小4で一緒にお風呂は普通じゃないの!? 〜距離感バグりすぎな従姉弟の日常〜 作:間瀬凪
「二人とも、どっちかお風呂に入りなさい」
母さんに言われると、陽菜が僕の方を向いた。
「悠真、一緒に入ろうよ」
「うん、いいよ」
二人で立ち上がると、母さんが僕たちを交互に見た。
「今日も一緒に入るの?」
「うん、ゲームの話がしたいから」
陽菜が答えると、母さんは困った表情で小さく息をついた。
「まだ話し足りないのね。長湯にならないようにね」
「はーい」
陽菜と一緒に返事をして、着替えを取りに行った。
脱衣所で、陽菜は脱いだ服と下着を軽く畳み、持ってきた袋へ入れた。
「それ、今回は洗濯かごに入れないの?」
「うん、一泊だから。明日、持って帰って洗うの」
袋の口を閉じて着替えの脇へ置くと、陽菜は「お待たせ」と僕を見た。僕も頷いて、一緒に浴室の扉を開けた。
真っ白な湯気がふわっと立ち込めて、温かい石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。
洗い場に入ると、手桶でお湯をすくって二人で手際よくかけ湯をした。
前や手足など、自分で手の届くところはそれぞれ泡立てたタオルで洗っていく。自分では手が届きにくい背中や頭をお互いに洗い合うのが、小さい頃からの二人のいつものやり方だ。
「悠真、座って。頭と背中、洗ってあげる!」
「陽菜が先でいいよ」
「いいの! お姉ちゃんがやってあげるんだから、ほら、前向いて!」
得意そうに言われて、僕は苦笑いしながら陽菜の前に背を向けて座った。
シャンプーを泡立てた陽菜の小さな手が、僕の頭をわしゃわしゃと優しく撫でるように動く。
「目、ぎゅってつむっててね」
「うん」
手桶でお湯をすくって、そっと流してくれる。陽菜の手つきは手慣れていて、泡が目に沁みることもない。
頭を流し終えると、陽菜はボディタオルをモコモコに泡立て、僕の背中にそっと当てた。柔らかな泡の感触と一緒に、陽菜の小さな手のひらの温もりが背中越しに伝わってきた。
「痛くない?」
「うん、気持ちいいよ。くすぐったいけど」
「ちゃんとじっとしててね。隅々まで綺麗にしてあげるんだから」
陽菜の吐息が首筋にかかって、僕の心臓が少しだけトクンと鳴る。陽菜の手つきは驚くほど丁寧で、肩から背中まで優しく滑らせてくれた。シャワーでお湯をかけて泡を流してくれると、背中がすうっと軽くなる。
「はい、おしまい! 次は悠真の番ね」
陽菜が椅子を譲り、僕の前に背中を向けて座った。
まずはシャンプーを手にとって泡立て、陽菜の肩にかかる髪に乗せる。指先で優しく泡立てていくと、陽菜がくすぐったそうに首を縮めた。
「悠真、上手〜。美容院みたい」
「動くと泡が落ちるよ。流すから、目つむっててね」
「うん!」
陽菜がぎゅっと目をつぶり、僕の膝の上に両手を置いて身を預けてくる。手桶ですくったお湯を、額の生え際を押さえながら優しくかけた。水滴がさらさらと流れ落ちて、陽菜の黒髪がしっとりとまとまる。
「泡、入ってない?」
「全然! 悠真、お湯かけるの上手だね」
パチパチと瞬きをして水滴を払う陽菜の顔が、湯気の中でほんのりピンク色に染まっていて、思わず見惚れてしまいそうになる。
陽菜が髪を手で軽くまとめて前へ流すと、露わになった背中が見えた。僕よりも少し華奢で、首筋から肩甲骨にかけてのラインが白く綺麗だ。自分では手が届かない背中を、僕にすっかり預けてくれている姿勢だった。
触れたら壊れそうな女の子の柔らかさに、僕は少し緊張しながら、泡立てたタオルをそっと陽菜の背中に乗せた。
「……冷たくない?」
