ワールドトリガー LOSTCOLARS   作:淫獣撲滅委員

16 / 16
第13話 新たなる戦力

 

八月に入って、ボーダー本部には朝から多くの新人隊員が集まっていた。

 第二期の隊員募集によって入隊してきた者たちだ。

 第一次大規模侵攻から丸一年。ボーダーの存在は少しずつ世間に認知され始め、組織の規模も拡大している。新しい隊員を受け入れるための試験も、以前より体系化されつつあった。

 

 その試験会場の一角で、ライ・アッシュフォードは訓練用トリガーの動作を確認していた。

「……よし。こちらは問題ありません」

「ご苦労さん。次はあちらの訓練室を頼む」

木崎レイジが、手元の資料を確認しながら告げる。

「分かりました」

「ライ、こっちの記録も見てもらえるか?」

 少し離れた場所から声をかけてきたのは、東春秋だった。

 今回の入隊試験では、東と木崎が試験全体の進行を補佐し、ライも受験者の戦闘試験や適性確認を手伝っている。

 東が差し出した記録用紙を受け取り、ライは目を通した。

「……なるほど。トリオン兵の撃破時間だけでなく、攻撃の選択や被弾回数も記録しているんですね」

「単純な速さだけでは、実戦で役に立つかどうかは分からないからな」

「同感です。相手の動きに対応できるかどうかも重要ですから」

「そのあたりは、ライにも見てもらいたい。俺たちとは違う視点があるだろう」

「僕でよければ」

 ライは微笑んだ。

 その視線の先では、受験者たちが順番に訓練室へ入っていく。

 その中でも、三人の受験者が目を引いていた。

 ひとりは、冷静な表情で訓練室に入る少年。

 もうひとりは、余裕のある笑みを浮かべた少女。

 そして最後のひとりは、どこか大胆な雰囲気をまとった少年だった。

 いずれも、これからのボーダーを担うことになる可能性を秘めた者たちである。

 

     *

 

