バトル・ロワイアル ようこそ虐殺至上主義の教室へ 作:カツカレー!
目を覚ましたとき、最初に感じたのは、首筋に触れる冷たさだった。
眠っていた姿勢が悪かったせいだろうと思い、重たい頭を持ち上げながら右手を首へ伸ばす。
しかし、指先に触れたのは肌ではなく、硬く滑らかな金属だった。
首の周囲を完全に取り囲むように装着されており、留め具らしいものを探しても、指が入る隙間さえほとんどない。
それがアクセサリーなどではないと理解するまでに時間はかからなかった。
では、何のために付けられているのか。
そう考えた瞬間、残っていた眠気は一気に消えた。
「なに、これ……」
呟いた声が、狭い部屋の中で妙に大きく響いた。
周囲を見回すと、私は見知らぬ小さな部屋に寝かされていた。
壁も床も灰色で、窓はなく、家具と呼べるものも置かれていない。
正面には金属製の扉があり、その横には黒いディスプレイが埋め込まれていたが、今は何も表示されていなかった。
学校ではない。寮でもない。
ましてや、私が自分からこんな場所へ来る理由など、どこにも思い当たらなかった。
最後の記憶を探ってみる。
高度育成高等学校で過ごしていた、いつもと変わらない二学期の日常までは覚えている。
しかし、それ以降の記憶だけが不自然なほど途切れていた。
どうやってこの部屋へ連れてこられたのか、誰に何をされたのか、まったく思い出せない。
私はポケットを探った。携帯端末も学生証もなく、普段持ち歩いている物は綺麗に消えていた。
その代わり、部屋の隅には見覚えのない黒いバッグが一つ置かれている。
それを見た瞬間、私は自分でも嫌になるほど早く、四人の顔を思い浮かべていた。
きよぽん。
ゆきむー。
みやっち。
愛里。
私がここにいるということは、あの四人も同じ状況に巻き込まれている可能性がある。
もちろん、私だけが連れてこられた可能性も否定できない。
二年生全員なのか、学校全体なのか、それすら分からない。
それでも自分の安全より先に四人のことを考えてしまったのは、私たち五人で過ごす時間が、
いつの間にか学校生活の中でそれほど大きなものになっていたからだろう。
「愛里、大丈夫かな……」
特に心配なのは愛里だった。
私だって、こういう状況に強いわけではない。
けれど、突然知らない場所へ放り込まれたら、愛里は私以上に怖がるはずだ。
みやっちやゆきむーと一緒なら、まだ安心できる。
きよぽんと一緒なら、どんな状況でも何か方法を考えてくれるだろう。
しかし、全員が別々にされていたら。
そこまで考えたところで、私は意識的に想像を止めた。
何も分からないうちから悪い方向へ考えても仕方がない。
まずは、この部屋から出る方法を探すべきだった。
私は立ち上がり、部屋の隅に置かれた黒いバッグへ近づいた。
ファスナーを開くと、最初に目に入ったのはペットボトルの水だった。
二本の水の下には保存食らしい包装があり、そのほかに小型の懐中電灯、簡単な応急用品、
島のような形が印刷された紙の地図、そして学校の携帯端末より少し大きな専用端末が入っていた。
地図を広げると、外周のほとんどが海に囲まれていることが分かった。
中央部には学校らしい施設があり、その周囲には住宅地区、商業地区、工場地区、
港湾地区、森林地区などが記載されている。
道路も複雑に伸びており、普通に歩けば端から端まで移動するだけでも相当な時間がかかりそうだった。
地図の隅には区域番号らしい記号が小さく記されている。
A-1、A-2、B-1。
そうした記号によって、島全体が細かく区切られていた。
バッグの中には、もう一つ見慣れない物が入っていた。
私はそれを取り出し、しばらく言葉を失った。
握りやすいプラスチック製の柄。
その先には、透明なタンクと簡素なノズルが付いている。
どう見ても玩具の水鉄砲だった。
「……これが私の支給品?」
試しに引き金へ指を掛けると、タンクの中で水が揺れた。
水は入っているらしいが、これが何の役に立つのかは分からない。
