小4で一緒にお風呂は普通じゃないの!? 〜距離感バグりすぎな従姉弟の日常〜 作:間瀬凪
陽菜の家の玄関に入っても、僕たちはまだ一言も口を利けないでいた。
遠足の帰り道、夕暮れのアスファルトの上でぶつけ合ってしまった激しい本音と言い争い。
『誰に何を言われるより、悠真に手を離されるのが、一番痛くて悲しいんだよ!!』
『陽菜があんな風に言われて傷つくのを、僕が黙って見てられるわけないだろ!!』
お互いを誰よりも大事に想っているはずなのに、世間の『普通』という冷たい壁を前にして、どうすればいいのか分からなかった。心の奥に刺さった棘がチクチクと痛み、二人の間には重苦しく冷たい沈黙が張り詰めていた。
「……ただいま」
陽菜の掠れた小さな声。靴を脱いで上がろうとした瞬間、廊下の奥のリビングの扉が開き、エプロン姿の美紀おばさんが顔を覗かせた。
「おかえり陽菜、悠真くん! 遠足どうだった? お天気も良かったし――」
出迎えてくれた美紀おばさんの明るい声が、ふっと途切れた。
玄関先に立つ僕たちのただならぬ様子――真っ赤に腫れ上がった陽菜の目元、固く結ばれた唇。そして、指がきしむほど強く、決して離すまいと力任せに握り締められた二人の手。
美紀おばさんの鋭い視線が、僕たちの泣き腫らした表情と、白くなるほど強く結ばれたその手元をじっと見つめた。
けれど、慌てて問い詰めたり詮索したりはしなかった。美紀おばさんは静かに呼吸を整えると、ふっといつも通りの穏やかな声で言った。
「……二人とも、遠足でいっぱい歩いて疲れたでしょ。冷たい麦茶淹れてあるから、とりあえず手洗ってリビングにおいで」
「…………うん」
そう言われて、陽菜はようやく名残惜しそうに、ぎゅっと最後に力を込めてから僕の手を解いた。
急激に冷えていく右手の皮膚に、僕の胸がきゅっと痛む。
陽菜が小さく頷き、僕も無言で靴を揃えた。
***
洗面所で手を洗い、リビングのダイニングテーブルに着く。
ガラスのコップに注がれた麦茶の表面に、冷たい水滴がびっしりとついていた。美紀おばさんは焼き立てのチョコクッキーの皿をテーブルの真ん中に置くと、僕たちの向かい側の椅子を引いて静かに腰掛けた。
陽菜は僕の隣に座っているけれど、視線は膝の上に置いた自分の拳に向けられたままだ。僕もまた、グラスの結露を指先でなぞることしかできない。
「……で? 何があったの?」
美紀おばさんの静かな、けれど真っ直ぐに心を見通すような声が落ちてきた。
「陽菜、ひどい顔して泣いたでしょ。悠真くんも、そんな青い顔して……喧嘩でもした?」
「喧嘩じゃ……ないよ……」
陽菜が消え入りそうな声で呟いた。その声が震えた瞬間、我慢していた感情が再び溢れ出したのか、陽菜の瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちて、テーブルの上に小さな染みを作った。
「……美紀おばさん、あのね」
僕が意を決して口を開いた。
僕たち二人だけの頭では、どれだけ考えても答えが見つからなかった。この苦しくてやりきれない胸の痛みを救ってくれる大人は、美紀おばさんしかいないと思ったからだ。
「今日の遠足の自由時間にね……クラスの女子たちが話してるの、聞いちゃったんだ」
「女子たちが?」
「……うん。姉弟みたいなものなのにイチャイチャして気持ち悪い、って」
美紀おばさんの瞳が、わずかに細められた。
「陽菜があんなこと言われて傷つくのが嫌で……僕、陽菜を守りたくて手を離したんだ。でも、それで言い合いになっちゃって……」
「悠真がずっと避けるから……っ!」
陽菜がしゃくり上げながら、ポロポロと涙を零した。
「私を庇って離れるくらいなら、周りに何か言われた方がずっとマシなのに……悠真に手を離されるのが、一番悲しかったの……っ!」
陽菜は両手で顔を覆い、小さく肩を震わせて泣きじゃくった。
僕も俯いたまま、膝の上で拳をぎゅっと握り締めた。
陽菜を守りたかった僕と、手を離されたくなかった陽菜。
