欲しがりな義妹に聖女の力を奪われましたので、好きにさせていただきます   作:カレーとスコップ

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第2話 未来に向かって進む姉と過去の清算を強いられる妹

 アンネローゼが目を覚ますと、見知らぬ家のベッドの上だった。ゴブリンを殲滅したところまでは覚えているが、それ以降の記憶はまったくない。

 

「おっ、ようやく目を覚ましたのかい」

「すみません! あっ!」

 

 村に入ってきた時に話をした女性が静かに部屋に入ってきた。別に驚かすためではなく、眠っているアンネローゼを慮ってのことだろう。

 

 不意に声を掛けられたせいでアンネローゼは反射的に身構えようと、勝手に身体が立ち上がろうと動く。しかし、回復しきっていない身体は不安定で、ベッドから転げ落ちそうになった。

 

 かろうじて転落は回避したものの、アンネローゼの慌てふためく様に女性は苦笑いを浮かべる。

 

「そんな慌てなくても大丈夫だよ。ちょっと待ってな、何かつくってきてやるからね!」

 

 女性は踵を返して部屋から出て行った。部屋に一人残されたアンネローゼは、反射的とはいえベッドから転落しかけるという失態に思わず申し訳なさを感じた。

 

 だが、すぐにハッとした表情を浮かべて首を傾げる。アンネローゼ自身、何に対して申し訳ないと感じたのかわからなかったからだ。

 

 思い返してみれば、ゴブリンを撃退する時も同じだった。客観的に見れば、アンネローゼは一人で十分すぎるほどの戦果を上げている。それにもかかわらず、なぜか申し訳ないという気持ちになっていた。

 

 ──完璧にこなせず、他人の手を煩わせてしまった。

 

 前世では敵を完膚なきまでに叩き潰すことを要求された。討ち漏らしがあれば、責任を問われ罵詈雑言を浴びせられる。

 

 現世では聖女の呪縛によって、苦しむ人々を全て救わなければという強迫観念に駆られていた。たった一人でも、救えないことがあれば呪縛は容赦なくアンネローゼの心を切り裂いてくる。

 

 兵器と聖女、目的こそ真逆ではあるが、完璧であることを要求されるという点に関しては同じ。

 

「これまでの刷り込みのせい、ということでしょうか……」

 

 呪縛が解けて自由になったはず。しかしアンネローゼの心は、過去の道具として完璧でなければいけないという鎖に未だ縛られていることに気付いて頭を抱えた。

 

「どうしたんだい! ほら、調子が戻ってないんだからベッドに戻って休みなさい」

 

 そこにちょうど女性が入ってきて、近くのテーブルに作ってきたパン粥を置いてアンネローゼに駆け寄った。またしても手を煩わせてしまったと思ってしまったことで、罪悪感という鎖がアンネローゼを苛もうとする。

 

「あ、いえ……大丈夫、です」

 

 激しく頭を振って雑念を払い、ことさら居住まいを正して答える。あまりにかしこまった姿に女性は思わず苦笑いを浮かべながら、アンネローゼの両肩に手を置いた。

 

「気にしないで休んでおくれよ。アンタは村の英雄なんだからさ。他の連中は魔王様の再来だ、とか言い出しているけど、気にしちゃダメだからね」

 

『魔王』という言葉を聞いてアンネローゼは身を硬くする。前世で兵器として他国の兵士を蹂躙していた時の二つ名が『魔王』だったからだ。

 

 他国への侵略を企図していたのは母国であるアステリウス帝国であるにもかかわらず、なぜか魔王が諸悪の根源として知れ渡っていたのだから滑稽な話だ。単なる帝国の奴隷兵器でしかないのに──。

 

「あの、魔王というのは?」

 

 気付いたらアンネローゼは女性に問いかけていた。彼女の前世は確かに魔王と呼ばれていたが、それが良い意味で使われたことなど記憶している限り一度もない。

 

「おとぎ話みたいなものさ。百年ほど前まで、この辺りはアステリウス帝国の支配地域だったのさ」

 

