バトル・ロワイアル ようこそ虐殺至上主義の教室へ   作:カツカレー!

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第八話 銃火

夜が完全に島を覆うより少し前、綾小路グループの五人は、

最初の休憩場所として使っていた旧事務所を離れることにした。

 

理由は単純で、周辺の人の流れが変わり始めていたからだった。

 

南西方向で発生した大きな爆発と、その後に続いた複数の銃声によって、

中央施設へ近づこうとしていた生徒の一部が進路を変え、住宅地区や港湾地区の外縁へ流れ始めている。

 

もともと五人がいた事務所は、人通りの少ない場所を選んだつもりだったが、

禁止区域の拡大と騒ぎによって、その利点が急速に失われつつあった。

 

清隆は窓から外の様子を確認したあと、啓誠が広げている地図へ視線を移した。

 

「ここに残った場合、次の区域変更で東側へ抜ける道が混雑する可能性がある。

今のうちに北へ移動して、そこから港湾地区の外縁を通った方がいいと思う」

 

啓誠も同じ場所を指した。

 

「俺もそう考えていた。中央施設の近くは一之瀬たちの集団がいるから、

人が増えるほど争いが起きた際に巻き込まれる危険が高い。

それに、港側なら倉庫や管理施設が多いから、水や使える備品が残っている可能性もある」

 

波瑠加が少し嫌そうな顔をする。

 

「港って、さっきから何回も銃声が聞こえてる方だよね。

できればもっと平和な方向へ行きたいんだけど、

この島に平和な方向が残ってるのかって聞かれたら、もう自信ないかも」

 

明人は窓の外を見たまま答えた。

 

「少なくとも真正面から港の中心へ行くわけじゃない。

外側を通って、危なそうならそのまま北へ抜ければいい。むしろここで夜になってから動く方が厳しいだろ」

 

愛里も不安を感じていたが、誰かの判断へただ従うだけにはなりたくなかったため、自分なりに地図を見た。

 

「港の北側には倉庫がたくさんあるんだよね。

人が集まりやすいなら危ないと思うけど、今のうちに通り抜けるなら、夜になってからよりはまだ周りが見えると思う」

 

その言葉に清隆が頷いた。

 

「そうだな。完全に暗くなる前に移動した方がいい」

 

五人は簡単に荷物をまとめ、旧事務所を出た。

 

空はすでに紫色へ変わりつつあり、建物の影は長く伸びている。

 

昼間は島全体を照らしていた光が弱くなっただけで、周囲の景色は別の場所のように見えた。

 

人影の判別が難しくなり、窓や路地の奥に誰かがいても気づくまでに時間がかかる。

 

明人は先頭を歩こうとしたが、波瑠加がすぐに横へ並んだ。

 

「みやっち、また一人で前に出ようとしてるでしょ。

さっきも言ったけど、少し前を見るくらいならいいけど、私たちから離れるのは禁止だからね」

 

明人は苦笑した。

 

「分かってるって。俺ももう一人で格好つけるつもりはないから、今は周りを見るだけにする」

 

「そうやって自分から格好つけるって言う人、だいたいまた格好つけるんだけど」

 

「じゃあ俺が前に出すぎたら引っ張ってくれ」

 

「それは任せて。腕でも服でも、必要ならバッグごと引っ張るから」

 

二人の会話を聞きながら、愛里は少しだけ笑った。

 

朝から何度も感じていることだったが、こういう普通の会話があるだけで恐怖が完全には心を支配しなくなる。

 

だからこそ、五人でいることが今は何より大切だった。

 

港湾地区の外縁へ近づくにつれて、道路には少しずつ異変が増えていった。

 

落とされたバッグ。

 

破損した案内板。

 

放置された保存食。

 

走って逃げた誰かが落としたらしい片方だけの靴。

 

そこに何があったのかを、五人はわざわざ確かめようとはしなかった。

 

啓誠が地図を確認する。

 

「この先を左へ進めば、倉庫群の北側へ抜けられる。

ただ、右へ行くと港の中心部だから、そちらには入らない方がいい」

 

その瞬間、遠くから大きな銃声が響いた。

 

続けて数発。

 

五人は足を止める。

 

明人がすぐに周囲を見る。

 

「近いな」

 

清隆は音の方向を確認した。

 

「南側だ。まだ距離はあるが、移動している可能性もある」

 

波瑠加が愛里の隣へ寄った。

 

「今日は本当に銃声を聞きすぎて、最初より驚かなくなってきてるのが一番嫌なんだけど」

 

愛里も同じことを感じていた。

 

朝なら一発聞いただけで足が動かなくなっていた。

 

今は怖い。

 

それでも、どう動くかを考えられる。

 

慣れたくないことに慣れ始めている。

 

五人は速度を少し上げた。

 

倉庫街へ入る。

 

左右には巨大な建物が並び、道路の幅も広い。

 

ところどころにコンテナが積まれ、その間を細い通路が走っている。

 

風が強くなり、海側から金属の軋む音が聞こえてくる。

 

