僕のヒーローはヒモ…天体戦士サンレッドだ! 作:装甲大義相州吾郎入道正宗
サンレッドにとって、緑谷出久は可愛い弟分である。
少々生真面目すぎる部分はあるが、ヒーローがどういうものかノリを含めての理解が似通っている部分があり、いきなり押し掛けてきた時に比べると驚くほど態度を軟化させている。
それこそ、普段は面倒くさがり屋の彼が戦いの手解きやトレーニングを積極的に補助するくらいには気に入ってしまったらしい。打てば響く存在というのは側にいるだけで励みになるという良い実例だ。
…しかし、だからこそ目の前の相手が気に入らなかった。
「チッ…辛気臭い見た目に変わったと思ったら、話す内容までツマラねえな、オッサン」
河川敷で繰り広げたステイン戦の後、何故かヒョロヒョロになって現れたオールマイトに一頻り驚いたサンレッドとデクは、是非とも話がしたいと提案されて、ちょうど近くを通り掛かった知り合いの秘密基地…平家住宅に場所を移して事情を聞いていた。
ちなみに、元の住人達はサンレッドによって話が聞こえない風呂場にスシ詰めにされているが、ここでは触れないでおく。
そして、オールマイトが語った内容は彼自身がプロヒーローから半ば引退した事でマスコミ関連やヴィランの活動が活発となった為、育成機関の最高峰となる雄英高校の警備を強化するべく、サンレッドを警備員としてスカウトしに来たらしい。
「えぇと、雄英学園の警備を強化する一環として、手が空いているプロヒーローを採用するプランですか…。今は迎撃システムを含めた無人の自動防衛が主流の筈なのに、どうして人員の増強を…?いくらヒーロー飽和時代と言われても、そこまで手広く雇用を伸ばす必要は無いから…あぁ、マスコミ関連が報道の自由を盾に学園に押し掛ける可能性があるのか。という事は物理的な抑止力になるヒーローを守衛役として雇って非暴力による威圧効果を……レッドさんが非暴力?」
「も、物凄く深掘りするね、キミ…ッ!?」
「こうなると長いからほっとけ。それより、そんな話をするために俺を探してたってのか?」
居間のちゃぶ台を囲んだ3人の話し合いは進む。
「あ、あぁ。だいぶ前のニュースで君の存在を思い出してね。直接、スカウトに来たんだ」
「はぁ……なるほどね? 世界一のヒーロー様が、わざわざ、俺を、警備員に、採用したいと…そう言ってんだな?」
湯呑みを握るサンレッドの力が強まる。
そしてそれをバツが悪そうに見ながら、少しだけ視線を逸らすオールマイト。このやりとりだけでも二人の間に何かしらの因縁があるのは明白だった。
だからこそ。お願いする側の人間は恥も外見も捨てて、頭を畳に押し付けた。
「頼む。今回の仕事は信頼のおける人物が必須条件なんだ。君ならば、必ずや仕事を全うしてくれるとワタシは信じている」
「はッ!いまさら都合が良すぎる話だな。プロヒーローに相応しくない、なんて言って俺を追放した連中の下でいまさら働けってか」
「あの件は本当にすまなかった! 日本を離れていたせいで擁護出来なかったんだ!」
「そういう話じゃねえ。あの兄弟戦士がタルタロスに捕まったのは自業自得だし、俺の功績が丸ごと消えたのもいいさ。でもな、一度は切り捨てた札付きのヒーローをわざわざ勧誘するなんて恥を晒すな、って話だよ」
現在のサンレッドは、言わば執行猶予の状態。
とある内部告発をキッカケにプロヒーローの資格を一時的に剥奪され、所属していたエンデヴァーの事務所から脱退した過去を持つ。その際、自衛目的以外での個性使用に厳しい制限が設けられていたのだ。
今でこそ、そのグレーゾーンを悪用して多摩川周辺で対決騒ぎを起こしているが、本来は一般市民同様の生活を送らねば牢獄送りにされてもおかしくないのだ。ヒモになったとしても仕方ない身の上…とまではいかないが、彼が腐っていた理由の一つはなったのは間違いない。
「すまない。採用にはプロヒーローの認可を受けた者に限るという条件があるんだ。つい先日も、ヴィランを名乗る何者かが学校に挑発の電話を掛けたらしくてね…」
「チッ、相変わらず肩書きやら人気ばっかり気にするから舐められるんだ。未だにヒーローを客商売かなんかと思ってやがる」
不機嫌さを隠さないサンレッドは湯呑みの緑茶を一息に飲み干すと、ちゃぶ台に置いてあった歌舞伎揚げの個包装を破り、ザクッと噛み砕く。
「…とにかく。俺はやらないからな、サッサと帰って未来ある綿毛?の生徒の相手でもしてろよ。こっちだってやる事はあるんだ」
「えっ、就職出来たのかい!?」
「………いや…外せない用事があるんだよ」
「あ、うん…」
「いたたまれない顔してんじゃねえ! アレだよ、あれ…! そこのデクをヒーローにするために特訓する時間が必要なんだよッ!」
「なんと…君が気にいるほどの逸材が!?」
てっきりサンレッドの熱烈なファンだと思っていたオールマイトが、ここに来て始めてデクに興味を持った目線を向ける。
(………おや、もしかしてこの子は?)
