生き返ってもコミュが下手! ~熱血系ホビーアニメ主人公になろうとしてるクセにハンデスデッキ使ってるヤツ~ 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
オリジナル:現代/冒険・バトル
タグ:R-15 残酷な描写 転生 カードゲーム ホビーアニメ TCG
MTGしてたら書きたくなったので書きました。
【七度巡るカーサス・ロア】フレーバーテキスト──『六回オッ
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「おーい、急げってば! 置いてっちゃうぞ!」
「もー、待ってよ! 緋色ったらいっつもそうなんだから!」
チャイムの鳴り響く構内を、友達と共に駆け抜ける。
そこかしこの教室からも、同じように走り出す生徒が何人も飛び出てきている。
こりゃ急がないと埋まっちゃいそうだ!
目指す場所はいつもと同じ、体育館に併設されたとある施設──ヴェルサスリング。
昔々のコロッセオにも似た形をしたそれは、しかし今を生きる人にとっても変わらず、華々しい文化の花が咲き誇る闘技場であった。
「おわー! もう始まってら! 皆はえーよ!」
「フゥ、フゥ……そりゃ、もうすぐ、入学後初めてのカードを使ったヴェルサス試験なんだから、寸暇も惜しむよねぇ……」
「だーから走ったってのに! それもこれも
「ひ、ひえぇ、そんなに走ったら死んじゃうよぉ」
ヴェルサスリングに飛び込んだ俺の目の前に広がっていたのは、近未来的な機械じかけのテーブルを挟んで睨み合う二人組が数十セットばかり。
彼ら彼女らの間には、一定の規則に則ったであろう配置の長方形のカードが置かれていて。
そしてなにより目につくのは、二人組の頭上で切って殴って火を吹いて大暴れするモンスター達。
今も一番近くのテーブルの上では、雄々しいドラゴンが水の槍を持ったマーマンを噛み砕いている。
その一撃で防御値が0を下回ったのであろうマーマンは、銀の粒子になってサラサラと崩れ去っていった。
テーブルに仕込まれた謎技術によって、盤面の試合がホログラムで映し出されているのだ。
実利的な面から言えばそこまでする必要性は全く無いが、しかしカッコいいのでそうなっている。そういう世界だ。理屈じゃねぇ。
「くっそー、俺が一番にやりたかったのにぃ……観戦しながら空くの待つかぁ」
「フフ、そうしよっか。他人のプレイングを見るのも勉強になるって、お祖父ちゃんも担任の先生も言ってたし」
今目の前で行われている物こそが、俺らが通う
俺の名前は
ひょんな事から俺は、カードゲームで全てを決めるホビーアニメ的なこの世界にて、都合二度目の生を受けた。
不意に訪れたチャンスを、次こそ悔い無く過ごそうと決めて、出来るだけの事をした上で、今友人の横に立っている。
まあなんか生まれてすぐに違和感に気付く程度に、この世界は風変わりではあったけれど……。
少なくとも俺にとって、この世界は天国だった。
ずっと『エインシュリア』やりまくって良くて、それで成績やら社会的地位やら決まるなんて最高かよ……!
しばらく観戦しながら翔とあーだこーだ感想を言い合っていると、少し離れた場所のテーブルのホログラムが消えて、対戦していた二人が卓から離れた。
どうやらデュエルが終わったらしい。
「おっ、空いたね。ミッドレンジであのアグロの猛攻を凌ぎきったかぁ、上手い人だったなぁ。えーっとぉ……うん、予約もきちんと取れてる! そいじゃあ行こっか! ふふ、今日こそは負けないからねぇ〜?」
手元のデッキホルダー内蔵スマホに一度目を落とし予約状況を確認すると、翔は人が去ったテーブルへと意気揚々と向かおうとして──
「お待ちください」
目の前に立ちはだかった人の壁に足を止める。
まるでSPのようなスーツにサングラスをかけた女性達が、翔の前にずらりと立ち塞がっていた。
突如出来上がった黒尽くめの壁の中を、俺達と同じ制服を着た女子がゆっくりと歩いてくる。
白銀の艷やかな髪が風にさらりと揺れ、氷点下のように冷ややかな瞳はこちらを見ることすらなく、その容貌は俺たちと同じ中学生なのにひどく大人びて見えた。
「本日これからあちらの卓は
……は?