少なくとも、首に装着された金属製の輪や、見知らぬ島の地図と並べて考えるような物ではなかった。
私は水鉄砲をバッグへ戻そうとしたが、すぐには手を離せなかった。
自分に与えられた物なら、何か意味があるのかもしれない。
意味がなかったとしても、この状況で捨てる理由はない。
私は水鉄砲をバッグの中へ戻し、ファスナーを閉じた。
その直後、正面のディスプレイが突然点灯した。
『開始まで 00:05:00』
「開始って……何が?」
表示された数字は、私の疑問に答えることなく減り始めた。
私は扉へ駆け寄り、取っ手へ手を掛けた。
しかし、扉はびくともしない。
力を込めて何度か引いてみても、開く気配はなかった。
「誰かいるの?聞こえるなら返事をして!」
扉を叩くと、しばらくして壁の向こうから何かが聞こえた。
誰かが叫んでいる。
男の声だった。
反対側からは、女の子らしい声も聞こえてくる。
言葉までは判別できないが、この建物には私以外にも人間がいる。
私は隣の壁を叩いた。
「誰かいるんでしょ!」
すると、右側からかすかな返事が返ってきた。
「誰だ!?」
聞き覚えのない男子の声だった。
少なくとも、きよぽんでも、みやっちでも、ゆきむーでもない。
「二年Dクラスの長谷部。そっちは?」
「一之瀬クラスの森山だ!」
聞いたことのある名前だった。
ほとんど話したことはないが、同じ学校の生徒だと分かっただけで、私は少しだけ安心した。
「ここがどこか分かる?」
「分かるわけないだろ。俺も今起きたばかりだ!」
「首に変な物は付いてる?」
「付いてる。お前もか?」
「うん」
それを聞いた瞬間、先ほどの安心は消えた。
私だけではない。
少なくとも森山にも同じ首輪が付いている。
周囲の部屋から聞こえてくる声を考えれば、かなりの人数が同じ状態に置かれているのだろう。
「バッグはある?」
「ある。水とか地図とか、いろいろ入ってる」
「私も同じ。ほかに何か入っていなかった?」
森山は少し考えてから答えた。
「ロープが入ってる」
「ロープ?」
「お前は何だった?」
私はバッグの中にある水鉄砲へ目を向けた。
「水鉄砲」
「水鉄砲?」
「そう。玩具みたいなやつ」
「何でそんな物が入ってるんだよ」
「私が聞きたいよ」
森山の声には、困惑しながらも笑いを堪えているような響きがあった。
こんな状況なのに、私は思わず苦笑してしまう。
意味の分からない出来事を、同じ学校の誰かと共有している。
それだけで、ほんの少しだけ落ち着くことができた。
しかし、その時間は長く続かなかった。
残り三分になったところで、部屋の天井に設置されたスピーカーから音が流れた。
『二年生の皆さん、お目覚めでしょうか』
私も森山も黙り込んだ。
聞き覚えのない声だった。
男性なのか女性なのかさえ判別しにくい、感情の薄い声が、狭い部屋の中へ淡々と響いている。
『現在、高度育成高等学校二年生、全百五十七名は、特別管理区域内に配置されています』
百五十七名。
その数字を聞いた瞬間、胸が強く締めつけられた。
やはり、きよぽんも、ゆきむーも、みやっちも、愛里も、この場所にいる。
全員がここにいると分かったことは、本来なら安心につながるはずだった。
しかし、四人がどこにいるのか分からないという事実も、同時に現実として突きつけられた。
『これより皆さんには、ゲーム……いえ、バトル・ロワイアル特別試験に参加していただきます』
ゲーム。
バトル・ロワイアル。
その言葉が不吉で、妙に引っ掛かった。
『制限時間は七十二時間です』
七十二時間。
三日間しかない。
『皆さんの首に装着されている管理装置は、現在位置および生存状態を確認するためのものです。
また、指定された禁止区域への滞在は認められません。
禁止区域については、定時放送および各自の端末を通じて通知されます』
私は反射的に首へ触れた。
先ほどまで、ただ不気味な金属の輪だと思っていた。
しかし、その説明を聞いたことで、別の恐ろしさが生まれた。
私たちはこの島のどこにいるのかを常に把握され、行動する場所まで指定されるのだ。
