マップ 市街地A
天候 晴れ
時間帯 昼
高瀬隊 藤沢隊
高瀬 ガンナー 20歳 (変更) 藤沢 スナイパー 22歳
青木 アタッカー 17歳 安藤 シューター 21歳
秋山 スナイパー 16歳 岩崎 ガンナー 19歳
石橋 スナイパー 16歳
成瀬 オペレーター 20歳 水原 オペレーター 21歳
水曜日・昼 試合前の待機室――高瀬隊
試合開始まで、残り五分。
ボーダー本部の一角に設けられた待機室で、高瀬隊の三人は端末に表示された市街地Aのマップを確認していた。
高瀬は隊長席に座り、画面に映る建物の配置を眺めている。隣では秋山が狙撃ポイントになりそうな建物をいくつか選び、青木は椅子の背もたれに体を預けながら二人の話を聞いていた。
青木「市街地A、昼、晴れ。ずいぶん普通の条件にしましたね」
青木がそう言うと、高瀬は端末から目を離さずに答えた。
高瀬「普通だからいいんだよ」
秋山「変わった条件にして、相手の動きを制限する手もあったのでは?」
高瀬「それをやると、こっちも余計なことを考えなきゃならなくなる。初戦だしな。まずは基本どおりに戦える環境で、確実に勝ちにいく」
高瀬はマップを拡大した。
高瀬「今回、いちばん警戒しなきゃならないのは常守隊だ」
秋山が顔を上げる。
秋山「常守茜さんに、ライ・アッシュフォード君、風間蒼也先輩……ですか」
高瀬「そうだ。三人とも、個人の戦闘能力が高い。しかも、風間は接近戦、ライは近距離から中距離まで対応できる。常守は射撃で二人を援護できる。三人がばらばらに動いていても手ごわいが、連携が成立した瞬間に厄介な部隊になる」
青木「だったら、常守さんを先に落とします?」
青木の問いに、高瀬は首を横に振った。
高瀬「それができれば理想だが、相手もそれを分かっているはずだ。常守だけを追いかけて、風間やライに背後を取られたら意味がない」
秋山がマップ上の建物を指した。
秋山「狙撃手への警戒も必要ですね。藤沢隊には狙撃手が二人いますし、射線が重なると、どこから撃たれるか分からなくなる可能性があります」
高瀬「だからこそ、狙撃手の位置には注意する。窓際や屋上を不用意に通らない。広い道路を移動するときも、射線が通っていないか確認すること」
高瀬は青木に視線を向けた。
高瀬「青木。常守隊を見つけても、単独で突っ込むなよ」
青木「分かってますって」
高瀬「本当に分かってるか?」
青木「……しつこいなぁ」
高瀬は少しだけ眉を寄せたが、それ以上は追及しなかった。
高瀬「今回のマップは市街地A。特殊な地形も、視界を遮る天候もない。考えるべきことを増やさず、基本に集中する。そのうえで、常守隊を徹底的に警戒する」
秋山が静かにうなずいた。
秋山「分かりました」
高瀬「よし。初戦から無理をする必要はない。確実に点を取っていこう」
三人の視線が、端末のマップへと戻った。
高瀬隊にとって、この試合は初めての集団ランク戦だ。
だからこそ、奇策よりも基本。余計な要素を排し、相手の脅威を見誤らない。
高瀬は、それが最も堅実な選択だと考えていた。
ただし――その考えが、相手にとっても最も戦いやすい条件を用意してしまった可能性については、まだ気づいていなかった。
同時刻――藤沢隊の待機室
藤沢「狙撃手が全体合わせて三人。しかも、常守隊には風間がいる」
藤沢は腕を組み、端末のマップを見つめていた。
石橋はトリガー構成を確認し、岩崎はマップ設定を見直している。安藤は三人の様子を見ながら、隊長の言葉を待っていた。
藤沢が口を開く。
藤沢「うちの最優先事項は射線の確保だ」
