ボーダー本部
集められた隊員たちの前に、忍田本部長が立っていた。各部隊の隊長や戦闘員、その後方にはオペレーターたちも並んでいる。
忍田「これより、集団ランク戦のルールについて説明する。各部隊、よく聞いておくように」
忍田「今回の集団ランク戦は、前後半二つの期間に分けて行う。前半は九月から十二月、後半は翌年一月から四月だ」
隊員たちの間に、ざわめきが広がる。
忍田「それぞれの期間が終了した時点で、上位五チームにはA級への昇級資格が与えられる。A級は、今後のボーダーの主力として活動してもらうことになる」
「五チームか……」
「思ったより枠が少ないな」
忍田「もちろん、順位だけでなく、部隊としての連携や戦術も重要になる。個人の強さだけで勝ち抜けるとは思わないことだ」
常守は腕を組み、静かに話を聞いていた。
常守(個人の戦闘能力と、チームとしての戦闘能力は別物……。それを競わせるための制度ということね)
隣に立つライが、小声で話しかける。
ライ「常守さんは、こういう競争は得意そうですね」
常守「どうかな。勝つことだけ考えて周りが見えなくなったら、意味がないでしょ」
ライ「確かに。勝ち方も評価されるなら、考えることが多そうです」
風間「俺はただ目の前の敵を倒すだけだ」
常守「それだけで勝てるなら苦労しないんだけどね」
風間「勝つために必要なことはやりますよ。余計なことまで考える気はないってだけで」
ライ「その余計なことを考えるのが、隊長になる予定の人の仕事になるんじゃないですか?」
風間「……お前、結構言うようになったな」
ライ「そうですか?」
常守「ふふっ。いいんじゃない? その調子でやっていきましょう」
緊張していた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。
忍田「続けるぞ」
三人はすぐに前を向き直した。
忍田「次に、得点について説明する」
訓練室の大型モニターに、簡単な図が表示された。
忍田「敵隊員を撃破した場合、撃破した隊員に一点が入る。撃破に至るまでの攻撃が複数人によるものだった場合は、最も大きなダメージを与えた隊員を得点者とする」
忍田「そして、最後まで生き残った部隊には生存点として二点が与えられる。敵を倒すことだけに固執せず、部隊全体の生存も考えるように」
隊員たちがモニターを見つめる。
忍田「また、ベイルアウトについても重要なルールがある。敵が一定の距離内にいない場合、自分の判断でベイルアウトして戦闘から離脱することができる」
忍田「その場合、通常の撃破とは扱いが異なり、相手に撃破点は入らない。ただし、戦闘区域外への離脱も同様に扱われる。状況を見極めて判断することだ」
ライは、その説明を聞いて考え込んだ。
ライ「つまり、勝ち目が薄いときに無理をして倒されるより、点を与えずに撤退したほうがいい場合もある……ということですね」
常守「そうね。もちろん、簡単に逃げてばかりじゃ勝てないけど」
風間「相手に点を与えずに済むなら、撤退も立派な戦術だ。問題は、その判断が遅れないかどうかだな」
ライ「その判断を誰がするかも大事ですね。戦闘員だけじゃなく、オペレーターの情報も必要になる」
常守「ええ。だからこそ、私たち四人で戦う意味があるわけね」
沢村「そうそう。せっかく私がいるんだから、ちゃんと頼ってよね」
いつの間にか近くに来ていた沢村が、会話に加わった。
風間「頼りにしてますよ。敵の位置を見落としたら困りますから」
沢村「そこは心配してないわ。むしろ、風間くんが突っ込みすぎないか心配なんだけど?」
風間「おいおい、俺はそんな無茶しません」
ライ「……常守さん、今のは記録しておいたほうがいいかもしれません」
常守「そうね。あとで本人に聞かせましょうか」
風間「あんたらな…!」
沢村「はいはい、喧嘩は試合でやってね」
四人の間に笑いが起きる。だが、ライは改めてベイルアウトの意味を考えていた。
