NEIGHBORS THE ULTRAMAN-鎮魂戦争-   作:トライアゲイン

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秘密

 変身を解いた駿平に二人が駆け寄ってくる。

 

 「駿平、 大丈夫?」

 

 祥子は心配そうに尋ねる。先ほど、 あの怪物の牙が巨人となった駿平の両腕を貫いた光景が、 まだ脳裏に残っていた。

 

 「大丈夫だよ」

 

 駿平は優しく笑って首を横に振り、その隣にいる了を見る。

 

 「了、 お前は大丈夫か? 俺たちが来る前は……」

 「俺は何ともないよ。 心配するな」

 

 了は首を横に振り、何か言おうとしている駿平へ笑いかける。

 

 「それより、 お前だよ。 駿平。ついに夢を叶えたんだな。本当に……よかった」

 

 だが、 駿平は首を横に振った。

 

 「違う」

 「……え?」

 「二人がいたからだ」

 

 駿平は祥子と了を見た。

 

 「二人とも、 俺にとって一番大切な友達だから……お前と祥子が励ましてくれたから、 俺は戦えた……自分にとって大切な人を守るために、 戦うことができたんだ」

 

 「駿平……」

 

 祥子はその言葉の意味を理解していた。駿平は今でも鞘香のことを気にしている。

 だからこそ、 そんな言葉を口にしたのだ。

 

 「お前……いつから、 そんな力を持ってたんだ?」

 

 了が話題を変えるように尋ねた。

 

 「5年前だ」

 

 駿平は迷わず答えた。

 

 「森で任務についていた時、 一つの赤い光と出会った。 それから……こうなった」

 

 「じゃあ……」

 

 了の表情が変わる。

 

 「光が、 お前の夢を叶えてくれたってことか!」

 「……そういうことになるのかな?」

 

 駿平は静かに答えた。

 

 「ところで、 了。お前はどうしてここへ来たんだ?どうしてあの怪物に遭遇した?」

 

 了は少し俯いて考える。

 

 「本当は野毛山へ向かう電車に乗るつもりだったんだ……ここを通りかかった時、 なぜか……気づいたら、 この地下駐車場の中へ入っていた。そして、 あの怪物に遭遇したんだ」

 

 「野毛山?」

 

 駿平が聞き返す。

 

 「野毛山へ登るのか?」

 

 「ああ」

 

 了は頷いた。

 

 「昔、 カメラマンになるのが夢だっただろ?俺も、 いつまでもこうして落ち込んでいるわけにはいかないと思ったんだ…そろそろ、 新しい人生を始めないとって。だから、 もう一度あの夢を追うことにしたんだ。病院にいた頃から、 ずっと考えてた。まずは、 写真を撮るところから始めようと思って、野毛山へ行こうとしたんだ。今はちょうど、 雪が降ってるって聞いて、特別な登山旅行をして、 一番美しい雪山の風景を撮影してみたい」

 

 「そうか」

 

 駿平は嬉しそうに了の肩を叩いた。

 

 「本当にお前らしいな。 よかったよ……ようやく、 お前も自分の夢を追い始めたんだな」

 

 「うん」

 

 了は小さく頷いた。

 

 「昔の約束のためにも……」

 

 そこまで言った瞬間、了の目が、 一瞬だけ暗くなった。声も低くなる。

 だが、 それはほんの一瞬で、すぐにいつもの表情へ戻る。

 

 「了、 一緒に行こうよ!」

 

 祥子が言った。

 

 「私と駿平で送っていく」

 「いや、 大丈夫だ」

 

 了は首を横に振る。

 

 「一人で行ける。 それに、 待ち合わせがあるんだ」

 「え?」

 

 駿平と祥子が顔を見合わせる。

 

 「旅行用の専用キャンピングカーを予約してあるんだ」

 

 了は笑いながら説明した。

 

 「前に俺の精神面の治療を担当してくれた主治医とも約束しててて、みんなで野毛山へ旅行する。 まあ、 治療のお礼も兼ねてね」

 

 「ああ……」

 

 二人が納得したところで、 駿平が冗談めかして笑った。

 

 「そういえば、 お前は昔、 横浜の高級住宅街に住んでたお坊ちゃんだったな。金は持ってるってわけか」

 「だったら、 私と駿平も一緒に連れてってよ~」

 

 祥子も冗談を言う。

 

 「ははは。また今度な」

 

 了が笑う。

 

 「お前たちにも、 それぞれやることがあるんじゃないのか?」

 「バレちゃったか」

 