そして、倉庫群の一つを曲がったところで、前方に大勢の生徒がいることへ気づいた。

 

明人がすぐに足を止めた。

 

「多いぞ」

 

清隆たちも建物の陰から確認する。

 

一つの集団ではない。

 

複数の小さな集団が、広い搬入口付近へ集まっている。

 

人数は五十人近い。

 

それぞれが別々に距離を取りながらも、完全には離れようとしていない。

 

倉庫の中に何かあるのか。

 

あるいは誰かが「物資がある」と話したのか。

 

理由は分からない。

 

しかし、これだけの人数が同じ場所へいるという事実だけで危険だった。

 

「戻ろう」

 

啓誠が即座に言った。

 

「ここを通る理由はない。別ルートを探した方がいい」

 

波瑠加もすぐに賛成した。

 

「私もそれがいい。人数が多すぎるし、あの中に銃持ってる人が一人いるだけでも怖いよ」

 

清隆も同じ判断をした。

 

「北へ回る。今ならまだ離れられる」

 

五人が引き返そうとした、そのときだった。

 

倉庫前の集団の中から大声が上がった。

 

「食料があるって聞いたから来たんだろ!」

 

別の声が返す。

 

「そんな話、誰が言ったんだよ!中には何もないぞ!」

 

「俺は港に保存食が残ってるって聞いた!」

 

「噂だろ!」

 

声が重なる。

 

人々が一斉に話し始める。

 

一人の発言が、別の人間へ伝わる。

 

誰かが「倉庫の奥」と言う。

 

別の誰かが「地下」と言う。

 

さらに「水もある」という話まで混ざる。

 

明人が眉を寄せた。

 

「これ、完全に噂だけで集まってるな」

 

清隆はその光景を見ながら答えた。

 

「人が集まったから、さらに人が来たんだろう。何かあるから集まっていると思った人間が増えた結果だ」

 

啓誠が低い声で言う。

 

「まずいな。何もないと分かった瞬間、今度は誰かの荷物へ目が向く」

 

その予測が現実になるまで、ほとんど時間はかからなかった。

 

倉庫前で一人の男子が、別の生徒のバッグを掴んだ。

 

何かを盗もうとしたのか。

 

それとも止めようとしただけなのか。

 

遠くからでは分からない。

 

ただ、周囲が一斉に反応した。

 

「離せ!」

 

「触るな!」

 

「何やってるんだ!」

 

複数の声。

 

人の輪が狭くなる。

 

その中で誰かが転ぶ。

 

別の誰かが押される。

 

一人が怒鳴る。

 

さらに別の一人がバッグへ手を入れる。

 

清隆の表情が僅かに変わった。

 

「離れるぞ」

 

五人が動き始めた。

 

しかし、次の瞬間、乾いた銃声が一発響いた。

 

それだけで五十人近い人間の動きが変わった。

 

誰が撃ったのか。

 

どこへ向けたのか。

 

誰も分からない。

 

分からないからこそ、全員が最悪を想像した。

 

人々が一斉に散った。

 

悲鳴が上がる。

 

倉庫の入口へ走る者。

 

道路へ飛び出す者。

 

コンテナの裏へ逃げる者。

 

その流れが互いにぶつかり、さらに混乱を大きくする。

 

「こっちだ!」

 

明人が声を上げた。

 

五人は倉庫の壁沿いを走る。

 

背後で二発目の銃声が響いた。

 

その直後、今度は別方向から激しい連続音が炸裂し、さらに少し離れた建物の向こうからも別の発砲音が重なった。

 

一つの銃声に別の誰かが反応し、その音を聞いたさらに別の生徒まで撃ち始めたことで、

それまで散発的だった発砲音が一気に密度を増していく。

 

右から短い連射が響いたかと思えば、ほとんど間を置かず左からも凄まじい銃声が返り、

道路に反響した轟音が幾重にも重なって周囲を満たした。

 

もはや誰が誰へ向けて撃っているのかさえ分からず、

前方、後方、建物の陰と、まったく異なる方向から次々と発砲音が叩きつけられる。

 

途切れかけたと思った瞬間には別の連射が始まり、その直後にはさらに複数の銃声が重なって、静寂が戻る隙を与えない。

 

最初の一発によって張り詰めていた均衡が完全に崩れ、

周囲一帯は数秒のうちに、絶え間ない銃声と怒号が支配する混乱へと変わっていた。

 

どこから撃たれているのか分からないまま、複数の生徒が左右へ逃げる。

 

波瑠加が愛里の腕を掴む。

 

「愛里、絶対離れないで!人に押されてもバッグより自分優先だからね!」

 

「うん、波瑠加ちゃんも離れないで!」

 

二人は互いの位置を確認しながら走った。

 

啓誠は地図を開く余裕などなく、周囲の建物を見ながら叫ぶ。

 

「前の角を右へ行けば裏通路へ出られるはずだ!正面は人が多すぎるから、倉庫の裏へ回ろう!」

 

「分かった!」

 

明人が答える。

 

五人が角へ向かう。

 

そのとき、前方から別の集団が飛び出してきた。

 

