NEIGHBORS-鎮魂戦争-   作:トライアゲイン

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兵器庫のデスマッチ

横浜陸上基地、陸上軍事兵器庫はいまや戦場と化していた。

 

「撃ち続けろ!あのデカブツをこれ以上進ませるな!!」

 

「爆発物に注意しろ!引火したら終わりだぞ!!」

 

 陸上自衛隊の様々な軍備施設や武器が所狭しと並べられている兵器庫。その中では凶暴な方向が絶え間なく響き渡っていた。

 それに重なるように銃弾の掃射音や隊員たちの怒号、無線機から飛び交う通信が響き渡っている。

 倉庫の奥へと進むにつれ、その凶暴な方向も次第にはっきりと聞こえる。

 それは犬の吠える声であった。しかもただの犬ではない。

 凶暴さの中に、どこか悲鳴にも似た声が混ざっていた。

 

 突然何かの機会が引き裂かれたかのようなギシっという音がした。

 それまで絶え間なく続いていた銃撃がぴたりと止まる。迷彩柄の戦闘服を着た自衛隊員たちが一列に並び音がした暗闇のほうを見つめている。

 明滅する証明に照らされて、巨大な影がその姿を部分的に浮かび上がらせる。

 

 それは一頭の醜悪で凶暴な猟犬であった。

 その体格は犬のそれではない異常に巨大で、外見こそ普通の猟犬と大差ないが大きさだけが明らかに常軌を逸している。

 横幅は少なく見ても陸専用の戦車二両を横に並べたほど巨大で、四本の足で立った高さもまた戦車一両の高さを約50cm程度上回っていた。

 首には巨大な力で引き裂かれた鋸歯状の首輪がぶら下がっている。

 

 猟犬は自分に向けられている89式小銃の銃口を見下ろした。白目をむいた目玉には時折淡い青色のオーラが迸る。

 やがて口元がめくれ上がり、唾液に濡れた鋭い牙があらわとなった。牙と牙の隙間には噛み千切られた血肉と布切れが残っている。先ほどこの怪物に捕食された自衛隊員たちのものだった。

 それを見た隊員たちは思わずつばを飲み込む。銃を構える手が小刻みに震える。

 恐怖に満ちたまなざしの奥にはそれでも激しい怒りの炎が燃えていた。

 

 双方にらみ合いの膠着状態が続く。

 しばらくして、猟犬が大きな口を開け、同時に古びた戦車の砲塔ハッチに置いていた前足を大きく振り下ろした。

 その一撃で戦車の製造に使う大量の部品がまとめて吹っ飛び、そのまま猟犬は前方へ突進した。

 

 「撃て!撃てぇッ!」

 

 高所の通路に立っていた自衛官はわずかな風切音を聞いた瞬間、無線機へ向かって声を張り上げる。

 次の瞬間、争点音と共に無数の小銃が火を噴いた。銃声がまるで恐怖を奏でる交響曲のように兵器庫全体へ重なって響き渡った。

 

 密集した弾丸の雨が猟犬の巨体に降り注ぐ。猟犬は怒りの声を上げ、巨大な前足を振りまわしながら自分へ向けて発砲する自衛隊員に次々と襲い掛かった。

 

 「うわぁぁぁっ!!」

 

 再び兵器庫が大混乱となった。ある者は爪で引き裂かれ、ある者は投げ飛ばされ勢いよく壁にたたきつけられ、またある者は踏みつぶされる。

 近くの戦車用の履帯に落ちた者もいれば、長い砲身に引っかかって高々と吊り上げられる者もいた。

 さらに激昂した猟犬はさらに前へと進み、人間半分ほどもある巨大な前足を振り回した。それによって高所に固定されている手すりと通路が丸ごと破壊される。

 轟音と共に通路が崩落した。そこから逃げ遅れた隊員たちが次々と落下していく。

 

 「隊長!」

 

 倉庫の入り口に入ってきた一隊の自衛隊員が高所から叩き落された自衛官を発見した。彼らは2~3人ほどの人数に分かれ、その自衛官と負傷した隊員たちを担ぎ上げ出口へ輸送する。

 残った隊員たちは銃を構え、猟犬への銃撃を続けた。猟犬の猛攻で隊列を崩された仲間たちを援護しつつ、安全区域まで退避させていく。

 そして再び、銃声と砲撃が兵器庫全体を覆った。

 

