覇気だけが全てを凌駕する世界で「斬れぬものなど、あんまり無い!」 作:麦らァのみょん
バラティエ編の前にオリ主が妖夢くんちゃんになって一味に入る前のお話です。
これがすぐに夢だとわかったのは、目の前にもう顔もおぼろげになった母の姿があったからだ。
おれが生まれた家はいたって普通の家庭だった。父と母が居て、十分な衣食住もあって。
少なくとも、普通に生活する分にはなにも問題はなくて、どこにでもあるような幸せな家。
幼い頃のおれはそう思ってて、でも現実はそうじゃなくって。
幼い頃のおれはそういった事情は全く理解できていなかったのだが、おれの父は浮気性で女遊びを繰り返すようなロクでもない男だった。
「……あなたはどこにも行かないわよね?」
そんな父でも母は愛していた。
離婚に踏み切ることはできず、でも自分が壊れないようにおれに依存した。
「良い子だから、あなたはどこにもいかないでね」
母が壊れて、いなくなってしまわないように、おれはずっと良い子であろうとした。
顔色を窺って、時には自分を偽って、母の望むおれでいられるように。
おれも母に依存していたのかもしれない。
そんな環境によって作られたおれの性質は小学校にあがる頃には完全に自分に染みついていて。
家でも外でもおれは誰かの、相手の望むままの良い子でいられるようにし続けた。
友達にも、先生にも、近所の人にも、家族にも。必要とされるままの便利な自分を演じ続けてきた。
だけど、そんなおれの生活はある日、突然に終わりを迎えた。
母が父と心中した。
心を病んで、心身がボロボロになった母はいつの間にか不治の病気を患っていた。
治ることのない、ただ死を待つだけの状態になって、愛する人と死ぬことを選んだのだろう。
おれは連れていってもらえなかった。
おれがどれだけ理想の良い子であろうとしても、結局母の愛は全て父にしか向かなかったのだろう。
おれでは心が壊れるのを止めることができなかった。
亡くなった父と母の顔は酷い形相で、もうかつての幸せだと思っていた頃の面影は残っていなくて、飽和してどろどろになった負の感情で満たされていた。
二人が世を去った後、おれは親戚や知り合いの所を転々とさせられた。
どれだけ相手の望む自分であろうとしても自己が希薄になるほど空っぽになった子供を大人たちは気味悪がったようだ。
べつに、それに関しては特に何も思っていない。
変われなかったおれの問題だから。
最後におれを迎え入れてくれたのは、これまたどこにでもあるような普通の家庭。
父と母と、おれと近い歳の娘の三人家族。もしおれが普通に生きていたらきっとこんな感じだったのだろうというような、そんな幸せそうな家。
彼らはおれにとても良くしてくれた。
あの人たちがいなかったらおれはもっと早くに死んでいただろう。
まあ結局母と同じ病気にかかって成人することもなくおれは死んでしまったのだが。
最後に出来た家族はおれに沢山のことを教えてくれた。
自由に生きていいのだと、色々な場所に連れ出して世界を教えようとしてくれた。
母や身近な人に応えることだけが全てだったおれに世界は広いということを教えてくれた。
良い子でいなければ、真面目な人間でいなければならない。
離れて壊れてしまわないように、旅や冒険なんてしてはいけない。
そんなおれの価値観を壊そうとしてくれた。
もし病気になることなく、あの人たちと居続けられたら、いつかおれも夢を持つことができたのだろうか。
場面が切り替わる。
そこは静かだが四季が豊かで春には美しい桜が咲き誇る。
池の畔には和風のお屋敷が建っていて近くには花をつけていない巨大な桜の木が生えている。
そんな屋敷の庭で”私”はいつものように刀の修行をしていて。
「あら、今日も精が出るわね」
隠しておいたのにわざわざ見つけてきたのか、傍でお菓子を食べながら屋敷の主が言う。
「……あの、先ほどごはんを食べたばかりでは?」
「あらあら、そうだったかしら」
そんな風にとぼける姿も、もはやいつものことで、きっと私がどう言ってもこの方は変わらないのだろう。
「それより~今晩は魚料理が食べたい気分だわ」
この方が毎日食べる量は常人のそれではない。
この屋敷には今は二人しか住んでいないというのに、家計はいつも火の車だ。
……いつも大食いしているというのになぜこの人は全く太らないのだろうか。
もしかして栄養が全てその大きな胸に吸収されているのだろうか……?