勝つために戦う。それでも、無理に命を危険にさらす必要はない。
この制度には、勝敗だけではなく、隊員が生きて帰ることを重視する考え方も込められているのだろう。
忍田「次は、使用するマップについてだ」
モニターに四つの地形が表示された。
* 市街地A:低層住宅を中心とした市街地。
* 市街地B:建物が密集し、遮蔽物や死角の多い市街地。
* 森林:木々が視界や射線を遮る地形。
* 工業地帯:工場や大型構造物が立ち並ぶ地形。
忍田「初年度は、この四種類のマップを使用する。各マップには、それぞれ異なる戦術的な特徴がある。部隊の得意分野だけでなく、相手の構成も考慮して戦うように」
忍田「また、戦場の天候と時間帯については、順位の低い部隊側に選択権を与える。雨天や夜間など、条件によって戦況は大きく変わる。自分たちに有利な条件を選ぶのも戦術の一つだ」
ライ「地形だけじゃなく、天候や時間帯まで考えるんですね」
常守「雨なら視界や移動に影響するし、夜なら索敵の重要性が増す。射撃の得意な部隊でも、条件次第では思うように戦えないでしょうね」
風間「逆に、そういう条件を利用できれば、格上にも勝てる可能性がある」
沢村「そのためにも、事前の情報収集と作戦会議が大事ってことね」
忍田「勝てる条件を整えるのも、部隊の実力のうちだ」
忍田「集団ランク戦は、原則として水曜日と土曜日に開催する」
モニターに一週間の予定表が表示された。
忍田「各開催日には昼と夜の二つの時間帯を設ける。各部隊は、昼か夜のどちらかに一試合ずつ参加してもらう。全ての部隊が同じ日に試合を行うが、対戦する時間帯は部隊ごとに異なる場合がある」
隊員たちは、それぞれ端末を確認しながら説明を聞いた。
忍田「対戦相手はランダムに決定する。ただし、すでに対戦したことのある組み合わせが続かないよう、未対戦の部隊同士を優先して組み合わせる」
忍田「同じ相手と何度も戦うのではなく、できるだけ多くの部隊と戦い、異なる戦術に対応できるようにするためだ」
ライ「なるほど。いろいろな相手と戦うこと自体が、訓練になるわけですね」
常守「相手によって戦い方を変えなきゃいけない。私たちにとっても、いい経験になりそう」
風間「どんな相手でも、やることは変わらない。勝つだけだ」
沢村「その前に、作戦会議でちゃんと私の話を聞くこと。いい?」
風間「わかっていますよ」
沢村「その返事、絶対わかってないでしょ!」
ライ「大丈夫ですよ。僕が聞いておきますから」
常守「ライだけに任せないで、風間君もちゃんと聞きなさいよ」
風間「……だから、わかってますって」
説明が進むにつれて、四人の間にも、これから始まる戦いへの実感が生まれていた。
忍田の説明が終わると、隊員たちの前に城戸司令が進み出た。
城戸「諸君。集団ランク戦を行う目的は、単に順位を競うことではない」
その声に、先ほどまでのざわめきが静まる。
城戸「ボーダーが今後、近界民の脅威から人々を守り続けるためには、個々の隊員が強くなるだけでは不十分だ。部隊としての戦力を高め、組織全体の実力を底上げする必要がある」
城戸「そのために、この制度を設けた。各自、自分が何を得るために戦うのかを考え、試合に臨んでもらいたい」
城戸は一度、隊員たちを見渡した。
城戸「そして、A級に昇級した部隊には、ボーダーの主力として活動してもらう。その待遇として固定給が支給され、申請と承認を経て、トリガーの改造も許可される」
隊員たちの表情が変わる。
「固定給にトリガー改造……!」
「自分たち専用の装備を作れるってことか」
城戸「当然、それに見合う責任も伴う。A級になるということは、単に強い隊員として認められるという意味ではない。ボーダーを支える側に立つということだ」
城戸「諸君の健闘を期待している」
短い言葉だったが、その場にいる誰もが、これから始まる戦いの意味を理解した。
常守はライたちに目を向ける。
常守「せっかくだし、目指すならA級よね」
