八月に入って、ボーダー本部には朝から多くの新人隊員が集まっていた。
第二期の隊員募集によって入隊してきた者たちだ。
第一次大規模侵攻から丸一年。ボーダーの存在は少しずつ世間に認知され始め、組織の規模も拡大している。新しい隊員を受け入れるための試験も、以前より体系化されつつあった。
その試験会場の一角で、ライ・アッシュフォードは訓練用トリガーの動作を確認していた。
「……よし。こちらは問題ありません」
「ご苦労さん。次はあちらの訓練室を頼む」
木崎レイジが、手元の資料を確認しながら告げる。
「分かりました」
「ライ、こっちの記録も見てもらえるか?」
少し離れた場所から声をかけてきたのは、東春秋だった。
今回の入隊試験では、東と木崎が試験全体の進行を補佐し、ライも受験者の戦闘試験や適性確認を手伝っている。
東が差し出した記録用紙を受け取り、ライは目を通した。
「……なるほど。トリオン兵の撃破時間だけでなく、攻撃の選択や被弾回数も記録しているんですね」
「単純な速さだけでは、実戦で役に立つかどうかは分からないからな」
「同感です。相手の動きに対応できるかどうかも重要ですから」
「そのあたりは、ライにも見てもらいたい。俺たちとは違う視点があるだろう」
「僕でよければ」
ライは微笑んだ。
その視線の先では、受験者たちが順番に訓練室へ入っていく。
その中でも、三人の受験者が目を引いていた。
ひとりは、冷静な表情で訓練室に入る少年。
もうひとりは、余裕のある笑みを浮かべた少女。
そして最後のひとりは、どこか大胆な雰囲気をまとった少年だった。
いずれも、これからのボーダーを担うことになる可能性を秘めた者たちである。
*
最初に注目を集めたのは、二宮匡貴だった。
訓練室に配置されたトリオン兵を前に、二宮は射撃用トリガーを起動する。
彼の前に現れたのは、大きい形のアステロイド。
彼は距離を測ると、迷いなく分割して攻撃を開始した。
放たれた弾丸が、トリオン兵の装甲を次々と削っていく。
相手の動きを観察し、攻撃が通りやすい位置を狙いながらも、基本的には正面から押し切る戦い方だった。
「……すごいな」
ライは記録用紙に目を落としながら呟いた。
「トリオン量が多いだけじゃない。弾を撃つタイミングも、狙いをつけるまでの時間も安定している」
「射撃の基本をしっかり押さえているな」
東も頷く。
「余計な動きが少ない。自分の強みを理解して、それを最大限に使おうとしている」
やがて、最後のトリオン兵が撃破された。
二宮はトリガーを解除すると、呼吸を整えながら訓練室を出てくる。
表情には、特別な感慨もない。
ただ、当然のことを当然のようにやり遂げた。
そんな顔だった。
「次は加古だな」
木崎の言葉に、ライは視線を移した。
加古望は、二宮とは対照的な戦い方を見せた。
彼女もまた、シューター用トリガーのアステロイドを使用している。
しかし、攻撃の仕方は二宮と大きく違っていた。
トリオン兵の正面から力で押し切ろうとはしない。
相手の攻撃を見極め、身軽に位置を変えながら、隙を見つけて反撃する。
敵の攻撃が迫れば、無理に撃ち返さずに回避する。
そして、相手が体勢を立て直そうとした瞬間に、アステロイドを撃ち込んだ。
「二宮とは、ずいぶん戦い方が違うな」
木崎が腕を組む。
「加古は相手の動きをよく見ている。攻撃することだけじゃなく、攻撃させることも考えているんだろう」
東の指摘に、ライは頷く。
「はい。相手に先に動かせて、その動作を見てから対応しているように見えます」
加古は最後まで大きなミスをすることなく、トリオン兵を撃破した。
戦闘を終えた彼女は、髪を軽く整えながら訓練室を出てくる。
「どうだった?」
採点を担当していた隊員に、加古は気軽に尋ねた。
「十分な成績です。お疲れさまでした」
「そう?ありがとう」
彼女は満足そうに微笑むと、次の受験者へと場所を譲った。
そして、最後に諏訪洸太郎が訓練室へ入った。
「さて、どんなもんかな」
諏訪は肩を回し、訓練室の中を見渡した。
彼が使用したのは、アサルトライフル型のトリガー
ライは、その選択を見て少し興味を引かれた。
銃型トリガーは、まだ発展途上の技術だ。
射撃の基本を身につけている者なら扱いやすい一方、剣型トリガーやシューター用トリガーとは異なる立ち回りが求められる。
