NEIGHBOR-鎮魂戦争-   作:トライアゲイン

7 / 14
廃墟の激闘

 深夜の横浜市臨海部。

 

 海に面した造船所は、夜の闇に沈んでいた。

 

 巨大なクレーンが幾本も並び、建造途中の船体が黒い影となって浮かび上がっている。岸壁には資材を積んだコンテナが並び、船舶の修理や組み立てに使われる大型の鋼材が、工場の奥へと運び込まれていた。

 

 普段なら、溶接の火花や機械の駆動音が絶えない場所だ。

 

 しかし、今夜は違った。

 

 作業員は全員退避している。工場内の照明も必要最低限に落とされ、広大な敷地には海風が吹き抜ける音だけが残っていた。

 

 その静寂の中に、陸上自衛隊と警察の部隊が展開していた。

 

 周辺道路には規制線が張られ、警察車両が交差点を封鎖している。住民には緊急避難が指示され、造船所から半径五キロの範囲は立ち入り禁止となった。

 

 一日のうちに発生した突然の避難命令に、住民の反発は強かった。

 

 何が起きているのか、十分な説明もないまま家を出ろと言われたのだ。当然だろう。

 

 それでも警察と自衛隊は一軒ずつ説明を重ね、夕方には住民を避難区域の外へ誘導した。

 

 やがて、造船所周辺から人影が消え、残されたのは、任務に就く隊員たちだけだった。

 

 駿平と羽生は、互いの腕時計を確認した。

 

 予定時刻が迫っている。

 

 駿平は海の方へ目を向けた。

 

 波は穏やかだった。

 

 だが、その地下では、巨大な何かがこちらへ向かって進んでいる。

 

「……時間です」

 

 駿平が言った。

 

 羽生は無言で頷く。

 

 二人は待機していた部隊へ合図を送り、事前に決められた配置につくよう指示した。

 

 作戦が始まった。

 

 

「しっかし、本当にここまでやる必要があるのかねぇ」

 

 造船所から離れた場所で、隊員たちが小声で話していた。

 

「不動の予測が外れたら、とんでもない騒ぎになるぞ」

 

「上はそれだけ奴を信用しているってことだろ」

 

 別の隊員が、周囲に並ぶ装備を見渡した。

 

「小銃と機関銃だけじゃない。120ミリ迫撃砲まで六門。84ミリ無反動砲に、多目的誘導弾の発射装置。NBC偵察車と救護班まで用意している。たった一匹の生物を相手にする規模じゃない」

 

「相手の大きさも能力も分かっていないんだ。普通の災害派遣とは違う」

 

「それにしたってな……」

 

「不動本人の力だけじゃないだろ。江国三尉をはじめ、上層部からの信頼がある」

 

「羽生警部も、ただの警察官じゃないらしいぞ」

 

「どういう意味だ?」

 

「なんでも元陸上自衛官だったそうだ。それもかなり上の階級だったとか」

 

 隊員の一人が、造船所の方を見た。

 

「それに不動も妙な奴だ。これまでの特殊捜査でも、あいつの推測が何度も当たっている」

 

「何か特別な情報を持っているんじゃないのか?」

 

「さあな……」

 

「お前たち、何をこそこそ話している!」

 

 上官の声が飛んだ。

 

 二人は慌てて背筋を伸ばす。

 

「今は街の安全がかかっている。無駄口を叩いている暇があったら暇があったら持ち場につけ!」

 

「了解!」

 

 隊員たちは敬礼し、20式小銃を携行し直すと、暗い道路の向こうへ散っていった。

 

     

 

「まるでゴーストタウンだ」

 

 造船所の内部。羽生は大型コンテナの上に腰を下ろし、吸い終えた煙草を携帯灰皿へ押し込んだ。

 

 工場内は薄暗かった。

 

 天井から吊り下げられた鋼材。組み立て途中の船体。床に残った泥と油の跡。奥には溶接用の設備や、船舶の外板を加工するための大型機械が並んでいる。

 

 わずかに開いた鉄扉から海風が吹き込み、金属製の扉が軋み、ギィギィと不快な音を立てている。

 

 遠くには、月明かりを受けた海が見える。

 

