生き返ってもコミュが下手! ~熱血系ホビーアニメ主人公になろうとしてるクセにハンデスデッキ使ってるヤツ~ 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
一話ごとの不定期になると思います。
「それじゃ母さん、行ってきまーす!」
「おばさん、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。車と口の利き方には気を付けるのよ〜」
……明日から翔には母さんの事はお姉さんと呼ばせよう。
朝はいつも家の前まで迎えに来てくれる翔と一緒に登校している。
なんでも通学路の途中が俺の家らしく、どうせならと毎朝時間を合わせて一緒に通学するようにしてくれたのだ。
前世の俺なら考えられなかった事だから、これだけでも正直なところかなり嬉しかった。
友人と並んで朝の通学路を歩けることの、なんと素晴らしいことか!
春の穏やかな日差しが街路樹を通して木漏れ日となり降り注ぐ中、俺たちはすでに遠くに見えている特徴的な建物を目指して歩き出した。
俺の名前は明日乃緋色!
この春から神芝気学園に通い始めた中学一年生だ!
……なんか今あまりにもオープニング後感があったから、思わず自己紹介してしまった。
リアルホビアニ世界で生きてるせいで、どうしてもホビアニ的な見え方を意識してしまう。
ま、熱血主人公みたいなアツいキャラを目指しているんだから、これもまた目標に近づく為の一歩なのかもな。
「昨日の天山プロの試合見た?」
「見た見た! 赤青混合ドラゴン! やっぱプロまで行くと混合属性カードも豊富だから、戦略に幅が出てアツいよな〜! 俺も新しいの欲しいしどんどん対戦するか〜」
「そうだねぇ。試合を重ねて精霊との結びつきが強くなれば、新しいカードがパックから出るようになるもんね。やればやるだけ、上手くなればなるだけ新しいカードが手に入るんだから、僕らもたくさんヴェルサスしなきゃね」
朝礼まで時間はまだあるので、のんびり話しながら並んで歩く。
道路そばの公園に目をやれば、集まったお年寄りたちがエインシュリア体操をしていた。
あれはカードをスリーブに入れる動き、次は落としたカードを拾う動きだろうか。腰やりそうだなその動作、怖い。
散歩している茶柴が咥えているのもカード型の噛む玩具だし、横を走り抜けていった子どもの持つお道具箱には、ライトニングエボルブドラゴンのイラストがプリントされている。……最後のは前世もそうか。
こうして改めて見ると、この世界は本当にエインシュリアが生活に浸透している。
それも単に遊興としてではなく、社会制度の中に組み込まれているのだ。
母さんもパート先のスーパーでは、ヴェルサスに勝つと少しお高めの商品が割引になるセールにおいて圧倒的な防御率を誇り、その分の歩合だけで給与が三割増しくらいになっているらしい。
あまりに勝ち過ぎてクレームが来たが、そのクレーマーもライブラリアウトにして返り討ちにしたそうだ。
それで解決するのもおかしな話だろ。
まあとにかく、この世界は本当になんでもかんでもエインシュリアが関わってくる。
精霊なんていう超常的なものの存在が、普通に認められている世界だからこそなのだろう。
実際雷系イラストのカードの精霊と親和性が高い人は、その精霊をヴェルサスで昂ぶらせる事で発電できるとかで、電力会社に就職しやすいらしいし……俺も将来はなにか、そういったエインシュリアの腕を活かせる仕事に就きたいものだ。
そのためにも、今はしっかり神芝気学園で学ばなきゃな。
とはいえ、学園でやることはなにもエインシュリアの実技ばかりじゃなく、カードの歴史や打点計算に外国語のカードを読むための語学、さらには名作フレーバーテキストを読み込む国語も学んでいる。
あまりにブッ飛んでいるので、油断すると卒業までに気が狂うかもしれない。全然興味無いホビーの世界に連れて来られなくて本当に良かった。
「しっかし、まさか緋色が亜龍ケ崎先輩に勝っちゃうとはねぇ〜」
「またその話かぁ? まあ知らない間に退学がかかってたから俺も必死だったしな! それに、あの時は運が良かったんだ。先輩がほぼ打ち消しを引かなかったから、ハンデスが全部通ったし!」
翔はといえば、昨日試合が終わってからずっとこの調子だ。
よっぽど例の十二傑という肩書は凄いものだったらしい。
それを下したということでか、なんとなくだがあの後周囲からも妙に視線を向けられているのを感じたものだ。
……いや、注目されていた理由が果たしてそのためなのか、もしくは先輩が突然指パッチンしてSPを椅子代わりにし始めたからなのかはわからないが。
凄かった。
本当に自然な動きでやってたから、日常的に行われている所作なのだと思う。別にそれホビアニでもやんない事じゃないですか?