「妖夢? じっと私の胸を見つめてどうかしたのかしら? なんだか恨めしそうだけど」
「……いえ、なんでもありません」
べつに羨ましいとか思ってないデスヨ。私はまだまだ成長期、何がとは言わないがこれからのはずなのだ。
「それでは私は都まで買い出しに行ってきます。……私がいないからといって無断でおやつを食べ過ぎないでくださいね?」
まあ私がそう言ったところで結局食べちゃうのだろうけど。
なんやかんや甘やかしてしまう私にも責任はあるのかもしれない。
視界がぼやける。
次第に目の前の、大切な人の顔にもやがかかってさっきまで聞こえていた声や、桜を散らしていた風の音が薄れていく。
刀を振っていたはずの自分の手の感覚すら曖昧になる。
全てがぼんやりと混ざりあって消えて無くなっていく。
次第に目の前の大切な人のことや記憶さえもあやふやになってわからなくなって。
ああ、そうか、これは……。
△▽△▽
「ん……?」
妙な夢を見た。
いや、今のおれの場合だとみょんな夢とでも言うべきか……?
内容は上手く思い出せないがあれは前世の夢だろう。
支えてくれようとしたのに、すぐに病気でなくなった不孝者の夢。
他にも何か見たような気がするが……まあ所詮は夢だ。
上手く思い出せない時点でそう深く考える必要もないだろう。
あの人たちは自由を教えてくれようとしたのに、結局おれは一歩も踏み出すことなく死んでしまった。
夢を持つこともなく、生きる意味を見出せないまま終わってしまった。
だからだろうか。
ルフィたちやこの世界の人たちに、憧れや羨ましさを感じてしまうのは。
この世界に来て暫く経って、もう船の上での生活にもすっかり慣れてきた。
わずかに響く海面の水音にどこか子気味良さも感じる。
ふと隣を見るとナミがすぅすぅと安定した呼吸をしながら眠っている。
船があの小舟からメリー号になったことでおれの寝床はこの女子部屋になった。
前世、元とはいえ男なので流石にナミと二人きりで同じ部屋ってどうなんだとも思ったが、ナミがおれに有無を言わせず部屋に押し込んだのでこうなった。
なんでも、
「あんたは変なとこで抜けてるから私が見ていないと心配」
とのこと。なにがだい。
半人半霊だからだろうか、おれの体はひんやりしていて気持ちいいらしくナミに抱き枕のようにされることもしばしば。
その度におれにはない豊満な胸がぎゅっと押し付けられるが、女になったからだろうか、とくに何も思うことはなく。
いや、なぜかその胸部にうっすらと敵意のようなものが湧いてしまうのだがそれは気のせいとして置いておくとして。
抱き着かれるとおれの方は普通にあついのではやく半霊を見つけて代わりの抱き枕になってもらわねば。うごごご。
……ナミにもルフィたちのようにきっと何かしらの夢があるのだろう。
財宝を集めているのもその夢のためだろうか。
純粋に好きなのもあるのだろうけど。
しつこいようだけど、おれには夢とか大切なものとか、そういうのがまだない。
だからルフィたちに憧れるし、シュシュやブードルさん、ウソップの助けになろうと戦った。
今のおれにはそれしかできないから。
おれはナミの力にもなってあげることができるだろうか。
ナミがいつも隠そうとしている、その肩の入れ墨の問題を解決できたらナミの夢の助けになるのだろうか。
そうやって誰かを助けてたらおれもいつか夢を見つけられるだろうか。
そんなことを考えながらおれはもう一度眠りについた。
今度は、夢は見なかった。
△▽△▽
ここ最近のルフィはなにやらお絵描きを楽しんでいた。
その理由も全てこのため。
「できたぞ、海賊旗! ちゃんと考えてあったんだ、俺たちのマーク!」
海賊の船はドクロの海賊旗を掲げて初めて海賊船となる。
この海賊旗を掲げることでメリー号は正式に海賊船ゴーイング・メリー号となるのだが……。
「コイツには……つまり絵心ってもんがねェんだな」
「ううん……逆に芸術なんじゃないかしら」
「海賊旗は〝死の象徴〟のはずだろ……まァ、ある意味恐怖だけどよ」
「えっと……味があって良いと思います!」
満面の笑みを浮かべながら、麦わら帽子? を被ったヘタクソなドクロマークが描かれた旗を掲げるルフィ。
ウソップが代わりに描き始めたが出来上がったのは長い鼻にパチンコが描かれた海賊旗。
「マーク変わってんじゃねぇか」
「いてっ」
ルフィとゾロに拳骨され改めて描き直すウソップ。
「うん! 上手いっ!」
「こんなとこか」
「同じマークとは思えねェな」
ルフィの描いたものを綺麗にしたような、麦わら帽子をかぶった立派なドクロマークにナミが賞賛を送る。
おれも絵心がない側の人間なのでウソップのこういう器用なところは素直に尊敬する。
「よし! 完成っ! これで〝海賊船ゴーイング・メリー号〟のできあがりだ!!」
空に飛び上がって海賊旗が掲げられたメリー号を見下ろしてみる。
うん、なかなか立派な海賊船じゃないか。
一気にそれっぽさが増した気がする。
「はーっ、疲れた!」
一仕事終えたウソップが甲板に寝っ転がる。
労いにお茶でも入れてこようかと思った時、ドウン!! という轟音が鳴る。
「お前何やってんだ突然」
ゾロが声をかけた方を見るとルフィが大砲の練習をしていた。
この船大砲まで積んであるのか。
うまく飛ばせないとぼやくルフィに代わってウソップが大砲を調整する。
飛距離などを計算し、狙いを定めると見事ウソップは眼前の岩山を破壊してみせた。
「すげ―、一発で当たった!」
「うげっ! 当たった、一発で!」
なぜか当てた本人まで驚いている。
しかし……ウソップが破壊した岩の上に人影が見えたのは気のせい、だよね?