「ううん、温かいよ。悠真の手、すごく優しくて気持ちいいね」
「そうかな」
「うん。包まれてるみたいで安心する」
陽菜がくすぐったそうに身をすくめながら、ふふっと笑った。僕も力を抜いて、陽菜の肩から背中を優しく撫でるように洗っていく。
最後にシャワーで背中の泡を流してあげると、陽菜はさっぱりした顔で立ち上がった。
お互いの背中を流し終えたら、最後にそれぞれ自分の前を洗う番だ。
陽菜はお風呂の椅子に少し前かがみになり、お尻をわずかに浮かせながら膝を大きく開いた。手早く泡立てた石鹸を太ももの付け根へと滑り込ませた。指の腹で丁寧に前を洗い、繊細な場所の汚れを手早く泡で包み込んでいく。
「はい、シャワー。悠真もちゃんと洗うんだよ」
「うん、ありがとう」
陽菜から手渡されたシャワーを受け取り、僕も立ったまま自分の下半身を洗った。陽菜は僕が洗うところをじっと見て、ちゃんと洗ったことを確認する。皮を根元側へすっと引き下げ、手慣れた動作で露出させた頭部や裏側に泡を馴染ませる。石鹸が沁みないように優しく泡で撫でてから、温かいシャワーで一気に洗い流した。
皮を指先ですっと元の位置へと戻し、シャワーをフックへ掛ける。
二人ともすっきりと体を洗い終えると、湯気の中に広がる温かい湯船を見合わせた。
「じゃあ、湯船入ろっか!」
「うん!」
二人でかけ湯をしてから、湯船に足を滑り込ませた。
浴槽の両端に腰を下ろし、向かい合うようにして肩までゆっくり温かいお湯に沈むと、ふうっと同時に息が漏れた。
「あったかいねぇ……」
「うん。生き返るね」
家庭用の浴槽に四年生の二人が向かい合って入ると、どうしても足のやり場がなくなる。
お湯の中で伸ばした僕の足の間に、陽菜の白くてすべすべした足が自然と滑り込んできた。ふくらはぎ同士がすりすりと重なり、足先が指先ごと絡み合う。
「ふふ、悠真の足、あったかい」
陽菜がお湯を手ですくってパシャパシャと揺らしながら、少し姿勢をもぞもぞと動かした。その拍子に、僕の伸ばした足先が陽菜の柔らかい内ももにペタッと当たってしまう。
陽菜は「ん、くすぐったい」と小さく笑っただけでちっとも気にする様子もなく、嬉しそうに僕の顔をまっすぐ見つめてくる。
「悠真、今日のゲーム、一番面白かったのどこ?」
「陽菜に肩を押されて、僕まで穴に落ちたとこかな」
「もう、そこ!? 私は最後のところだよ。二人で息を合わせて旗まで行ったとこ!」
「うん、あそこは僕も楽しかった。陽菜、飛びついてきたもんね」
「だって嬉しかったんだもん! あそこ、一人じゃ絶対クリアできなかったよ」
陽菜が満面の笑みを浮かべる。湯船の温もりとおしゃべりの心地よさに、外を歩いた疲れがすっかり溶けていくようだった。
陽菜が壁の時計へ目をやった。
「……お母さん、もう出張先でお風呂入ったかな」
「どうだろうね。でも、きっと陽菜のこと気にしてるよ」
「うん。……夕方になって外が暗くなってきたら、やっぱりちょっとだけ寂しくなっちゃって。でも、悠真とお風呂入ってたら、すっごくあったかくなった」
陽菜はそう言って、湯船の中で少し身体を前に寄せてくると、向かい合ったまま僕の胸元にこてんと額を預けてきた。濡れた前髪とお湯の雫が僕の鎖骨に触れ、首筋に陽菜の小さな吐息がかかる。お湯の下では、陽菜の柔らかい太ももが僕の足にぴたりと寄り添ったままだ。
寂しさと、僕と一緒にいる安心感。その両方を抱えている陽菜がたまらなく愛おしくて、僕もお湯の中で陽菜の手にそっと触れた。陽菜がすぐにその指を絡めて握り返してくる。
お湯の温もりと、絡み合う手足の温もり。