十人近い。

 

互いに相手を認識するより先に、狭い通路で人の流れがぶつかった。

 

愛里は押されて身体を傾けた。

 

その瞬間、明人が腕を伸ばして支える。

 

「愛里、大丈夫か!」

 

「う、うん!」

 

「波瑠加も後ろ見ろ!まだ来るぞ!」

 

波瑠加が振り返る。

 

さらに人が走ってくる。

 

誰も五人を襲おうとしているわけではない。

 

ただ逃げている。

 

それだけなのに、人数が多すぎる。

 

人の流れを避けながら進んでいると、前方の建物脇に一人の女子生徒が立っていることに気づいた。

 

椎名ひよりだった。

 

「椎名さん……?」

 

波瑠加が思わず名前を呼ぶ。

 

ひよりはこちらを見た。

 

その顔を見て、波瑠加の足が止まる。

 

泣いていた。

 

普段のひよりからは想像しにくいほど表情が崩れ、目元には涙の跡が残っている。

 

それだけではない。

 

両手にはハンドガンが握られていたが、

構え方には普段の彼女らしい落ち着きなどなく、震えがこちらからでも分かるほどだった。

 

「椎名さん……」

 

愛里も声を掛ける。

 

ひよりの視線が愛里へ動いた。

 

「佐倉さん……長谷部さん……」

 

「どうしたの?誰かに何かされた?」

 

波瑠加が一歩だけ近づこうとする。

 

「来ないでください!」

 

ひよりが叫んだ。

 

波瑠加が止まる。

 

ひより自身も、自分がこれほど大きな声を出したことに驚いたようだった。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

すぐに声が弱くなる。

 

それでも銃は下ろさない。

 

「山下さんと藪さんに脅されて……持っていた物も取られて……大切な本まで取り上げられて……」

 

言葉の途中で声が震える。

 

「嫌だったのに……返してくださいって言ったんです。でも、全然聞いてくれなくて……」

 

ひよりにとって、本は単なる荷物ではない。

 

この異常な島へ連れてこられてからも、自分らしさを辛うじて繋ぎ止めていたものだったのかもしれない。

 

それまで奪われたくないものを奪われ、何度も恐怖を味わい、

いつどこから誰が襲ってくるか分からない状況が続いたことで、

普段なら物事を静かに考えるひよりから余裕が失われていた。

 

愛里が心配そうに声を掛ける。

 

「椎名さん、私たちは何もしないよ」

 

「分かってます……」

 

ひよりは泣きながら答える。

 

「綾小路くんたちが、そんなことをする人じゃないって……分かってるんです」

 

それなのに、ハンドガンを握る手は下がらなかった。

 

オレはひよりを見る。

 

「ひより。銃を下ろせ」

 

「……綾小路くん」

 

「オレたちはお前の物を奪わない。追いかけるつもりもない。だから撃つ必要はない」

 

「はい……」

 

ひよりは頷く。

 

それでも動かない。

 

頭では理解できていても、身体が従わないらしい。

 

「大丈夫だ。誰も近づかない」

 

オレもその場から動かずに続ける。

 

「そのまま銃を下ろせばいい」

 

「……ごめんなさい」

 

ひよりの両手がさらに震えた。

 

銃口が持ち上がる。

 

「椎名さん!」

 

波瑠加が叫ぶ。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

ひよりは泣いていた。

 

敵意から銃を向けているわけではない。

 

それでも恐怖に追い詰められた彼女には、

目の前の人間を信じるという最後の一歩を踏み出す余裕さえ残されていなかった。

 

オレは動かなかった。

 

「ひより。オレを見ろ」

 

「……っ」

 

「撃つ必要はない」

 

ひよりの指が震える。

 

その時だった。

 

銃声が一発響いた。

 

ひよりの身体が大きく揺れた。

 

「――え?」

 

腹部に銃撃を受けたひよりは、自分に何が起きたのか理解できないような表情を浮かべる。

 

握っていたハンドガンが手から離れた。

 

「椎名さん!」

 

愛里の声が響く。

 

ひよりはそのまま力を失い、ゆっくりとその場へ崩れた。

 

波瑠加が駆け寄ろうとする。

 

「待て」

 

オレはすぐに止めた。

 

ひよりを撃った人間がどこにいるのか分からない。

 

正面からではない。

 

先ほど通り過ぎた集団なのか、周囲の建物にいる別の生徒なのか、それさえ判断できなかった。

 

「でも、椎名さんが!」

 

「今出れば次に撃たれる」

 

「そんな……!」

 

愛里も動けずにいた。

 

倒れたひよりはもう起き上がらない。

 

ついさっきまで聞こえていた謝罪の声も消えていた。

 

そして周囲では、再び複数の足音が近づいている。

 

立ち止まっていられる時間はなかった。

 

清隆は周囲を見た。

 

左側。

 

倉庫と倉庫の間に、車両用の細い通路がある。

 

「こっちへ入る」

 

狭い通路へ入った瞬間、外の喧騒が少し遠くなる。

 

それでも銃声は続いている。

 