言葉足らずで、けれどお互いを想うあまりに傷つけ合ってしまった僕たちの告白を、美紀おばさんは途中で口を挟むことなく、静かに最後まで聞いてくれた。
リビングに、コチコチと壁掛け時計の針の音と、陽菜のしゃくり上げる呼吸だけが響く。
やがて、美紀おばさんはふうっと深く息を吐き出すと、身を乗り出して、僕と陽菜の頭に優しく片手ずつ手をポンと置いた。
「……そっか。悠真くんも陽菜も、辛かったね。二人とも、お互いのことが本当に大切だったからこそ、ぶつかっちゃったんだね」
温かく大きな手のひらの感触に、張り詰めていた僕たちの体の強張りが、ふっと緩んだ。
「でもね、二人とも。よく聞きなさい」
美紀おばさんの声は、どこまでも澄んでいて、凛とした力強さに満ちていた。
「私にとって一番大事なのはね、悠真くんと陽菜の二人が幸せであることなの」
「……二人が、幸せ……?」
陽菜が涙に濡れた瞳をゆっくりと持ち上げた。
「そうよ。世間がどう言おうと、周りのクラスメイトがなんて噂しようと、最終的には二人自身の問題なの。他人は所詮、他人よ。自分の狭い物差しでしか物事を見られない人が、無責任に勝手なことを言うなんて、これから大人になってもいくらでもあることなの」
美紀おばさんは、陽菜の涙を指先で優しく拭ってから、僕の目を真っ直ぐに見据えた。
「世間の『普通』に合わせて、二人が大切にしてきた大好きな気持ちや、一緒にいたいっていう温もりを我慢する必要なんて、これっぽっちもないわ。周りの目に怯えて手を離すのが『守る』ことじゃない。何より一番大事なのは、周りの声なんかじゃないの。二人自身が、どうしたいのかよ」
「二人自身が……どうしたいか……」
その言葉が、暗闇の中で迷子になっていた僕たちの心に、あたたかな光となって染み渡っていった。
他人の目線を気にして大切な人を遠ざけるのが、正しさなんかじゃない。
僕たちがどうありたいのか、相手をどれだけ大切にしたいのか。それこそが一番信じるべき答えなんだと、美紀おばさんは迷いなく肯定してくれたのだ。
「……ただね」
美紀おばさんは悪戯っぽく片目をすっと細めると、クスッと笑って言った。
「ベタベタくっつくのは、人前じゃなくて、二人っきりの時にした方がいいわね」
「えっ……?」
陽菜が目を丸くすると、美紀おばさんは悪巧みでも教えるように、少し身を乗り出して内緒話のトーンで囁いた。
「学校とかみんなが見てる前でイチャイチャしたら、周りも気まずいし、また余計な噂を立てられて面倒なことになるでしょ? それよりも……みんなの前では普通のクラスメイトみたいにしておいて、二人きりになった時だけうんと甘え合う。そっちの方が、二人だけの秘密みたいで良くない?」
「二人だけの……秘密……」
陽菜がポカンとした後、その言葉の意味を噛み締めるようにパッと表情を明るくさせた。
「……うん! そっちの方が、なんかドキドキして特別感があっていいかも……!」
僕も思わず頷いていた。
人前で無防備にくっついて陽菜を好奇の目に晒すのではなく、教室では自然に振る舞い、二人きりの場所で誰にも邪魔されずに温もりを分け合う。それなら、周りのくだらない陰口を避けることもできるし、陽菜との大切な時間もちゃんと守ることができる。
「ふふ、でしょ? 大人の賢い知恵よ」
美紀おばさんは満足そうに頷いた。
***
「――ただし」
美紀おばさんの表情が、ふっと大人の真剣な顔つきへと引き締まった。
「二人自身がどうしたいかが一番大事。だけどね、だからこそ、大人としてこれだけは絶対に守ってほしい約束があるの」
その真剣なトーンに、僕と陽菜は思わず背筋を伸ばした。
「二人とも、もう五年生でしょ。秋の保健の授業で、赤ちゃんができる仕組みを習ったわよね。陽菜、覚えてる? 言ってみて」
「えっ……!? わ、私……!?」
突然話を振られた陽菜が、パッと顔を上げて目を白黒させた。
けれど、母親の真剣な眼差しから逃げられないと悟ったのか、陽菜は耳までカッと赤く染めながら、もじもじと指先をこすり合わせた。