『バッグには、三日分を保証しない量の水と食料、地図、端末、その他の共通物資が入っています。
また、参加者一名につき、一種類のランダム支給品が用意されています』
私はバッグの中の水鉄砲を思い浮かべた。
森山にはロープが支給されている。
ならば、ほかの生徒には何が与えられているのだろう。
同じような日用品や玩具なのか。
それとも、もっと危険な物なのか。
その疑問への答えは、次の説明によって最悪の形で示された。
『支給品には、拳銃、散弾銃、自動火器、刃物なども含まれています』
背中に冷たいものが走った。
「嘘でしょ……」
私の声に、森山は何も答えなかった。
『もちろん、日用品や娯楽用品などが支給される場合もあります。支給品の公平性は保証されません』
私はバッグの中の水鉄砲を見た。
水を撃つだけの玩具と、銃や刃物が同じ条件で配られる。
そんなものが公平であるはずがない。
島のどこかには、すでに銃を持っている生徒がいる。
その事実を考えただけで、指先が冷たくなった。
『試験終了条件を説明します』
スピーカーから流れる声は、相変わらず平坦だった。
『参加者百五十七名のうち、生存者が一名になった時点で試験終了となります』
一泊。
『平たく言えば、最後の一人になるまで殺し合いをして頂きます』
私はその意味を理解できなかった。
正確には、理解したくなかった。
『制限時間七十二時間以内に最終生存者が決定しなかった場合についても、別途終了処理が行われます。
したがって皆さんには、制限時間内に最終生存者一名を決定していただくことを推奨します』
「待ってよ!」
壁の向こうで森山が叫んだ。
別の部屋からも、怒鳴り声や悲鳴が次々に上がる。
「ふざけるな!」
「どういう意味だ!」
「ここから出せ!」
「先生はどこにいるんだ!」
建物全体が一斉に騒がしくなった。私も扉へ近づき、声を張り上げた。
「最後の一人って何なの!?」
答えは分かっていた。それでも、聞かずにはいられなかった。
『試験中における参加者同士の行動について、学校規則は適用されません』
その言葉が、すべてを説明していた。
誰かを傷つけても、誰かから物を奪っても、そして誰かを殺しても、この試験では止められない。
私はバッグの中の水鉄砲へ手を伸ばした。
軽いプラスチックの感触が、かえって現実を遠ざけているように思えた。
きよぽん。
ゆきむー。
みやっち。
愛里。
四人の顔が次々と浮かぶ。
最後の一人。
その言葉と四人の顔を結びつけることだけは、どうしてもできなかった。
私たちは友達だ。
放課後に集まり、どうでもいい話をして、くだらないことで笑い、一緒にご飯を食べる。
そんな私たちが、どうして最後の一人を決めなければならないのか。
『第一回禁止区域は、開始から二時間後に指定されます。
以降もゲームの進行に伴い、活動可能区域は段階的に縮小されます』
島が広いから、逃げ続ければいい。
そんな考えさえ、最初から封じられていた。
『定時放送は六時間ごとに実施され、生存者数、試験進行状況、新規禁止区域などを発表します』
残り時間が一分を切った。
周囲から聞こえていた怒鳴り声は、少しずつ減っていった。
誰も納得したわけではない。
ただ、もうすぐ扉が開くことに気づいたのだろう。
扉の向こうには、同じ説明を聞いた百五十七人がいる。
その中には、銃を持った人間もいる。
私は水と食料、地図、端末をバッグへ戻し、最後に水鉄砲を確認した。
頼りない支給品だったが、今の私にはそれしかない。
私はそれもバッグへ入れ、肩へ掛けた。
戦うつもりはない。誰かを傷つけるつもりもない。
ましてや、最後の一人になるつもりなどなかった。
まずは愛里を探す。
それから、みやっち、ゆきむー、きよぽんを見つける。
順番に意味はない。
全員を見つけて、五人で集まる。
そのあとどうするかは、それから考えればいい。
少なくとも今は、それ以外のことを考えたくなかった。
カウントがゼロになる。
電子音とともに、扉のロックが外れた。
私はすぐには扉を開けなかった。