諏訪は銃を構えると、トリオン兵へ向かって走り出した。
――いや。
正確には、走り出したかと思えば、すぐに横へ跳んだ。
トリオン兵の攻撃をぎりぎりでかわし、反撃を撃ち込む。
そのまま距離を取るかと思えば、今度は急に接近した。
敵の攻撃が当たりそうになっても、ぎりぎりまで引きつけてから回避する。
そして、相手の体勢が崩れた瞬間を狙って、再び射撃する。
「……ずいぶん大胆だな」
東が呟いた。
「大胆というか、無茶苦茶でしょう」
木崎は眉をひそめた。
「被弾の危険が高すぎる。あの距離なら、もう少し安全に戦えるはずだ」
「まあ、確かにな」
東は否定しなかった。
「ただ、ああいう戦い方もありだろう。相手の動きをぎりぎりまで引きつけることで、反撃の機会を作っている」
「失敗すれば終わりです」
「だからこそ、本人の反応速度や判断力が重要になるんだろうな」
二人の意見を聞きながら、ライも諏訪の動きを追っていた。
確かに、諏訪の戦い方は安定しているとは言い難い。
相手の攻撃を紙一重でかわし、そこから反撃する。
成功している間はいいが、判断を一度誤れば大きな隙を晒すことになる。
それでも、銃型トリガーを使いながら、相手の懐に入り込むことを恐れていない点は興味深かった。
「……ハマれば、かなり強いと思います」
ライは静かに口を開いた。
「ただ、今のままだと相手や状況に左右されすぎる。あの戦い方を活かすなら、まずは基本的な対応力と、自分の技術そのものを底上げする必要があるでしょうね」
「同感だ」
東が頷く。
「奇抜な戦い方をすること自体は悪くない。だが、それを成立させるための土台は必要だ」
やがて諏訪もトリオン兵を撃破した。
最後の一体を倒したあと、彼は銃を肩に担ぐようにして訓練室を出てくる。
「お疲れさまでした」
採点係の言葉に、諏訪は軽く手を上げた。
「どうも。ま、こんなもんだろ」
木崎はその様子を見て、小さく息を吐いた。
「……やっぱり、めちゃくちゃなやつだな」
「でも、面白いだろ?」
東が言う。
「ええ。見ている分には」
ライは微笑んだ。
「一緒に戦うなら、少し考えたいところですが」
「ははっ。違いない」
東は楽しそうに笑った。
*
試験が終わると、ライは東と木崎に続いて別の訓練室へ向かった。
今度は、スナイパー志望の受験者たちを対象とした講習だ。
遠距離から攻撃するスナイパーは、単純に狙撃の技術が高ければ務まるわけではない。
射線の確保。
敵の位置の把握。味方との連携。そして、撃つべき瞬間を見極める判断力。
それらを身につける必要がある。
「まずは、標的に当てることを考えなくていい」
東が受験者たちへ説明する。
「狙撃手にとって大事なのは、撃てるかどうかだけじゃない。撃つべき状況で、撃てる位置にいるかどうかだ」
受験者たちは真剣な表情で話を聞いていた。
ライも補足する。
「狙撃のために移動することも、撃たずに待つことも、立派な判断です。命中率だけを追いかけると、かえって自分の役割を見失うことがあります」
ひとりの受験者が手を挙げた。
「では、敵を見つけても、すぐに撃たない方がいい場合があるということですか?」
「そうです」
ライは頷いた。
「その一発で敵を倒せるなら、撃つ価値は高いでしょう。でも、撃ったことで自分の位置が知られ、味方の作戦まで崩れてしまうなら、別の選択肢を考える必要があります」
「……なるほど」
「もちろん、最初から全部できる必要はありません。今は、何を考えて撃つのかを意識してください。技術は、そのあとについてきます」
受験者たちが再び頷く。
東はそんな彼らを見ながら、満足そうに目を細めた。
「いい説明だな、ライ」
「東さんを参考にしました」
「俺はそこまで難しいことは言っていないぞ」
「そうでしょうか?」
「……そういうことにしておこう」
東は苦笑した。
その後も講習は順調に進み、夕方になるころには、予定されていた試験と指導がすべて終了した。
「今日は助かったよ、ライ」
木崎が言った。
「いえ。こちらこそ、勉強になりました」
「これからも頼む」
「はい」
東と木崎は、それぞれ別の業務へ向かっていった。
ライも帰ろうとしたが、ふと個人ランク戦のブースを見に行くことにした。