「デクはいいぞ。酒とタバコ以外なら何でも買ってくるし、痒いところに手が届くっつうか…」
「大丈夫? パシリにされてないかい?」
「だ、だだだだ大丈夫ですッッ!レッドさんには普段からお世話になってるので!」
やたらキラキラした目で見つめてくる少年の視線を受け止めながら、自慢げな態度を見せるサンレッドに思わず微笑ましい気持ちを抱いてしまうオールマイト。
態度は昔と同じだが、やはり彼も人間として成長しているのだろう。どんな形であれ、後進の育成をするなんて立派である事には変わりない。瑞々しい次代がここにもシッカリと芽吹いていた。
「あと、無個性だけど根性もセンスもあるからな。いいヒーローになるぜ」
「はい! 僕、頑張ります!」
「え…」
ピタリと一瞬だけ動きを止めたのも構わず、サンレッドは次の歌舞伎揚げを摘みながら何気無しに話を進める。
「ま、俺が直々に10ヶ月は鍛えたからな。今の時点でも、そんじょそこらのヴィランに遅れは取らねえぜ? 先週は虎野郎に善戦してたしな」
「そのお陰で何度も死にかけましたけどね…ハハッ」
「なんて虚な目を!?」
あのサンレッドが直々に指導した上に、その成長ぶりに手応えを感じるほどの強さを手に入れたらしい少年のデク。
個性社会が良い意味でも悪い意味でも蔓延したこの世の中で無個性ならば
「とりあえず、そういう訳だから定年間近のオールマイト様は最後まで頑張ってくれよ」
「ハハハッ…まぁ、そうだね。私に課せられた最後の引き継ぎが終わるまでは…絶対に引退出来ないのは重々承知しているさ」
「オールマイト?」
「しっかし、あのだだっ広い雄英の警備員か。よっぽどの給料でも無けりゃ引き受ける奴なんていねぇだろ」
「そんな事はないさ。担当してもらうのは重要な箇所のみだから仕事内容はキツくないだろうし、お給料だって、たしか月々ーーー万円だったかな?」
「………」
「レッドさん?」
「………そうか」
「レッドさん?」
最後の歌舞伎揚げを平らげてデクのお茶で喉を潤すと、そこから何も喋らなくなったサンレッドに嫌な予感を感じたデクを他所に、この日の話し合いは終わりを告げてしまった。
ーーーちなみに、この後は折角だからと皆で季節外れの鶏団子鍋を囲んで食べたそうな。
そして、暫く時が流れた頃。
オールマイトがヒーローとして最前線に立つ事を辞め、教師として雄英高校に赴任したニュースを深掘りしようと、マスコミ達が校門近くに殺到していた。
登校する生徒に片っ端から声を掛け、ネタになりそうな失言を引き出そうと必死に粘っているのだが、オールマイトはヒーロー基礎学に専念する形で教鞭を取っているので一般生徒とは殆ど面識が無いため、思ったような言葉が中々出てこない。いっそ滑稽なほど空回りして、行き場の無いフラストレーションを高めるばかり。
ーー自分達の思い通りにならないのは、ヒーローが悪い。だって、市民の平和を守るのが彼の仕事なら、私たちにも手厚く配慮するべきなのだから。
そんな傲慢な考えを当たり前だと信じる一人の女記者が、業を煮やしたかのように無理やり校門を潜って中に入ろうとする。
明らかな不法侵入だったが、多少の罪を犯す程度で特ダネを仕入れられるなら安上がりだと考えているらしく、堂々と歩を進めるが…駄目。
雄英が誇る防御システムが即座に反応し、門だけでなく周辺の壁面にすら分厚い鋼板が聳り立って一切の立ち入りを防ぐ。
歯噛みするマスコミ陣。明確な拒絶の反応を見せられたせいで、自分達は憐れな被害者であると非難轟々の声を飛ばす。
……普段なら、これで終わるはずだった。
その場の勢いで侵入するだけならまだしも、防御システムを乗り越えて強硬手段に訴えれば、明確な攻撃意思があると判断されて警察に逮捕される可能性が非常に高いからだ。