壁の向こうから、森山の声が聞こえてくる。
「長谷部!」
「いるよ!」
「俺、先に出るぞ!」
「待って。一緒に出よう」
森山は少し黙ったあと、「分かった」と答えた。
私は数秒待ってから、扉を少しだけ開けた。
外は長い廊下だった。
左右には同じ金属製の扉が並んでいる。
ほぼ同時に何枚もの扉が開き、生徒たちが恐る恐る顔を出した。
見覚えのある顔もあれば、知らない顔もある。
泣いている女子、怒りを露わにしている男子、バッグを胸の前で抱えている者、周囲を異常なほど警戒している者。
誰も最初の一歩を踏み出そうとはしなかった。
理由は簡単だった。
あのバッグの中に何が入っているのか、本人以外には分からないからだ。
私は隣の部屋から出てきた森山を見つけた。
「長谷部か?」
「うん」
初めてまともに話す相手だった。
それでも、同じ学校の制服を見ただけで妙に安心した。
「本当に水鉄砲なのか?」
森山が私のバッグへ視線を向ける。
「そうみたい。見たい?」
「こんな状況で?」
「こんな状況だから、確認しておきたいんじゃない?」
私はバッグから水鉄砲を取り出した。
森山はそれを受け取り、タンクの中を覗き込む。
「本当に水が入ってるな」
「撃たないでよ」
「撃つわけないだろ」
森山は水鉄砲を返した。
そのとき、廊下の奥から男子生徒が走ってきた。
「外に出られる!」
その言葉で、全員の意識が出口へ向いた。
私たちは一斉に走るのではなく、互いの様子を窺いながら少しずつ移動を始めた。
建物の外へ出ると、強い日差しに目を細める。
目の前に広がっていたのは、見知らぬ住宅街だった。
古いアパート、閉じた商店、錆びた標識、雑草の伸びた道路。
その向こうには緑に覆われた山があり、反対方向へ視線を向ければ、建物の隙間から海が見えた。
地図と一致している。
本当に島なのだ。
二十人近い生徒が建物の前へ集まっていた。
誰も離れようとしない。
一人になるのが怖いのだろう。
私も同じだった。
「とりあえず、みんなで動かないか?」
誰かが提案した。
反対する者はいなかった。
少なくとも、この時点では。
地図を見ていた男子が、中央部にある大きな施設を指した。
「学校らしい建物が中央にある。そこへ行けば、ほかの奴らも集まるんじゃないか?」
私は地図を確認した。
確かに中央部には、周囲の建物より大きな施設が記載されている。
愛里たちも同じことを考えるかもしれない。
「私も行きたい」
そう言うと、森山も頷いた。
「俺も行く。人数が多い方が安全だろ」
誰も、ほかの生徒がどんな武器を持っているのか尋ねなかった。
聞けば、この集団の空気が変わってしまう。
全員がそれを分かっていたのだと思う。
私も、自分の水鉄砲について詳しく説明することはしなかった。
二十人近い集団が、住宅街を歩き始める。
不思議な光景だった。
いつもの学校なら、クラスの違う人間がこれほど集まって歩くことなどほとんどない。
それなのに今は、誰もクラスを気にしていなかった。
堀北クラス。
一之瀬クラス。
龍園クラス。
坂柳クラス。
制服は同じで、首輪も同じだった。そして、抱えている恐怖も同じだった。
歩きながら、私は何度も周囲を見回した。
「愛里!」
返事はない。
「みやっち!」
声が住宅街に響く。
「ゆきむー!」
それでも、誰も姿を現さなかった。
最後に少し迷ってから、私はきよぽんの名前を呼んだ。
「きよぽん!」
森山が横目でこちらを見る。
「綾小路を探しているのか?」
「うん。友達だから」
「長谷部って、綾小路と仲が良かったんだな」
「まあね。五人でよく一緒にいるから」
口にした瞬間、胸が痛くなった。
五人。
その数字が、この試験では許されない。
最後には一人しか残れない。
「でも、そんなルールは知らないし」
「何か言ったか?」
「何でもない」
私は歩き続けた。
絶対に見つける。
試験が何を言おうと関係ない。
五人で集まれば、何とかなるはずだ。
きよぽんなら、きっと何か考えてくれる。
ゆきむーなら、状況を冷静に整理してくれる。
