生き返ってもコミュが下手! ~熱血系ホビーアニメ主人公になろうとしてるクセにハンデスデッキ使ってるヤツ~ 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
「良いかぁ。【脳啜り族の宴】のフレーバーテキスト「あいつらに飯に誘われても、ついていかないほうが良いぞ」は、エインシュリア史中期フレーバーテキストの典型的な──おっと、時間か。えー、じゃあ来週までにプリントはやっておくように。……あー、糖分足りん。早く飴、飴……」
作務衣姿に金髪ボサ髪メガネ便所サンダルペタペタの担任が、目に毒な胸元から取り出したアメを口に放り込み胡乱な目をして出ていくと、一気に教室中が騒がしくなった。
腹ぺこの学生たちにとって、昼休みはまさしくご褒美の時間だ。
俺ももう腹が減って仕方ねぇや!
今日は母ちゃんが今週末のヴェルサスセール前のデッキ調整で忙しいので、弁当じゃなく食堂でご飯である。
「あ~、腹減った〜!」
「あはは、僕も授業中何度もお腹なっちゃったよ。それじゃあ食堂行こっか」
「おう! うーん……今日は黄金卵定食二つにするか、それとも黄金卵定食と大釜定食にするか……リーサル判断並に難しい問題だぜ」
「ホント緋色はよく食べるねぇ。やっぱプロも健啖だって言うし、そこに強さの秘密があるのかも……?」
「その通り! 食わなきゃ頭回んないからな! 翔も今日からダブル定食だ!」
「え、えぇ~、そんなに食べたら午後の授業受けらんないよぉ」
脳内で定食セット二つを天秤にかけながら、隣席の翔を連れ立って教室を出る。
すると少し先に同じクラスのグループの背中が見えた。
「おっ、お前らも食堂か~? 良ければ一緒に行こうぜ!」
「あぁ、もちろ……ゲッ、明日乃!? あ、あー……その、俺らちょっと用事あるから。ほな……」
しかしそいつらは俺の顔を見ると、そそくさと廊下を曲がり別の方へ行ってしまった。
……むぅ、やはり友人を作るというのは難しいものだ。
今俺には幸運にも翔という親友ができたが、なかなか他に友達となってくれるクラスメイトは見つからなかった。
明るく、熱く、屈託なくを信条として努めてきたが、それだけでは人と親しくなるのは難しいらしい。
「お、落ち込まないで緋色。その、あの子達も悪気があるワケじゃなくて……」
「いや、分かってるさ。アイツらを責める気は無いぜ」
しかし、この程度でへこたれはしない。
今までできなかった事を、失敗したからと諦めてちゃいつまで経っても変わらないんだ!
この世界に産まれてからたゆまず続けてきた努力の結果、ようやく隣に立ってくれるようになったたった一人へ向けて、俺は笑顔で親指を立てた。
「同じクラスの一員なんだ。エインシュリアで『対話』していれば、きっといつか分かり合えるだろうさ!」
「あ、いや、むしろそのせいっていうか……うーん、でもまあ、そうだね。きっといつか、みんなも緋色の良いところに気付いてくれると思うよ」
なんだかもにょもにょ言っていたが、考え直したように頷くと、翔も同意してくれる。
よし! 実際に友達になれた相手から肯定してもらえたのだから、これで間違いないはずだ!
俺は「もっともっとクラスのみんなとエインシュリアしまくるぞ!」という決意を新たに、意気揚々と食堂へ向かい……扉の前で足を止めた。
「おっ?」
「ん、なんか貼り紙がされてるね。えーっと、なになに……『新制度導入〜ランクごとの異なるランチコースセット〜』?」
「……本気で言ってんのか? コレ」
まるままのピーマンを箸で摘み上げて、呆然と呟く。
もう一度視線を下げて皿を見つめるが、やはりそこに残っているのはキュウリの漬物一枚と水に浮いたワカメだけである。
唖然としながらかじれば、ピーマンは見た目通り生であった。苦。
「これも味が無いぃ……いくらなんでも、あんまりだよぉ!」
隣に座った翔も、涙目で無味のワカメを啜っている。
育ち盛りの俺らには足りないというか、たとえ量が足りる程出たとて流石に文句の一つも口にしたくなるランチメニューだった。
OLだってもう少し食物繊維以外も食うわ。
お、おかしいぞ……!
昨日までは安い、美味い、多い、なぜか時折虹色に光るの四拍子揃った、ドパガキにも配慮の行き届いた最高の学食だったのに、一体何があったっつーんだ……!
ピーマンを齧りながら周囲のテーブルを見渡してみると、俺たちのようなギリご飯というより餌みたいなメニューが半分くらい、残った半分の内更に4分の3が以前よりも少しランクの落ちる定食。
そして残った一握りであるカラフルな髪色の生徒の前には……あ、アレなに? ぺ、北京ダック!?