波瑠加が息を整えながら言った。

 

「椎名さん……何なの、何なのこれ!誰が誰と戦ってるのか全然分からないんだけど!」

 

啓誠も呼吸を整えながら答える。

 

「たぶん、最初は明確な戦闘じゃなかった。誰か一人が撃ったことで、

武器を持っていた別の人間が反応した。そこから全員が敵を判断できなくなっている」

 

明人が壁の向こうを気にしながら言う。

 

「要するに、誰も状況分かってないまま撃ち合いになってるってことか」

 

清隆は頷いた。

 

「だから今は、誰が敵かを考えるより、この場所から離れる方がいい」

 

五人は通路をさらに進む。

 

その途中で、愛里は前方に一人の男子が倒れ込んでいることへ気づいた。

 

怪我をしているのか、転んだだけなのか分からない。

 

男子は起き上がろうとしていたが、足に力が入らないらしい。

 

明人も気づいた。

 

足を止める。

 

啓誠が言う。

 

「明人、今は――」

 

「分かってる。でも、このままじゃ人の流れに巻き込まれる」

 

明人は男子のところへ走った。

 

波瑠加がすぐに叫ぶ。

 

「みやっち、一人で行かないって言ったでしょ!」

 

「だから戻ってくる!」

 

明人は男子の腕を取り、立たせた。

 

幸い意識ははっきりしている。

 

「歩けるか?」

 

「たぶん……」

 

「じゃあこの通路の奥まで行け。広い道路へ戻るな」

 

男子を支えながら数歩進ませる。

 

愛里も近づこうとしたが、清隆が周囲を確認しながら言った。

 

「愛里は波瑠加とここにいてくれ。人が来たらすぐ知らせてくれればいい」

 

愛里はその言葉を聞いて、自分にもできることがあると理解した。

 

通路の入口を見る。

 

後方から数人が走ってくる。

 

「来る!」

 

愛里が声を上げる。

 

明人が男子を壁際へ移動させる。

 

清隆と啓誠も位置を変える。

 

走ってきた生徒たちは五人を一瞬警戒したものの、そのまま通過していった。

 

明人は男子へ言う。

 

「この先なら人が少ない。動けるなら、倉庫の奥へ行って休んだ方がいい」

 

男子は何度も礼を言いながら離れていった。

 

波瑠加が明人を見る。

 

「みやっち、ほんとこういう時だけ格好いいよね」

 

明人が苦笑する。

 

「こういう時だけって何だよ。普段もそこそこだろ」

 

「自分で言うところが減点」

 

愛里も小さく笑った。

 

それは本当に数秒だけのことだった。

 

しかし、その数秒の会話が終わるより早く、島の夜を切り裂くような巨大な閃光が遠方に広がった。

 

最初に見えたのは光だった。

 

港の南側。

 

倉庫群の向こうで、建物の隙間を白く染めるほどの強い光が膨らみ、その直後には橙色の炎が空へ立ち上がった。

 

五人は反射的に動きを止めた。

 

音はすぐには来なかった。

 

一瞬だけ、世界から音が消えたように感じる。

 

次の瞬間、遅れて凄まじい轟音が押し寄せた。

 

倉庫の壁が震える。

 

頭上の金属板が激しく鳴る。

 

窓ガラスの残っていた部分が細かく揺れ、道路脇に立てられていた古い案内板が大きく振動する。

 

空気そのものが押し出されたような衝撃が通路を抜け、愛里は思わず波瑠加へ身体を寄せた。

 

波瑠加も反射的に愛里を抱える。

 

「何、今の!?」

 

明人はすぐに二人の前へ出ようとしたが、清隆が肩を掴んで壁際へ寄せた。

 

「まだ終わってない」

 

その直後、爆発地点から少し遅れて二度目の重い音が響いた。

 

先ほどより小さい。

 

それでも十分大きい。

 

さらに金属の崩れる音が続く。

 

倉庫の屋根の一部が沈み、遠くのクレーン設備が大きく揺れる。

 

爆発そのものより、その後に連鎖して起きる構造物の破損音の方が長く続いた。

 

地面を伝う低い振動。

 

建物の外壁が軋む音。

 

遠方から上がる大量の煙。

 

暗くなり始めた空へ、黒い柱のように伸びていく。

 

港全体の人間が一斉に反応した。

 

さっきまで銃声から逃げていた生徒たちが、今度は爆発地点から離れようとして別方向へ走り始める。

 

それによって、人の流れが再び変わった。

 

東へ逃げる者。

 

北へ向かう者。

 

中央施設へ戻ろうとする者。

 

誰も地図など見ていない。

 

ただ炎と煙の反対側へ逃げている。

 

「まずい」

 

啓誠が周囲を見る。

 

「北へ流れてくる人数が増える。俺たちが行こうとしていた道と重なる」

 

清隆も同じことを考えていた。

 

「ここを抜ける。人の流れが完全に固まる前に倉庫群の東側へ出る」

 

「でも東側って中央寄りじゃない?」

 

波瑠加が聞く。

 