ライ「はい。せっかく四人でやるんですから、結果を残したいですね」
風間「当然だろ。最初から上を狙う」
沢村「ふふっ。頼もしいじゃない。じゃあ、私も頑張らないとね」
ライ「沢村さんには、情報面で期待してます」
沢村「任せて。みんなが思い切り戦えるように、しっかり支えるから」
常守「よろしくね、沢村さん」
沢村「こちらこそ!」
四人は自然と顔を見合わせた。
一年限定の実験部隊。
その一年で、何を残せるのか。
答えは、これからの戦いの中にある。
説明会が終わり、隊員たちがそれぞれの部隊で話し始めた頃。
ライたちの前に、二人の姿が現れた。
迅「お、いたいた。ライさん、常守さん、風間さん、沢村さん、ランク戦、頑張ろうね」
小南「頑張ろうね、じゃないでしょ! 勝つのはあたしたち、玉狛第一なんだから!」
迅「まあまあ、小南。まだ試合も始まってないんだから」
小南「こういうのは最初が大事なの! いい、ライさん!あたしたちが相手になったら覚悟しなさいよ!」
ライ「それは楽しみですね。小南先輩と戦えるなら、こちらも勉強になりそうです」
小南「せ、先輩って……! なんか調子狂うわね!」
迅「ははっ。ライは相変わらずだなあ」
風間「ずいぶん余裕だな、迅。玉狛第一が必ず勝つって?」
迅「そりゃあね。未来は一つじゃないけど、勝つためにできることはいっぱいあるから」
風間「だったら、その未来をこっちが変えてやる」
迅「おっ、いいねえ。そういうの好きだよ」
常守「二人とも、もう少し落ち着いたらどう?」
小南「朱さんも、あたしたちに負けたって文句言わないでよね!」
常守「負けるつもりはないわよ」
ライ「お互い、いい試合にしましょう」
迅「うん。じゃあ、またね」
小南「ちょっと迅! まだ話は終わってないんだけど!」
迅「はいはい、帰ろうねー」
小南「子ども扱いするなー!」
そのまま二人が歩き出したところで、木崎と林藤ゆりがやって来た。
木崎「すまない。少し気合が入りすぎているようだ」
ゆり「もう、桐枝ちゃんったら……。みんな、気にしないでね」
小南「ちょっと! あたしは別に変なこと言ってないでしょ!」
木崎「いいから、戻るぞ」
迅「じゃ、みんな。試合で会おう」
ライ「はい。楽しみにしています」
ゆり「ライくんたちも頑張ってね。それじゃあ」
木崎とゆりは、まだ何か言いたそうな小南と、笑顔の迅を連れていった。
常守「……賑やかな子達よね」
ライ「ええ。でも、ああいうふうに真っ直ぐ勝ちたいって言えるのは、いいことだと思います」
風間「感心してる場合か。俺たちも勝つぞ」
沢村「はいはい。まずは対戦相手が決まってからね」
四人が話していると、今度は三輪がこちらに歩いてきた。
三輪「ライ先輩」
ライ「三輪。どうしたんだ?」
三輪「集団ランク戦の説明を聞いていました。……俺、東隊に入ることになりました」
ライ「東隊か。東さんに、二宮や加古もいるんだって?」
三輪「はい。東さんからは、個人の強さだけでなく、部隊としての動きを覚えろと言われています」
ライ「東さんらしいですね。いい経験になると思います」
三輪「ライ先輩たちも、常守隊で出るんですよね」
ライ「ああ。一年間の実験部隊だ。せっかくだから、いろいろ試してみたいと思ってる」
三輪「……俺は、まだ自分の戦い方を変えるつもりはありません」
常守「もちろん、それでいいと思うわ。自分の信念を持つことは大事だから」
三輪「ただ、チームで戦う以上、周りと合わせることも必要だとは思っています」
ライ「それなら十分だ。最初から全部うまくやる必要はない。試合を通して、自分に足りないものを見つけていけばいい」
三輪「……ありがとうございます」
風間「東さんのところなら、嫌でも鍛えられるだろうな」
三輪「はい。厳しい人なので聞いています」
ライ「厳しいけど、学ぶことは多い人だよ。頑張れ、三輪」
三輪「ライ先輩たちも。常守隊がどこまで行くのか、楽しみにしています」