 最初に注目を集めたのは、二宮匡貴だった。

 訓練室に配置されたトリオン兵を前に、二宮は射撃用トリガーを起動する。

 彼の前に現れたのは、大きい形のアステロイド。

 彼は距離を測ると、迷いなく分割して攻撃を開始した。

 放たれた弾丸が、トリオン兵の装甲を次々と削っていく。

 相手の動きを観察し、攻撃が通りやすい位置を狙いながらも、基本的には正面から押し切る戦い方だった。

「……すごいな」

 ライは記録用紙に目を落としながら呟いた。

「トリオン量が多いだけじゃない。弾を撃つタイミングも、狙いをつけるまでの時間も安定している」

「射撃の基本をしっかり押さえているな」

 東も頷く。

「余計な動きが少ない。自分の強みを理解して、それを最大限に使おうとしている」

 やがて、最後のトリオン兵が撃破された。

 二宮はトリガーを解除すると、呼吸を整えながら訓練室を出てくる。

 表情には、特別な感慨もない。

 ただ、当然のことを当然のようにやり遂げた。

 そんな顔だった。

「次は加古だな」

 木崎の言葉に、ライは視線を移した。

 加古望は、二宮とは対照的な戦い方を見せた。

 彼女もまた、シューター用トリガーのアステロイドを使用している。

 しかし、攻撃の仕方は二宮と大きく違っていた。

 トリオン兵の正面から力で押し切ろうとはしない。

 相手の攻撃を見極め、身軽に位置を変えながら、隙を見つけて反撃する。

 敵の攻撃が迫れば、無理に撃ち返さずに回避する。

 そして、相手が体勢を立て直そうとした瞬間に、アステロイドを撃ち込んだ。

「二宮とは、ずいぶん戦い方が違うな」

 木崎が腕を組む。

「加古は相手の動きをよく見ている。攻撃することだけじゃなく、攻撃させることも考えているんだろう」

 東の指摘に、ライは頷く。

「はい。相手に先に動かせて、その動作を見てから対応しているように見えます」

 加古は最後まで大きなミスをすることなく、トリオン兵を撃破した。

 戦闘を終えた彼女は、髪を軽く整えながら訓練室を出てくる。

「どうだった?」

 採点を担当していた隊員に、加古は気軽に尋ねた。

「十分な成績です。お疲れさまでした」

「そう?ありがとう」

 彼女は満足そうに微笑むと、次の受験者へと場所を譲った。

 そして、最後に諏訪洸太郎が訓練室へ入った。

「さて、どんなもんかな」

 諏訪は肩を回し、訓練室の中を見渡した。

 彼が使用したのは、アサルトライフル型のトリガー

 ライは、その選択を見て少し興味を引かれた。

 銃型トリガーは、まだ発展途上の技術だ。

 射撃の基本を身につけている者なら扱いやすい一方、剣型トリガーやシューター用トリガーとは異なる立ち回りが求められる。

 諏訪は銃を構えると、トリオン兵へ向かって走り出した。

――いや。

 正確には、走り出したかと思えば、すぐに横へ跳んだ。

 トリオン兵の攻撃をぎりぎりでかわし、反撃を撃ち込む。

 そのまま距離を取るかと思えば、今度は急に接近した。

 敵の攻撃が当たりそうになっても、ぎりぎりまで引きつけてから回避する。

 そして、相手の体勢が崩れた瞬間を狙って、再び射撃する。

「……ずいぶん大胆だな」

 東が呟いた。

「大胆というか、無茶苦茶でしょう」

 木崎は眉をひそめた。

「被弾の危険が高すぎる。あの距離なら、もう少し安全に戦えるはずだ」

「まあ、確かにな」

 東は否定しなかった。

「ただ、ああいう戦い方もありだろう。相手の動きをぎりぎりまで引きつけることで、反撃の機会を作っている」

「失敗すれば終わりです」

「だからこそ、本人の反応速度や判断力が重要になるんだろうな」

 二人の意見を聞きながら、ライも諏訪の動きを追っていた。

 確かに、諏訪の戦い方は安定しているとは言い難い。

 相手の攻撃を紙一重でかわし、そこから反撃する。

 成功している間はいいが、判断を一度誤れば大きな隙を晒すことになる。

 それでも、銃型トリガーを使いながら、相手の懐に入り込むことを恐れていない点は興味深かった。

「……ハマれば、かなり強いと思います」

 ライは静かに口を開いた。

「ただ、今のままだと相手や状況に左右されすぎる。あの戦い方を活かすなら、まずは基本的な対応力と、自分の技術そのものを底上げする必要があるでしょうね」

「同感だ」

 東が頷く。

「奇抜な戦い方をすること自体は悪くない。だが、それを成立させるための土台は必要だ」

 やがて諏訪もトリオン兵を撃破した。

 最後の一体を倒したあと、彼は銃を肩に担ぐようにして訓練室を出てくる。

「お疲れさまでした」

 採点係の言葉に、諏訪は軽く手を上げた。

「どうも。ま、こんなもんだろ」

 木崎はその様子を見て、小さく息を吐いた。

「……やっぱり、めちゃくちゃなやつだな」

「でも、面白いだろ?」

 東が言う。

「ええ。見ている分には」

 ライは微笑んだ。

「一緒に戦うなら、少し考えたいところですが」

「ははっ。違いない」

 東は楽しそうに笑った。

 

     *

 