「え、えっと……男の人の赤ちゃんの元……精子と、女の人の卵が出会って……受精卵になって……。それがお母さんの子宮にくっついて、十か月かけて赤ちゃんに育つ……って」
「そう。よく覚えてるわね、教科書にはそう書いてあるわ」
美紀おばさんは頷いた。そして、さらに一歩踏み込むように、僕と陽菜をじっと見つめた。
「じゃあ――その二つが出会うために、男の人と女の人がどんなことするかは? 学校で習った?」
「えっ……!?」
思わぬ問いかけに、僕と陽菜は息を呑んで顔を見合わせた。
「ど、どんなことって……そ、そんなの……習ってないよ、お母さん……」
陽菜が耳まで真っ赤にして戸惑いながら答えると、僕も同じように顔を火照らせて小さく首を横に振った。
「そうよね。学校の授業では、その二つが『どうやって出会うのか』、男の人と女の人が何をするのかっていう一番肝心なことは、絶対に教えてくれないのよ」
そして、美紀おばさんは信じられないほど直球の質問を僕に投げかけてきた。
「悠真くん。もう、赤ちゃんの元……出る?」
「ぶっ――――!?」
心臓が喉から飛び出るかと思った。
頭のてっぺんまで一瞬で血が逆流し、顔面がマグマのように沸騰する。
「な、ななな……何言って、美紀おばさん……っ!?」
「男の子の大事な成長の確認よ。誤魔化さないの。出るの? 出ないの?」
「……出ないよ! そんなの、一回も出たことないよ!!」
耳まで真っ赤にしながら必死に首を横に振ると、美紀おばさんは「そう、まだなのね」と安堵したように小さく頷いた。
横で陽菜も耳まで真っ赤にして口元を手で押さえている。
「いい、二人とも。よく聞きなさい」
美紀おばさんは、恥ずかしがる僕たちを茶化すことなく、真面目なトーンで語りかけた。
「男の子はね、大好きな女の子の裸を見たり、体がくっついたりしたら、おちんちんがカチカチに固くなって、胸がざわざわして変な気持ちになっちゃうようにできてるの。命を繋ぐために相手を大切にしたいっていう自然な本能だから、恥ずかしいことでも何でもない、自然なことなのよ」
美紀おばさんはそこで、今度は隣で耳まで真っ赤にしている陽菜の方を優しく見つめた。
「それにね、陽菜。これは男の子だけの話じゃないのよ。女の子だってね、大好きな男の子にくっつかれたり抱きしめられたら、胸の奥がそわそわして、お腹の奥やお股のあたりがきゅーっと熱くなって、もっと触れ合いたい、受け入れたいって変な気持ちになるのは全く同じなの」
「っ…………!」
陽菜はビクッと肩を跳ね上がらせると、カッと顔中から火を噴き出しそうになりながら、両手で真っ赤な顔を覆い隠して小さく縮こまった。
「お互いにそういう気持ちになっちゃうのは、それだけ相手のことが大好きで、心が大人に近づいてる証拠よ。でもね――**入れるのだけは、まだ絶対にダメ**」
ふっと声のトーンを落とした美紀おばさんの一言には、一切の妥協のない重みがあった。
「……い、入れるって……?」
僕が顔を赤らめながら恐る恐る呟くと、美紀おばさんは真剣な眼差しで身を乗り出した。
「さっき言ったでしょ。その二つが出会うために、大人がすること。男の子のおちんちんを、女の子のお股のところ……赤ちゃんが生まれてくる子宮に繋がっている穴の中に、直接入れることよ。大人の言葉で言えば『セックス』のこと。ちゃんと正しい言葉で知っておかないと、何が危ないのか分からないでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間――僕たちの視線は、無意識のうちに下へと落ちていた。
自分のズボンの股間を見下ろし、それから反射的に、隣に座る陽菜の太ももの間――女の子のお股へと視線が向かってしまう。
そして同時に、陽菜もまた自分の太ももの付け根を見つめたあと、おずおずと僕の股間へと視線を向けていた。
ふいに、お互いの視線がバチッとぶつかり合う。
(っ……!?)