 一方、兵器庫の外、陸上基地のグラウンドでは数名の自衛隊員たちが高台に立ち腕を後ろに組んだまま兵器庫の方を見つめていた。

 前方では服装からして明らかに高級指揮官と思われる上級自衛官が軍用の双眼鏡で周辺の状況を確認している。

 1分ほどたって、偵察を担当しているらしい隊員がこちらへ走ってきた。

 上級自衛官の前に立って敬礼する。

 

 「中の状況はどうだ?」

 

 上級自衛官は双眼鏡を下ろして尋ねた。

 

 「撤退してきた負傷兵の報告によりますと、あの怪物は現在も兵器庫の奥に潜伏しながら移動しています。我々の部隊は倉庫内の構造と配置の制約によって思うように攻撃ができず現在も被害が拡大中です。陸自の江国三尉が分隊を率いて突入する予定です」

 「状況はかなり厳しいか……」

 

 上級自衛官は再び多数の多淫たちが集まっている兵器庫へ視線を向けて眉をひそめた。

 

 「それでは陸専用重兵器を導入し、火力で叩くというのは……」

 「だめだ。内部の通路は狭いうえに大小さまざまな武器や設備、弾薬や爆発物、分解された旧式の兵器まで大量に置かれている。もし重兵器で攻撃すれば必然的に大爆発を引き起こす。そうなれば基地そのものが受ける損失のほうがはるかに大きい。それに中の生存者を道連れにすることになる。」

 「何とも狡猾な奴だ。こっちが倉庫内で重兵器が使えないのを知っているとみてわざと引きこもって迂回戦を続けている。これでは殲滅作戦をとるのも難しいな」

 「だがこの状態が続くのであれば、最悪この区画を犠牲にすることも考えなければならんな……」

 

 自衛隊員たちは口々に意見を交わしていた。それこそが彼らがうかつに動けない最大の理由であった。

 

 「隊長!」

 

 一人の隊員の声が彼らの会話を遮った。高台にいた自衛隊員と上級自衛官が声がした基地正門前を見ると、緑色のジャケットを着た青年が走ってくる。

 

 「不動駿平」

 

 駿平は頷くと上級紙機関へ向かって厳粛に敬礼した。

 

 「陸自、不動駿平。ただいま帰隊しました!」

 

 上級自衛官が頷き、ほかの隊員たちもまた彼の帰隊を受け入れるよう合図をした。

 

 「話は聞いていますが、現在の状況は?」

 「よくない。いや、最悪といってもいいな。あの怪物……現在部隊内で使われている名称を使うならばハウンドオルガメントが兵器庫内で暴れまわっている。突入した部隊は、ほぼ全滅しかけている」

 「そんなに!?」

 

 駿平は驚きを隠せなかった。

 

 「現在、重兵器を投入しての火力攻撃を行うかどうかを検討中だ。だが倉庫内は狭いうえに各種銃器、設備、爆薬が大量に置かれている。そのため少しでも判断を誤れば兵器庫そのものを吹き飛ばしかねない。そうなれば撤退していない隊員たちも犠牲になる」

 「現在内部で交戦中なのはどの部隊ですか?」

 「相当数だ。その中にはお前の直属の情感である江国三尉率いる第一分隊もいる」

 「三尉が中に!?」

 

 上級自衛官は静かにうなずいた。駿平は何か言おうとしたが、その時兵器庫の中から再び自衛隊員たちの断末魔の悲鳴が響き渡った。

 

 「本当に状況は悪化しているな」

 

 上級自衛官は再び眉間にしわを寄せ、唇をかみしめた。何かを決断しよとしているようだった。

 駿平は次々と兵器庫に出入りする戦闘部隊を見つめた。そしてしばらくして固く拳を握る。

 

 「隊長、重兵器の投入はもう少し待ってください。俺も中へ突入します」

 「不動、気持ちはわかるがあの中の状況は正直人数を増やしたところで何とかなるものではない。第一お前一人行ったところで何ができる」

 「それにそんな格好でどうする?正式な戦闘服すら着ていないじゃないか」

 

 上級自衛官のそばの隊員も口をはさんだ。

 