ルフィがウソップを狙撃手に任命した後、おれたちはメリー号のキッチンでくつろいでいた。
「考えたんだけどな、偉大なる航路に行く前にもう1人、必要なポジションがあるんだ」
「そうよね、こんな立派なキッチンがあるんだもん」
有料でいいなら私がやるけど、と言うナミにゾロが妖夢頼んだなどと言ってくる。
以前にも言ったがおれに海の上で料理人なんてとてもじゃないができないのだが?
「はやいとこコックを仲間にしましょうよ」
「ああ、やっぱり海賊船にはさ、音楽家だ」
「アホかてめェっ!!」
「今コックの話してたろ!」
「あんた航海を何だと思ってんの?」
「だって海賊っつったら歌うだろ!? 当然みんなで」
そんなやりとりをしていると何かを壊すような音とともに何者かの怒鳴り声が船に響く。
ぶっ殺してやる! と叫びながら現れたのはサングラスをかけた、頬に海と書いてある男。
剣を振り回し船を壊しながら様子を見に来たルフィに攻撃する。
ああ……船が……。貰ったばっかなのに。
あっけなくルフィに負けた男はジョニーという名の賞金稼ぎでゾロの知り合いだったらしい。
「病気!?」
「ええ……数日前までピンピンしてやがったのに、突然青ざめて気絶をくり返す……原因は、まったくわからねェ」
ジョニーの相棒であるヨサクが病気にかかって死にかけているらしい。
医学のないジョニーではどうしようもなくひとまず岩山で安静にしていたところ、この船から砲弾が飛んで来たらしい。
やっぱあれは気のせいじゃなかったのか。
謝罪するルフィとウソップだったがもう気にしていないし謝って済むなら警察はいらないとジョニーに返されさすがに心を痛めている様子。
「ヨサクは何年も共に賞金稼ぎやってきた大切な相棒だ……! アニキ、こいつ死んじまうのかなァ……!」
「バっカじゃないの!?」
もうどうしたらいいかわからないという様子で俯き、涙を流すジョニーにナミが叫ぶ。
「妖夢! キッチンにライムあったでしょ? 絞って持ってきて!」
「は、はい!」
ナミが言うにはヨサクがかかっていたのは壊血病という病気。
ビタミンC欠乏が原因の疾患……ようするに新鮮な野菜や果物の摂取量が足りてなかったらしい。
おれが絞って来たライムをルフィとウソップがガボガボとヨサクに飲ませる。
少しするとヨサクは目をさましてすぐさま栄養全開復活だと踊りだした。
「妖夢、あんたにはこれからこういう知識も教えておくわ」
「私にですか?」
「あのバカどもが覚えられると?」
うーむ、むりそう。特にルフィは。
まああの人たちならまず病気になんてならないだろうし……。
というかおれも十分バカ側の人間だと思うのだが。
「海に出る上でこんな基礎的な知識もないのは致命的よ。……そんな状態でこの先、私が居ない時どうするのよ」
そう言って呆れるナミ。
今ナミが居なくなったらきっとおれたちはまたこの広い海で漂流することになるだろう。
あれ、もしかしておれたちって何も成長していないのでは……?
その後おれたちはやはり船上の限られた食材で長旅の栄養配分を考えられる海のコックが必要と考え、料理人を探すことに。
コックを仲間にするためにヨサクとジョニーの提案で航路を少々北に曲げ、おれたちは海上レストランを目指すことにした。
一応東の海編(バラティエ編ざっくりカット版)は殆ど書き終わっているのですが内容が個人的にあんまりでちょっとどうしようかなぁといったところです。
もしかしたら一度投稿して後日内容を書き直したものを再投稿したりするかもです。