石橋「やっぱり、そこですよね」
石橋が答えた。
水原「市街地Aなら、建物の屋上や窓から狙える場所が多い。問題は、そこを取るまでだ」
安藤「常守隊に先に動かれたら厄介ですね」
安藤の言葉に、藤沢はうなずいた。
藤沢「特に風間だ。あいつは接近戦に持ち込まれたら危険だ。狙撃位置を確保する前に接近されたら、こちらの強みを生かせない」
岩崎が腕を組む。
岩崎「なら、全員でまとまって動きます?」
藤沢「最初から全員で固まる必要はない。ただし、狙撃手二人は早めに合流させたい」
藤沢は画面上の建物をいくつか選択した。
藤沢「俺と石橋は、まず狙撃位置を探す。安藤と岩崎は周囲を警戒しながら動く。敵が見えても、無理に追わない」
安藤&岩崎「了解」
藤沢「それから、もう一つ」
藤沢は二人の狙撃手を交互に見た。
藤沢「他の二隊がやり合っている間に、こっちは有利な位置を取る。三つ巴戦なんだから、敵同士が戦ってくれるなら、それを利用しない手はない」
石橋「常守隊と高瀬隊がぶつかるのを待つ、ということですか?」
藤沢「そうだ。どちらかが消耗したところを狙えるなら、それが一番いい」
石橋は納得したようにうなずいた。
岩崎「無理に最初から戦闘に参加する必要はないってことか」
藤沢「そのとおり。うちは狙撃手が二人いる。その強みを最大限に生かす」
藤沢は端末を閉じた。
藤沢「焦るな。まずは位置取り。戦うのは、そのあとだ」
作戦は明快だった。
他の二隊の戦闘を利用し、狙撃手が射線を確保してから攻撃する。
藤沢隊は、三つ巴戦を長距離戦の強みで制するつもりだった。
常守隊の待機室
常守隊の待機室では、三人が試合開始を待っていた。
常守は椅子に座り、端末を操作している。ライは壁際でトリガーの最終確認を行い、風間は静かに目を閉じていた。
やがて常守が端末を置いた。
常守「二人とも」
ライと風間が視線を向ける。
常守は余計な説明を加えず、短く告げた。
常守「事前に伝えた作戦どおりに動いてね」
ライ「了解」
ライが即答する。
風間「分かってます」
風間も短く返した。
常守は二人の顔を見比べた。
常守「以上。あとは現場で」
沢村「ずいぶん簡潔だなー」
沢村が言うと、常守は少しだけ口元を緩めた。
常守「今さら細かい確認はいらないでしょう?」
沢村「まあ、そうだけどさ」
沢村は肩をすくめた。
風間が目を開ける。
風間「相手も初戦だ。予定どおりに動くとは限らないでしょう」
常守「ええ。だから、状況が変わったら各自で判断して」
常守は立ち上がった。
常守「私たちが何をするかは、もう決めてある。あとは実行するだけよ」
二人とも、それ以上は尋ねなかった。
常守がどんな作戦を立てたのか。
それを知っているのは、この四人だけだった。
そして、その作戦はすでに動き始めていた。
集団ランク戦、開始
『これより、常守隊・藤沢隊・高瀬隊による集団ランク戦を開始します』
各隊の待機室に、試合開始の通知が届く。
次の瞬間、三人の意識が仮想空間へと切り替わった。
市街地A。
晴れ渡った空の下、整然と並ぶビルや住宅、交差点、広い道路が広がっている。
昼間の市街地を模したマップには、遮蔽物となる建物が多い一方、道路に出れば長い射線が通る場所も少なくない。
三つの部隊が、それぞれ異なる地点に転送された。
常守は建物の陰に現れ、すぐさま周囲を確認する。
ライもまた、道路から一本入った路地に転送されていた。
ライ「……隊長と近いな」
ライが小さくつぶやいた。
常守の姿が、建物の角から見えた。
ライ「隊長」
常守「ライ君。近かったのね」