 穏やかな景色とは裏腹に、工場内には張り詰めた緊張が漂っていた。

 

 駿平、市川、大神、羽生。

 

 四人は、怪物が現れると予測された場所で待機していた。

 

「羽生警部」

 

 駿平が口を開いた。

 

「以前、自衛隊にいたんですか?」

 

 羽生田の表情がわずかに動いた。

 

「……どうしてそう思う?」

 

「ほかの警察官と雰囲気が違います。それに、自衛隊員たちも羽生警部に対してだけ、少し態度が違う」

 

「なかなか鋭いじゃないか」

 

 横から大神が口を挟んだ。

 

「その通りだ。羽生警部は元陸上自衛官だ。それも陸佐だった」

 

「え……?」

 

 駿平は目を見開いた。

 

 市川も驚きを隠せない。

 

「そんな……江国三尉からは何も聞いていません」

 

「大分昔の話だ」

 

 羽生田は淡々と言った。

 

「隊を離れて、もう七年近くになる。わざわざ話すようなことでもない」

 

 そう言って、腕時計を確認する。

 

「……本当に来るのか?」

 

「可能性は八割以上です」

 

「八割か」

 

「絶対ではありません」

 

 駿平は、確信を持っているようには見えなかった。

 

 それでも、その視線は一度も揺らがなかった。

 

 羽生はそれ以上問い詰めず、再び周囲を見渡した。

 

 四人は沈黙した。

 

 時間だけが過ぎていく。

 

  

 

 徐々に月が高くなった。

 

 海風が冷たさを増している。

 

 工場の外では、一般警察と治安部隊がさらに後方へ下がり、周辺の封鎖を維持していた。

 

 造船所から約1キロ離れた地点にはNBC偵察車と生物災害対処部隊。その外側には歩兵中隊が展開し、土嚢と掩体を利用した防御陣地が築かれている。

 

 20式小銃。

 

 5.56ミリ機関銃MINIMI。

 

 120ミリ迫撃砲。

 

 84ミリ無反動砲。

 

 96式多目的誘導弾システム。

 

 そして、地下振動と異常な生体反応を監視するための各種センサー。

 

 通常の警備や災害派遣では考えられないほどの戦力だった。

 

 そのすべてが、たった一匹の正体不明生物を待ち構えている。

 

 だが、何も起こらなかった。

 

 センサーに目立った反応はない。

 

 市川は落ち着かない様子で時計を見た。

 

「……不動先輩」

 

「何だ?」

 

「少し外を見てきます」

 

 市川が立ち上がり、鉄扉へ向かった。

 

 その瞬間だった。

 

 駿平の目が見開かれた。

 

「市川!戻れ!」

 

「えっ?」

 

 駿平は飛び出すように市川の腕を掴み、力任せに引き戻した。

 

 直後、激しい地響きと共に大地が激しく揺れた。

 

「うわっ!」

 

 市川が床に倒れ込む。

 

 彼が今まさに通り抜けようとしていた鉄扉の枠が、目に見えて歪んだ。

 

 次の瞬間、轟音とともに扉が崩れ落ちる。

 

「走れ!」

 

 駿平と羽生の声が重なった。

 

「別の出口へ!奴は足元からくるぞ!」

 

 四人は一斉に走り出した。

 

 工場そのものが崩壊を始めていた。

 

 壁に亀裂が走り、天井から鋼材や配管が落下する。コンクリートの床が波打つように盛り上がり、砂塵が視界を覆った。

 

「何なんだ、これは!」

 

 市川が叫ぶ。

 

「地面が……!」

 

「止まるな!」

 

 駿平は前を見据えた。

 

 足元の異常は、単なる地震ではない。

 

 地下から何かが迫っている。

 

 四人は、事前に用意していた信号銃を握り締めた。外の部隊へ異常を知らせるためのものだ。

 

 しかし、出口まであと少しというところで、大神の足元が崩れた。

 

「大神!」

 

 床が陥没する。

 

「うわあああっ!」

 

 大神の左脚が、流砂のように崩れる泥の中へ引きずり込まれた。

 

 羽生がとっさに腕を掴む。

 

 駿平と市川も加わった。

 

「引っ張れ!」

 

 三人が力を込める。

 

