〜38歳童貞のTS憑依転生。身体の主(9歳)の遺言が『結婚してくれ』だったんだが〜 作:楓舞星
「……五条と夏油が任務を失敗した?」
俺は内心大きく驚きながら、その情報を夜蛾から聞く。 アイツらが任務にガチで失敗するなんて、俺も思っていなかったんだが……
まあ高専に蠅頭がぶわーっと溢れた時点で、なんだか嫌な予感はしていたのだが……
「……ああ、星漿体は殺害された。その後、主犯は五条が始末をつけた様だ」
「マジか……」
後日、振替休日のごとく休日を渡された五条と夏油が復帰した際には、教室では……
家入と無択は聞く。
「あれ?2人とも、雰囲気変わった?」
「お前たち……任務でなにを突きつけられた?」
「いいや、特になにも」
「私の方も、特にだな」
「ふーん」
「……」
なんだ……この違和感……
五条の目はどこかで見た気がする。どこで見たかは良くわからないが、どこかで……
ああ、そうか。
「『鏡』か……」
だが、『半分』だ。半分だけ、50%だけ似てる気がした。双子ぐらいの。あくまで、似てるだけ。
きっと、五条は俺と似たような問いを前にして、違う答えを出したのだろう。
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七海の自室にあいも変わらず侵入した無択。それでも、当然だがしっかり許可をとってから入っている。
「なんか、オラの五条さと夏油さがおかしくなっちまっただ」
「おかしいのはあなたの口調です」
「……とにかく、失敗したのが相当堪えたのかねぇ」
七海の椅子で、背もたれに腹を向けながら無択は話す。七海は逆にベッドで横になって、顔を向けずに喋っている。
「さぁ、どうでしょうか。私も会ってみましたが、どうにもおかしな雰囲気でしたね。いずれ、気を取り戻すでしょうが」
「ま、だといいんだが……一応、面倒見た方が良さそうなのかねぇ」
「……やっぱりあなた、以前から思っていましたが面倒見が良いですよね」
「はっ、何をバカなことを言っている。私の面倒見が良かったら、この世の崩壊をあまねく混沌の使者だぞ」
「言っている意味がよくわかりませんが、なにかすごそうなのはわかりました」
「ま、七海も、五条はともかく夏油は傷心中なんだ……優しくしてやれよ」
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「最近浮かない顔をしているな」
無択はしばらく経っても、そこまで立ち直ったかの様に見えない夏油を見て、1人の時に話しかける。
「ナキか……そうだね……」
「なにか、悩みでもあるのか?」
「いいや、特になにも」
どこか拒否感を露わにする夏油に向かい、無択は、
「まあ、とりあえず、座りな」
「本当に、何もないんだけどねぇ……」
無択と夏油はその場にあった椅子に腰掛け、話を進める。
「例の任務で何を得て、何を失った?」
「虹龍と口裂け女の呪霊をーー」
「失ったもんだけじゃないだろ。というか、それは重要なことじゃない。得たものがあるんじゃないか?」
少し無択が語気を強めていうと、夏油は諦めた様に言った。
「……得たものか……失ったものの方が圧倒的に多いのだが…………得たものか……ふふ、私は、非術師の醜悪さを見た。あえて言えば、それによる思想の獲得かな」
「ほう……」
「盤星教の信者が、人が死んでいると言うのに、阿呆のようにそれをみて拍手するのをみて、虫唾が走った」
「……」
「得たのは悩み、本当に非術師を守るために、力を使うべきなのかという、私を揺るがす根本的な……」
「つまりは呪詛師になりかけていると」
「っ……そこまでは言わないよ。ただ、引退でもして楽にーー」
「無理だね」
「え?」
「ここまで共に、生活までしてたんだ。わかるさ。お前は極端なタイプだ。この道から、呪術の道から降りることは出来ねえよ」
「……」
「それじゃあどうするか、答えは二つしかない。折り合いをつけて葛藤しながら生きるか、つけないでその悩みから逃げるか……だ」
「……逃げる……か……厳しいね」
「ただの言い方の問題だ。別に、お前が闇堕ちしようがどうしようが、私には関係ない。だが、迷惑だからやるなら私の知らない勝手なところでしろ」
