「怨術・精神霊傷」
青い光が神戸全域へ広がり、魂を抜かれた人々が次々と倒れ、意識を失う。
「了!」
ネイバースが叫ぶ。
「もうやめろ!その街の人々を放せ!お前自身も、もう苦しむ必要なんてないんだ!」
駿平は赤い念動力で青い光を防ぎながら、心を直接了へ届けた。
「お前が最初に追い求めていた夢を思い出せ!周りを見ろよ!今のお前の姿が、本当にお前の望んだものか!鞘香だって、そんな世界望んでいない!」
「鞘香……」
アスモンティスの手から、青い光が少しずつ消えていく。
「そうだ、了!」
祥子も叫んだ。
「鞘香も、駿平も、私もあなたに帰ってきてほしい!昔みたいに、また一緒に夢を追いたい!お願い……!」
アスモンティスの手が震えた。
そして一歩、駿平へ近づいた。
手を伸ばす。駿平も手を伸ばす。
二人の手が、触れようとした。
祥子の表情が明るくなる。
「了……!」
その瞬間。
「愚かな」
アスモンティスの顔が冷たい笑みへと変わった。恐ろしい笑み。
伸ばした手が駿平の手をすり抜け、胸のY字クリスタルへ向けられた。
「……!」
「怨術・呪霊掌」
青い光が爆発し、ネイバースの巨体が百メートル以上吹き飛ぶ。
高層建築を次々と破壊し、瓦礫の山へ叩き落とされた。
「駿平!」
祥子が叫ぶ。
アスモンティスは笑った。
「言った筈だ。余は亡霊の集合体、アスモンティスである。そんな小細工で騙せると思ったか?片腹痛いわ!」
アスモンティスが両手を組んだ。
「怨術・体外離脱」
街に残った人々が、操り人形のように動き始め、魂が身体から引き抜かれていく。
赤い巨人の目に、その光景が映った。
「やめろ……」
自衛隊員たちの魂まで吸い上げられていく。
「やめろおおおっ!」
ネイバースが立ち上がる。だがもはや身体は限界。それでも力を放つ。
しかし青い障壁に阻まれる。
「どうしてだ……!どうして、こんなことに……了!」
祥子は泣きながら叫んだ。
「駿平!もう、それは了じゃない!悪魔なの!」
「これ以上、誰も死なせないで!」
「正義の英雄として――」
祥子の声が震える。
「お願い……!」
「昔みたいに、私たちを守って……!」
ネイバースの腕がゆっくり下がった。
長い沈黙。もはや立っているのがやっと。
そして――
「ああああああっ!」
両腕を激しく組み合わせた。
脈動光が空間を走る。
祥子は見た。
ネイバースの眼灯から光の涙が流れている。
右腕が輝く。
左手が右腕を横切る。
そして――
L字。
「……」
駿平の心に、過去の光景が浮かんだ。
サッカー場。
カメラのシャッター。
四人で笑った時間。
鞘香。
祥子。
了。
そして自分。
腕をL字に組んだライジング・シュトロームが放たれた。
アスモンティスの胸へ直撃する。
「ぐ……お……!」
体外離脱が途切れる。
身体中に宿った霊が震える。
そして一瞬で、青い身体が光の粒へと砕け散った。
光の粉が神戸の街へ舞う。
ネイバースの腕が落ちる。胸のエネルギーランプが明滅している。
祥子は顔を背けた。涙が頬を伝った。
だが――
「ふふふふふふ……」
別の声がした。
ネイバースが顔を上げると散っていた青い光が、再び集まっている。
一つまた一つと細胞のように集まり、肉体を形成していく。
そしてアスモンティスが蘇った。
「どうして……」
祥子が呟く。
「言ったはず。余は不滅。この世に霊のある限り余を消す事は叶わぬ。すべての亡霊の怨念が、そう簡単に消えると思うか?」
ネイバースの身体が揺れた。
「ぐ……」
膝をつく。胸のランプが激しく点滅している。
「エネルギーを使いすぎたようだな」
アスモンティスが嘲笑する。
「もう限界だろう?」
青い光が再び街を覆う。