 祥子が笑った。

 

 「じゃあ、 ここで別れよう。またな」

 「うん。 また会おう」

 

 地下駐車場の入口トンネルで了は地下駐車場の入口で、 駿平と祥子へ手を振って見送った。二人の姿が遠ざかり、 視界の中で次第に小さくなっていく。

 

 やがて二人の姿が見えなくなると了は広げていた手の指を、 ゆっくりと握り締めた。

 

 その手のひらには淡い青い光が映る。まるで閉じていく青い薔薇の蕾のようだった。

 やがて腕がゆっくりと下がる。カメラの入ったバッグを肩へ掛け直す。

 そして了も、 人気のない地下駐車場を後にした。

 

 向かう先は、横浜駅。

 

 

 

 駿平と祥子は横浜の市街地方面へ向かっていた。

 人影のない道を歩きながら、 二人は笑い合っていた。

 

 「おばさまは、 あなたが巨人に変身できることも知らないんでしょう?」

 

 祥子が尋ねる。

 

 「うん。俺に超能力があることすら知らないよ……ぐっ!」

 

 突然、駿平の顔から血の気が引いた。

 身体から一気に力が抜け、足元がふらつき、 倒れかける。

 

 「駿平!」

 

 祥子が慌てて支える。

 そして駿平の腕に触れた瞬間。祥子は気づいた。

 腕が震えている。そして手首から掌にかけて、 いつの間にか真っ赤な血が付着していた。

 祥子は反射的に駿平の腕を裏返した。

 やはり、両手首に、 犬の牙ほどの大きさの穴が二つずつ開いている。

 その周囲には、 はっきりと歯形が残り、そこから時折、 血が流れ出す。

 傷口の奥には脈打つ血管さえ、 かすかに見えていた。

 

 祥子はようやく理解した。あの時、了の前でもそして自分の前でも駿平は平気なふりをしていたのだ。

 

 「大丈夫なの、 駿平……?」

 

 駿平は歯を食いしばり、 両手で傷口を押さえていた。

 祥子は彼を支えながら、 心配そうに尋ねた。

 

 「大丈夫だよ。 心配するな」

 

 駿平は痛みに耐えながら、 無理に笑った。だが、その唇は、 ほとんど血の気を失っていた。

想像もできない。変身するたびに、 彼の身体へどれほどの負担がかかっているのか。

激しい戦闘になればなるほど消耗も激しくなるようだった。

 

 「あなた……毎回、 あんな姿になるたびに怪我をしてるの?」

 

 祥子の声が、 いつもより強くなる。心配で仕方がない。

 しかし、 駿平は答えなかった。

 黙り込む彼を見つめ、 祥子は静かに言った。

 

 「次からは、 あんな無茶をしてまで変身しないで……ね?」

 「はは……」

 

 駿平は苦笑した。

 

 「俺だって、 できることならそうしたいよ。でも、 そうしなかったら勝てない……人を助けられないんだ」

 

 祥子の心配そうな顔を見て、 駿平は再び笑った。

 そして、 少し間を置いて真剣な表情になる。

 

「でも……今回が最後になると思う」

「え?」

「今回変身して分かったんだ。身体がもうすぐ、 あの力を完全に解放した状態へ適応できる。そうなれば、 もう今みたいに体力を激しく消耗することもなくなる」

 

 祥子は黙った。それでも、 まだ不満そうな表情は消えない。

 彼女は自分の衣服から布を一枚取り出し、駿平の手首と掌に付いた血を、丁寧に拭き取っていった。

 傷口を一つ一つ確かめ、 布を巻いていく。

 その手つきを見つめる駿平の胸には、 温かな感情が広がっていた。

 

 「戻ったら……あの赤い巨人のこと、 報告するつもり?」

 

 傷の処置を終えた祥子が尋ねる。

 突然そう言われ、 駿平は黙り込んだ。これから待っている問題を、 改めて思い出したのだ。

 祥子も、 それ以上は何も言わない。彼が自分自身で考える時間を、 黙って待った。

 

 その時、駿平のポケットのスマートフォンが振動した。それが駿平の思考を遮った。

 

 「はい。 不動です」

 

 表示された番号を見て、 予想通り陸自基地からの電話だと分かった。

 

 「はい。 はい……申し訳ありません。急な命令を遅い時間になってから受けたため、 横浜に少し残っていました。 今から本部へ戻るところです」

 