二人は短く確認を交わすと、すぐに合流した。
常守は周囲を見渡し、ライに視線を向ける。
ライ「風間さんの位置は?沢村さん」
沢村『ちょおち、遠いかな。幸い、藤沢隊と比較的に近い位置だね』
沢村がそう答えた直後、通信機から風間の声が届いた。
風間『こちら風間。転送位置を確認した。そっちは?』
ライ「隊長と合流してますよ」
風間『了解。予定通り、先に動く』
ライ「了解」
通信が切れる。
常守はライに向き直った。
常守「ラッキーね」
ライ「はい」
二人は走り出した。
その直後だった。
路地の先、建物の間から一人の隊員が姿を現した。
高瀬隊の青木だ。
青木もまた、二人に気づいた。
青木「っ、常守隊!」
彼は即座に弧月を構えようとした。
だが、遅かった。
ライが一歩前へ出る。
ライ「悪いな」
弧月を素早く振るう。
青木が弧月を構えきるより早く、ライは間合いを詰めた。
青木「な――!」
青木は反射的に後退しようとしたが、背後は建物の壁だった。
ライの刃が振り抜かれる。
青木のトリオン体が両断され、直後にベイルアウトの光が弾けた。
『高瀬隊・青木、ベイルアウト』
開始から、まだわずかな時間しか経っていない。
常守は青木が消えた地点を一瞥し、すぐに視線を戻した。
常守「移動するわよ」
ライ「了解」
二人は足を止めることなく、その場を離れた。
敵を倒したからといって、そこにとどまる理由はない。
むしろ、戦闘の痕跡を残した場所には、別の敵が集まってくる可能性がある。
ライは周囲の建物を確認しながら、常守に尋ねた。
ライ「このまま行きます?」
常守「ええ。風間君も動いているはずだから」
常守の声には、迷いはなかった。
一方同時刻、藤沢隊の藤沢と石橋は、転送直後から周囲の建物を確認していた。
藤沢「石橋、そっちの建物はどうだ?」
石橋『悪くないです。屋上に出られれば、かなり広く見渡せます』
藤沢「よしひとまずは合流しよう」
二人は通信を交わしながら移動を始めた。
安藤と岩崎も、割と近い別方向から二人の合流地点へ向かっている。
安藤「常守隊はまだ見えないわね」
岩崎「だからといって、油断しないでくださいよ。あの隊は、こっちが何を狙っているか分かっているはずなんだから」
その言葉どおり、藤沢隊は慎重に動いていた。
だが、彼らはまだ知らなかった。
自分たちが狙撃位置を確保しようとする、その動き自体が、すでに常守隊の作戦に組み込まれていることを。
藤沢と石橋が、建物の角で合流する。
石橋「ここからは別々に――」
石橋が言いかけた、その瞬間。
水原『まって、そこに常守隊の…』
風間「遅い」
背後から声がした。
二人が振り返る。
そこにいたのは、風間蒼也だった。
藤沢「風間……!」
藤沢が銃を構えようとする。
しかし、風間はすでに懐へ飛び込んでいた。
スコーピオンが伸びる。
石橋が反応して盾を展開するよりも早く、風間は身体を低く沈め、攻撃の角度を変えた。
一撃。
石橋のトリオン体に刃が届く。
『藤沢隊・石橋、ベイルアウト』
藤沢「石橋!」
藤沢が距離を取ろうとする。
だが、風間は追撃の手を緩めない。
グラスホッパーが発動し、風間の身体が横方向へ跳ねた。
安藤が銃口を向けた先には、もう風間はいない。
「しまっ――」
風間の刃が走る。
『藤沢隊・藤沢、ベイルアウト』
二人が消えたあと、風間は一瞬だけ周囲を見回した。
「……よし、予定通り」
彼は通信を開いた。
風間『こちら風間。藤沢隊の狙撃手二人を落とした』
常守『了解』
返ってきたのは、常守の声だった。
沢村『そのまま次に行って、情報送るね』
風間『了解』