流石にそこまでのリスクを背負ってまで取材する覚悟は無いと、諦めて帰路に着くのがいつもの流れだった。
しかし、マスコミの中から明らかに異質な少年が歩み出た事で事態は急変する。
病的なまでに白い髪。落ち窪んでいるのにギラギラと輝く虚な瞳。何より異常なのは人間の手首をアクセサリーのように貼り付けた異形のファッションセンスであり、場違いすぎる雰囲気に呑まれた周囲の大人達は、カメラを向ける事も忘れて押し黙ってしまう。
「あ"ぁ…? こんなウエハースみたいな板で守ってるつもりかよ…笑えるな」
少年は手を翳す。
ただそれだけで、立ち塞がる障害が全て"崩壊"するのを彼だけが知っている。
だから何気ない手つきで警報が鳴る校門に触れて、最強の個性を発動しようとして。
「ーー人の物に勝手に触れてはいけません、ってママに教わらなかったか?」
溝ノ口にいる筈の、真っ赤なヒーローが現れた。
一方、その頃。
オールマイト抹殺及びヒーローの地位低下を目論むヴィラン達が襲撃の機会を窺う現場にて。黒霧なる人物は大きなため息を吐いていた。
「予定していた数の半分以下…。これでは死柄木弔に怒られてしまいますね」
なるべく騒ぎを大きく見せるために呼び寄せた有象無象の数合わせ。その数が明らかに足りていないのだ。
今回の作戦において要となるのはスポンサーから提供された脳無という改造人間であり、よっぽどのトラブルが発生しない限りは大事に至らない筈だが、どうにも不安が付き纏う。
「…戦力的な意味では、かなり
不幸中の幸いと言うべきか。とある伝手を辿って直接呼び寄せたヴィランの何人かは、名が売れてないのがおかしいほどの実力者ばかりで、戦力として見るだけなら頼もしい事この上ないほど。
ただ、こういった手合いは性格面での癖が非常に強く、常に口煩かったり陰湿な部分が多かったりと、作戦通りに動かない事が多々あるのだと黒霧は
「……? おかしいですね。睡眠時間はキチンと確保していた筈ですが」
妙な郷愁が胸をよぎったが、こんなものは自らが支えるべき主の目標達成には些事に過ぎないと切り捨てる。
今から行うのは傲慢なヒーロー社会に鉄槌を下すのに必要不可欠な宣戦布告なのだ。ここでハッキリと印象付けておかなければ、後々のインパクトが目減りしてしまう。
そのためにマスコミ連中を雄英内部に引き入れるべく、頑丈な校門を破壊しようと死柄木弔に出張って貰っているだから。
「はぁ…杞憂ばかりしても仕方ありませんね。皆さん、そろそろ時間ですので準備を整えて下さい」
黒霧の指示でヴィラン達が色めき立つ中、まるで気負う様子を見せる事なく雑談に興じている人物がいた。
「……やっぱりマズくないッスか? 報酬に釣られてやってきましたけど、ヴァンプ様に内緒でこういう事するのは流石に…」
秘密結社フロシャイムの見習い、亀型ヴィラン、ガメス!
「馬鹿だね〜。サンレッドさえいなけりゃ、オレらに敵なんていねえっての! 万が一があってもよ、パパーっと逃げりゃいいんだよ!」
砂のテリトリーでヒーローを圧殺! アリジゴクのヴィラン、アントキラー!
「ーーーPi.pii@iadmnpamg.」
戦略級広域殲滅型兵器Pちゃん・改
USJ襲撃は一歩間違えば、地獄のような舞台へと早変わりするフラグが、そこかしこに立っていた。
「あれ、どうしたのウサコッツ? え…Pちゃんが居ない? 屋根の上で太陽光発電でもしてるんじゃ……今は核動力?待ってその話、私聞いてないんだけど…。フリーマーケットで売れなかったからといって搭載しちゃ駄目でしょ、もう…。最近は若い子が沢山フロシャイムに応募してくれるんだから、先輩として威厳を持ってね。それと、暇ならお茶請けのお菓子を買ってきてくれる? あの人、ワープの個性で突然現れるから用意はキチンとしておきたいの。同じ中間管理職だから話が合うんだよ〜」