今、人の名前に「ワイバーン」って入ってなかった? 聞き間違い?
「なっ! 亜龍ケ崎先輩……!? 2年シャカパチ組の社長令嬢じゃないか!……って、ちょっと待ってください! そこは僕らが予約していた卓ですよ!」
出たよシャカパチ組。ひでークラス名だマジで。
ウチの学校は4クラスに別れているが、あそこ完全にスリザリン枠なんだよな。
他はヒンズーシャッフルクラスにディールカウントクラスにファローシャッフルクラスなんだけど、シャカパチはもはや山札シャッフルしてないじゃん。ハズレ過ぎる。
しかも名前聞き間違いじゃなかったし。
「ええ、仰られた通り、あなた方とは天と地ほども身分に差のある方です。ですがもう一つ。神琴様は理事長のご親戚でもあらせられます。この学園で卒業まで平穏無事に過ごされたいのであれば、取られるべき態度があるかと」
抗議の部分はまるで無視して、威圧的な言葉を一方的に発するSPに、翔がひるむように口をつぐんだ。
いくらなんでも炎上必至のあまりにも横柄な態度だが、しかしここはホビーアニメ時空。
これくらいの横暴は有り得ないという程のものではないのだろう。
けれど、こんな時に黙ったまますごすごと引き下がってしまうようじゃ……前世のままと変わらねぇだろ!
「待ちなよ!」
怯えた翔の前に立ち、目の前のSPを睨みつけるように相対する。
『エインシュリア』は俺を救ってくれたカードゲームだ。
誰かと対戦している時だけ、人と理解し合うことができた。
馬鹿馬鹿しいと笑われようと、この小さな紙を交えた遊戯は俺にとってとても神聖なものだ。
他者の『対話』を邪魔するようなことを、俺は到底見過ごすこせなかった。
「いくら偉くったって、カードの前じゃ人は平等だろ! 誰かの神聖なる決闘を汚すようなマネをして、アンタ本当にカードに恥じない人間だと胸張って言えんのかよ!」
俺の言葉に、ワイバ……神琴先輩の肩がピクリと揺れる。
「うるさい小僧だ。お前、学年と名前を──」
「いいわ」
SPのお姉さんが俺の胸倉に手を伸ばしかけた瞬間。
まるで氷柱のように冷たい声が響いた。
さっきまでは俺たちを一瞥もしなかった青い瞳が、こちらを射抜くように見詰めている。
「であれば、私と貴方でこの卓を賭けて決闘をしましょう。もしも貴方が勝てばここは譲る。けれど私が勝った時には、浪費させられた私の貴重な時間を貴方にあらゆる形で贖わさせる……それで良いかしら」
「ああ、良いぜ」
とんでもない急展開だが、らしくていいじゃないか。
明快無比なその提案に俺が頷くと、あっけにとられていた翔が後ろからユサユサと揺すってくる。
「ばっ、そんな安請け合いしちゃマズいよ緋色! 亜龍ケ崎先輩は二年十二傑の十二番手、"氷龍"なんだよ!?入学したての一年が敵うような相手じゃ……いくら君でも無茶だ!」
どうやら神琴先輩は四天王みたいな位置付けらしかった。
そのポジ十二人も居んのかよ。多すぎるって、終盤ダレるくらいいんじゃん。
そんで十二番目かつ『氷龍』ってことは、この世界の干支的な概念から取っているようだ。十二支んみたいなヤツね。
この世界、干支が全部ハチャメチャになってるんだよな。『牛』の枠に居るのは普通にライトニングエボルブドラゴンとかだし。基本的に龍がスペック高いせいで龍関係が大半を占めてる。意味無いだろ。
ちなみに
「ウッソだろあの一年坊、"氷龍"と決闘する気か!?」「オイオイ、死んだわアイツ」「亜龍ケ崎さんに喧嘩売るとか……」「また退学者出んのかよ」
俺たちの会話に聞き耳を立てていた周囲の学生たちが一斉にどよめいた。
は? 負けたら退学になんの? てか前例あんのかよ。人の人生気軽に左右し過ぎだろ。
……けどやる事は変わらない。
せっかくの二度目の人生、後悔ばかりで終わらせてらんないからさ。
周囲の喧騒をすべてシャットアウトして、卓についた俺はデッキから一枚抜き出したカードを人差し指と中指の間に挟み、ピッと彼女へと向けた。
「無茶をしないで生きたって、幸せになんてなれないさ!……やろうぜ、神琴先輩。俺とアンタの、『対話』の時間だ!」
「……その威勢、いつまでもつかしら。下級生の涙を見るのは、いつも忍びないわ」
「「Ready!」」
◇ ◇ ◇
え、偉いことになっちゃった……!