 アンネローゼは大きく目を見開いた。まさか前世の母国に偶然来ていたとは思いもよらなかったからだ。前世の彼女が勇者に討伐されてから時をおかずに滅亡したと考えると、百年近くの時を経て転生したということになる。

 

 転生の禁術は次の転生に記憶や人格を継承するためのもの。いつの時代に転生するかはわからないが、百年後であれば短い方だろう。

 

 女性はアンネローゼの驚いた様子に柔らかな笑みを浮かべて話を続ける。

 

「信じられないかもしれないけど──当時の帝国には『魔王』と呼ばれる少女がいたって話なんだ。戦場の最前線に立ち、敵を退ける。アタシたちのような平民にとっては、まさに英雄だったんだよ」

「そ、そうなんですか──」

「だが、その英雄も邪神の手先である勇者に倒されてね。旗色が悪くなると、すぐに貴族どもは全ての責任を魔王様になすりつけたんだよ。平民は誰一人貴族の妄言なぞ信じちゃいなかったけどね」

 

 ここまで聞いて、ようやくアンネローゼは村を救った英雄と『魔王様』が一本の線でつながった。まさか魔王という二つ名を好意的に使う人間がいたなど、前世の頃には思いもよらなかったことだ。

 

「まあ、勇者も貴族の嘘には気付いていたんだろうね。すぐに帝国に侵攻をしてきたんで、ビビった貴族どもは我先に逃げ出しちまって、そのまま帝国は滅亡したのさ。だけどアタシたちは、予言者の『魔王様がいずれ復活して、我々を導いてくれるだろう』という言葉を信じて、細々と生きてきたんだよ」

「あきらめて別の国で新しい生活を送ろうとは思わなかったのですか?」

「そう言って出て行った人間も少なくなかったさ。でも、外の世界はここよりも過酷だったからね」

 

 女性の言わんとしていることは何となくわかる。今でこそ改善されてきているが、当時は国という寄る辺のない難民の扱いは奴隷とほとんど変わらなかった。

 

 特に酷かったのは逃げ出した帝国貴族だった。難民を、帝国を捨てた裏切り者という名目で捕らえて強制労働をさせていたらしい。奴隷が違法となる際に大多数は検挙されたが、いまだに潰し切れていないと王国で教わったことがある。

 

 新天地を求めて村を出た人々が奴隷より酷い状況に追い込まれて命を落としたことを思い、哀しみがこみ上げてくる。目を伏せたアンネローゼの肩を女性がポンと叩いてきた。

 

「アンタが申し訳なく思う必要なんてないさ。それより体調が万全じゃないんだろう? これを食べて夜まで寝ておきなよ」

 

 アンネローゼにパン粥を押し付けると、女性は慌ただしそうに出て行った。パン粥はパンをミルクに浸しただけのシンプルなものだが、ミルクの濃厚な味に仄かな塩味が加わってアンネローゼの身体に染みわたっていく。

 

 ──どれだけ寝たのだろうか、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

 

 栄養を取ってひと眠りしたおかげか、完全回復とは言えないまでも十分動ける程度には回復した。落ち着かなくてアンネローゼはゆっくりとベッドから這い出し、軽く体を動かして具合を見る。

 

「これなら普通に生活する分には問題ありませんね」

「おっ、起きていたのかい?」

「はい、おかげさまで。だいぶ具合がよくなりました」

「そりゃあ良かった。それじゃあ行こうか、みんな主役が来るのを待ってるからね!」

 

 女性はアンネローゼの手を引いて、村の広場へと向かった。広場には大きな焚火が燃え盛っていて、周りに置かれたテーブルには様々な種類の料理や酒が所狭しと並んでいた。

 

 村人たちは思い思いに酒を飲み、料理を食べ、他愛もない話に花を咲かせている。

 

「さあさ、主役のご登場だよ!」

 

 女性の言葉に村人たちの視線がアンネローゼに集まる。刹那の沈黙を挟んで、村人たちの割れるような歓声が広場に響き渡った。

 