立ち上る真っ白な湯気の中で、二人だけの静かな時間が流れた。
「二人とも、そろそろ出なさい。のぼせちゃうわよ」
脱衣所の扉の向こうから、母さんの声が響いた。
「はーい!」
返事がぴったり重なって、僕と陽菜は顔を見合わせて笑った。
お風呂から上がってパジャマに着替えると、洗面所で互いの髪を乾かし合った。
僕が陽菜の柔らかいボブヘアにドライヤーを当てて「かわいくなったよ」と手ぐしを整えてあげると、陽菜は「ありがと、悠真!」と満足そうに目を細めた。
「じゃあ、今度は悠真の番ね! お姉ちゃんがやってあげる」
交代して僕の後ろに回った陽菜が、小さな指先で僕の頭をわしゃわしゃと手際よく乾かしてくれる。あっという間に乾き終えると、僕の頭をぽんぽんとなでてくれた。
「はい、おしまい! かっこよくなったよ!」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「えへへ、どういたしまして!」
嬉しそうに笑う陽菜の頭を僕もお返しになでてから、二人で二階の部屋へと戻った。
押し入れから敷き布団を出そうとすると、陽菜が反対側を持った。
「一人で持たないでね。私も持つよ」
「じゃあ、そっちお願いね」
二人で運んで、隣同士になるように広げた。掛け布団もそれぞれの上に置くと、陽菜が僕の方へ枕を渡してくれる。
「はい、悠真のだよ」
「ありがとう。陽菜のはここ?」
「うん。もうちょっと近くにして」
枕を並べ直すと、陽菜は満足そうに頷いた。
僕は先に布団へ座った。陽菜は鞄に手をかけたまま、しばらく動かなかった。
「どうしたの?」
「お母さん、もうホテルかな。いつも、この時間は家にいるから」
さっきまで僕の髪を直してくれていた陽菜が、鞄の持ち手を指でなぞっている。
「声、聞きたい?」
「うん」
母さんの電話を借りて美紀おばさんと話すと、陽菜は少しほっとしたようだった。けれど、受話器を置いたあとも、僕の服の裾を指先でぎゅっと掴んだまま離そうとしない。
「……やっぱりちょっとだけ、お家が遠いなって思っちゃった」
ぽつりと小さく本音をこぼし、どこか甘えたいような、心細そうな瞳で僕を見上げてくる。
部屋に戻ると、陽菜は自分の布団の前で立ち止まり、それからそろそろと僕の布団の端をめくった。
「悠真、一緒に入ってもいい? ……一人だと、ちょっと寂しいかも」
「うん、いいよ。おいで」
せっかく二組敷いたけれど、昔から陽菜が泊まりに来るときはいつもこうだった。僕にとっては当たり前のことなので、奥へ詰めて布団を大きく持ち上げてあげる。
陽菜は「えへへ」と表情をパッと明るくして布団へ潜り込んでくると、待ってましたとばかりに僕の腕を両手でぎゅっと抱え込み、胸元へすっぽりと身体を密着させてきた。
「ん〜……! 悠真、あったかい」
パジャマ越しに伝わってくる陽菜のふんわりとした柔らかさと、お風呂上がりの甘いシャンプーの匂い。陽菜は僕の胸元に顔を埋め、すー、はー、と大きく息を吸い込んだ。
「悠真の匂い、すっごく好き……お母さんの匂いとも違うの。なんかね、胸がキュッとして、すごく落ち着くんだもん」
そう言って、陽菜は宝物を独り占めするように僕の胸元にすりすりと頬を寄せてくる。
さらに布団の下では、陽菜のすべすべした素足が僕の足にすり寄ってきて、冷たくなった足先を僕のすねにぴたっと重ねてきた。
「足、冷たくなっちゃった。悠真、温めて?」
「陽菜の足、ひんやりしてるね。ほら、これでどう?」
僕が自分の足で陽菜の両足を挟んで温めてあげると、陽菜は嬉しそうに足指をぎゅっと絡めてきた。
「えへへ、悠真の足、あったかい……悠真、もっとこっち向いて? ぎゅーってして」