 だが、大神の身体は抜けなかった。むしろ泥は、獲物を呑み込むように彼の脚を深く引きずり込んでいく。

 

 四人の足元へ亀裂が広がり、床が次々と流砂へ変わっていった。

 

「このままじゃ、全員が沈む!」

 

 駿平は顔をしかめた。

 

 出口を見る。

 

 天井から落ちてきた瓦礫が、最後の脱出口を塞ぎ始めていた。

 

「くそっ……!」

 

 逃げ道が消える。

 

 そのとき――。

 

 

 巨大な金属音が響いた。

 

 駿平のすぐ近くに、鋼管の束と厚い鉄板が落ちてきた。

 

 駿平の目が鋭くなる。すぐにその鋼管を掴むと、もう片方の手で、床に落ちた鉄板を蹴り出した。

 

「市川!」

 

「はい!」

 

「訓練で似たようなことをやっただろ!」

 

 市川は一瞬だけ目を見開いた。

 

 そして、意図を理解した。

 

「分かりました!」

 

 市川が鉄板へ飛び乗る。

 

 駿平は鋼管の束を持ち上げた。

 

「一か八かだ!」

 

 全力で投げる。

 

 鋼管が出口の歪んだ枠へ引っ掛かった。

 

「市川、今だ!」

 

 市川が全力で走り、鉄板を踏み台にして跳躍した。

 

 流砂を飛び越え、出口の向こうへ着地する。

 

「先輩!」

 

 市川は鋼管に結びついたワイヤーを掴んだ。

 

 手のひらが裂け、血が流れた。

 

 それでも離さない。

 

「これを!」

 

 ワイヤーが駿平の手元へ届く。

 

「羽生警部、大神を!」

 

「分かった!」

 

 羽生は大神の身体を鉄板へ固定するように支えた。

 

 三人がワイヤーを掴む。

 

 引く。

 

 少しずつ、鳴海の身体が流砂から抜けていく。

 

 しかし、崩壊は止まらなかった。

 

 頭上から瓦礫が降り注ぎ、鉄板が滑る。

 

 駿平と羽生の足元も、流砂へ沈み始めた。

 

「先輩……早く!」

 

 市川が歯を食いしばる。

 

 血まみれの手で、必死にワイヤーを支えた。

 

「もう……持ちません!」

 

 そのとき。

 

 駿平の身体が、わずかに震えた。

 

 瞳の奥に、一瞬だけ紅い光が走る。

 

 次の瞬間。

 

 流砂の底から、猛烈な振動が噴き上がった。

 

 足元の砂が爆発し、四人の身体がまとめて宙へ放り出される。

 

 そして、奇跡的に全員が出口付近へ転がり落ちた。

 

「……助かった」

 

 羽生田が息を吐いた。

 

 だが、すぐに鳴海の叫びが響いた。

 

「ぐあああああっ!」

 

「大神!」

 

 三人が振り返る。

 

 大神の左脚は、膝から下が失われていた。

 

 血が瓦礫の上へ滴り落ちている。

 

 崩れた床の下に潜んでいた何かが、彼の脚を食いちぎったのだ。

 

 羽生はすぐに衣服を裂き、負傷箇所を強く圧迫して止血を始めた。

 

「しばらく我慢しろ!脱出するぞ!」

 

 大神の腕を自分の肩へ回す。

 

「信号を!」

 

 駿平と市川が信号銃を構えた。

 

 しかし、大地が再び震えた。

 

 工場中央の床が大きく陥没する。

 

 砂の底から、巨大な何かが這い上がってくる。

 

 そして、ぐちゃぐちゃと何かを噛み砕く音がする。

 

 暗闇の中から、巨大な影が姿を現した。

 

 花弁のように開く巨大な口。

 

 その内側には、無数の逆三角形の牙が並び高速で回転している。口の両側からクワガタムシの顎のような角が展開された。

 

「来るぞ……!」

 

 羽生が20式小銃を構える。

 

 駿平と市川も続いた。

 

 地底から現れた怪物、巨大なミミズだった。

 

「下がれ!」

 

 羽生は大神を支えたまま射撃した。

 

 駿平と市川も銃口を向ける。

 

 銃声が工場内に反響した。

 