「さあさ、魔王様も一杯どうですかい?」

「えっと、未成年なので──」

「女の子に無理言っちゃいけないよ! ほら、これ、葡萄水だからね」

 

 絡んできた男を女性が突き飛ばし、代わりにノンアルコールの葡萄水の入ったジョッキを手渡してきた。

 

 葡萄水は葡萄の果汁を冷たい井戸水で薄めたもの。飲むと口の中に葡萄の香りと味が広がっていく。甘さも控えめになっていて、とても飲みやすい。

 

「料理も好きなだけ取ってきていいからね。はい、これが取り皿だよ」

 

 半分ほどジョッキを空けたところで、今度は取り皿を手渡される。素朴で濃い味付けの料理は貴族の料理よりも美味しく感じられた。

 

「それでは、魔王様の復活にカンパーイ!」

「「「カンパーイ!」」」

 

 少しだけ腹ごしらえをした頃合いで、最初にゴブリンの襲撃を警告に来た男性が乾杯の音頭を取った。すでにアンネローゼを魔王様の再来だというのが村人たちの共通認識になっていた。

 

 あながち間違いというわけでもないため、アンネローゼは転生してから十五年ぶり──否、自分の意思という意味では初めて魔王という二つ名を受け入れることを決めた。

 

 葡萄水で喉を潤し、勝利の宴に酔いしれる村人たちを見回す。村人たちはアンネローゼを魔王様と呼ぶけれども、感謝や賞賛の念はアンネローゼ個人に向けられているのがはっきりとわかる。

 

 これまで兵器や聖女として人々を助けてきたけれども、感謝も賞賛も肩書に向けられていた。

 

 そのわずかな違いによって、ここまで気持ちが軽くなることに驚きつつも、アンネローゼは村人たちに交じって勝利の宴を心行くまで堪能した。

 

 ◇

 

「それで、婚約破棄とは一体どういうことだ?」

 

 重苦しい雰囲気のサンドリア王宮で、国王リチャード・フォン・サンドリアは厳かに問いかけた。第一王子のユリウスと新しい婚約者であるフェイリアだけでなく、断罪の現場に居合わせた貴族、それから兵士に至るまで、一同が謁見の間に集められ、国王を前に頭を垂れていた。

 

 外遊から戻り、アンネローゼとの婚約破棄に加えて義妹であるフェイリアとの婚約を勝手に結んだとの報告を受けたリチャードが怒り狂って、居合わせた全員を招集したのがつい先ほどのこと。

 

「黙ったままでは埒が明かぬ。早く答えよ!」

 

 苛立ったリチャードが怒鳴ったところで、ただ居合わせただけの者がほとんど。兵士に至ってはユリウスに命令されただけで、状況など把握しているはずもない。

 

 中でもアンネローゼに首を刎ねられた兵士などは、女神の力で命拾いした結果がこの修羅場では、あのまま死んでいた方がよかったのかもしれないと思い始めていた。

 

「あの女は偽聖女だったのです! 聖女の祝福など持っていなかったのです!」

 

 リチャードの問いかけに答えられるのはユリウスかフェイリアのみ。背後から浴びせられる無言の圧力に弾かれるようにしてユリウスが答える。

 

 だが、それを聞いたリチャードはわずかに片眉を上げ、「ふむ」と声を漏らしただけだった。ふたたび沈黙が謁見の間を支配し、重苦しい空気はいよいよ押し潰さんばかりの圧力を孕み始めていた。

 

「その非は、誰が負うべきか?」

 

 ようやくリチャードが口を開き、その場の全員に問いかける。しっかりと学んだ貴族であれば答えは二択に絞られる。だが、その場にいた誰もが二択のうちの一つはあり得ないと考え、もう一つは具体的に誰なのかわからない。

 

 結果、誰もリチャードの問いに答えることができなかった──ユリウスを除いて。

 

 ユリウスは顔を上げると、よくぞ聞いてくれましたとばかりに自信満々に胸を張った。

 

「それはもちろん、あの女に決まっているでしょう!」

 