「完全に中央へ戻るわけじゃない。大通りを避けて管理棟側へ抜ける」

 

明人が頷く。

 

「分かった。なら急ごう」

 

五人は再び動いた。

 

爆発によって一時的に銃声は減っていた。

 

それまで互いを警戒していた生徒たちも、今は火災や崩落の方を恐れている。

 

その意味では逃げやすくなった。

 

しかし、同時に人の流れはさらに予測しづらくなっている。

 

五人が細い通路を抜けたところで、突然エンジンのような音が遠くから聞こえた。

 

愛里は最初、それが何なのか分からなかった。

 

港の設備が動いているのかと思った。

 

しかし、その音は一定ではない。

 

近づいたり遠ざかったりする。

 

波瑠加も気づいた。

 

「何か動いてない?」

 

明人が音の方向を見る。

 

「機械か?」

 

そのとき、別方向から走ってきた男子生徒が、五人の近くで足を止めた。

 

顔色が悪い。

 

「そっち行くな!」

 

啓誠が聞く。

 

「何がいる?」

 

男子は息を切らしながら答えた。

 

「櫛田だ。チェーンソー持ってる」

 

波瑠加の表情が固まった。

 

「キョーちゃん?」

 

「俺たちも最初は助けてくれると思ったんだよ。でも、あいつ……」

 

男子はそれ以上説明しなかった。

 

説明する必要もなかった。

 

「ぎゃああああああああああ!!」

 

「怖いよぉ!!」

 

「来るな!こっちへ来るな!!」

 

「俺の腕があああああああああ!!」

 

遠くで響く機械音と悲鳴。

 

それだけで十分だった。

 

男子は別方向へ走っていった。

 

愛里は無意識にピコピコハンマーを強く握っていた。

 

同じクラス。

 

いつも笑っていた。

 

誰にでも優しく声を掛けていた櫛田。

 

その櫛田が、今この島のどこかでチェーンソーを持っている。

 

波瑠加が低い声で言った。

 

「私、キョーちゃんが怖いって思ったことはあったけど、こういう意味で怖いと思う日が来るとは思ってなかった」

 

清隆は音の方向を確認した。

 

「近づいてくる。別の通路へ行くぞ」

 

五人は東側へ進路を変えた。

 

エンジン音が少し大きくなる。

 

その音が建物の間で反響するせいで、正確な場所が分からない。

 

どこにいるのか見えない。

 

見えないことが、余計に恐怖を強くする。

 

愛里は走りながら何度も後ろを見そうになった。

 

しかし波瑠加が言う。

 

「愛里、前見て。後ろは私も見るから、今は足元だけ気をつけて」

 

愛里は頷いた。

 

明人が先を見る。

 

啓誠が分岐を確認する。

 

清隆が最後尾へ少し位置を下げ、後方の音を確認する。

 

五人の動きは、朝とは明らかに違っていた。

 

誰か一人だけが全部を見ているわけではない。

 

それぞれが自分にできることをしている。

 

愛里も、ただ守られているだけではなかった。

 

「右から人が来る!」

 

愛里が先に気づいた。

 

建物の隙間から数人の生徒が飛び出してくる。

 

明人が速度を落とし、全員がぶつからないように進路を調整する。

 

その生徒たちも後ろを気にしている。

 

やはり同じ音から逃げているらしい。

 

「櫛田、こっち来てる!」

 

誰かが叫ぶ。

 

その言葉で別の集団まで走り出す。

 

実際に櫛田が見えている者はほとんどいない。

 

それでも名前と音だけで人が動く。

 

恐怖が噂を運び、噂がさらに人を走らせる。

 

清隆はその様子を見ながら、坂柳や龍園がこの状況を見れば、

人間がどれほど簡単に情報だけで動くかを利用するだろうと考えた。

 

しかし今は分析している余裕はない。

 

前方で再び銃声が響いた。

 

最初に一発の乾いた発砲音が建物の間を突き抜けたかと思えば、

ほとんど間を置かず二発目が続き、さらにその直後から何度もの銃声が立て続けに重なっていく。

 

一度途切れたように聞こえても静寂が戻ることはなく、

別の銃声がすぐさまそれを引き継ぎ、前方一帯から絶え間なく激しい発砲音が押し寄せてきた。

 

やがて単発だった音に連続した銃声まで混じり始め、

建物の壁へ幾重にも反響した破壊音が、本来の発砲地点さえ分からなくなるほど周囲を満たしていく。

 

それまで遠くに感じられていた戦闘の気配は急速に濃くなり、

進もうとしている先そのものが激しい銃撃戦の只中へ変わりつつあることを、鳴り止まない銃声が嫌でも伝えていた。

 

逃げていた生徒たちが左右へ散る。

 

その一部が五人の方へ向かってくる。

 

「倉庫に入る!」

 

明人が言った。

 

清隆がすぐに周囲を見る。

 

「入口は一つじゃない。中を抜けられる可能性がある」

 

五人は開いている搬入口から倉庫へ入った。

 

内部は広かった。

 

天井が高く、鉄骨が何本も走っている。

 