風間はすぐに走り出した。
藤沢隊が射線を確保する前に、狙撃手を排除する。
常守隊の作戦は、ここで大きな成果を上げた。
試合前日。
常守隊の隊室で、常守は端末に四つのマップを表示していた。
ライと風間が、その画面を見つめている。
常守「今回、私たちが最初に狙うのは、藤沢隊の狙撃手よ」
常守が言った。
ライ「高瀬隊じゃないんですか?」
ライが尋ねる。
常守「確かに手ごわさでは高瀬隊のほうが上だわ。でも、藤沢隊にはスナイパーが二人いる。二人が合流して狙撃位置を確保したら、私たちは常に射線を意識しながら戦わなければならなくなる」
風間が腕を組んだ。
風間「つまり、戦場が狭くなる前に排除するというわけですか」
常守「そう。こちらの行動が制限される前に、相手の強みを消すの」
常守はマップ上の建物を指でなぞった。
常守「藤沢隊は、他の二隊が戦っている間に射線を確保しようとするはず。最初から無理に戦闘に参加するより、狙撃位置を取ってから攻撃する方が合理的だからね」
ライ「だったら、狙撃手が合流する場所を予測して、先に風間さんを向かわせるわけですか」
ライが続けた。
常守はうなずいた。
常守「ええ。風間君なら、狙撃手が射撃態勢に入る前に接近できる。ライ君と私は別方向から動いて、高瀬隊を牽制する」
風間「高瀬隊は俺たちを警戒しているのでは?」
常守「もちろん。だから、あえて正面からぶつかる必要はないわ」
常守はマップを拡大した。
常守「高瀬隊が私たちを警戒すればするほど、藤沢隊は狙撃位置を素早く確保するために動く。そこで風間君が狙撃手を落とす。私たちはその間に高瀬隊の位置を把握し、合流して各個撃破する」
風間は画面を見つめたまま言った。
風間「狙撃手二人を落とせば、藤沢隊の強みは大きく失われる。残った二人も、狙撃支援を受けられないですね」
常守「そういうこと」
常守は最後に、三人の位置関係を示した。
常守「ただし、私たちが同時に一か所へ集まる必要はない。最初はそれぞれの位置から動いて、相手の行動を制限する。合流するのは、敵の配置が見えたあとでいい」
ライは納得したようにうなずいた。
「分かりました。相手が動いたところを叩くんですね」
常守「ええ。おそらく今回のマップは市街地Aになると思うわ。だからこそ、相手は基本に忠実な動きをするはず」
常守は二人を見た。
常守「基本を守る相手には、その基本を逆手に取ればいい」
風間が短く答える。
風間「了解」
ライも続いた。
ライ「了解」
常守「じゃあ、一応、市街地A以外のマップが来たときのシミュレーションもしてきましょうか」
試合開始から、数分。
藤沢隊は、狙撃手二人を失った。
高瀬隊は、青木を失った。
どちらも、まだ隊員が残っている。
しかし、両隊の戦術はすでに大きく崩れていた。
藤沢隊の待機室では、藤沢が険しい表情でベッドの上で天井を見つめていた。
「俺と石橋が、同時に……」
石橋が悔しそうに拳を握る。
石橋「風間さん。あの人、どこから入り込んだんだ?」
藤沢「分からん。だが、こちらが狙撃位置を取る動きを読まれていた可能性が高い」
藤沢はすぐに気持ちを切り替えた。
藤沢「岩崎、安藤、狙撃支援はもうない。あとはお前ら二人で戦え。無理に距離を取ろうとするな。相手に主導権を渡すなよ」
一方、高瀬隊。
高瀬「青木が常守隊に落とされたか……、さらに二人落ちたか」
青木『すいませんでした。なにもできずに落ちちゃいました』
高瀬は端末に表示された戦況を見つめていた。
高瀬「構わん。成瀬、他チームで落ちたのは誰だ」
成瀬『藤沢隊の藤沢さんと石橋くんですね』