みやっちなら、私たちを守ってくれる。
そして愛里には、私がついていなければならない。
そのとき、遠くから乾いた音が聞こえた。
一度だけではない。
少し間を置いて、さらに二度響いた。
それまで話していた全員が黙り込んだ。
私は、その音が何なのか知らないふりをしたかった。
しかし、放送を聞いたあとでは想像できてしまう。
「今の音は……」
誰かが呟いた。
森山が険しい顔で遠くを見た。
「銃じゃないか?」
その言葉によって、それまで保たれていた集団の空気が初めて揺らいだ。
数人が後ろを振り返り、一人が地図を確認し、別の女子がバッグを強く抱き締める。
誰も走り出しはしなかった。
しかし、歩く速度は明らかに速くなった。
私はバッグの中へ手を入れ、水鉄砲の柄を握った。
あまりにも頼りない感触だった。
それでも、何も持っていないよりはましな気がした。
森山が横目で見る。
「それを持って歩くのか?」
「持っていた方が安心するから」
「まあ、気持ちは分かる」
森山は苦笑した。
「水が切れたら、ただの飾りだけどな」
「言わないでよ」
そんな会話をしている間にも、銃声らしい音は聞こえていた。
先ほどよりも近い。
私たちは中央部へ向かう道を急いだ。
その途中で、反対方向から三人の生徒が走ってきた。
「逃げろ!」
先頭の男子が叫んだ。
「向こうでやり合っている!」
集団が足を止める。
「誰が?」
「知らない!いきなり撃ち始めたんだ!」
「何人いる?」
「分からない!」
情報は何もなかった。
ただ、彼らの表情から伝わってくる恐怖だけで十分だった。
「別の道へ行こう!」
誰かが言った。
地図を広げると、中央へ続く道路は一つではないことが分かった。
私たちは銃声の聞こえる方向を避け、細い住宅街へ入った。
そこから、集団の空気が変わった。
さっきまで全員で歩いていたのに、今は前後の距離が広がっている。
曲がり角へ来るたびに立ち止まり、窓や屋上を確認する。
誰かがいるだけで、全員の身体が強張った。
たった一つの音が、人間をここまで変えてしまう。
私は、そのことが怖かった。
殺し合えと言われても、全員が拒否すればいい。
最初はそう思っていた。
百五十七人全員で何もしなければいい。
誰もゲームに乗らなければ、誰も傷つかずに済む。
しかし、一人でもゲームに乗ったらどうなるのか。
一人でも銃を撃ったら。
撃たれた人の友達が反撃したら。
その友達を見た別の誰かが、先に撃たなければ自分がやられると思ったら。
考えれば考えるほど、逃げ道が塞がっていく。
私はそれ以上考えるのを止めた。
こんなふうに疑い続ければ、ゲームを作った人間の狙い通りになってしまう気がした。
そのとき、全員の端末が一斉に震えた。
画面には、たった一行だけ表示されている。
『生存者 156名』
誰も声を出さなかった。
銃声が何だったのか。
誰が撃ったのか。
誰が倒れたのか。
何も分からない。
それでも、一つだけ確かなことがあった。
さっきまで、この島には百五十七人いた。
今は百五十六人しかいない。
数字が一つ減っただけなのに、その一つが誰かの名前だったのだと思うと、端末を持つ手が震えた。
愛里ではない。
みやっちでもない。
ゆきむーでもない。
きよぽんでもない。
私はそう願った。
しかし、それはつまり、別の誰かならいいと願っているのと同じなのだと気づき、急に自分が嫌になった。
「行こう」
森山が静かに言った。
私は頷いた。
住宅街の向こうには、中央部へ続く坂道が見えている。
その先に誰がいるのかは分からない。
友達かもしれないし、すでに敵になってしまった同級生かもしれない。
それでも、進むしかなかった。
私は右手で水鉄砲を握り、左手でバッグの肩紐を強く掴んだ。
このときの私は、まだ本気で信じていた。
愛里を見つけて、みやっちを見つけて、ゆきむーを見つけて、きよぽんを見つける。
五人で集まることさえできれば、きっと何とかなるのだと。
七十二時間後、この島から出られるのが一人だけだという意味を、私はまだ本当の意味では理解していなかった。