おねだりするように見つめられ、僕も身体を横に向けて陽菜の華奢な背中に腕を回した。陽菜も嬉しそうに僕の首筋に両腕を回してきて、抱き合うような姿勢になる。
至近距離で、潤んだ瞳がじっと僕を見つめている。
「陽菜、寒くない?」
「悠真がぎゅーってしてくれてるから、もう寒くないよ。……ねえ、悠真って男の子なんだね」
「え? 急にどうしたの?」
「だって、手も足も私よりごつごつしてて、あったかいんだもん」
陽菜はぽっと頬を桜色に染めると、照れくさそうに僕の頬に自分の頬をぺたんと押し当て、すりすりと甘えるように寄せてきた。いつもはお姉ちゃんぶっている陽菜の、こんなにも甘えん坊で小さな姿。僕がちゃんと温めて、安心させてあげなきゃという気持ちが胸いっぱいに広がる。お互いの吐息と体温が混ざり合い、二人で顔を見合わせて小さくクスクスと笑い合う。
部屋の戸が静かに開き、母さんが顔を出したのはその時だった。
一つの布団で抱き合い、頬をすり寄せ、足まで絡ませてくっつき合っている僕たちを見て、母さんは困った表情を浮かべて小さく息をつく。
その視線が、ぴったり重なり合った僕たちと、ぽつんと空いたままの陽菜の布団を交互に彷徨った。
「……やっぱり同じ布団で寝てるのね」
「うん。悠真と一緒がいいもん。あったかいし」
陽菜は僕の胸元から顔だけを覗かせ、僕の腕をぎゅっと自分の方へ引き寄せてみせた。まるで大事なものを誰にも渡したくないと主張するように。
母さんは何か言いかけて、けれど無邪気な陽菜の顔を見て言葉を呑み込み、困ったように眉を下げた。
「もう……二人とも、あんまりくっつきすぎないで大人しく寝るのよ。風邪引かないようにね」
困り顔のまま苦笑いした母さんが部屋の明かりを消し、静かに戸を閉めた。
パタンと戸が閉まり、部屋が一瞬で暗闇に包まれる。
「悠真……? どこ?」
「ここにいるよ」
「よかった……えへへ」
視界が真っ暗になった途端、陽菜はさらに甘えるように、僕の胸の中へと身体を潜り込ませてきた。
布団の中で、陽菜の小さな手が僕の手を探り当て、指と指の間に自分の指を滑り込ませてぎゅっと握りしめてくる。昼間の帰り道と同じ、恋人繋ぎだ。
僕の首筋に柔らかな腕をぎゅっと回し、お腹も胸も太ももも、隙間なくぴったりと押しつけてくる。パジャマ越しに伝わってくる小さな身体の温もりと、少し頼りなげな陽菜の気配。
陽菜は僕の耳元に唇を寄せて、吐息混じりの小さな囁き声で言った。
「悠真……お母さんがいないの、本当はちょっとだけ心細かったんだ。でもね、悠真がぎゅーってしてくれたら、すっごく安心できたの」
「そっか。大丈夫だよ、僕がずっと隣にいるから」
「うん。……あのね、悠真」
「ん?」
「悠真がこうやってぎゅーってしてくれるとね、胸の奥がトクンって鳴って……なんだかドキドキするの」
陽菜の吐息が首筋にかかって、くすぐったい。
昼間は僕をリードしようと背伸びしている陽菜が、夜になるとこんなにも小さく甘えてくるのがたまらなく愛おしい。
僕が空いた方の手で陽菜の後頭部をそっと撫でてあげると、陽菜は安心したように甘い息を漏らし、僕の首筋にすりすりと額を押しつけた。
「明日も、明後日も、大人になっても……ずっとこうして一緒がいいな。悠真、大好き」
「うん。ずっと一緒だよ」
「えへへ、約束ね」
暗闇の中で、重なり合う体温と、穏やかに刻む互いの呼吸。
陽菜が寂しさを忘れてぐっすり眠れるように、僕も腕の力を込めて、陽菜の温かい身体を優しく抱きしめ返した。心地よい温もりに包まれながら、僕たちは寄り添って眠りについた。