 ユリウスの答えを聞いた貴族たちの表情に落胆の色が広がり、リチャードは大きくため息を吐いた。

 

「我が息子は、ここまで愚かだったとは──」

「な、何を仰るのです! あの女は王家を騙したのですよ!」

「もうよい、口を閉じろ。愚か者めが!」

 

 反論しようとするも、リチャードの怒声にユリウスは何も言えなくなってしまった。下手に喋れば、息子のユリウスだったとしても即座に首を刎ねてしまいそうなほどの強烈な殺気が謁見の間を支配する。

 

「アンネローゼ嬢が本当に聖女でなかった場合、罪に問うべきは二人のうちのいずれかだ──」

 

 ユリウスは、この期に及んで罪に問うべき一人はアンネローゼであると信じていた。しかし、リチャードに圧されてうつむいたまま黙り込む。

 

「一人は鑑定の儀を行った神官、そしてもう一人は──」

 

 リチャードは一呼吸を置いて、その場にいた面々を見回す。わずかな動揺すらも見逃すまいと、目を光らせていた。

 

「祝福を奪い取った何者かだ」

 

 ユリウスとフェイリアの肩がピクリと跳ねる。あらかじめリチャードが当たりを付けていた通り、目の前の二人が仕組んだことだと知って呆れ果てる。その脱力したリチャードの隙を突いて、ユリウスが反論を試みた。

 

「奪い取るなんて大げさです。そもそも力を失っただけかもしれないではありませんか!」

「たしかに様々な理由で力を失うことはあるが、聖女でなくなることはない。なぜなら聖女とは聖女の祝福を持つ者のことを指すのだからな」

「ならば祝福ごとなくなった──」

「馬鹿が! 祝福がなくなることはあり得ない。宝物庫にある略奪の腕輪のような封印指定の魔道具を使って奪い取らない限りな」

 

 封印指定の魔道具とは、通常の施錠に加えて王家の血を鍵として登録された特殊な宝物庫に収められた代物。必然的に魔道具を使えるのは王族か、王族の協力者しかありえない。

 

 なぜ、このタイミングで王族しか使えない封印指定の魔道具の話を出したのか──勘のいい貴族は理由に気付いてユリウスに厳しい視線を向けている。

 

「その魔道具が持ち出された、という報告を受けている──お前の命令でな。なにゆえだ?」

「そ、それは……」

 

 ユリウスはリチャードの追及に言葉を詰まらせる。アンネローゼから聖女の祝福を奪い、代わりに聖女になってユリウスの婚約者になるという提案を聞いて乗ったのは、他でもないユリウス自身だからだ。

 

 なぜフェイリアが封印指定の魔道具について知っていたのかわからないが、ユリウスの貸した魔道具によってアンネローゼの聖女の祝福はフェイリアのものとなった。

 

 これでようやくフェイリアと婚約できる、そう思った矢先の追及にユリウスは不満を募らせる。祝福がフェイリアに移ったことで、みすぼらしいアンネローゼと婚約を続ける意味などない。

 

 何より、フローレス家もアンネローゼよりフェイリアと婚約することを希望していたのだから、何の問題もないはずだとユリウスは考えていた。

 

「たしかに魔道具を持ち出したのは俺ですが、結果としてフェイリアが聖女となり、俺の婚約者になるのですから、何の問題もないでしょう!」

「ここまで愚かだったとは──祝福を軽んじる行為が女神サンドラシアに対する侮辱だというのがわからんのか?」

 

 女神サンドラシアの名を国名に冠するサンドリア王国では、他国にもまして祝福を神聖視している。その思想が行き過ぎた結果、かつて自らの祝福に不満を持ち、次々と国民の祝福を奪った暴君が討たれた過去を持つ。その悲劇を繰り返さないため、祝福を蔑んだり奪ったりする行為は最も忌まわしい大罪とされている。

 

 リチャードは難しい選択を迫られていた。経緯はどうあれ、今はフェイリアが聖女なのは揺るぎない事実。王家にとって聖女を迎え入れる価値は大いにある。だが、それを認めれば貴族たちの反発は計り知れないだろう。