新人たちが実際にどのような戦い方をするのか、もう少し見ておきたかったのだ。
*
個人ランク戦のブースは、夕方になっても賑わっていた。
訓練用トリガーを使った模擬戦を終えた者たちが、戦闘の反省をしたり、次の対戦相手を探したりしている。
その中に、見覚えのある少年の姿があった。
「三輪君」
ライが声をかけると、三輪秀次は振り返った。
「……ライさん」
「お疲れさま。今日は試験を見に来たの?」
「いえ。訓練のあと、少し様子を見ていただけです」
「そうなんだ。よかったら、一緒に見ない?」
「構いません」
三輪は短く答えた。
ライは隣に立ち、模擬戦の行われているモニターへ目を向ける。
「三輪君は、今日の新人たちを見てどう思った?」
「個人差が大きいですね。基本動作が安定している者もいれば、トリオン量に頼っている者もいる。戦闘経験が少ないせいか、攻撃の選択に迷いが見える者もいます」
淡々とした口調だった。
だが、目は真剣そのものだ。
「特に、相手の動きに対応するより、自分の攻撃を通すことを優先している者が多いです。実戦なら、その隙を突かれる可能性があります」
「うん。僕もそう思う」
ライは頷いた。
「でも、今の段階でそれを全部できる必要はないよ。何ができて、何ができないのか。それを自分で把握できるようになることが大切だから」
「……そうですね」
三輪は少し考えるように黙った。
「ただ、早く強くならなければならないと思っています」
ライは、彼の横顔を見た。
「どうして?」
「……ネイバーを倒す 戦力はすぐに欲しいからです」
短い返答だった。
それ以上の説明はしなかったが、ライは無理に聞き出そうとはしなかった。
「そうだね」
ただ、静かに答える。
「でも、焦って身につけた力は、使い方を間違えることもある。強くなることと、強さをどう使うかを考えること。その両方を大切にしてほしいな」
三輪はライを見た。
少しだけ、意外そうな表情を浮かべる。
「……ライさんは、ずいぶん落ち着いていますね」
「そうかな?」
「はい。少し歳上なだけなのに、俺よりずっと先のことを考えているように見えます」
「僕だって、分からないことばかりだよ」
ライは苦笑した。
「だから、こうして他の人の戦い方を見ているんだ。自分にはない考え方を知るのは、面白いからね」
三輪は、もう一度モニターへ視線を戻した。
「……そういうものですか」
「そういうものだと思うよ」
『二宮匡貴対加古望』
モニターに2人が戦おうとしている様子が見て取れた。
「おっ」
ライが声を上げた。
「これは見ておきたいね」
三輪も頷いた。
二人はモニターの前へ移動した。
*
対戦が始まると、二宮は迷わず攻撃を仕掛けた。
アステロイドの弾丸が、加古の周囲へ次々と飛んでいく。
試験のときと同じく、二宮の戦い方は明快だった。
圧倒的なトリオン量を背景に、相手が回避する方向まで考えながら射撃を重ねる。
弾幕を張り、加古の行動範囲を狭めていく。
真正面から受け止めるのは難しい。
加古は無理に撃ち合わず、二宮の攻撃をかわしながら移動を続けた。
時には大きく距離を取り、時には攻撃の隙間を縫うようにして接近する。
二宮が射撃の角度を変えれば、彼女もまた軌道を変える。
攻め続ける二宮。
その攻撃を受け流しながら、反撃の機会をうかがう加古。
戦いは、二宮の弾幕が加古を追い詰めているように見えながら、なかなか決着がつかなかった。
「……二宮さんは、ずいぶんトリオン量に頼っていますね」
三輪が言った。
「頼っているというより、強みとして徹底的に使っているんだと思う」
ライはモニターを見つめたまま答えた。
「弾数や威力で相手に圧力をかけられるなら、相手が動ける範囲を狭められる。そこから攻撃を当てるのは、理にかなっているよ」
「ですが、加古さんは対応しています」
「うん。二宮君の攻撃そのものを止めようとはしていない。攻撃を受けないことを優先して、少しずつ有利な位置を探しているんだ」
三輪は頷き、再び画面へ目を向けた。
加古が一瞬の隙を突き、二宮へ反撃する。
だが、二宮はすぐに体勢を立て直し、さらなる射撃で彼女を押し返した。
加古は笑みを浮かべながら、再び回避に転じる。
「……楽しそうですね、加古さん」
「そう見えるね」