 そこまで言った駿平は、 黙っている祥子を見た。彼女から聞いていた言葉を思い出す。

 そして少し迷った後、祥子が驚くようなことを口にした。

 

 「長官、 申し訳ありません。 独断で横浜駅付近にある駐車場を調査していました。そこで……目標と遭遇しました。ですが、 幸いなことに大事には至っていません。目標も、 すでに倒しました。はい……あの、 突然現れた赤い巨人です。ええ」

 

 駿平の電話は続く。

 

 「巨人が俺を助けて、 あの巨大な猟犬を倒した後、 赤い光になって消えました。映像ですか?申し訳ありません。 あの時は混乱していて、 撮影する余裕がありませんでした……」

 

 『分かった。 それでは、 できるだけ早く基地へ戻ってくれ』

 

 「はい。 了解しました」

 

 電話が切れ、駿平は携帯電話を下ろした。

 

 そして祥子を見る。驚いたような顔をしている彼女へ、 駿平は笑った。

 

 「行こう」

 

 

 

 同時刻。陸上基地・神戸分部作戦指揮センター

 

 深黒色の高級指揮官用制服を着た中年の男が、 通話を終えた受話器をゆっくりと元の位置へ戻した。

 

 鋭い鷹のような深い眼差しの男はまず、 前方の巨大なモニターを見た。

 そこに表示されていた波形は、 すでに平坦になっている。

 次に、 作戦室に残っている数名の自衛隊員へ視線を巡らせた。

 最後に――。

 

 ずっと自分の言葉を待っていた、 別の自衛官と視線を合わせる。

 

 「……これで確認できました」

 「よし」

 

 男は頷いた。

 

 「予想通りだ。 すべて順調に進んでいる」

 「行こう」

 「我々も本部へ戻る。 あの男から詳しい報告を聞こう」

 

 二人の短いやり取りは、 それだけで終わり作戦指揮室の扉を出ていく。

 その背後で江国三尉は、 手元のデータ報告書からゆっくりと目を上げた。

 そして、 先ほど上官が受話器を取っていた軍用電話を見つめる。

 その瞬間、彼の脳裏には過去の記憶が蘇り始めた。

 それは、 最初のオルガメントであるワームオルガメントが倒された翌日のことだった。

 

 

 午前6時。横浜市内の病院。

 

 「赤い……巨人?」

 

 江国は病室のベッドに横たわって眠っている青年を一瞥した。

 そして振り返り、 羽生を見る。

 

 「そうなのか?」

 

 羽生は静かに頷いた。それ以上は何も答えない。

 江国は特に気にすることなく、 病室の窓へ視線を向けた。

 窓の外は、 ようやく空が白み始めたばかりだった。

 しばらく考え込んだ後――。

 

 「分かった。この件は、 しばらく外部には出さないでくれ。俺にも考えがある」

 

 羽生は静かに言った。

 

 「お前がそう言わなくても、 俺はそうするつもりだった」

 「俺は自分の仕事をしただけだ」

 「この青年のことは、 たまたま手を貸しただけだった」

 「まさか、 こんな大きな収穫があるとは思わなかったがな」

 

 そして――。

 

 「お前の中にあった疑問も、 少しは解けただろ?」

 

 江国は頷いた。

 

 「本当に……ありがとう」

 「お前に頼まれていたことは、 もう済ませた」

 

 羽生はそう言った。

 

 「これ以上話すことはない。 俺はもう行く。鳴海のところにもいかなければならないからな」

 

 江国は 「好きにしろ」 とばかりに手を上げた。

 しかし、 羽生田は部屋を出る直前に振り返った。

 

 「ただし、 一つ忠告しておく。この件には、 上層部が必ず気づくぞ。誰かが話さなくても、 あいつらは異常なほど勘が鋭い。いずれ必ず調べ始める……そう長くは隠しておけないぞ」

 

 そう言い残すと、 江国が答えるより先に扉を閉めた。

 

 「……」

 

 羽生が去った後も、 江国はしばらくベッドの上の青年を見つめていた。

 そして不意に、 奇妙な笑みを浮かべた。

 

 「ふっ……まさか、 五年間も隠し通していたとはな。お前……本当に大した奴だよ」

 

 

 江国は、 あの時の自分と同じように、 しばらく軍用電話を見つめていた。

 そして、 手にしていた軍帽で机を軽く叩いていた手を止め、ゆっくり軍帽を被り立ち上がった。

 

 背筋を伸ばして一歩、また一歩と江国は作戦指揮室から静かに歩き去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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