亜龍ケ崎先輩の対面に立つ真っ赤な髪の親友の姿に、僕は今更ながら止められなかった事を後悔していた。
緋色は昔っから誰よりも『エインシュリア』を大事にしていたから、こういうルール違反は嫌いなんだろうけど……いくらなんでも入学してすぐに上級生のランカーと対戦なんて無茶苦茶だ!
「表、俺が先行だな」
「持ち時間分だけ寿命が伸びた……貴方の最後の幸運ね」
しかしそんな僕の心配を他所に、彼は気負った風でもなく平然とコイントスをしている。
変わらない普段通りの彼の態度を見ていると、なんだかこちらも少し落ち着いてきた。
……緋色は僕が戦った中で一番『エインシュリア』が強い人だ。
そのネームバリューから流石に十二傑には敵わないと咄嗟に考えたが……もしかすれば、もしかするかも知れない。
なんといっても彼は、あんなにもカードの精霊に愛されているのだから。
「なに、そんなに待たせないぜ。遅延行為はバッドマナーだからな! 俺のターン、【闇】をセットするぜ!」
「……は? 【闇】!?」
「いっくぜー! 【脳掠め】をプレイ!」
「……ッ、ピーピングハンデス! あ、貴方……!」
初めて亜龍ケ崎先輩がわずかにたじろぐ。
ピーピングハンデスとは、相手の手札を見た上で指定したカードを墓場へ捨てさせることだ。
今緋色が使った【脳掠め】は相手の手札を見た上で、3コスト以下の属性カードでない一枚を指定し、相手に捨てさせることができる。
彼女が驚いたのは、外から見た緋色の印象とはあまりにもかけ離れた属性で、想像だにしないカードを使われたからだろう。
熱い心を持つ彼を、大抵の相手は【炎】の使い手だと思い込む。
『エインシュリア』には五つの属性がある。
【炎】【水】【木】【光】【闇】だ。
これらの属性カードを基本一ターンに最大一枚まで手札から出し、その属性からマナを出す事でコストを払いカードをプレイする。
全ての属性には
『炎』がつかさどるは感情、火力、自由、衝動。
緋色を初めて見た相手は、彼がこの属性の使い手だと決めつけてしまう。
まあ普通は当人の性格に適した属性を使うのが一番運命力が高まるから、わざわざそうしないのはよっぽどの理由があるものなんだけど……。
というかそもそも、これまでの対戦の様子とかカードの引きとかからして、緋色ってめちゃめちゃに【闇】の適正高いっぽいんだよね……。
ちなみに【闇】がつかさどるのは破壊、死、非道徳、偽りです。
えっと、ホラ、その……たしかに、僕も未だに彼を測りかねてるというか……いつかその心に秘めた暗い部分を、相談してほしいなとは思ってるっていうか……。
……そ、それでも!
緋色は少なくとも表面上はとても友達想いな良いヤツだし、『エインシュリア』に対する愛だけは間違いなく本物なんだ!
その心の底で何を考えてるとしても、それだけは変わらない!