秋山が静かに尋ねる。
秋山「常守隊と交戦したのでしょうか」
藤沢「おそらくな。あいつら、こちらが常守隊を警戒していることまで計算に入れていたのかもしれない」
秋山「だとすると、こちらも早く動かなければ……」
高瀬「いや、焦るな」
高瀬は言葉を切った。
高瀬「相手の狙いが分からないうちに動けば、さらに人数を減らされる。秋山、お前は射線を確保しろ。俺が前に出る」
秋山「分かりました」
高瀬は立ち上がった。
常守隊を警戒する。
狙撃手の射線を警戒する。
その二つを徹底するために、オーソドックスな条件を選んだ。
だが、相手はその選択を予測し、狙撃手を先に排除してきた。
ならば、ここからは自分たちの判断で戦うしかない。
高瀬は端末を握り直した。
高瀬「まだ終わっていない。ここから立て直すぞ」
路地裏にて。
常守とライは、風間からの通信を受けていた。
風間『藤沢隊の狙撃手二人を排除したから、残りは岩崎と安藤だな』
常守「了解。こちらも高瀬隊の位置を確認したわ」
常守は建物の隙間から、遠くの道路を見た。
ライ「高瀬さんが前に出てきてますね。秋山は狙撃位置を探しているはずですね。秋山を先に狙います?」
常守「いいえ。まずは高瀬君を引きつける」
ライ「了解」
常守は通信を開いた。
常守「風間くん、藤沢隊の残り二人は任せるわ。こちらは高瀬隊を処理するわ。響子、風間君のフォローよろしく」
風間&沢村『了解』
通信が切れた。
ライは弧月を構え、常守の隣に立った。
ライ「さて、ここからですね」
常守「ええ。青木君を落としたことで、高瀬隊は私たちを警戒しているはず。でも、警戒する相手が私たちだけなら、まだ対処できる」
常守は静かに続けた。
常守「狙撃手が三人いる状態で、三方向を警戒するのは難しかった。でも、藤沢隊の狙撃手はいない。残る狙撃手は秋山さん一人。なら、彼女の位置さえ把握すればいいわ」
ライは笑みを浮かべた。
ライ「いくつもの展開を考えて、一番楽なシチュエーションでしたね」
常守「まあ、初戦だからみんな手探りなんでしょうね。戦場では、予定どおりにいかないこともあるから油断はしないこと」
ライ「それにしても、予定以上にうまく進んでますけど」
常守「そうね」
常守は淡々と答えた。
常守「これからそれぞれの隊が失敗を繰り返して手ごわくなるはずよ」
二人は再び走り出した。
その先に、高瀬がいた。
高瀬「来たか……!」
高瀬はすぐにアステロイドを放ち、ライを警戒する。
常守は高瀬の動きを見ながら、建物の陰へと移動した。
高瀬の視線がライへ向く。
その一瞬。
常守のアステロイドが火を噴いた。
弾丸が高瀬の足元と退路を狙う。
高瀬「っ!」
高瀬は盾を展開し、弾丸を防ぎながら横へ移動した。
だが、常守の射撃は高瀬を倒すためのものではなかった。
高瀬が移動できる方向を絞り、ライが接近できる道を作るための射撃だった。
高瀬「くそっ、連携が上手い……!」
高瀬が体勢を立て直そうとしたとき、ライはすでに間合いへ入っていた。
弧月が振り下ろされる。
高瀬は盾で受け止めようとするが、ライは直前で刃の軌道をわずかに変え、盾の端をすり抜けるように斬り込んだ。
『高瀬隊・高瀬、ベイルアウト』
高瀬の姿が消えた。
残るは秋山と岩崎、藤沢。
しかし、戦況はすでに常守隊へ大きく傾いていた。
秋山は、建物の陰から戦況を確認していた。
高瀬が落ちた。
青木も落ちた。
狙撃手として射線を確保するどころか、味方が次々とベイルアウトしている。
秋山「どうして、こんなに早く……」
秋山は狙撃銃を構えた。