思わず先輩とSPさんをそれぞれ二度見してしまったが、特段なんの反応も無かったので業務内容に含まれていることだったらしい。働くことが今から少し怖くなった。
それも合わさって前世なら卒倒していたくらいの目立ち方をしてしまったが、しかし今の俺は熱血エインシュリアプレイヤー明日乃緋色。
熱い心を持ち堂々とエインシュリアへの愛を掲げる男として、それらの視線を受けてなお気にせず、そのまま亜龍ケ崎先輩と感想戦をさせてもらった。
努力の結果がこうして形になると嬉しいもんだぜ。きっとこれもまた、忘れられない記憶となるんだろうな。
その傍に人間椅子がいた事も含めて忘れらんねぇ記憶になってしまった。俺の走馬灯候補に不純物を混ぜないでくれないか。
神琴先輩の打ち消し云々を聞いて、翔は顎に指を当てて少し考え込む。
「ふぅむ……もしかすると亜龍ケ崎先輩、【闇】属性適性者との対戦経験が少ないのかも知れないね。僕も緋色やクラスのあの子以外だと、生徒指導の先生くらいしか思いつかないからなぁ」
「まあプロまでいけば何十人と居るけど、たしかにウチのディールクラスにも俺ともう一人だけだもんな。なんか寂しーよなぁ。もっとみんな【闇】の良さに気づいて欲しいぜ! どんなカードだって、使ってみなきゃ分かんないんだからな!」
そのもう一人だって、もう一つ適性がある【水】ばかり使っていて、【闇】は触ったことがある程度だ。
わざわざカードプール狭めるなんて、変な話だよなぁ。
適性が高くないデッキを使うと、属性カードが手札に全然来なかったり、コンボがまったく成立しなくなったりと、運の絡む場面でほとほとカードに嫌われたような引きになるらしい。
そもそもパックからすらなんなら出にくいしな。
それもまた精霊の思し召しとこの世界の人は受け入れているが、俺としては前世で好きだった【水】や【光】のカードのいくつかを自由にプレイできないのはちと寂しい。
まあ大体好きだった【闇】カードは使えてるから、そこまで文句も無いけれど……いつかはそれらのカードも使えるようになりたいな。
「うーん、それはそうかも……。でもハンデス系とかって使い過ぎると他の精霊に嫌われるって説があるから、そもそも引いてもあまり使おうとしなくて、よっぽど極端に適性があるような人以外、ホントに自分に【闇】適性があるのかよく分かってない人も多いんだよね」
「カーッ! 俺はバンバン使ってるんだから、そんなのウソだって、ウソ! 俺はもっともっと色んなデッキと戦いたいぜ! ハンデスだって撃たれたいのにな〜!」
「あはは……そう言えるのは緋色くらいだと思うけど……」
「いやいや、色んなカードを使っていれば、いざ使われた時にどう返されるのが嫌かも分かるだろ? いろんなパターンを実践する事こそ上達の近道だぜ! だから多属性デッキも早く使いてぇよ〜!」
属性混ぜるなら一枚で二つの属性のマナを出せる【混合二属性】カードが流石に欲しいからな〜……。
単マナカードだけで多属性デッキなんか組んだら、事故りまくるのが目に見えている。
俺まだ大会とか出てないから、あんまりそういう専用カードが無いんだよなぁ。
前世ならば普通にパックを向いたりショップで買えば手に入っただろうそれらも、こちらの世界では普通には出回らず大会で上位になって初めて商品として精霊から貰えるものらしい。
「うん、その気持ちは確かに僕も分かるよ! 僕も今のメインである【木】のデッキに【水】を混ぜたら、もっともっと強くなる気がするんだ」
「おぉ、それめちゃめちゃサイコーじゃないか!? となると俺らも遂に大会デビューの時──」
パッパパパパーーー!!!!!
「おわっ!」「な、なにぃ?」
突如響いたけたたましいクラクションの音に驚いて振り向くと、そこには黒塗りのリムジン……なのだが、車体に『亜龍ケ崎コーポレーション』とデカデカと白字で印字された社用車があった。
今時どこから見つけてくるのか、手動タイプの窓がゆっくりと開くと神琴先輩が顔を出す。
「フゥ、フゥ……あら、明日乃君と
このタイプでまず初手に強くて長めのクラクションを鳴らすのも初めて見たし、社長令嬢がリムジンとはいえ社用車で通学するのもヤバいし、手動ハンドルを必死に回す姿がずっと窓越しに見えてたのも新鮮だった。
凄い人と知り合いになってしまった。はたして俺はこれからこの人の常識についてゆけるだろうか?