 「それでもここでもたついて三尉を無駄死にさせるわけにはいきません!俺は行きます!」

 

 そう言い残すと駿平は上官の返事を待たずに高台を駆け下り、銃声鳴り響く兵器庫へ一目散に走っていった。

 

 

 銃声が飛び交う兵器庫の一角ではまた悲鳴が上がった。血と肉にまみれた人影が組み立て途中の装甲車の部品の陰から吹っ飛ばされる。

 銅管の山へぶつかった体はそのまま跳ね返され、地面にぶつかった。その場所には血だまりが広がっていく。

 似たような惨状は兵器庫のいたるところにあった。先ほどまで生きていたはずの人間たちが今や物言わぬ肉の塊となってあたり一面に転がっている。

 

 凄惨。この状況を表現する言葉がこれ以上にあるだろうか。

 

 「あ……ああ……これは…」

 

 別の場所では破壊されながらもかろうじて明かりが灯っている証明の下で数名の自衛隊員が震える手で89式小銃を構えていた。

 彼らの前にいるのは、すでに何人もの仲間たちを虐殺した巨大猟犬。その姿を見る隊員隊の目からは日ごろの厳しい訓練で培われた屈強な精神すら押しつぶされそうなほどの恐怖がにじみ出ている。

 

 それでも彼らは銃を下ろさない。ただこんなところで死にたくないという思いだけを支えに敵へ銃を向け続けていた。

 

 「ふっざけんな!自衛隊舐めんじゃねえええええ!!!」

 

 残存する隊員たちが後退を始めたその時、地面に倒れ、すでに死にかけていると思われていた一人の若い自衛隊員がゆっくりと体を起こし叫んだ。

 顔から出るおびただしい血も構わず全身を震わせ、残された力を振り絞って立ち上がる。その手には軍用拳銃が握られていた。彼はそれを猟犬の頭部へ向け仲間へと叫んだ。

 

 「みんなしっかりしろ!俺たちはまだ負けちゃいねえ!江国三尉が部隊を率いて救援に来てくれている!こんなところで負けるな!!」

 

 新入りの後輩ですらこれほどまで勇敢に立ち向かっている。その姿を見た数名の隊員隊も奮い立った。彼らは覚悟を決め銃を握り直し、若い隊員と共に猟犬に銃口を向ける。

 

 自分を前にしてなおもあきらめず死力を尽くさんとする人間たち。それを見た猟犬は挑発されたかのように巨大な口を開き、狂ったような雄たけびを上げた。

 その声に伴う衝撃波が周囲の空気すら振動させ、数名の隊員が思わず二歩ほど後退したが

 

 「撃てえええ!射撃開始!!」

 

 若い隊員の叫び声を合図に猟犬の前に最後に立ちはだかった防衛線が力を振り絞る。

 攻撃しつつ後退。訓練で叩きこまれた戦術に従い、集中して攻撃を分散させる。

 だが目の前の猟犬にはほとんど効果がない。猟犬からしてみればそれは単なる悪あがき、死に際の抵抗、寿命が数秒伸びただけだった。

 

 次の瞬間、猟犬はまた狂ったように両足を振り回す。鋭い爪が周囲に置かれた金属管を切断し、履帯やタイヤの山を吹っ飛ばす。

 そして必死に射撃していた二人の自衛隊員を巨大な足で踏みつぶした。潰された隊員の噴き出した血が猟犬の足を真っ赤に染めた。

 

 「畜生!!」

 

 また仲間が死んだ。残った3人は怒りに震えつつも遮蔽物を探して身を隠し、小銃を構えて猟犬の弱点へ向けて射撃を続ける。

 だがそれが狂乱状態に陥った猟犬の怒りを刺激してしまった。

 

 青い光が渦巻く巨大な口が四方向へ裂ける。そして三人の隊員が詰まりかけていた場所めがけて光弾を二連発発射した。

 

 爆発と共に瓦礫と破片が飛び散る。三人の死体は崩れ落ちた瓦礫に潰された。

 

 「くそっ……」

 