 弾丸が怪物の口腔へ叩き込まれる。

 

 怪物が絶叫した。

 

「信号を!」

 

 駿平が叫ぶ。

 

 四人は工場から脱出し、避難港に面した建物が、完全に崩れ落ちた。

 

 瓦礫を吹き飛ばしながら、黒い巨体が追ってくる。

 

「中隊!火力支援を!」

 

 駿平と市川が叫んだ。

 

 外で待機していた自衛隊員たちが、一斉に動いた。

 

「各班、射撃準備!」

 

 20式小銃とMINIMIが構えられる。

 

 無反動砲の射手が照準を合わせ、迫撃砲班は射撃諸元を確認した。誘導弾の発射装置も目標へ向けられる。

 

 指揮官が腕を振り下ろした。

 

「撃て!」

 

 夜空を砲火が染めた。

 

 大量の弾丸が怪物へ集中する。

 

 誘導弾が花弁状の口へ突き刺さり、迫撃砲弾が巨体の周囲で炸裂した。

 

 怪物が大きくのけ反る。

 

 その隙に、駿平たちは防御陣地へ走った。

 

「助かった……!」

 

 市川が息を切らす。

 

 羽生は大神を救護班へ引き渡した。

 

「大神がやられた!止血を続けろ!輸送の準備を!」

 

 医療班が鳴海を担架へ移す。

 

 鳴海は痛みに顔を歪めながらも、意識を失わないよう歯を食いしばっていた。

 

 しかし――戦いは終わっていなかった。

 

     

 

 駿平と市川はNBC偵察車へ入り、地下振動センサーの表示を確認した。

 

「……あれだけ撃ってなんで死なない」

 

 駿平が呟く。

 

 怪物の反応は消えていない。

 

 その直後だった。

 

 怪物が突然、天へ向かって口を開いた。

 

 まるで人間の絶叫のような耳をつんざくような咆哮が響き渡る。

 

「うっ……!」

 

 隊員たちが耳を塞いだ。

 

 音が頭蓋の内側へ直接突き刺さるようだった。

 

 身体から力が抜けていく。

 

 射撃を続けていた隊員たちが、次々と膝をついた。無反動砲の射手も、誘導弾の操作員も、迫撃砲班も、動きを止めてしまう。

 

 怪物の咆哮は、単なる音ではない。特殊な音波が、部隊の装備と隊員たちの身体へ影響を及ぼしている。

 

 戦場全体の機能が、急速に失われていった。

 

 だが、NBC偵察車内にいた駿平たちは、事前に起動していた防音・防振対策によって、かろうじて動ける状態を保っていた。

 

「今だ!」

 

 駿平が車外を見た。

 

 怪物が地中へ潜り始めている。

 

「地質を変換する気だ!」

 

 その声を受け、迫撃砲班が再び射撃を開始した。

 

 120ミリ迫撃砲弾が、怪物の潜行地点へ降り注ぐ。

 

 轟音が響き、砂煙が迸る。

 

 地面が大きく抉れた。

 

 しかし怪物の姿は消えていた。

 

 代わりに、地面が流砂へ変わり始める。

 

「後退!」

 

 自衛隊員が叫んだ。

 

 だが、遅かった。

 

 足元が崩れていく。

 

「うわああっ!」

 

 兵士たちが次々と砂へ沈んでいった。

 

 走っても逃げられない。

 

 そして巨大な口が、砂の中心から突き出した。

 

 巨大な獲物を捕らえる。

 

 一人。

 

 また一人。

 

 悲鳴が上がり、磨り潰された人間だったものが血飛沫が夜空へ舞った。

 

「やめろぉぉぉ!」

 

 市川が叫んだ。

 

 目の前で仲間が食われていく。

 

 駿平は歯を食いしばった。

 

 NBC偵察車が怪物へ向かって突撃する。

 

 羽生も別の装甲車両へ飛び乗った。

 

 三台の防護車両が、砂の中で動く怪物へ突っ込んでいく。

 

 12.7ミリ重機関銃が火を噴いた。

 

 弾丸が怪物の外皮へ叩き込まれる。

 

 だが、怪物の巨大な尾が横薙ぎに振り抜かれた。

 