本来こういったクラクションの使い方はしてはならないハズだが、しかしここはホビアニ世界だから……ホビアニ世界だからなんだ? わからない。普通にダメかもしれない。
「ふぅん、他の方々はそうやって通学されてたのね。私って庶民の方の知り合いが少ないものだから、知らなかったわ」
「先輩は車通学かぁ〜! 流石は社長令嬢だぜ! 俺ら庶民はチャリか、こうして自分の足で歩くしかないからな〜」
「あ、るく……? もしかしてこの胴体の下についた二本の棒は、そうやって使うものなのかしら」
【偽報】お嬢様、足を知らない。
キャラ付けやり過ぎてるって。徒歩通学じゃなく徒歩の方を知らないことはねぇだろ。アンタも昨日SPの壁の中を普通に歩いてたろうが。
今更神輿に乗って移動とかするようになったら同級生がビビり散らかすからやめとけよ。
「お、おはようございます、先輩。えっと、どうされたんですか? 緋色にご用事でも?」
「いえ、これといって用事があるワケじゃないの。……ただ、少し気になるウワサがウチのSNSで出回ってたから、念の為、ね」
そう言うと先輩はパチンと指を鳴らした。
すわここでまたもや人間椅子かと身構えたが、そんな事はなくガチャリとリムジンのドアが開く。
「詳しくは道すがらお話させてもらうわ、二人とも乗っていきなさい。……庶民は歩くみたいだし、土足厳禁の方が良いかしら?」
◇ ◇ ◇
「べつに本当に脱がなくても良かったのだけれど……」
「さ、流石にこれに靴のまま乗る方が気を使うぜ」
車の中とは思えないフカフカのラグが敷かれていたので、冗談じゃなく普通に靴を脱いで乗り込んだ。
熱血ならば靴を脱がないか? とも一瞬考えたが、別に熱血は非常識の類語ではないのだ。
翔も隣でガチガチになってるに違いないとチラと視線をやれば、どうやら俺がうっかり汚したりしないかとハラハラしているようだった。俺って未だに小学生かなんかだと思われてる? 一応前世含めれば同い年の二倍以上生きてるハズなんだけど……。
「コホン……改めて口にするのは業腹だけれど、というか思い出すだけで業腹どころか腸が煮えくり返るのだけれど、昨日アナタは私に勝利したわ。その影響をアナタは分かっていない。分かってればそんなに能天気で無思慮な顔をして町中を練り歩かないもの」
「……そんなか?」
「まあ、そこも緋色の良いところだと思うよ」
「どのような見るに耐えない展開であっても、私もエインシュリアプレイヤーとしてあの負けを否定しない。となると末席とはいえ十二傑の一人が新入生に破れたことになるわ」
随分と深刻そうな声音で神琴先輩は言っているが、そりゃあTCGなんだから勝つ事もあれば負ける事もあるだろう。
そもそもデッキから最初に7枚引いた時点で全部【属性】カードな確率だってあるし、
エインシュリアにおいて常勝不敗などというのは、単なる絵空事に過ぎない。
俺だってだいぶ勝ち越してはいるが、翔にもわりと負けてるし。
「その事実に、他の十二傑や二年生の一部がブチ上がっているの。年功序列なんて古臭いことは言わないけれど、それでも入ったばかりの一年坊主にやられるなんて赤っ恥を、彼らは許せないのでしょうね」
「ひ、ひえぇ。そんな、他の十二傑にも狙われてるだなんて……マズいよ、緋色ぉ」
……けれどそれはもしかすると、未だに抜けていない前世の感覚なのかも知れない。
プロなんかを見ていると「負ける事があって当然」みたいな文言は死んでも言えないワケだし、それだけ真剣に彼女らがこのカードゲームに打ち込んでいるという事なのだ。
──だったら、俺もそれに応えなきゃ
真剣な遊戯を前にして腑抜けた姿勢で向き合ってちゃ、対話になんてなりやしない!
「つまり、俺とヴェルサスしたくてウズウズしてるヤツらがいっぱい居るって事だろ? 最高じゃないか、大歓迎だぜ!」
俺の返答に、彼女は虚を突かれたようにこちらを見た。
神琴先輩はそのまま青い瞳で睨むように見つめてから、ズビシと俺の脳天気で無思慮な顔を指差してくる。
「……明日乃君。たった一度とはいえ、アナタは亜龍ケ崎神琴に勝ったの。そのアナタが不様を晒す事は私、ひいては亜龍ケ崎コーポレーションの看板にも泥を塗ることになる。これからも学園で学びたければ、精々努力を続けることね」
「おう! やってみせるさ!」
自信に満ちた俺の言葉に、怯えていた翔もハッとしたように顔を上げる。
「そっか……そうだね、きっと緋色なら大丈夫さ! 一緒に先輩たちと戦おう!」
「ああ、たかが一年生とナメてる先輩たちに、目にもの見せてやろうぜ翔!」
そうして校庭にまで乗り込んだリムジンから降りた俺たちは、周囲の生徒からの突き刺さるような視線を背に、そそくさと下駄箱へ向かうのだった。
手前で降ろしてもらえば良かった……。