 コンテナと戦車部品の山の陰に身を潜めていた若い自衛隊員……市川修一はその光景を見ながら歯を食いばった。ぎりぎりと歯が鳴る音がする。

 その時、市川は猟犬が移動している左側に積まれているあるものに目が行った。

 それは自衛隊が爆薬製造に使うために保管している爆発物だった。もし猟犬がそれを攻撃したら兵器庫そのものが一瞬で吹っ飛ぶ。それどころではない。爆発は兵器庫のみならず、基地全域を破壊する恐れがあった。

 

 「まずい!」

 

 市川は猟犬の注意を引こうと飛び出したが、動いた瞬間に足が隣に立てかけられている器具の架台にぶつかり、金属音が鳴ってしまった。

 音に気付いた猟犬がこちらを振り返る。怒号のような鳴き声を上げ、猟犬は前方を塞いでいる物体を爪で吹っ飛ばした。

 そして市川めがけて突進してくる。

 

 「ブサイクな顔して……堂々と威張り散らしやがって……」

 

 市川が悪態と共に覚悟を決めたその時。

 どこからともなく砲火が飛来した。

 猟犬の注意が市川とは反対側へ引き寄せられる。

 

 「市川!」

 

 危機を脱した市川はほっと息を吐いた。直後、一人の人影がこちらに駆け寄ってくる。

 その顔を見た市川が叫んだ。

 

 「江国三尉!」

 「大丈夫か?」

 

 江国は部隊へ掩護射撃を指示しつつも倒れている市川を自ら起こし負傷の状態を確認する。

 

 「俺は大丈夫です。でもここは危険です。早く脱出する手段を探したほうがいい。この場所はもう守り切れないでしょう。少人数の部隊であいつを相手取るのは無理です」

 「それは分かっている。だがここを放棄すれば基地に甚大な被害が出る」

 「それでもここで全員死ぬよりはましです!!」

 

 市川は江国の支えを振り切った。地面に転がっていた小銃を広い、そして向こう側で牙をむいて暴れまわる猟犬に銃口を向けた。

 

 「三尉、三尉とみんなは撤退してください。俺が最後尾を務めます」

 「お前は負傷している。無理はするな!」

 

 それでもなお意地を張る市川を見て江国は苦笑する。

 彼がなここまで執着し続けるのか。以前の横浜でのワームオルガメントの事件の際、市川と共に命がけで戦った自衛隊員たちが、ワームオルガメントに無残に殺されるところを目の前で見ていた。その自責の念と共に怪物への強烈な憎悪を抱いているのだ。

 だからこそ彼は心の底で誓った。もし再び怪物と遭遇したら必ず自分の手で倒して死んでいった仲間の仇を取ると。江国にはそれがわかっていた。

 

 「攻撃しろ!三尉を援護する!」

 

 市川が猟犬に小銃を構え、同時に江国率いる分隊も攻撃を開始した。

 両側から猛烈な銃砲火が雨あられと叩き込まれる。挟まれた猟犬は前足を振り回してそばに積まれている装甲車や戦車の部品をまとめて弾き飛ばし、それらを正面から攻撃している自衛隊員たちに投げ飛ばす。さらに反対側の瓦礫も江国と市川に吹っ飛ばした。

 二人は紙一重で何とか回避し、再び猟犬へ攻撃を続けるがそれでも大きな効果はない。

 

 「畜生!重火器さえ使えればこんな無様な戦いをしなくて済むのに!」

 「諦めるな!そんな力任せなことばかり考えるな!」

 「今の俺たちだけじゃ命を懸けたところで意味ねえだろ!」

 「くそ……こんなところで無駄死にだなんて……」

 

 自衛隊員たちは悪態をつきつつも死を受け入れるつもりはなく、襲い来る猟犬に向かって必死に火力を集中させた。

 

 その時、猟犬の様子に異変が起こった。

 先ほどまで前進していたはずの猟犬の体が突然大きく震えだし、一歩後ろへと下がった。咆哮していた巨大な口と頭が激しく横に傾く。

 まるで何か強烈な一発を受けたかのようだった。こんなことはこの戦闘で一度もない。

 

 「続けろ!攻撃が効いてるぞ!」

 