突き放す様な言葉を受けて、夏油は興味が湧いた。
「……ナキ。君は、迷わないのかい?」
「何を?」
「自分のしていることが、本当に正しいのか」
「していることには全く迷わないな。人の命がかかっているんだ、当然だろ?悩みはまあ……あるにはある程度だ」
「私達が動かない限りは、失われるのは大概が非術師の命……だけどね。悩みがあるのは意外だ。申し訳ないが、君はいつも、妙に割り切っているように見えるから」
「割り切っているように見えるだけだ。実際は、面倒だから考えるのをやめている。そっちの方が楽だし、なにより合理的だ。よって、私に悩みは殆どない。それに、現実をみていたら悩みなんて向こうから降ってくるんだからな。需要と供給の兼ね合いからして、私はーー」
「……」
「どうした?」
「聞きたいんだが、もしも、『未来を信じないでも未来を見つめられる』様な人間はいると思うかい?」
「まあ人間、多様性だけは存分に兼ね備えているから、いると思うが……どうしてそんなことを聞く?」
「私には、できない。自分の信念を信じて、未来を信じて、大義を信じて、ようやく行動できる……」
「……」
「だから……もしもそんな存在がいれば……私は……」
「はぁ……なんだ?手本にでもする気か?」
「……そうだと言ったら?」
「やめとけ。ろくな手本じゃない」
無択は即答した。
「そもそも、未来を信じるってのがよくわからんな。未来なんてものは、来てみるまで分からないだろ。明日、私が死ぬかもしれないし、お前が死ぬかもしれない。明後日には世界が爆発して木っ端微塵になっているかもしれない。そんな中で、未来の可能性を考えるだけ無駄だ。やめておけ」
「……随分と極端だね」
「最悪を想定するのが私の主義なんでね。つまり、『未来を信じること』と『未来に向かって行動すること』は全くの別モノって話」
無択は椅子の背もたれに体を預け、天井を見上げた。
「未来が良くなると信じているから努力する。未来に希望があるから人を助ける。その逆も、まあ、あるだろうな……そういう考え方も。だが、未来が良くなる保証がなければ、何もしなくていいのか?」
「それは……」
「未来がどうなろうと、目の前で人が死にかけているなら助ける。呪霊が人を襲っているなら祓う。そこに、未来への期待なんて必要か?」
「……」
「……だったら、現実が、どれだけシャバかろうと悲惨だろうと、終わっていようが、私は、私だけは……」
ふと、夏油は無択の拳を見た。白くなるほど握りしめられていて……力が限界まで入っていることが伝わってきた。
「……未来を信じられなくなったとき、お前は、それでも何を、どう行動したいのか……適当にごちゃごちゃ抜かしてねえで答えろ。夏油傑」
「……私はーー」
夏油はその問いに……
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未来を信じる必要はない。目の前の現実に向き合えばいい……俺が出せる夏油への問いの答えはそれになる……が。
だが、そんなことを言っている俺自身が、過去に負けたという事実を受け入れられず、今もこうして、どうしてか自分でもわからないぐらい、全力で現実を相手に足掻いている
いい笑いもんだ。
未来を信じなくてもいい。
だが、そのロールモデルは、俺の中では1人専用の立ち位置だ。
信じないと言うことは、なにかを考えないと言うことにも繋がる。そうなれば、それは俺の主義からして、往々に論外、現実からの逃避にもなりうる……
真似してほしいわけでもない。ツンデレとかじゃないぜ?47のツンデレとかしんどすぎて吐くだろう?
俺の中では、俺の主義では、もうその席は埋まっている。なのに、どうして夏油には言ってしまったのか。
まあ、そもそも俺が、自分の考えを他人に理解してもらおうも思っていない……と言ったら身も蓋もないんだがな。だから、別に俺の真似をしようが構わんってこと。
だが、もし真似するとしたら……
彼は、非術師を守るという信念を持っていた。
しかし、その信念を揺るがす経験をする。
一方、ナキは、未来を信じていない。
それでも、目の前の現実に向き合おうとする