 轟音と共に三台の車両がまとめて吹き飛ぶ。

 

 一台の装甲車が大きく傾き、別の車両は車体を損傷して動きを止めた。

 

 兵士たちの体が宙を舞う。

 

 羽生田も衝撃を受け、地面へ叩きつけられた。

 

 市川も倒れ込む。

 

 そして駿平だけが、立っていた。

 

 崩れた車両の陰から、ゆっくりと立ち上がる。

 

 手には、96式多目的誘導弾の携行発射装置があった。

 

 駿平は残された一発を、怪物の口へ向けて放った。

 

 誘導弾が飛ぶ。

 

 怪物の口腔へ命中し、爆発と共に巨体が揺らぐ。

 

 駿平は発射装置を捨て、拳銃を抜いた。

 

 怪物が駿平を向いた。

 

 目など存在しない。

 

 それでも怪物は、何かを感じ取ったかのように身を震わせた。

 

 駿平の瞳に、赤い光が宿っていた。

 

「……不動先輩」

 

 市川が薄く目を開けた。

 

 その視界に映ったのは、一人の青年だった。

 

 自衛隊の制服をまとい、拳銃一丁で巨大な怪物へ向かっていく。

 

 市川は、そこで意識を失った。

 

 駿平は拳銃を握り直した。

 

 銃身の周囲が、微かに歪んでいる。

 

 念動力……とでもいうべき脈動する特殊なエネルギーが、弾丸へ注ぎ込まれていく。

 

「……こいつを、引き離す」

 

 駿平は走った。

 

 怪物が追ってくる。

 

 拳銃から弾丸が次々と放たれ、その軌道が、不自然に曲がる。

 

 弾丸は硬い外皮を避け、弱点だけを正確に撃ち抜いていった。

 

 怪物の注意が、完全に駿平へ向いた。

 

「そうだ……俺を追え」

 

 駿平は走り続けた。

 

 怪物を、倒れている隊員たちから遠ざけるために。

 

 尾が飛んでくる。

 

 瓦礫が弾丸のように飛び散った。

 

 駿平は片手を伸ばす。

 

 「……止まれ」

 

 念動力によって、飛散した瓦礫が空中で停止した。

 

 そして反転し無数の破片が、怪物へ叩き込まれた。

 

 怪物が悲鳴を上げる。

 

 駿平はさらに撃った。

 

 一発。

 

 また一発。

 

 弾丸が怪物の身体へ食い込む。

 

 だが、身体は限界に近づいていた。

 

「これ以上は……」

 

 呼吸が荒くなり、視界が揺れる。

 

 それでも怪物は止まらない。

 

 花弁状の口を大きく開き、駿平へ突進してくる。

 

 駿平は拳銃を構えた。

 

 銃身の内部へ、脈動するエネルギーを集中させる。

 

 金属が熱を帯び、銃身の周囲に赤い光が走った。

 

 そして――。

 

 銃身そのものが爆発した。

 

 火花と金属片が飛び散る。

 

 しかし、弾丸は放たれていた。

 

 通常ではあり得ない速度で飛んだ弾丸が、怪物の口へ突き刺さる。

 

 怪物が絶叫と共に地面へ崩れた。

 

 そのまま、地下へ潜っていく。

 

「また逃げる気か!」

 

 駿平は地面へ手をついた。

 

 瞳に紅い光が宿る。

 

 意識が、地中へ潜っていく。

 

 地下構造が、巨大な赤い立体格子として脳裏に浮かび上がった。

 

 その中を、灰緑色の波が動いている。

 

 怪物だ。

 

「……見つけた」

 

 駿平は、脈動するエネルギーを地中へ叩き込んだ。

 

 地質を固定する。

 

 さらに地層の内部へ、不可視の振動切断場を形成した。

 

 大地が震えた。

 

 地下から巨大な影が飛び出した。

 

 怪物の身体に、白い亀裂のような光が走る。

 

 そして――。

 

 巨大な身体が、いくつもの断片へ切断されて崩れ落ちた。

 

「……終わった」

 

 駿平は息を吐いた。

 

 だが、彼はまだ知らなかった。

 

 あの生物にとって、死はそれほど単純なものではない。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。