人々の意識が吸い上げられていく。
ネイバースは下を向いた。
聞こえるのは、自分の鼓動だけ。やがて、それすら弱くなっていく。
接近して来たアスモンティスの攻撃の応酬がネイバースを襲う。
「その弱さ!情けなさ!愚かさ!もはや愛おしさすら覚える」
その目の前を、青白い魂が舞っている。
増えている。どんどん増えている。
「駿平。聞いてほしい」
「なんだよ……。まだ何か手があるのか?」
「ある」
その返答に、駿平は顔を上げた。
「勝てるのか?」
「確実に仕留められる」
ネイバースは、わずかに間を置いた。
「ただし、それには私と君の生命エネルギーのすべてが必要になる」
駿平の表情が止まった。
「……すべて?」
「私たちの融合を極限まで進める。残されたエネルギーを一点に集中させ、奴を倒すための一撃を放つ。それならば、勝てる」
「だったら……!」
「駿平」
ネイザースの声が、駿平の言葉を遮った。
「その一撃を放てば、君の肉体は生命を維持できなくなる。私にも、君を救うだけのエネルギーは残らない」
風が吹き抜ける。
駿平は、何も言わなかった。
「君は死ぬ」
ネイザースは、はっきりと告げた。
「この戦いに勝つことはできる。しかし、その代償として君の命を失う。……それでも、私はその方法を選ぶべきなのか、判断できない」
「お前……」
「私は君と出会い、多くのことを学んだ。人間がなぜ他者を守ろうとするのか。なぜ、失うことを恐れながら、それでも前に進むのか」
ネイザースの声は、いつもと変わらず落ち着いていた。
けれど、その言葉の奥には、これまでにない迷いがあった。
「君の想いが私の力だと、私は言った。だが、その想いを理由に君の命を奪うのなら……私は、何のために君と戦ってきたのだろう」
駿平は俯いた。
自分の命と引き換えにすれば、敵を倒せる。
それは、あまりにも単純な答えだった。
けれど、その先に自分はいない。
友を取り戻せたとしても、その友の隣に戻ることはできない。守りたかった人たちが生き延びたとしても、自分はその未来を見届けられない。
怖かった。
本当は、まだ生きていたかった。
「……なあ、ネイザース」
「何だ、駿平」
「お前は、どうしたいんだ?」
ネイザースは答えなかった。
「駿平。聞いてほしい」
「なんだよ……。まだ何か手があるのか?」
「ある」
その返答に、駿平は顔を上げた。
「勝てるのか?」
「確実に仕留められる」
ネイザースは、わずかに間を置いた。
「ただし、それには君の生命エネルギーのすべてが必要になる」
駿平の表情が止まった。
「……すべて?」
「私たちの融合を極限まで進める。残されたエネルギーを一点に集中させ、奴を倒すための一撃を放つ。それならば、勝てる」
「だったら……!」
「駿平」
ネイザースの声が、駿平の言葉を遮った。
「その一撃を放てば、君の肉体は生命を維持できなくなる。私にも、君を救うだけのエネルギーは残らない」
風が吹き抜ける。
駿平は、何も言わなかった。
「君は死ぬ」
ネイザースは、はっきりと告げた。
「この戦いに勝つことはできる。しかし、その代償として君の命を失う。……それでも、私はその方法を選ぶべきなのか、判断できない」
「お前……」
「私は君と出会い、多くのことを学んだ。人間がなぜ他者を守ろうとするのか。なぜ、失うことを恐れながら、それでも前に進むのか」
ネイザースの声は、いつもと変わらず落ち着いていた。
けれど、その言葉の奥には、これまでにない迷いがあった。
「君の想いが私の力だと、先ほど私は言った。だが、その想いを理由に君の命を奪うのなら……私は、何のために君と戦ってきたのだろう」
駿平は俯いた。
自分の命と引き換えにすれば、敵を倒せる。