「なるほどな! 4コスト生物【アイシクルワイバーン】を主軸として、相手生物にフリーズカウンターを撒き直接攻撃でライフを削り切るデッキか! コンセプトからして打ち消しは入るが、今手札には来てないな! じゃあまずは2コスのドローソースである【冷たい思考】を捨ててもらうぜ! そのままターンエンドだ!」
「ぐっ……ドロー、【水】を出してターンエンド……」
亜龍ケ崎先輩が悔し気に呻きながら自ターンの終了を告げる。
現在公開状態にある先輩の手札は「水・水・【アイシクルワイバーン】・3コストドロソ【湖面の姿見】・1コストバウンス【水滴】・今引いたカード(不明)」となっている。
今の所緋色のハンデスが上手く刺さっているように見えるが、その実リソースでの勝負としてはそこまで差がついていはいない。
『エインシュリア』の初期手札は7枚。
デッキはよほどの事情が無い限り、マナ元となる『属性カード』24枚にプレイする生物や魔法系のカード36枚の60枚デッキがスタンダードだ。
先行プレイヤーは一ターン目にドローが無いので、緋色はその7枚から『闇』を1枚出した上で、【脳掠め】を打っている。手札は5枚。
反面亜龍ケ崎先輩は【冷たい思考】を捨てられたものの、その後一ターン目からドローで一枚引き、【水】を出してターンを終えている。手札は6枚。
彼女の理想の動きが阻害されただけで、カードを捨てさせた緋色の方が手札が少ない状況になっている。
ハンデスデッキの逃れられぬ宿命は「息切れ」だ。
魔法で盤面の生物を取ったりするのは、コストの差はあれど相手『生物』と自分『魔法』の1:1交換となる。
しかしハンデスは自分がそのターンの限られたマナを支払い『魔法』を打って、相手がまだマナを支払っていない手札を減らしたに過ぎない。
リソースを無駄に使えば相手はその分で減った手札を補充し、盤面を強化できる。
反面、こちらの場には生物もなにも残っていない。
相手の決定的な動きを上手く阻害できたならまだしも、そうでなければ畢竟自らが損をしているとすら言えるのがハンデスなのだ。
「俺のターン! 【闇】を出して、2マナを払い聖域カード【盗っ人の矜持】をプレイ!」
「……バウンスを捨てるわ」
「おう、ターンエンドだ!」
『聖域』とは『遺物』に並ぶ置物系のカードだ。
盤面に残り永続的な効果をもたらしたり、適宜プレイヤーの判断によって効果を発揮させたりと、様々な種類がある。
今彼が出した【盗っ人の矜持】の効果は複数あり、まず一つ目が出したタイミングで対戦相手は自身の手札から一枚捨てる、いわゆるセルフハンデスという一つ目の効果が発揮された形だ。
セルフハンデスはピーピングハンデスと違い、対戦相手は自分で選んで要らないカードを捨てられるので、単純にリソースを削ぐ力としては弱めと言っていいだろう。
「私のターン、ドロー、【水】を出して2マナ支払い【冷たい思考】をプレイするわ。デッキの上から4枚見て一枚選び、残りを無作為に
「俺のターン! ドロー! 【闇】を出して、3マナ支払い遺物【万属の石碑】! 石碑からマナを出してもう一度【脳掠め】だ!」
出た……!
緋色のハンデスデッキのキーカードのウチの一つ、【万属の石碑】!
タップすると好きな属性を一マナ出せるマナ加速系の『遺物』だが、特殊な性質としてこのカードは『全ての種族である』という能力を持っている。
種族とはソーサラーやゴブリンなどといった本来『生物』が持つものだが、石碑は『遺物』にもかかわらずしかも全ての種族を持つ珍しいカードだ。
一見単なるマナ加速にしか見えないから、初見の相手はほとんど気にもとめない一枚。
しかしこれを放っておくととんでもない事になるので、僕は絶対に通さないか割るようにしている。
……遺物とか聖域って、生物と違って専用の破壊やバウンスカードが必要だから、その手のが入ってないと対処が出来ないんだよね。
だからマジで鬱陶しいんだよな彼のデッキ。
「っギぃぃ……ぐぐっ、ど、どうぞ……」
「新たに引いていたのは2コスト生物【氷柱巨人】と、1コストドロソ【沈思】か! 大量ドローは避けたいから3コストドロソ【湖面の姿見】を選ぶぜ! ターンエンド!」
「……フー、わかったわ。私のターン。ドロー。【水】を出して【氷柱巨人】、続けて【沈思】をプレイ。一枚引いてターンエンド」
「俺のターン! ドローして【闇】を出すぜ! 【氷柱巨人】は自身をタップすると相手の生物をタップさせられる能力を持つが、それ自体の攻撃力は1と低い。ライフ20点を減らしきれるポテンシャルは無いので除去は急がなくていいな!」
「……貴方、その感じでライフも減らす前提のリソースとしてしっかり考えてるのね」
「おう! カードゲームの基本だぜ!」
「……無闇に煩いだけの無鉄砲かと思ったけれど、少し見くびっていたようね」
「お褒めの言葉ありがとな! 3コストを支払い【穢れた秘術館】をプレイ!」
うげっ……出た……!