 試験が終わると、ライは東と木崎に続いて別の訓練室へ向かった。

 今度は、スナイパー志望の受験者たちを対象とした講習だ。

 遠距離から攻撃するスナイパーは、単純に狙撃の技術が高ければ務まるわけではない。

 射線の確保。

 敵の位置の把握。味方との連携。そして、撃つべき瞬間を見極める判断力。

 それらを身につける必要がある。

「まずは、標的に当てることを考えなくていい」

 東が受験者たちへ説明する。

「狙撃手にとって大事なのは、撃てるかどうかだけじゃない。撃つべき状況で、撃てる位置にいるかどうかだ」

 受験者たちは真剣な表情で話を聞いていた。

 ライも補足する。

「狙撃のために移動することも、撃たずに待つことも、立派な判断です。命中率だけを追いかけると、かえって自分の役割を見失うことがあります」

 ひとりの受験者が手を挙げた。

「では、敵を見つけても、すぐに撃たない方がいい場合があるということですか?」

「そうです」

 ライは頷いた。

「その一発で敵を倒せるなら、撃つ価値は高いでしょう。でも、撃ったことで自分の位置が知られ、味方の作戦まで崩れてしまうなら、別の選択肢を考える必要があります」

「……なるほど」

「もちろん、最初から全部できる必要はありません。今は、何を考えて撃つのかを意識してください。技術は、そのあとについてきます」

 受験者たちが再び頷く。

 東はそんな彼らを見ながら、満足そうに目を細めた。

「いい説明だな、ライ」

「東さんを参考にしました」

「俺はそこまで難しいことは言っていないぞ」

「そうでしょうか?」

「……そういうことにしておこう」

 東は苦笑した。

 その後も講習は順調に進み、夕方になるころには、予定されていた試験と指導がすべて終了した。

「今日は助かったよ、ライ」

 木崎が言った。

「いえ。こちらこそ、勉強になりました」

「これからも頼む」

「はい」

 東と木崎は、それぞれ別の業務へ向かっていった。

 ライも帰ろうとしたが、ふと個人ランク戦のブースを見に行くことにした。

 新人たちが実際にどのような戦い方をするのか、もう少し見ておきたかったのだ。

 

     *

 

 個人ランク戦のブースは、夕方になっても賑わっていた。

 訓練用トリガーを使った模擬戦を終えた者たちが、戦闘の反省をしたり、次の対戦相手を探したりしている。

 その中に、見覚えのある少年の姿があった。

「三輪君」

 ライが声をかけると、三輪秀次は振り返った。

「……ライさん」

「お疲れさま。今日は試験を見に来たの?」

「いえ。訓練のあと、少し様子を見ていただけです」

「そうなんだ。よかったら、一緒に見ない?」

「構いません」

 三輪は短く答えた。

 ライは隣に立ち、模擬戦の行われているモニターへ目を向ける。

「三輪君は、今日の新人たちを見てどう思った?」

「個人差が大きいですね。基本動作が安定している者もいれば、トリオン量に頼っている者もいる。戦闘経験が少ないせいか、攻撃の選択に迷いが見える者もいます」

 淡々とした口調だった。

 だが、目は真剣そのものだ。

「特に、相手の動きに対応するより、自分の攻撃を通すことを優先している者が多いです。実戦なら、その隙を突かれる可能性があります」

「うん。僕もそう思う」

 ライは頷いた。

「でも、今の段階でそれを全部できる必要はないよ。何ができて、何ができないのか。それを自分で把握できるようになることが大切だから」

「……そうですね」

 三輪は少し考えるように黙った。

「ただ、早く強くならなければならないと思っています」

 ライは、彼の横顔を見た。

「どうして?」

「……ネイバーを倒す 戦力はすぐに欲しいからです」

 短い返答だった。

 それ以上の説明はしなかったが、ライは無理に聞き出そうとはしなかった。

「そうだね」

 ただ、静かに答える。

「でも、焦って身につけた力は、使い方を間違えることもある。強くなることと、強さをどう使うかを考えること。その両方を大切にしてほしいな」

 三輪はライを見た。

 少しだけ、意外そうな表情を浮かべる。

「……ライさんは、ずいぶん落ち着いていますね」

「そうかな?」

「はい。少し歳上なだけなのに、俺よりずっと先のことを考えているように見えます」

「僕だって、分からないことばかりだよ」

 ライは苦笑した。

「だから、こうして他の人の戦い方を見ているんだ。自分にはない考え方を知るのは、面白いからね」

 三輪は、もう一度モニターへ視線を戻した。

「……そういうものですか」

「そういうものだと思うよ」 

『二宮匡貴対加古望』

 モニターに2人が戦おうとしている様子が見て取れた。

「おっ」

 ライが声を上げた。

「これは見ておきたいね」

 三輪も頷いた。

 二人はモニターの前へ移動した。

 

     *

 