それは、あまりにも単純な答えだった。
けれど、その先に自分はいない。
友を取り戻せたとしても、その友の隣に戻ることはできない。守りたかった人たちが生き延びたとしても、自分はその未来を見届けられない。
怖かった。
本当は、まだ生きていたかった。
「……なあ、ネイバース」
「何だ、駿平」
「お前は、どうしたいんだ?」
「俺の命を使えば勝てる。でも、お前はそれでいいのか?」
「私は……」
言葉が途切れる。
「君を失いたくない」
駿平は顔を上げた。
ネイバースは続ける。
「君と出会う前の私なら、勝利の確率だけで判断していただろう。だが、今は違う。君を犠牲にして得る勝利を、ただ正しい選択だとは思えない」
「そっか……」
駿平は、かすかに笑った。
「お前も、変わったんだな」
「君の影響だろう」
「だったらさ」
駿平は、震える足で立ち上がった。
「俺にも、ちゃんと考えさせてくれよ」
「駿平?」
「死ぬのは怖い。そりゃそうだろ。まだやりたいことだってあるし、みんなのところに帰りたい」
拳を握る。
「でも、ここで何もしなかったら、俺たちは全員終わりなんだろ?」
ネイバースは答えなかった。
「だったら、俺が決める。お前に勝手に背負わせたりしない」
駿平は敵を見据えた。
もう身体は限界だった。残された時間も、力も、あまりにも少ない。
それでも、最後に残された選択だけは、自分の意志で決めたかった。
「ネイバース。俺に、その方法を教えてくれ」
「……本当に、いいのか」
駿平は正直に答えた。
「できることなら、死にたくない。でも……決めるためには、知らなきゃいけないだろ」
ネイバースは長い沈黙のあと、静かに応じた。
「わかった」
そして、最後にもう一度だけ問いかける。
「駿平。君が選んだ道の先に、君自身の進む先に光がないとしても……それでも、君は進むのか」
駿平は目を閉じた。
胸の奥に浮かぶのは、帰りたい場所。もう一度会いたい人。そして、ここまで一緒に戦ってきた相棒の声。
やがて、駿平は目を開いた。
「……俺、帰りたいよ」
『駿平』
「みんなのところに帰って、もう一度話したい。やり残したことだっていっぱいある。こんなところで死ぬなんて、絶対に嫌だ」
声が震えた。
それでも、駿平は言葉を続けた。
「怖いんだ。自分が死ぬことも、何もかも終わっちまうことも」
握りしめた拳に、力がこもる。
「でもさ……俺が帰りたいと思うのと同じくらい、みんなにも帰ってきてほしいんだよ」
脳裏に浮かぶ顔。
守りたかった人たち。取り戻したい友。そして、今、自分と一緒にいる相棒。
「俺だけ生き残っても、みんながいなくなったら意味がない。みんなを守るためにここまで来たんだ。だったら……最後まで、やれることをやりたい」
『それが、君の答えなのか』
「ああ」
駿平は頷いた。
「俺の命を使って、あいつを倒す」
ネイバースは沈黙した。
駿平は、その沈黙を遮らなかった。
自分の決意を伝えれば、ネイバースが納得してくれる。そんな簡単なことではないとわかっていたからだ。
やがて、ネイバースが口を開いた。
『……君の命を、私に預けるということか』
「違うよ」
駿平は首を横に振った。
「俺の命は俺のものだ。お前に押しつけるつもりはない」
一度、息を吸う。
「俺が決めたんだ。お前と一緒に戦って、俺自身が選んだことなんだよ」
『……そうか』
「だから、最後まで付き合ってくれ。俺一人じゃ、あいつには勝てない。お前の力が必要なんだ」
駿平は、まっすぐに前を見た。
「頼む、ネイバース。最後の最後まで俺と一緒に戦ってくれ」
その言葉を聞いた瞬間、ネイバースの意識に、これまでの戦いがよみがえった。
初めて駿平と心を通わせたとき。
