

 「でも理由もわからず戦い続けたらいつか取り返しのつかないことになるかもしれない。敵の正体も、あの光の力も、俺自身が何になろうとしているのかも、ちゃんと理解したいんだ」

 『理解できなければ戦えないということか?』

 「そうじゃない。わからなくったって、目の前で誰かが襲われてたら俺は闘う。でも守れる命を増やすためには知らなきゃいけないことだってある」

 

 ネイバースは少し黙っていた。

 

 『君は私と融合したことを後悔しているか?』

 

 思いがけない問いに駿平は一瞬だけ表情を曇らせた。

 

 「わからない。怪物と戦うのは正直怖いし、自分が死ぬかもしれない。祥子や母さんを悲しませることになるかもしれない。俺だって普通の暮らしに戻れるならそのほうがいい」

 『ならばなぜ私を拒絶しない?』

 「手放したところで目の和えの人間が襲われているのを見捨てられるようになるわけじゃないからな」

 

 駿平は前を見据えていた。

 

 「俺は誰かを守れる人間になりたい。子供のころからずっとそう思っていたんだ」

 『その願いが私と君を会わせたのかもしれないな』

 「かもしれない、だろ?まだ何もわかっていないんだ」

 『そうだな』

 

 ネイバースの声にはいつものような断定的な響きがなかった。

 

 『だからこそ、私は君を見ている』

 「俺を?」

 『君が何を考え、何を恐れ、それでもなぜ前へ進もうとするのか。人間という存在を私はまだ十分に理解していない』

 

 駿平は小さく笑った。

 

 「だったらこれからも隣で見ていればいいさ」

 『……君は私が常にそばにいることを当然と思っているのだな』

 「違うのか?」

 『いや……』

 

 ネイバースは言葉を切った。駿平の足音だけが響く。

 

 『駿平。一つだけ覚えておけ』

 「なんだ?」

 『君が誰かを守ろうとするように、君自身を守ろうとする者もいる』

 

 祥子の顔が浮かんだ。駿平は少しだけ表情を和らげる。

 

 「わかってる。簡単に死ぬつもりはないよ」

 『その意思を忘れるな』

 「そっちこそ俺が何かやらかしそうになったら教えてくれよ?相棒!」

 

 返事はすぐになかった。やがてネイバースはすぐに答えた。

 

 『ああ』

 「急ぐぞ!」

 

 駿平は基地へと続く道をさらに強く駆け抜けた。

 

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