 対戦が始まると、二宮は迷わず攻撃を仕掛けた。

 アステロイドの弾丸が、加古の周囲へ次々と飛んでいく。

 試験のときと同じく、二宮の戦い方は明快だった。

 圧倒的なトリオン量を背景に、相手が回避する方向まで考えながら射撃を重ねる。

 弾幕を張り、加古の行動範囲を狭めていく。

 真正面から受け止めるのは難しい。

 加古は無理に撃ち合わず、二宮の攻撃をかわしながら移動を続けた。

 時には大きく距離を取り、時には攻撃の隙間を縫うようにして接近する。

 二宮が射撃の角度を変えれば、彼女もまた軌道を変える。

 攻め続ける二宮。

 その攻撃を受け流しながら、反撃の機会をうかがう加古。

 戦いは、二宮の弾幕が加古を追い詰めているように見えながら、なかなか決着がつかなかった。

「……二宮さんは、ずいぶんトリオン量に頼っていますね」

 三輪が言った。

「頼っているというより、強みとして徹底的に使っているんだと思う」

 ライはモニターを見つめたまま答えた。

「弾数や威力で相手に圧力をかけられるなら、相手が動ける範囲を狭められる。そこから攻撃を当てるのは、理にかなっているよ」

「ですが、加古さんは対応しています」

「うん。二宮君の攻撃そのものを止めようとはしていない。攻撃を受けないことを優先して、少しずつ有利な位置を探しているんだ」

 三輪は頷き、再び画面へ目を向けた。

 加古が一瞬の隙を突き、二宮へ反撃する。

 だが、二宮はすぐに体勢を立て直し、さらなる射撃で彼女を押し返した。

 加古は笑みを浮かべながら、再び回避に転じる。

「……楽しそうですね、加古さん」

「そう見えるね」

 ライも小さく笑った。

「追い詰められている状況でも、相手の戦い方を楽しんでいるように見える」

「俺には、二宮さんの方が苛立っているように見えます」

「それも分かるよ。自分の得意な戦い方をしているのに、決定打が入らないんだから」

 その後も攻防は続いた。

 二宮は攻撃の手を緩めない。

 加古は攻撃をかわし、隙を突き、反撃する。

 しかし、最後は二宮の弾幕が加古の逃げ道を塞いだ。

 加古が回避しようとした先へ、二宮の射撃が先回りする。

 避けきれないと判断した加古が体勢を変えた瞬間、二宮の攻撃が決定打となった。

『勝者、二宮匡貴』

 観戦していた隊員たちから、感嘆の声が上がる。

 だが、勝者である二宮は、勝利を喜ぶ様子もなく、深く息を吐いた。

「……疲れた」

 その一言が、モニター越しにも聞こえてきそうなほどだった。

 ライは思わず苦笑した。

「勝ったのに、ずいぶん消耗したみたいだね」

「それだけ、加古さんの回避が厄介だったということでしょう」

 三輪の分析に、ライは頷いた。

「そうだね。二宮君は自分の強みを押しつける戦い方ができる。でも、相手が簡単に崩れてくれなければ、それだけ攻撃を続けなければならない」

「一方で、加古さんは二宮さんの攻撃を利用して、反撃の機会を作っていた」

「うん。二人とも、戦い方がはっきりしているね」

 対戦ブースから二宮が出てきたところで、ライは声をかけた。

「二宮君、お疲れさま」

 二宮は足を止め、ライを見る。

「……アッシュフォードか」