床には古い資材が残され、使われていない台車や棚が並んでいる。

 

照明は一部しか点いておらず、奥は暗い。

 

明人の懐中電灯が初めて本格的に役に立った。

 

「やっと俺の支給品が当たりっぽくなってきたな」

 

息を整えながら言う。

 

波瑠加が苦笑する。

 

「今それ言う?でも正直かなり助かるから、今日は褒めてあげる」

 

「今日はって何だよ」

 

五人は暗い倉庫内を進む。

 

背後から人が入ってくる音。

 

遠くで銃声。

 

さらにあのエンジン音。

 

どれがどこから聞こえているのか、建物の中では余計に分かりづらい。

 

愛里は周囲を見ながら歩く。

 

そのとき、棚の向こうに人影を見つけた。

 

「誰かいる」

 

愛里が小声で言う。

 

全員が足を止める。

 

人影は二つ。

 

やがて一人が声を出した。

 

「撃つな!」

 

清隆が答える。

 

「こっちも撃つつもりはない」

 

棚の向こうから出てきたのは石崎だった。

 

その後ろに西野。

 

さらにアルベルト。

 

そして少し遅れて葛城。

 

波瑠加が驚く。

 

「龍園クラス?」

 

石崎も目を丸くする。

 

「綾小路たちかよ!」

 

明人が周囲を見る。

 

「龍園は?」

 

石崎が答える。

 

「少し先にいる。港がめちゃくちゃになったから、俺らも倉庫の中通って東へ抜けようとしてんだ」

 

葛城が五人を見る。

 

「今は争う理由がない。こちらも人の流れから離れたいだけだ」

 

啓誠が頷く。

 

「俺たちも同じだ」

 

そのとき、倉庫の奥から龍園の声が聞こえた。

 

「随分と面白え面子が集まったな」

 

龍園が姿を現す。

 

手には散弾銃。

 

石崎が以前見た歯ブラシの頃とは、さすがに印象が違う。

 

波瑠加が警戒する。

 

「その手に持ってるの見てから『争う理由ない』って言われても、全然安心できないんだけど」

 

龍園は笑った。

 

「安心する必要なんざねえよ。今撃つ理由がねえってだけだ」

 

清隆と龍園の視線が合う。

 

龍園は少し面白そうに笑った。

 

「ようやく見つけたぜ、綾小路。お前、こんなところで仲良し五人組やってたのか」

 

波瑠加がすぐに反応する。

 

「悪い?私たちは朝からずっと五人揃うために探してたんだから、きよぽんに変なこと吹き込まないでよ」

 

「別に悪いとは言ってねえ。むしろ、このゲームで最後までその顔ができるか興味あるだけだ」

 

愛里は龍園の言葉に少し怖さを感じた。

 

最後まで。

 

その言葉が再び五人の間へ入ってくる。

 

清隆は表情を変えなかった。

 

「今その話をする必要はないだろ」

 

龍園は楽しそうに言う。

 

「俺もそう思う。少なくとも今はな」

 

葛城が割って入る。

 

「話はあとだ。東側の出口が使えるか確認する必要がある。このまま人が流れ込めば、倉庫内まで混乱する」

 

その通りだった。

 

背後から人の声が増えている。

 

外から逃げてきた生徒が倉庫へ入り始めている。

 

さらに遠くのエンジン音も消えていない。

 

龍園が舌打ちした。

 

「櫛田か。あいつ、随分派手にやってるらしいな」

 

波瑠加が睨む。

 

「知ってたの?」

 

「表じゃ愛想振りまいて近づいて、油断した奴が逃げ出してる。あいつらしいと言えば、あいつらしい」

 

清隆は愛里たちを見る。

 

「ここに長くいるのは危険だ。龍園たちと同じ方向でもいいから、東へ抜ける」

 

龍園も笑う。

 

「珍しく意見が合ったな」

 

二つの集団は一定の距離を保ちながら同じ方向へ進んだ。

 

完全に協力しているわけではない。

 

互いに警戒している。

 

それでも、倉庫の外で起きている混乱に比べれば、今ここで争う理由はなかった。

 

その判断が正しかったことは、数分後に証明された。

 

倉庫の西側入口から大量の生徒が流れ込んできた。

 

同時に、外で再び激しい銃声が響く。

 

反射的に倉庫内の何人かが別方向へ走る。

 

誰かが棚へぶつかる。

 

古い資材が崩れる。

 

その音に別の誰かが驚き、さらに走る。

 

混乱が建物の中へまで広がった。

 

「走るぞ!」

 

龍園が叫ぶ。

 

二つの集団が東側へ向かう。

 

明人が愛里と波瑠加の位置を確認する。

 

啓誠は清隆から離れない。

 

石崎たちも龍園の周囲を動く。

 

しかし人数が増えすぎた。

 

倉庫内部に三十人以上が入り込み、出口へ集中する。

 

押し合い。

 

怒鳴り声。

 

泣き声。

 

そこへ外から再び爆発音。

 

先ほどほど巨大ではないが、それでも建物全体が揺れる。

 