互いに相手の股間を見ていたことに気づいた瞬間、カッと全身から火を噴き出すような熱さが込み上げた。
僕たちの顔面が一瞬で限界まで沸騰する中、美紀おばさんはそんな僕たちを一切茶化さず、母親としての威厳を持って続けた。
「さっき話した『変な気持ち』はね、遺伝子が男の子に『入れさせよう』、女の子に『受け入れさせよう』と仕向けているから起きるの。男の子の体はそうやって中に入れたくなるようにできてるし、一度女の子のその穴に入れてしまったら、赤ちゃんの元をそこに出すのを、自分の意思では絶対に我慢できないようにできてるのよ。赤ちゃんの元が出るようになったら分かるわ」
ゴクリ、と唾を呑み込む。
「だからこそ、自分の体で何が起きてるのかをちゃんと理解して、理性を保たなきゃいけないの。もし女の子のその穴の中に赤ちゃんの元が入ったら、二人の年齢や都合なんて関係なく命が宿る。赤ちゃんができたら、もう元には戻せない。今の二人に、自分たちだけでその命を育てて一生責任を取る覚悟がある?」
「…………っ」
僕も陽菜も、息を呑んで首を横に振った。
小学五年生の僕たちには、到底背負いきれる重さではない。
「だから、ぎゅっと抱き合って温もりを確かめ合うのはいくらでもしていいわ。でも、おちんちんを直接女の子の穴に入れること――これだけは、絶対に越えちゃいけない一線なの」
そこまで言い切ると、美紀おばさんは少し言いにくそうに口元を結び、視線をわずかに落とした。
大人として、目の前の二人にどこまで踏み込んで伝えるべきか――その迷いと葛藤が、一瞬だけ表情に滲んでいた。
「……それとね。言いにくいけど……大好きな相手の体に触れてみたい、違うところをもっと知りたいって思っちゃうことが、これからあるかもしれないわ」
「っ……!?」
僕と陽菜の心臓が、跳ね上がるように大きく脈打った。
「もちろん積極的に触り合ったりしなさいって言ってるわけじゃないわ。私だってこんな話するだけでも恥ずかしいし、言いにくいんだけどね。でも……相手が悠真くんで、陽菜だからこそ言うのよ。二人がお互いに大好きで、お互いが嬉しいなら触り合ったりすること自体は別にいいの。ただ、頭ごなしに隠すだけじゃ危ないから、あえて言っておくわ。もし手でお互いの体に触れるようなことがあったら――絶対に、石鹸で手を綺麗に洗って、清潔にしてからにしなさい」
「せ、清潔……?」
僕が赤面しながら聞き返すと、美紀おばさんは真面目な顔で頷いた。
「そうよ。女の子のお股のところも、男の子のおちんちんも、バイキンにものすごく弱いの。外から帰ってきたままの汚れた手で触ったりしたら、バイキンが入って赤く腫れ上がったり、痛い病気になっちゃうのよ。特に女の子は、バイキンが入るとお腹が痛くなったり高熱が出たりして本当に大変なんだから。相手の体を本当に大切にするなら、病気やケガをさせないように清潔にするのが、最低限のマナーと思いやりよ」
「…………っ」
大人の都合で誤魔化すのではなく、相手の体を守るための現実的な知識として伝えてくれる美紀おばさんの言葉。
「入れるのは絶対にダメ。そして、もし触れるなら必ず清潔にすること。……悠真くん、陽菜を守る男の子として、約束できる?」
「……うん。絶対に、守るよ」
「陽菜もよ。自分の体も、悠真くんのことも、大切にできる?」
「……うん。大切にする、お母さん」
二人揃って真剣に頷くと、美紀おばさんはホッとしたように優しく微笑んだ。
「よし、約束ね! さ、お説教はおしまい。陽菜、お部屋で少し休んできなさい。遠足で疲れたでしょ」
***
ダイニングの奥にある陽菜の部屋へ入ると、西日の差し込む静かな空間が僕たちを迎えてくれた。