もうなんか見るだけで具合悪くなってきちゃった。帰ろっかな。
彼が照明を反射して煌めくカードをプレイすると、盤面のホログラムステージが突然おどろおどろしい空間に塗り替えられる。
無数の半分溶けたロウソクが置かれた、薄暗い石室。
その壁には真っ赤な塗料で、見たことのない幾何学的な魔法陣が描かれている。
乾いて所々黒く掠れたその紋様を見た者は例外無く、ソレがきっと何かの血液で描かれたのだろうという知りたくなかった事実に気付いてしまう。
この部屋を創り上げた邪悪な存在の意図を以て、脳に流し込まれたそんな最悪のアイディアを気付かされてしまうのだ。
「……ッ!? そのエフェクト、まさか『フォールカード』!? 真にカードの精霊と通じ合った者にのみ精霊から下賜されるカードを、どうして貴方が……!」
「パックから出たからだぜ!あとみんななんか間違えてるけど、『フォール』じゃなく『フォイル』じゃないのか?」
あ、また言ってる。
間違えてんのは緋色だってずっと言ってんのに、なんでか直んないんだよねアレ。フォイルってなんなんだろ?
妬みとか嫉妬じゃなく単純に疑問なんだけど、カードの精霊側もそんなあやふやな認識してる緋色と本当に通じ合っていいの? なんか通じた時に訂正してあげたりとかしないの?
……ともかく、【穢れた秘術館】は『サタニスト』種族の精霊と通じ合えたプレイヤーだけが、パックから引けるフォールカードだ。
他のフォールカードと同じく、そのパワーは並のカードの比じゃあない。
「……効果を確認させてもらっても?」
「あぁ、良いぜ!聖域である【穢れた秘術館】は、自身のターンエンド時にカードを一枚引き2点のライフポイントを失うぜ」
「? それだけでは1点のライフロスで済む【血液駆動エンジン】の下位互換じゃない」
「ああ、そのとおり! ただし、自身の場に『サタニスト』種族が存在する場合は対戦相手が2点ライフポイントを失い、自身は2点のライフを得る効果に変わるんだ!」
「……は?」
呆然とする亜龍ヶ崎先輩の視線は、緋色の盤面に置かれた【万属の石碑】に向けられている。
そう、つまりあの遺物かこの聖域を割らない限り、これから緋色は毎ターン2枚ドローして2点ライフドレインをし続ける。
ハンデスの弱点である息切れが解決したどころか、この後ライフ回復も置物破壊もなければ10ターン待つだけで彼が勝つのだ。
「そして余った2マナで【盗っ人の矜持】をクラスアップ!手札を一枚ピーピングハンデスし、その後に更に一枚セルフハンデスしてもらう! えっと、今は水・アイシクルワイバーン・2コスドロー・氷柱巨人かー。2コスドロー捨てで頼むぜ!」
「っぎィ……ぐっ、ぐぐっ、わ、わかったわ……セルフハンデスは氷柱巨人を捨てる……」
「オッケー、ターンエンドだ!そしてそのタイミングで2点ドレインし一枚ドロー!さ、次はアンタの番だぜ、先輩!」
「ん゛ん゛んん……っ! ハァ、ハァ……っフゥー……ドロー、水を出して【アイシクルワイバーン】を召喚! 見てなさい、入学したてのひよっこ。ここからは、私の番よ……! ターンエンド!」
亜龍ヶ崎先輩がカードを指に挟み、天を貫くように掲げる。
プレイされた彼女の切り札によって、氷の女帝がその姿を現す。
穢れた石室が霜に覆われ、氷点下まで下がった気温によりロウソクの火が消えてゆく。
穢れたサタニストの祭壇が、万物を凍りつかせる氷の爪に踏み砕かれた。
口の端から絶対零度の吹雪を漏らし、青褪めたワイバーンが盤面に君臨した。
アイシクルワイバーン……!