天井の照明が点滅する。

 

一度暗くなり、また点く。

 

そして次の瞬間、完全に消えた。

 

「停電した!」

 

誰かが叫ぶ。

 

明人がすぐに懐中電灯を点ける。

 

一本の光が暗闇を切る。

 

周囲の人間がその光へ集まりかける。

 

啓誠が言う。

 

「明人、上へ向けろ!人が寄りすぎる!」

 

明人は照らす位置を変えた。

 

光が天井と進行方向を照らす。

 

「愛里、波瑠加、俺の声聞こえるか?」

 

「聞こえる!」

 

「私も!」

 

清隆も近くにいる。

 

啓誠もいる。

 

五人はまだ揃っている。

 

愛里はそれを何度も確認した。

 

暗闇の中では、一人見失うだけでも再会できる保証がない。

 

その恐怖の中で、明人の懐中電灯は想像以上に頼もしかった。

 

「東の出口まであと少しだ!」

 

葛城の声が聞こえる。

 

龍園が別方向から叫ぶ。

 

「止まるな!出口で固まる奴がいたら横から抜けろ!」

 

人の流れが動く。

 

倉庫の東側。

 

外の薄暗い光が見える。

 

出口が近い。

 

その瞬間だった。

 

背後から、あのエンジン音が倉庫の中へ響いた。

 

愛里の背中が冷たくなる。

 

波瑠加が振り返る。

 

暗い倉庫の奥。

 

人々が逃げてきた方向。

 

そこから機械音が近づいてくる。

 

誰かが叫ぶ。

 

「櫛田だ!」

 

その一言で、出口へ向かう人間の流れがさらに速くなった。

 

前にいた生徒が転びそうになる。

 

明人が支える。

 

波瑠加が愛里の手を離さない。

 

愛里も握り返す。

 

清隆が最後尾から五人の位置を確認する。

 

啓誠が出口までの距離を見て言う。

 

「あと二十メートルくらいだ!走りすぎると前にぶつかるから、間隔を空けろ!」

 

龍園が笑う声が聞こえた。

 

「面白えな。この音だけで全員勝手に走りやがる」

 

葛城がすぐに返す。

 

「感心している場合ではない。こちらも巻き込まれるぞ」

 

「分かってるよ!」

 

龍園クラスも出口へ向かう。

 

二つの集団がほぼ同時に倉庫を抜けた。

 

外へ出た瞬間、夜の空気が一気に身体へ当たった。

 

港湾地区の南側ではまだ炎が上がっている。

 

黒煙は暗い空へ溶け込み、炎だけが巨大な照明のように倉庫群を赤く照らしていた。

 

遠くでは複数の生徒が走っている。

 

別の道路では、一之瀬たちの中央施設へ向かおうとしている集団も見える。

 

今夜だけで人の流れが完全に変わった。

 

清隆たち五人は倉庫から少し離れた管理棟の陰まで移動した。

 

龍園たちも数十メートル先で止まる。

 

互いに無事を確認する。

 

波瑠加が息を切らしながら明人を見る。

 

「みやっち、本当に今日は格好いい場面多すぎない?このままだと普段との差がなくなっちゃうんだけど」

 

明人も息を整えながら笑った。

 

「それ、褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちなんだよ」

 

「八割くらい褒めてる」

 

「残り二割いらないだろ」

 

愛里は二人の会話を聞きながら、壁へ手をついた。

 

怖かった。

 

足がまだ震えている。

 

耳の奥には爆発音が残っている。

 

それでも五人いる。

 

それだけで安心できた。

 

清隆が愛里を見る。

 

「大丈夫か?」

 

愛里は一度深く息を吸った。

 

「怖かったけど、大丈夫。途中で何人か来るのも見つけられたし、私も少しは役に立てたと思う」

 

「十分だ」

 

その言葉に、愛里は少しだけ笑った。

 

啓誠が端末を見る。

 

「生存者数が更新されてる」

 

全員が画面を確認する。

 

『生存者 143名』

 

波瑠加の表情から笑みが消えた。

 

「さっき百四十八だったよね」

 

啓誠が頷く。

 

「五人減っている」

 

明人も黙る。

 

港の混乱。

 

銃声。

 

爆発。

 

誰がどうなったのか、五人には分からない。

 

それでも数字だけは減っている。

 

愛里は画面から目を離した。

 

朝から十七人。

 

その現実が、さっきまでの騒ぎを数字へ変えて突きつけてくる。

 

波瑠加が愛里の肩へ手を置いた。

 

「五人ともいる」

 

愛里は波瑠加を見る。

 

「うん」

 

「今はそれだけ確認しよう。きよぽんも、ゆきむーも、みやっちもいるし、愛里もいる。私もいるから、今はそれでいい」

 

明人も頷いた。

 

「そうだな。先のことはあとで考えればいい」

 

啓誠は少しだけ黙っていたが、反対しなかった。

 

清隆は四人を見た。

 

この数時間だけで、状況は大きく変わった。

 

開始直後は互いを探していただけだった。

 