互いの違いに戸惑ったとき。
傷つき、倒れ、それでも立ち上がったとき。
そして、駿平が何度も口にした言葉。
――一緒に戦おう。
『……わかった、駿平』
その声には、もう迷いはなかった。
『君の決意を受け取ろう。そして、私も全力を尽くす』
「ああ」
一歩、前へ出る。
駿平はゆっくり顔を上げた。
そして――祥子を見た。
彼女は瓦礫の街に立っている。
汚れた制服。涙に濡れた顔。
その姿を見た瞬間、祥子には分かった。その眼差しが何を意味しているのか。
「祥子……」
声にはならない。けれど、確かに伝わった。
――母さんを頼む。
――俺は、もう戻れない。
――ごめん。
祥子の身体が震えた。
「……嫌」
ネイバースが立ち上がる。
「嫌あああっ!」
祥子が叫ぶ。
「駿平!」
だが、もう届かない。ネイバースは振り返った。
目の前にはアスモンティス。その身体の奥に、カメラを持って笑う了の姿が見える。
「了!」
アスモンティスが振り返った。
「昔、お前が言ったよな」
「心の中にある、本当の正義を探せって」
駿平は笑った。
悲しい笑顔だった。
「だったら――」
「今度は俺がお前と一緒に探す」
両腕を回す。
Y字クリスタルへエネルギーが集まる。
五つのエネルギーランプが猛烈に輝く。
空気が渦を巻き、街中から風が集まってくる。
ネイバースの身体が銀白色に輝いた。
片腕を胸の前へ。もう片方の拳を後方へ引く。
全エネルギーを一点へ集中する。
閃光浄化光線-ライジング・イレイザーレイ・シュトローム-
赤い光が拳から放たれた。アスモンティスの身体へ直撃。
巨体が後退する。
「ははは!何度言わせるつもりだ。霊ある限り余は不滅……な、何だ……これは?」
アスモンティスの体に異変が起きた。
「余の体に宿る霊が浄化される!いや、また憑依している!?いや、また浄化だと!?どうなってる!?」
ネイバースと駿平が命がけで放った光線。霊の浄化と憑依という相反する2つの力を同時に浴びせられたことにより、体が浄化と憑依を無限に近い値で連鎖させ、フリッカーが発生してしまった。
やがてアスモンティスの動きが止まる。
「……?」
指が動かない。腕が動かない。脚も。身体の内部まで。
「まさか……」
肉体の全てが停止していく。
「余の身体が……」
ネイバースの胸のランプが激しく点滅する。
「貴様……まさか自分の力を……全て使って余の肉体の動作を封じたというのか?」
赤い巨人は答えない。
ただ、拳を突き出し続ける。
「あ、有り得ない!そのような事をすれば貴様もただでは済まされぬのだぞ!?」
やがて光束が細くなり、途切れた。
ネイバースの身体が揺れる。もう力は残っていない。
しかしアスモンティスの身体も動かない。完全に封じられている。
「……何をするつもりだ」
駿平は歩き出した。
一歩。また一歩。時間が止まったように静かだった。
目と胸の光が弱くなる。
最後の力を振り絞り、駿平は走った。
「やめろ!」
アスモンティスが叫ぶ。
「貴様、まさか――!」
駿平は止まらない。
そして両腕で了の巨体を抱きしめた。
そのまま二人は海へ落ちていった。
海面を突き破る。
二つの巨大な身体が、深海へ沈んでいく。
3700メートル。さらに深く。
地殻を越える。3480キロにも及ぶ地層を突き抜ける。
そして地球の中心。
燃え続ける灼熱の地核へ。
駿平は残された赤い光のすべてを使った。
了の身体を包む。
再生能力を封じ、青い光を封じる。
そして、そのまま二人で地球の最深部へ突入した。
灼熱。光。炎。
肉体が燃える。
「ぬうううう!忘れはせん!忘れさせはせんぞおおおお!!」
アスモンティスの断末魔が響く。