「覚えていてくれたんだね」

「試験の補佐をしていたからな。それで、何か用か?」

「今日、実際にトリガーを使ってみてどうだった? 特にアステロイドの扱いについて、感想を聞きたいんだ」

 二宮は少し考えた。

「扱いやすい。弾の生成も射撃も、基本を押さえれば難しくはない」

「なるほど」

「ただ、射撃の角度や弾の密度を考えると、思った以上に頭を使う。トリオン量があれば押し切れる場面もあるが、それだけでは決まらない」

 ライは興味深そうに聞いていた。

「試験のときも、弾を撃つ位置が安定していたね。あれは、最初から考えていたの?」

「当然だ。何も考えずに撃っても、当たるとは限らない」

「確かに。相手の動きを予測して撃つのと、ただ狙って撃つのとでは違うからね」

 二宮は小さく頷いた。

「銃型のトリガーも一度は試してみたいところだな。射撃の選択肢が増えるなら、戦術の幅も広がる」

「それはいい考えだと思う」

 ライが答えたところで、背後から明るい声が飛んできた。

「あら?二宮くん、ずいぶん疲れているみたいね?」

 二宮の表情が、目に見えて険しくなった。

「……加古」

 加古望が、楽しそうな笑顔で近づいてくる。

「勝ったのに、そんな顔をして。もう少し嬉しそうにしたらどう?」

「誰のせいだと思っている」

「あら。私のせいなの?」

「お前がいつまでも逃げ回るからだろう」

「逃げるのも立派な戦術よ?」

 加古は悪びれもせずに言った。

「それに、二宮くんはトリオン量が多いんだから、もっと余裕を持って戦えばいいのに」

「……お前な」

 二宮の眉間に深い皺が寄る。

 ライは思わず苦笑した。

「ええと……僕はライ・アッシュフォード。試験の補佐をしていたんだ。よろしくね」

 加古はライへ視線を移し、にこやかに微笑んだ。

「あら、ご丁寧にどうも。私は加古望。こちらこそよろしく」

 その隣で、三輪も軽く頭を下げた。

「三輪秀次です。よろしくお願いします」

「三輪くんね。覚えておくわ」

 加古は二人を交互に見てから、二宮へ視線を戻した。

「二宮くん、次にやるときはもっと面白い戦いを期待しているわ」

「……もう一度やるつもりなのか」

「もちろん」

「俺は断る」

「あら、残念」

 まったく残念そうではない表情で、加古は笑った。

 すると、少し離れた場所から彼女を呼ぶ声がした。

「望ー! そろそろ行くわよ!」

「あ、はーい!」

 加古は振り返り、手を振った。

「それじゃあ、またね。二人とも」

 そう言って去りかけた彼女は、最後にもう一度二宮を振り返った。

「二宮くん、次は疲れたなんて言わないでね?」

「……さっさと行け」

 加古は楽しそうに笑いながら、連れの友人たちのもとへ走っていった。

 その姿が見えなくなると、二宮は深々とため息をついた。

「……まったく」

 ライは苦笑した。

「仲がいいんだね」

「どこをどう見たらそうなる」

「少なくとも、加古さんは二宮君と戦うのを楽しんでいるように見えたよ」

「俺は楽しんでいない」

「それは残念」

「……お前も、なかなか言うな」

 二宮は呆れたようにライを見た。

 三輪も、ほんのわずかに表情を緩めていた。

 

     *

 