 

 唯一の救いは二人の生家であるフローレス家が異議を唱えないことだ。不満はあれど当事者同士が問題ないと言えば、第三者である貴族たちも強くは主張できない。

 

 リチャードの判断がユリウスの提案に傾き始める。だが、貴族たちの不満を代弁するかのように一人の貴族が顔を上げた。

 

「恐れながら申し上げます。殿下には魔王を目覚めさせた疑いがございます」

「なんだと?! どういうことだ、詳しく申してみよ!」

「父上、そのような戯言は──」

「貴様は黙っておれ!」

 

 リチャードは魔王という言葉を聞いて過敏に反応した。なぜなら魔王とは、かつて帝国を裏から支配して世界中を敵に回した極悪非道の存在だと言い伝えられているからだ。

 

 ユリウスが戯言と切り捨てようとするのも一喝して黙らせる。

 

 貴族は一度、頭を深く下げて先ほどの出来事を語りだした。

 

「アンネローゼ嬢は、聖女の祝福によって封印された魔王だった疑いがございます」

「どういうことだ?」

「祝福を奪われた直後、アンネローゼ嬢は立ちふさがった兵士の首を素手で切り落としただけでなく、残る兵士たちも巨大な竜巻を作り出し一瞬で壊滅させました。その後、指先一つに王宮を消し飛ばせるほどの膨大な魔力を──」

「なるほどな。それが事実なら、指先一つで一軍を殲滅したという魔王の言い伝えとも一致する。さて、ユリウスよ。人類の宿敵たる魔王を目覚めさせた罪、いかにして償うつもりだ?」

 

 リチャードが問いかけた魔王復活の罪は、祝福を奪った程度の罪など容易くかすんでしまう。もはや、ただ処刑されるだけでは済まされない。

 

 このままでは、国民から石を投げられながら各国を引き回され、最後は大勢の前で処刑される──ユリウスの脳裏に、そんな未来がありありと浮かんだ。

 

 ──何としても、それだけは避けなければ。

 

 せめて自分だけでも助かるため、ユリウスは思考を巡らす。先ほど女神に救われたことを思い出し、この事実を上手く利用する妙案を思いついた。

 

「俺が聖女と共に魔王を討伐すればよいではないですか」

「手も足も出なかったお前が魔王を討伐できるというのか?」

 

 穴が開きそうなほど鋭いリチャードの視線がユリウスを射貫く。だが、ここで引くわけにはいかない。

 

「もちろんです。俺には女神の加護が付いております。すなわち実は俺が勇者だったということです」

 

 にわかに謁見の間が騒然とする。何しろ魔王を目覚めさせた張本人が伝説の勇者を自称したのだから当然だろう。リチャードもユリウスに疑いの目を向ける。

 

「お前が勇者だと?」

「その通り。先ほど魔王に襲われかけた時、女神は俺を守るために奇跡を起こした。なぜか──俺が勇者だからだ!」

 

 ユリウスは立ち上がり、両手を広げて天を仰ぐ。実に勇者らしい尊大な態度であった。そんなパフォーマンスも無駄ではなく、謁見の間に居合わせた者の中にも感化された者は少なからずいた。

 

 だが残念なことに、その中にリチャードは含まれていない。相変わらず疑わしげにユリウスを見ていたが、おもむろに目を閉じて大きく息を吐いた。

 

「分かった、そこまで言うなら魔王を討伐してみせよ。目的を達するまで王宮へ戻ることは禁ずる。よいな?」

「は?」

 

 ユリウスが間の抜けた声を漏らすと同時に、リチャードの意を汲んだ兵士たちが顔を上げると前に進み出てきて、呆気に取られている二人を取り押さえた。

 

「な、何をする!」

「きゃっ、な、何をするのよ!」

「二人を王宮の外に放り出せ!」

「「「はっ!」」」

 

 こうして自称勇者ユリウスと略奪聖女フェイリアは魔王アンネローゼ討伐のために王国を旅立った。

 

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