だが、狙撃位置を十分に確保できていない。
建物の間から見えるのは、移動する敵の姿だけだった。
常守とライは、すでに秋山の位置を把握していた。
常守「秋山さんはあそこね」
常守が通信で告げる。
秋山は、遠くで動くライの姿を捉えた。
「見つけた……!」
狙撃銃の照準を合わせる。
しかし、引き金を引く直前、横から弾丸が曲がって飛んできた。
「っ!」
秋山は反射的に盾を展開する。
シールドを展開したことで、照準がずれた。
そのすきに常守が接近していた。
「なっ……!」
秋山が銃を構え直す。
間に合わない。
常守のフルアタックアステロイドが秋山のトリオン体を貫いた。
『高瀬隊・秋山、ベイルアウト』
高瀬隊は全員がベイルアウトした。
ほぼ同時刻、藤沢隊でも戦闘が終わろうとしていた。
藤沢と岩崎は二人で連携し、風間を迎え撃とうとしていた。
しかし、狙撃手を失った藤沢隊には、遠距離から相手の動きを制限する手段がない。
グラスホッパーを巧みに使い、弾幕を搔い潜り岩崎の懐に入り込む
岩崎「しまっ――!」
『藤沢隊・岩崎、ベイルアウト』
安藤は一瞬、立ち止まった。
残るは自分一人。
「……ここまでかな」
安藤はトリオンキューブを展開して、最後まで抵抗を試みた。
しかし、風間の高速戦闘に追いつかなく
「終わりだ」
刃が走る。
『藤沢隊・安藤、ベイルアウト』
これで、藤沢隊も全員ベイルアウト。
開始からそれほど時間は経っていなかった。
『試合終了 9-0-0で常守隊勝利』
戦闘が終わり、市街地Aの景色が消えていく。
常守、ライ、風間の三人は、試合終了後の待機エリアへ戻された。
常守は端末に表示された結果を確認した。
常守「……全員、生存ね」
ライ「そうですね」
ライは軽く返した。
風間「思った以上に早く終わった」
風間は淡々と答えた。
ライ「最初に狙撃手を落とせたのが大きいですよ。藤沢隊は射線を確保する前に強みを失いました。高瀬隊も、こちらを警戒して動きが制限されましたから」
常守「ええ。あとは予定どおり、各個撃破できた」
常守は端末を閉じた。
ライは少し考えたあと、常守に尋ねた。
ライ「最初から、ここまで一方的に進むと思ってました?」
常守「まさか。相手がどう動くかは、実際に始まってみないと分からないもの」
常守は二人を見た。
常守「ただ、相手が基本に忠実に動くなら、その動きを利用できるように準備しておいた。それだけよ」
風間が小さくうなずく。
風間「作戦が機能した。それで十分」
常守「そうね」
常守は、ほんの少しだけ表情を和らげた。
常守「二人とも、お疲れさま」
「隊長も」
ライが答える。
風間も短く言った。
風間「次も、この調子でいきましょう」
常守「ええ。ただし、次の相手が同じように動くとは限らない。今回の結果に満足しすぎないこと」
ライ「分かってますよ」
ライは笑って答えた。
沢村「勝ったからこそ、次の準備でしょう?」
常守はうなずいた。
常守「そのとおり」
四人は出口へと歩き出した。
初めての集団ランク戦。
常守隊は、三つ巴戦という状況を利用し、相手の強みを先に潰すことで、ほとんど危なげなく勝利を収めた。
高瀬隊は狙撃手への警戒を徹底しようとしたが、藤沢隊の狙撃手を先に失ったことで、その警戒を生かす余裕を失った。
藤沢隊は狙撃位置を確保する前に攻撃を受け、得意な戦い方をすることができなかった。
そして常守隊は、三人がそれぞれの役割を果たし、相手に立て直す時間を与えなかった。
常守隊、初戦完勝。
だが、これは一年間にわたる集団ランク戦の、まだ最初の一歩にすぎない。