 二宮が別のブースへ移動したあと、ライと三輪は並んで観戦スペースの椅子に腰を下ろした。

「二宮君は、かなり強くなりそうだね」

 ライが言う。

「今でも十分に強いと思います。トリオン量だけでなく、射撃の判断も優れている。攻撃を続けるべき場面と、相手の動きを読むべき場面を理解しているように見えました」

「うん。ただ、加古さんのように回避を重視する相手に対しては、もう少し効率よく攻める方法を見つけられるかもしれない」

「……例えば、相手の逃げ道を先に塞ぐとか」

「そうだね。実際、最後はそれで勝った。でも、あそこまで消耗する必要があったかどうかは、考える余地があると思う」

 三輪は少し考え込んだ。

「ライさんなら、どう戦いますか?」

「僕なら……まずは相手がどの方向へ逃げるのか、何度か攻撃して傾向を見たいかな。そのうえで、逃げ道を限定するように攻撃を配置する」

「攻撃を当てることより、相手の動きを制限することを優先するんですね」

「そう。もちろん、相手がそれを見抜いてくる可能性もあるけどね」

 三輪は頷きながら、考えを整理しているようだった。

「……勉強になります」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、僕もまだまだだから」

「ライさんは、いつもそう言いますね」

「そうかな?」

「はい。自分の実力を、あまり高く評価していないように見えます」

 ライは少しだけ目を丸くした。

 それから、困ったように笑った。

「自分のことは、意外と分からないものだからね。周りから見た評価と、自分で感じていることが違う場合もあるし」

「……俺は、自分の弱さなら分かります」

 三輪の声は静かだった。

「だから、もっと強くならなければならない」

 ライは彼を見た。

 三輪の目には、迷いよりも強い意志があった。

「その気持ちは大事だと思うよ」

 ライは穏やかに答えた。

「ただ、強くなるために必要なのは、自分の弱さを責め続けることじゃない。何が足りないのかを見つけて、一つずつ埋めていくことだと思う」

「……はい」

「それに、今日の試験を見ていて思ったんだけど、同じトリガーを使っていても、人によって戦い方はまったく違うんだ」

 ライはモニターへ目を向けた。

「二宮君のように強みを押しつける戦い方もあれば、加古さんのように相手の動きを利用する戦い方もある。諏訪さんのように、危険を承知で勝負に出る戦い方もある」

「諏訪さんの戦い方は、少し危険すぎると思いますが」

「僕もそう思うよ」

 ライは笑った。

「でも、あの戦い方を選ぶ理由があるのかもしれない。だから、最初から否定するより、どうすれば成立するのかを考えてみたいんだ」

 三輪はしばらく黙っていた。

 やがて、小さく息を吐く。

「……ライさんは、ずいぶん変わっていますね」

「よく言われるよ」

「褒めているわけではありません」

「分かっているよ」

 ライは楽しそうに笑った。

 三輪は呆れたように視線を逸らしたが、その表情には先ほどまでの硬さが少しだけ薄れていた。

 モニターの向こうでは、また新しい対戦が始まろうとしている。

 新しく入隊した者たち。

 それぞれ異なる才能と考え方を持つ者たちが、同じ場所で技術を磨いていく。

 その姿を眺めながら、ライは静かに思った。

 ――これから、どんな戦術が生まれていくのだろう。

 自分ひとりでは思いつかない戦い方も、誰かと競い合うことで見えてくるかもしれない。    

「三輪君」

「何ですか?」

「また時間があるときに、模擬戦をしない?」

 三輪は意外そうにライを見た。

「俺と、ですか?」

「うん。今日の話を聞いていたら、君と実際に戦ったらどんな発見があるのか、気になってね」

 三輪は少し考えたあと、真剣な表情で頷いた。

「……分かりました。お願いします」

「ありがとう。楽しみにしているよ」

 ライは微笑んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

NARUTO 〜渦巻く団扇の物語〜(作者:セイヴァー)(原作:NARUTO)

 神様のミスにより亡くなった主人公。▼ お詫びとして転生した世界は、他作品のキャラも登場するNARUTOの並行世界▼ 転生先の世界で新たに ゛うずまきヒスイ゛ として生きる為に今日も奮闘する。▼どうも、おはこんばんにちわ、初めましてセイヴァーです。▼この度、読み専から一転して作品を投稿することにしました。▼誤字脱字や設定の矛盾点等かあるかもしれませんが生暖か…


総合評価:231/評価:7.2/連載:10話/更新日時:2026年07月13日(月) 10:00 小説情報

Skybound Ace 【Redux】(作者:心ここにあらず)(原作:ハイキュー!!)

▼この作品はリメイク版です!▼ハイキューの世界にリエーフの幼馴染的な主人公を交えたお話です。生まれもった環境もポテンシャルも全てを兼ね備えた主人公がどのように原作キャラたちと交え成長していくのかをご覧ください!⚠︎リエーフは幼馴染であるが同じ高校に進むとは言ってない…ウシワカとか大王様とか宮城には個性的な人たちがいるからそっちと絡ませたいです!


総合評価:218/評価:7.75/連載:15話/更新日時:2026年07月11日(土) 07:12 小説情報

「縁」を視る近界民、ボーダー隊員になる(作者:白豆男爵)(原作:ワールドトリガー)

人と人との「縁」が見えるサイドエフェクトを持つ近界民、リーヴ。▼玄界を偵察しに来た彼は、ひょんなことからボーダーと協力関係を築くことになる。▼これは、彼が玄界で居場所を見つける物語。


総合評価:246/評価:6.43/連載:23話/更新日時:2026年07月18日(土) 16:41 小説情報

ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~(作者:レイザル)(原作:ポケットモンスター)

なんか知らん間にアニポケの世界に転生してた。そんなポケモン大好きな主人公が送る▼物語だ。とりあえずポケモン廃人でありながらもエンジョイすることは忘れないぜ!


総合評価:807/評価:7.92/連載:55話/更新日時:2026年10月20日(火) 12:00 小説情報

迷宮を目指した俺は、世界を間違えた(作者:アルマトラン)(原作:無職転生)

二十一歳で死んだ大学生は、異世界で二度目の人生を始めた。▼魔法がある。▼魔物がいる。▼迷宮がある。▼大好きだった『マギ』の世界だと思った。▼……ところが。▼ジンがいない。▼金属器もない。▼ーーどうやら俺は、世界を間違えたらしい。▼これは、勘違いから始まる二度目の異世界人生。


総合評価:3046/評価:8.15/連載:28話/更新日時:2026年10月19日(月) 22:47 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>