ライも小さく笑った。
「追い詰められている状況でも、相手の戦い方を楽しんでいるように見える」
「俺には、二宮さんの方が苛立っているように見えます」
「それも分かるよ。自分の得意な戦い方をしているのに、決定打が入らないんだから」
その後も攻防は続いた。
二宮は攻撃の手を緩めない。
加古は攻撃をかわし、隙を突き、反撃する。
しかし、最後は二宮の弾幕が加古の逃げ道を塞いだ。
加古が回避しようとした先へ、二宮の射撃が先回りする。
避けきれないと判断した加古が体勢を変えた瞬間、二宮の攻撃が決定打となった。
『勝者、二宮匡貴』
観戦していた隊員たちから、感嘆の声が上がる。
だが、勝者である二宮は、勝利を喜ぶ様子もなく、深く息を吐いた。
「……疲れた」
その一言が、モニター越しにも聞こえてきそうなほどだった。
ライは思わず苦笑した。
「勝ったのに、ずいぶん消耗したみたいだね」
「それだけ、加古さんの回避が厄介だったということでしょう」
三輪の分析に、ライは頷いた。
「そうだね。二宮君は自分の強みを押しつける戦い方ができる。でも、相手が簡単に崩れてくれなければ、それだけ攻撃を続けなければならない」
「一方で、加古さんは二宮さんの攻撃を利用して、反撃の機会を作っていた」
「うん。二人とも、戦い方がはっきりしているね」
対戦ブースから二宮が出てきたところで、ライは声をかけた。
「二宮君、お疲れさま」
二宮は足を止め、ライを見る。
「……アッシュフォードか」
「覚えていてくれたんだね」
「試験の補佐をしていたからな。それで、何か用か?」
「今日、実際にトリガーを使ってみてどうだった? 特にアステロイドの扱いについて、感想を聞きたいんだ」
二宮は少し考えた。
「扱いやすい。弾の生成も射撃も、基本を押さえれば難しくはない」
「なるほど」
「ただ、射撃の角度や弾の密度を考えると、思った以上に頭を使う。トリオン量があれば押し切れる場面もあるが、それだけでは決まらない」
ライは興味深そうに聞いていた。
「試験のときも、弾を撃つ位置が安定していたね。あれは、最初から考えていたの?」
「当然だ。何も考えずに撃っても、当たるとは限らない」
「確かに。相手の動きを予測して撃つのと、ただ狙って撃つのとでは違うからね」
二宮は小さく頷いた。
「銃型のトリガーも一度は試してみたいところだな。射撃の選択肢が増えるなら、戦術の幅も広がる」
「それはいい考えだと思う」
ライが答えたところで、背後から明るい声が飛んできた。
「あら?二宮くん、ずいぶん疲れているみたいね?」
二宮の表情が、目に見えて険しくなった。
「……加古」
加古望が、楽しそうな笑顔で近づいてくる。
「勝ったのに、そんな顔をして。もう少し嬉しそうにしたらどう?」
「誰のせいだと思っている」
「あら。私のせいなの?」
「お前がいつまでも逃げ回るからだろう」
「逃げるのも立派な戦術よ?」
加古は悪びれもせずに言った。
「それに、二宮くんはトリオン量が多いんだから、もっと余裕を持って戦えばいいのに」
「……お前な」
二宮の眉間に深い皺が寄る。
ライは思わず苦笑した。
「ええと……僕はライ・アッシュフォード。試験の補佐をしていたんだ。よろしくね」
加古はライへ視線を移し、にこやかに微笑んだ。
「あら、ご丁寧にどうも。私は加古望。こちらこそよろしく」
その隣で、三輪も軽く頭を下げた。
「三輪秀次です。よろしくお願いします」
「三輪くんね。覚えておくわ」
加古は二人を交互に見てから、二宮へ視線を戻した。
「二宮くん、次にやるときはもっと面白い戦いを期待しているわ」
「……もう一度やるつもりなのか」
「もちろん」
「俺は断る」
「あら、残念」
まったく残念そうではない表情で、加古は笑った。
すると、少し離れた場所から彼女を呼ぶ声がした。
「望ー! そろそろ行くわよ!」
「あ、はーい!」
加古は振り返り、手を振った。
「それじゃあ、またね。二人とも」
そう言って去りかけた彼女は、最後にもう一度二宮を振り返った。
「二宮くん、次は疲れたなんて言わないでね?」
「……さっさと行け」
加古は楽しそうに笑いながら、連れの友人たちのもとへ走っていった。
その姿が見えなくなると、二宮は深々とため息をついた。