「何故だ!何故忘却する!何故現状維持という閉塞を受け入れる!都合の良い時だけ思い出し、そのまま日常に帰るだけで数多の怨念が納得すると思っているのかあああ!!」
ネイバースの脳内に別のビジョンが浮かぶ。アスモンティスによく似た謎の巨人が他の巨人と戦っているイメージだった。
奴はどこかに現れていたというのか。
「忘れてないよ。いつまでも胸の中で生き続ける。でも死んだ者は二度と帰らない。だから、終わりにしよう」
「余は……怨霊……この世に霊のある限り、必ずや蘇る……いつの日か……」
駿平自身の光も、了の青い光へ溶け込んでいく。
アスモンティスの気配は完全に消えた。
地核のエネルギーが噴き出す。
それを抑え込む。
少しずつ。少しずつ。
「……駿平」
了の声が聞こえた。
「……」
「……よくやった」
その声は、かつての友のものだった。
「……本当に……」
「よくやった」
二人の身体が光に包まれる。その光は地上へ向かって伸びていった。
海面。一瞬、そこに二人の青年の姿が見えた。
赤い光に包まれた駿平。
青い光に包まれた了。
了が駿平の耳元へ顔を寄せる。
そして、何かを呟いた。
涙が光となって浮かぶ。
その涙は海流とともに上へ流れていく。
やがて二人の姿は燃え上がる地核の光の中へ消えた。
横浜。
祥子は海を見つめていた。
膝をつき、両手で口を覆っている。
「う……」
声にならない。
そして――
「うああああ……」
とうとう泣き崩れた。
その後ろには、駆けつけた陸上自衛隊員たち。警視庁の警察官たち。
誰も言葉を発しない。
ただ一列に並び、海へ向かって敬礼した。
最も厳粛な、最高の敬礼だった。
その瞬間、海が再び沸騰した。
巨大な水柱が天へ突き上がる。
「……!」
人々が恐怖に身を固くする。
大地が再び揺れ始めた。
「まさか……」
「海底火山か?」
「大津波が来るのか!」
だが、観測員が叫んだ。
「いえ、違います!地核からのエネルギーは強いですが、津波を引き起こすほどではありません!むしろ――」
モニターを見る。
「弱まっています!」
人々が海を見る。
そのときだった。
巨大な水柱の上の一筋の赤い光。
そしてもう一筋の青い光。
二つの光が、ゆっくりと空へ昇っていく。
祥子は空を見上げた。
あの旋律が聞こえる。
悲しく、寂しい。
あの『安魂曲』。
そして駿平の声。
「ごめん、祥子」
「許してくれ」
「俺は、これしか方法がないと思った」
「みんなを救うために」
「了を、本当の意味で救うために」
「今なら分かる」
「正義の英雄っていうのは――」
「守るべき命のためなら、自分の命を差し出すことも恐れないことなんだ」
「たとえ、一番大切な仲間を失う痛みを背負うことになったとしても」
「それでも、守る」
「それが俺の見つけた――本当の正義だ」
祥子の頬を涙が伝う。
「ごめん」
「君との約束を、守れなくて」
「だから――」
「どうか生きてほしい」
「俺たち四人が一緒に見つけた夢を――」
「これからも、君が繋いでいってくれ」
「それが――」
「俺たち四人を結んでいた、本当の絆だから」
「……駿平」
祥子は空を見上げた。
赤と青。
二つの光は、やがて一つの光景となって空へ溶けていった。
海は静かになった。
横浜の街を覆っていた煙も、少しずつ薄れていく。
瓦礫の街に残された人々は、誰も声を上げなかった。
ただ空を見上げていた。まるで、二人の魂を見送るかのように。
祥子は涙を拭った。
そして、静かに呟いた。
「……約束する」
「駿平」
「あなたたちの夢は――」
「私が、絶対に繋いでいくから」
遠い空の彼方で、赤い光と青い光が一瞬だけ重なった。
それはまるで、かつて四人の少年少女が追いかけた、遠い日の夢のようだった。