 猟犬が初めて後退する姿を見た隊員たちは歓喜する。原因はわからないが、自分たちの必死の攻撃がついに効果が出たのだと思い込んだのである。

 さらに射撃が強められる。集中砲火を浴びる旅、猟犬は本当に押し戻されるかのように後退していった。

 しかし、注意深くしていた一部の隊員のみがその異変に気付いていた。

 猟犬が鳴き声を上げるたびに包囲している火力の中から、何か猛烈な衝撃波が発生している。その衝撃波で反撃しようとしている猟犬は動きを封じられている。だからこそ自衛隊の攻撃が猟犬を抑え込むほどの効果を出しているのだ。

 

 「これは……どういうことだ?」

 

 異常ともいえるほど好転し始めた状況に慎重な江国は強い疑問を抱いた。その疑問が心に広がりかけていた時。

 

 「三尉!」

 

 聞き覚えのある声が響く。振り返ると自衛隊専用の拳銃を手に走ってくるジャケットを着た青年がいた。

 

 「駿平!」

 「不動先輩!」

 

 二人が同時に声を上げた。

 駿平はまず市川と互いに頷きあって、それから江国に敬礼する。その姿を見た瞬間、江国の抱いていた疑問が吹き飛んだ。同時にその顔には安堵の表情が浮かぶ。

 

 江国が敬礼する駿平へ頷き、駿平も腕を下ろした。

 

 「三尉、俺も味方します!」

 「よし!」

 

 江国の返事を合図に、駿平は陸自の軍用拳銃を構えた。

 

 

 『駿平。先ほどの会話を聞く限り、ここで光線を撃ってはいけない』

 

 脳内にネイバースの声がする。たしかにバズーカや戦車の砲撃以上の破壊力を持つネイバースの技を使えば、自衛隊が想定している以上の被害が出るだろう。

 

 『わかってる。だがこれなら』

 

 江国、市川と並んで駿平は猟犬に向かって発砲した。その弾丸には強烈なパルス衝撃波が付加されている。無数の銃弾の合間を縫って飛翔した弾丸は猟犬が反撃しようとするたびにその攻撃の起点となる弱点へ寸分たがわず次々に炸裂していった。

 そのたびに猟犬の猛烈な攻撃が中断され、巨大が大きく後方へ押し戻された。

 それによって自衛隊員たちは大いに勇気づけられた。彼らはさらには激しく反撃し、猟犬は兵器庫の奥へ、奥へと追いやられていった。

 

 だが戦況が大きく好転したとき、猟犬の白目をむいた目玉が突然ある方向を向いた。

 反撃を続ける自衛隊員のさらに向こう側で銃を撃っている……駿平だった。

 猟犬の両目に青い光が極限にまで膨れ上がり、凶悪な光が混じった。

 

 『駿平。奴は君を狙っている』

 『ああ……同時に俺を覚えているんだ』

 

 猟犬の目に浮かんだ敵意を見つめ、駿平の胸が大きく高鳴る。

 一方で自衛隊の総攻撃はますます激しさを増した。

 そしてついに猟犬は兵器庫の奥にある破壊された鉄の扉に向かって逃げ出しはじめた。

 

 「追え!追え!」

 

 やっと反撃の時が来た。このチャンスを逃すまいと全員が追いかけるが、鉄の扉に追いついた瞬間、猟犬は影も形もなくなっていた。

 そこには扉の前から地面に続く巨大な穴だけだった。

 

 「まだそう遠くに入っていないはず。追いますか?」

 「いや、今は総指揮部へ報告しろ。目標は撤退した」

 

 江国は首を横に振った。

 

 

 

 その後、陸自分隊に命じ猟犬が最後に消えた地点の周辺を調査させたが、異常は特に見当たらなかった。

 江国は他の分隊の隊員たちに告げた。

 

 「撤収!」

 「了解!」

 

 全員が返事をするとそれぞれ隊列を整えて、兵器庫の出口に向かって歩き始めた。

 

 「みんな、本当によく戦った」

 

 江国はその場に残って休息している負傷兵や市川、そして駿平へ敬礼した。

 駿平も敬礼を返す。

 

 しかし最後に見た猟犬の視線が頭から離れなかった。

 

 「三尉、あれはいったい……」

 「詳しいことは当直の巡回員から説明してもらう必要があるだろう。いったん外へ集合し、報告を聞こう」

 

 そういうと、全員で最後に兵器庫内部を確認した。

 危険がないことを確認すると、一人、また一人と外へ退出していった。

 

 

 

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