4マナで飛行4/5という高スタッツに加え、場に出た時と攻撃時に相手生物一体をタップし氷結カウンターを載せる。
立ち塞がる何もかもを凍り付かせて、遮る物のない空を駆り相手プレイヤーの命を直接刈り取るその姿は、まさにそこに在るだけで他全てを跪かせる女王。
「3マナ支払いアイシクルワイバーンを対象に【殺戮の槍】をプレイ!」
「あぶぶぶぶ」
けれど生物除去は【闇】の十八番なんだよね。
石室の床から生えた半透明の骨槍に貫かれて、氷の女帝はギュエーと鳴きながら結晶となり砕け散り、亜龍ヶ崎先輩は泡を吹いて痙攣した。
ここまでリソースに差が付けば、もはや覆すのは難しいだろうなぁ。
あれだけ心配してたのがウソみたいに、僕はもはや彼の勝利を疑っていなかった。
「【忘れ屋の追憶】! おっ、2枚目の【アイシクルワイバーン】か! 捨ててくれ!」
「あっ、この、だっ、あ゛ー……チッ」
「ッ……! シャぁオラぁッああああアイシクルワイバアアアァァン!!」
「3枚目か! 流石の運命力だな先輩! じゃあ【盗っ人の矜持】最後のクラスアップで、相手フィールドで一番コストの高い生物を自壊させるぜ!」
「バっ、んも゛お゛おぉーーーさあぁーー……!」
「対戦ありがとうございました!良い『対話』だったぜ、先輩!」
「……た、対戦、ありがとうございました…………どこが対話やホンマこのカス……!」
その後、予想通り緋色のワンサイドゲームで勝負がついた。
今引きのドロソで手札を増やしてもその度に捨てられ、頼みのアイシクルワイバーンは下手するとそのターンに詠唱破棄魔法で除去され、何もできないまま秘術館のドレインにより見せ場無く亜龍ヶ崎先輩のライフは底をついた。
流石は緋色だ、心配は無用だったみたい。
「その、先輩。今回はすれ違いがあったけど、本当に良い試合だったから……これからは、仲良くやってきたいんだ!よろしくな!」
「はァっ!? テメッ! このっ! だっれが……!……ンンッ、たしかに、フォールカードを持つほどの実力者である貴方とは、これからも関わっていく事になるでしょうね。……よろしく、明日乃君」
先輩の食いしばった唇の端から血が垂れている事に気付かずに、緋色は嬉しそうに握手を交わしている。
鈍感だからマジで分かってないんだろうな……そういうとこあるからね、緋色。
とはいえ先輩の言う通り、カードの精霊に愛されフォールカードを持つ彼は、きっとこれから神芝気学園の台風の目となっていろんな騒動に巻き込まれていくことだろう。
なんせフォールカードは真のプレイヤーである証であり、持ってるだけで受験が有利になる程だというのに……今回のヴェルサスでは出なかったが、彼はそれを複数枚持っているのだから。
ただ不思議なのは、そんな彼の名前をこの学校に入って友達になるまで聞いたことも無かったことだ。
あれだけの精霊の愛し子が、これまでどうしてまったくの無名だったのか。
入学して隣の席になったその日に対戦してボコボコにされてから、家でネットを調べ回ったが彼の名前は大会記録にも一切残っていなかった。
一度気になって本人に聞いた事があるのだけど、その時彼は今まで見た事もない程に悲しげな顔をして「……頑張ってはいたんだけど、全然(友達が)出来なくて……大会も(ぼっちで行くのは)ちょっと、な」と呟いたので、僕はそれ以上何も聞けなかった。
どうやらよっぽどの事情があって、彼はこれまで全然「エインシュリアが」出来ず、大会にも「ワケあって」出られなかったらしい。
……きっとその事情も、彼の適性が【闇】である事に関係しているのだと思う。
そういったあれやこれやについて、いつか彼の心の整理がついた暁には、打ち明けてくれることを願っている。