ウインドブレーカーを脱ぎ、陽菜は柔らかな薄手の部屋着のワンピースに着替えた。
ベッドの縁に腰掛けた陽菜が、ぽふんとシーツの上に倒れ込む。
「……ふぅ……っ。なんだか、一日分ですっごくたくさんのことがあった気がするね」
「うん……そうだね」
僕が絨毯の上に座ろうとすると、陽菜がベッドの端をポンポンと叩いた。
「悠真、ここおいでよ。一緒に横になろ?」
「えっ……でも」
「お母さんも言ってたでしょ? くっつくのはいくらでもいいって。……それに、まだちゃんとお話ししてないもん」
陽菜に手を引かれ、僕はシーツの上へと引き倒された。
バサリと掛け布団が掛けられ、二人は薄暗い布団の中で並んで横になる。
次の瞬間、陽菜がごろんと寝返りを打ち、僕の胴体に両腕を回してぎゅうっと抱きついてきた。
「んぅ……悠真の匂い……やっぱり、これが一番落ち着く」
陽菜の細い足が僕の足に絡みつき、薄い部屋着越しに、陽菜の柔らかい太ももと腰の温もりがぴったりと隙間なく密着してくる。
帰り道の冷たい距離が嘘のように、お互いの心臓の鼓動が重なり合うゼロ距離。
美紀おばさんの教えのおかげで、僕の胸にはもう、やましさや罪悪感の棘は刺さっていなかった。
けれど、大好きな陽菜の体温が全身に伝わってくるにつれて――僕の下半身は、やはり体の仕組み通りに、カチカチに固くなり始めていた。
「っ……陽菜……」
「ん……ふふ、悠真、また固くなってきちゃったね?」
部屋着越しに伝わる硬さを、陽菜はその柔らかい太ももの内側で優しく挟み込むように受け止めてくれた。
「お母さんが言ってたね。好きな子とくっついたら、男の子はおちんちんがカチカチに固くなっちゃうんだって。悠真が固くなるのは、私のことが大好きだからなんだよね?」
「……うん。大好きだからだよ」
僕が正直に呟くと、陽菜は愛おしそうに目を細め、すりすりと僕の首筋に頬を擦り寄せてきた。
「私ね、今日学校で『姉弟みたいなものなのにイチャイチャして気持ち悪い』って言われてショックだったし、悠真と言い争いもしちゃったけど……もう、全然気にならないや」
「どうして?」
僕が尋ねると、陽菜は夕日の差し込む部屋の中で、花が綻ぶようなとびきりの笑顔を浮かべた。
「周りがなんて言ったって、悠真が私をどう思ってくれてるか、私が悠真をどれだけ大事かが変わるわけじゃないもん。お母さんも『二人がどうしたいかが一番大事』って言ってくれたし……二人でいられなくなる方が、周りに笑われるより百倍嫌だもん!」
陽菜の力強い言葉に、僕の視界がパッと晴れ渡っていくような気がした。
周りの目から陽菜を守ろうとして手を離してしまった僕の愚かさを、陽菜の真っ直ぐな愛が優しく包み込んで溶かしてくれた。
「……僕もだよ、陽菜。周りに何思われたっていい。陽菜と離れるくらいなら、僕も周りに何言われたって構わない」
「ふふっ、本当に? すっごく嬉しい!」
陽菜は嬉しそうに笑うと、布団の中で僕の右手を探り当て――遠足の帰り道で僕が離してしまったその右手を、細い指先を絡ませて、ぎゅっと力強く握り直してきた。
離さない。絶対に離れない。
そんな無言の誓いが、重なり合った手のひらの温もりからしっかりと伝わってくる。
「悠真。月曜日からも、学校でずっと一緒にいようね」
「うん。ずっと一緒だよ」
世間の『普通』という枠組みや、他人の無責任な言葉になんて、もう僕たちは惑わされない。
二人自身がどうしたいのか。
そして、互いを守るための絶対の境界線を胸に抱いて。
僕たちは二人だけの特別な関係を、誰よりも強く確信しながら、温かな光の中で寄り添い合っていた。