常守「ありがとう。お互い頑張りましょう」
三輪は小さく頷き、東隊の仲間たちがいる方へ戻っていった。
ライは、その背中を見送った。
ライ「三輪も、東隊でいろいろ学ぶんでしょうね」
風間「俺たちも負けてられないな」
沢村「そうね。みんなそれぞれの部隊で頑張るんだから、私たちも結果を出さなきゃ」
常守「ええ。まずは初戦ね」
そのとき、四人の端末がほぼ同時に通知音を鳴らした。
沢村「来たわね。初戦の組み合わせ!」
常守「確認しましょう」
四人は端末を開いた。
## 集団ランク戦・初戦
対戦決定
## 集団ランク戦・初戦
### 常守隊
常守朱・ライ・風間蒼也
### VS
### 藤沢隊
藤沢・石橋・岩崎・安藤
### VS
### 高瀬隊
高瀬・秋山・青木
ステージ・天候・時間帯
後日、対戦条件とともに通知される。
沢村「えーっと、私たちの初戦は……藤沢隊と高瀬隊ね」
風間「藤沢隊は狙撃手が二人。高瀬隊にも狙撃手がいる。ずいぶん狙撃手の多い試合になったな」
常守「そうね。三部隊合わせて狙撃手が何人もいるとなると、最初の位置取りが重要になりそう」
ライ「市街地なら建物を使って接近できますけど、森林だと木々の隙間から狙われる可能性がありますね。工業地帯なら構造物を利用して射線を切れるかもしれません」
沢村「まだマップも天候も時間帯も決まってないから、どの状況でも対応できるように考えておかないとね」
風間「狙撃手が多いなら、まずは相手の狙撃地点を探す。位置がわかれば、対処のしようもある」
常守「でも、私たちが藤沢隊の狙撃手に意識を向けている間に、高瀬隊が仕掛けてくるかもしれないわ」
ライ「三つ巴ですからね。二部隊が交戦しているところに、残った部隊が攻撃を仕掛けるのは自然な戦術です」
風間「だったら、どちらか一方に狙いを定めるのは危険だな。状況次第で相手を変える必要がある」
沢村「そういう判断は私からも情報を送るけど、最後はみんなの判断になるからね。戦闘中は通信をこまめに確認してよ?」
風間「わかってるって」
沢村「ほんとかなあ。風間って、一度戦闘に入ると周りが見えなくなりそうだし」
風間「おい、俺を何だと思ってるんだ」
ライ「接近戦が始まると、かなり思い切りがいい人だとは思っています」
常守「私もそう思うわ」
風間「お前らまで……」
沢村「ふふっ。まあ、頼りにしてるのは本当よ。だからこそ、ちゃんと連携してね」
風間「……はいはい。わかったよ」
常守は端末を操作し、対戦相手の情報をもう一度確認した。
常守「藤沢隊は四人、高瀬隊は三人。人数的には藤沢隊が有利ね」
ライ「その分、連携で補いましょう。僕が前衛と射撃の両方を担当して、風間が接近戦で崩す。常守さんは中距離から援護する形が基本になりそうです」
常守「ええ。ただ、最初から役割を固定しすぎるのもよくないわ。敵の位置や状況によっては、私も前に出る必要があるかもしれない」
風間「そのときは俺がカバーする。ライ、お前も周りを見て動けよ」
ライ「もちろんです。風間も、無理に一人で突っ込まないでくださいね」
風間「わかっている」
沢村「よし、方針はそんなところね。マップが決まったら、そこに合わせて作戦を詰めましょう」
常守「そうしましょう。初戦だからって、気負いすぎる必要はないわ。でも、勝つつもりで準備する」
ライ「はい。せっかくの一年限定の部隊ですからね。やれることは全部試してみたいです」
風間「だったら、まずは一勝だな」
沢村「うん。みんなで勝ちにいきましょう!」
四人は端末を閉じ、作戦室へ向かった。
初戦の相手は決まった。あとは、どんな戦場が用意されるのか。
常守隊の一年間は、まだ始まったばかりだった。
ちょっと書き方変えました
初回・集団ランク戦の日程
日程
時間帯
試合の組み合わせ
水曜日
昼
常守隊・藤沢隊・高瀬隊
水曜日
夜
東隊・佐伯隊・三宅隊・藤井隊
土曜日
昼
玉狛第一・中原隊・竹内隊・松岡隊
土曜日
夜
嵐山隊・大川隊・神谷隊