どれだけ実力に差が開いてても、いまだその背が見えなくても──僕は、彼の友達のつもりだから。
◇ ◇ ◇
昔の……というか、前世の俺は、ひどく根暗な人間だった。
放課後に遊ぶような友人も居らず、親兄弟とすら満足にやりとりができないコミュニケーション能力の無さ。
ご多分に漏れず容姿も褒められたものではなかったが、これに関しても遺伝子のせいというより、そういった所に気を配るような心の余裕が無かったからというのもあったろう。
ともかく、誰とも話さずに一日を終えることが普通の、どうしようもない社会不適合者だったわけだ。
そんな彩りのない生活の中で、数少ない心の支えになってくれたのがカードゲーム『エインシュリア』だった。
もちろん紙をしばくような相手は居ないので、スマホやPCで世界の人と遊べるデジタル版だが。
カードゲームとは言葉を介する必要の無い対話だ。
うまく話せない会話なんかせずとも、相手と心を通わせてやりたい事を理解し、目的を達成される前にこちらがゴールへと駆け込む。
そこにはたしかに意志の駆け引きが存在して、誰かと繋がることができた。
毎日欠かす事無くプレイしていたし、そのカードゲームをテーマにしたアニメも全て見た。
もはやハマッているというよりも、生活に組み込まれた日常的な行動の一部だったと言えるだろう。
そうして時には遊ぶ相手も居ないのに紙でも買ったり、新アニメをやるとなれば再履修なんて言って前シリーズを一気見して、そのまま夜を徹してゲームを遊んだりもしている内に……そのまま意識を喪った。
まあ、多分死んだんだと思う。
夏休みに入ってからというもの生活リズムも崩壊して、あの時もなんだかんだ三徹くらいしてたし、元より不摂生だった上に生れつき体も強くなかった。
なんだか動けなくなったかと思えば、体からスーッと熱が引いていって、意識が遠のいて行くんだよな。【崩落】のフレーバーテキスト通り、『死ぬ時ってのは呆気ねぇな』。
そうして薄れゆく意識の中、様々なカードイラストや記憶に残った対戦が駆け巡る走馬灯を見て……俺は強い未練を感じた。
『エインシュリア』はスゲー楽しかったけれど──それでも、そればかりが人生の全てで無くても、良かったような気がしたのだ。
走馬灯の中に『エインシュリア』があるのはもちろん良いけれど、例えば親しい誰かの笑顔や、友人とのイベントなんかも、俺は死の間際に見たかった。
きっと俺は、友達が欲しかったんだ。
それこそ放課後にでも、『エインシュリア』を紙で遊べるような、「そのカード強過ぎ」だの「新弾の内容見た?」だの笑い合えるような、気のおけない友人が。
喋ろうとすると言葉が口の中でこんがらがる自分が嫌だった。
何をするにしても他人の目が気になる自分が嫌だった。
人の目を見る事もできない臆病な自分が嫌だった。
だから、もしも。
もしも、次の機会があったならば。
俺が何度も見たあのアニメの主人公みたいに、明るくて熱い心根のある、カードが好きだと胸を張って言えるような度胸を持った、屈託無く笑える人間になろうと思った。
どうしてもなれなかったそんな人に、なれるような努力をしようと。
俺は初めて心の底からそう思い……そのまま全て黒に塗り潰されて、何もかもが消え失せた。
──ハズだったというのに、どうやら神は案外話のわかるヤツだったらしく。
本来有り得るはずのなかった二度目に、俺は恵まれた。
だから、もうあんな風にはならない。
俺は次こそ、あのアニメの主人公みたいな、友人に囲まれた明るくて熱い人間になってやるのだ!
◇ ◇ ◇
【明日のヒーロー】フレーバーテキスト──『生き返ってもコミュが下手!』