「……まったく」
ライは苦笑した。
「仲がいいんだね」
「どこをどう見たらそうなる」
「少なくとも、加古さんは二宮君と戦うのを楽しんでいるように見えたよ」
「俺は楽しんでいない」
「それは残念」
「……お前も、なかなか言うな」
二宮は呆れたようにライを見た。
三輪も、ほんのわずかに表情を緩めていた。
*
二宮が別のブースへ移動したあと、ライと三輪は並んで観戦スペースの椅子に腰を下ろした。
「二宮君は、かなり強くなりそうだね」
ライが言う。
「今でも十分に強いと思います。トリオン量だけでなく、射撃の判断も優れている。攻撃を続けるべき場面と、相手の動きを読むべき場面を理解しているように見えました」
「うん。ただ、加古さんのように回避を重視する相手に対しては、もう少し効率よく攻める方法を見つけられるかもしれない」
「……例えば、相手の逃げ道を先に塞ぐとか」
「そうだね。実際、最後はそれで勝った。でも、あそこまで消耗する必要があったかどうかは、考える余地があると思う」
三輪は少し考え込んだ。
「ライさんなら、どう戦いますか?」
「僕なら……まずは相手がどの方向へ逃げるのか、何度か攻撃して傾向を見たいかな。そのうえで、逃げ道を限定するように攻撃を配置する」
「攻撃を当てることより、相手の動きを制限することを優先するんですね」
「そう。もちろん、相手がそれを見抜いてくる可能性もあるけどね」
三輪は頷きながら、考えを整理しているようだった。
「……勉強になります」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、僕もまだまだだから」
「ライさんは、いつもそう言いますね」
「そうかな?」
「はい。自分の実力を、あまり高く評価していないように見えます」
ライは少しだけ目を丸くした。
それから、困ったように笑った。
「自分のことは、意外と分からないものだからね。周りから見た評価と、自分で感じていることが違う場合もあるし」
「……俺は、自分の弱さなら分かります」
三輪の声は静かだった。
「だから、もっと強くならなければならない」
ライは彼を見た。
三輪の目には、迷いよりも強い意志があった。
「その気持ちは大事だと思うよ」
ライは穏やかに答えた。
「ただ、強くなるために必要なのは、自分の弱さを責め続けることじゃない。何が足りないのかを見つけて、一つずつ埋めていくことだと思う」
「……はい」
「それに、今日の試験を見ていて思ったんだけど、同じトリガーを使っていても、人によって戦い方はまったく違うんだ」
ライはモニターへ目を向けた。
「二宮君のように強みを押しつける戦い方もあれば、加古さんのように相手の動きを利用する戦い方もある。諏訪さんのように、危険を承知で勝負に出る戦い方もある」
「諏訪さんの戦い方は、少し危険すぎると思いますが」
「僕もそう思うよ」
ライは笑った。
「でも、あの戦い方を選ぶ理由があるのかもしれない。だから、最初から否定するより、どうすれば成立するのかを考えてみたいんだ」
三輪はしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……ライさんは、ずいぶん変わっていますね」
「よく言われるよ」
「褒めているわけではありません」
「分かっているよ」
ライは楽しそうに笑った。
三輪は呆れたように視線を逸らしたが、その表情には先ほどまでの硬さが少しだけ薄れていた。
モニターの向こうでは、また新しい対戦が始まろうとしている。
新しく入隊した者たち。
それぞれ異なる才能と考え方を持つ者たちが、同じ場所で技術を磨いていく。
その姿を眺めながら、ライは静かに思った。
――これから、どんな戦術が生まれていくのだろう。
自分ひとりでは思いつかない戦い方も、誰かと競い合うことで見えてくるかもしれない。
「三輪君」
「何ですか?」
「また時間があるときに、模擬戦をしない?」
三輪は意外そうにライを見た。
「俺と、ですか?」
「うん。今日の話を聞いていたら、君と実際に戦ったらどんな発見があるのか、気になってね」
三輪は少し考えたあと、真剣な表情で頷いた。
「……分かりました。お願いします」
「ありがとう。楽しみにしているよ」
ライは微笑んだ。