今は五人で移動し、危険を避け、互いに周囲を確認し、誰かが一人で抱え込まないように動いている。

 

そして愛里も、朝のようにただ後ろへ隠れているわけではない。

 

人の流れを見つける。

 

誰が近づいてくるか気づく。

 

波瑠加から離れないだけでなく、波瑠加を自分から掴む。

 

小さな変化。

 

しかし、その小さな変化が積み重なっている。

 

龍園が少し離れた場所から声を掛けてきた。

 

「綾小路!」

 

清隆が見る。

 

龍園は散弾銃を肩へ下げたまま言う。

 

「今夜は中央へ戻らねえ方がいいぞ。港から逃げた連中がまとめて流れ込む。

次の禁止区域が重なれば、一之瀬のところはとんでもねえ人数になる」

 

啓誠が清隆へ小声で言う。

 

「俺も同意見だ。今夜は中央施設の外で休んだ方がいい」

 

清隆は龍園へ答えた。

 

「そのつもりだ」

 

龍園が笑う。

 

「なら次会うまで生きてろよ。せっかく面白くなってきたんだからな」

 

波瑠加が呆れたように言う。

 

「この状況で面白いって言える神経だけは本当に理解できない」

 

龍園は聞こえていたらしく、笑いながら背を向けた。

 

石崎たちもその後を追う。

 

葛城だけが一度こちらへ目を向けてから、龍園たちとともに暗い道路へ消えていった。

 

綾小路グループの五人も、長く同じ場所に留まるつもりはなかった。

 

港の炎はまだ消えていない。

 

煙も上がり続けている。

 

遠くからは銃声が断続的に聞こえる。

 

そして倉庫の向こうでは、櫛田の持つチェーンソーの音が再び響き始めていた。

 

それだけで、別の場所にいた生徒たちが方向を変えるのが見える。

 

波瑠加が嫌そうに言う。

 

「もうあの音、聞いただけで逃げたくなるんだけど」

 

明人が答える。

 

「それで正解だろ。少なくとも今は近づく理由ないし」

 

啓誠が地図を開く。

 

「北東に小さな管理施設がある。中央からも港からも少し離れているし、今夜を過ごすなら候補になる」

 

愛里も地図を見る。

 

「そこなら次の禁止区域からも外れてるね」

 

啓誠が少し驚いたように愛里を見る。

 

「よく見ているな」

 

愛里は少しだけ照れた。

 

「さっき、私も地図を覚えた方がいいって言われたから、ちゃんと見ようと思って」

 

清隆が頷く。

 

「その方がいい。誰か一人が地図を失っても、全員が分かっていれば動ける」

 

波瑠加が笑う。

 

「愛里、もうゆきむーの弟子みたいになってる」

 

「弟子ではない」

 

啓誠が真面目に訂正する。

 

明人が笑った。

 

「そこ否定するところか?」

 

五人は再び歩き始めた。

 

背後には炎。

 

遠くには中央施設の明かり。

 

左右には暗い倉庫。

 

その間を、五人は互いの距離を確認しながら進む。

 

港湾地区で起きた騒ぎは、単なる一つの戦闘ではなかった。

 

一発の銃声が人を走らせ、人が走ることで噂が広がり、噂がさらに集団を動かし、

爆発がその流れを丸ごと変え、最後には誰も最初の原因すら分からないまま島全体の配置が変わった。

 

そしてその中で、多くの者が自分たちのやり方を学び始めていた。

 

龍園は恐怖を利用する。

 

坂柳は人の流れを読む。

 

一之瀬は人を集める。

 

櫛田は自分の存在そのものを恐怖へ変え始めている。

 

そして綾小路グループは、五人で生き残るために互いの弱さを補うことを覚え始めていた。

 

七十二時間のうち、まだ最初の夜が始まったばかりだった。

 

しかし生存者は、すでに百四十三名。

 

百五十七人で始まったゲームは、目に見える速度で人数を減らしている。

 

愛里は歩きながら端末の画面を閉じ、代わりに前を歩く四人の背中を見た。

 

波瑠加。

 

明人。

 

啓誠。

 

清隆。

 

全員いる。

 

今はまだ。

 

その事実を確かめたあと、愛里は自分の手にあるピコピコハンマーを握り直した。

 

朝には、ただ恥ずかしいだけの外れ支給品だと思っていた。

 

今でも戦う役には立たない。

 

けれども、この数時間で愛里は少しずつ理解し始めていた。

 

生き残るために必要なのは、強い物を持っていることだけではない。

 

誰を見るか。

 

何を覚えるか。

 

いつ動くか。

 

誰の言葉を聞くか。

 

そして、怖くても自分で判断できるか。

 

そのどれもが、自分にはまだ十分ではない。

 

それでも覚えることはできる。

 

五人でいる間に。

 

四人から学べる間に。

 

愛里はそう思いながら、夜の港を離れていった。

 

その背後では、炎に照らされた黒煙がいつまでも空へ立ち上り、

倉庫街のどこかから響く機械音と、遠くの銃声が途切れることなく夜の島へ残り続けていた。

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