前世の経験上あまり食べ物に詳しくないので不確かだが、二本角のように尖った金髪に黒インナーカラーの生徒は焼かれた丸鶏の皮を剥いで、なんか餃子の皮みたいなのに包んで食べている。
言うて中学生が昼飯に食いたいかソレ。
向こうのアフロはウソみたいに分厚いステーキを切り分けて大口を開けてかぶりついているし、なんか特別席みたいな場所に座っている神琴先輩は何皿にも別れたフルコースを食べているようだ。
頼み込めば分けてくれないだろうかと思ったが、どこからともなく現れたSPのお姉さんが『取り込み中、来客対応お断り』と書かれたスタンド看板を置いた。ダメそうだ。
「美味そう過ぎる……!」
「う、うぐぅ……い、良いなぁ……」
二人して思わず垂れるヨダレを手のひらで拭いながら、ポリリとたった一枚の漬物をかじった。
あ、好みの浅漬け。
今日から始まったという新制度とやらにより、俺たちのランチはブロンズランクメニューなるものが出されていた。
これは新一年生や、二・三年生の中でも成績が振るわない層のメニューらしい。
周りが食べてる以前よりも少し落ちる程度の定食が、平均的な生徒が食べるシルバーランク。
そしておそらく、個人個人の注文にあわせてめちゃくちゃな物が提供されているのが、強者専用ゴールドランクということなのだろう。
いや、まあ、そう、そうだな……ありうるかどうかで言えば、かなりありえるよな。
ホビアニ世界ってこういう常識外れな不遇に、主人公が弱い側として巻き込まれて、それを打ち破り改革していく展開もなくはないもんな。
いやまあ、だから、理解はするんだけど、さぁ……!
「オバちゃーん! 飯全然足んねぇだけど! もしかしてこれだけなの!?」
新たに設置された、料理の載ったお盆を吐き出す謎の機械の排出口に向けて大声で叫ぶ。
いくらなんでもこれはねぇだろ!! 責任者出てこーい!!
ココは闇のTCGプレイヤー養成機関かっての! ちゃんと行政にも認められた立派な県立中学のハズだ! テメェら親御さんから大事な子供預かってるっつー意識はねぇのか!
同じ値段払ってんのに、人の属性によってここまで差を付けんのはダメ! 法の下の平等がこんなに簡単に脅かされて良いわけねぇ!
とりあえず腹減っとんじゃい!! さっさとヴェルサスでぶち負かしたるからなんか作って貰わなきゃ収まりつかんわ!
「ンッフッフ……弱い者のか細い鳴き声が聞こえますねぇ。ワタクシの作った栄養満点エインシュリア定食:定価750円になにか文句でも?」
厨房の奥からユラリと現れたのは、普段ここで働いてるオバちゃんではなく、シェフの衣装に身を包んだ見知らぬ長身の男だった。
コック帽や赤いサロンエプロンという小物までは普通なのだが、小さな丸いサングラスをかけている様は、あまり学食の調理師には見えない。
口調も独特というか、まるで俳優のような演技っぽさがある。
……なんだかとっても胡散臭いな。
口調も含めてすごく濃いキャラをしているが、なんというかこういう時のこういうキャラって、ホビアニではわりとお決まりのポジションだったりしないか?
でも今はそれどころではない!
俺は今猛烈に腹が減っている!! それはもう!! 我慢のしようもなく!!!
「オッチャンがこれ作ったのか? 文句も文句、大文句だぜ! こちとら男子中学生、こんな回るはずない栄養バランスの
「ンン〜〜? それはおかしな話デスねぇ〜。たかだか入学したばかりの一年坊や劣等生など、さして頭も使わぬエインシュリア弱者には十分な栄養があるはずデスよぉ〜。こうしてランチという鞭で叩かれねば、オマエら弱者は走る事すらできやしない!」
どういう志で子どもの飯を作る仕事に就いてその思考になったんだよ。
普段ならば、俺の中でちょっとだけ育った他人の気持ちを慮る心が『もしかしたら彼にも色々あったんじゃないか?』と、その苦労を偲んだところだろう。
けれど今は、嘲るように嗤う目の前の男に、俺の中で何かがキレた。
何かっつーか、たぶん腹減り過ぎて堪忍袋の緒が切れただけだと思う。
「バカ野郎! 飯は人を傷付ける為の道具じゃねぇ! 食い物だ!」
そらそうだ、自分でも空腹過ぎて何を言っているか分からない。
もうとにかく何かを口に入れたくて仕方なく、やむを得ず手に持っていた無味のワカメを一気に飲み干す。ゴボボッ、マズすぎて溺れる! こんなん飯じゃないやい!!
「ンッフ! 腕前に見合わず口と威勢だけは一人前のようデスねぇ……ならばオマエに見せてあげましょう。残酷な現実と、この学食センター長シェフ・ザ・デスイート様の力を……! ヴェルサスの時間です! 三分間もかかりませんとも!」
目の前の男はそう言うと、空いたテーブルへエプロンのポケットから取り出した折り畳み式の簡易ヴェルサスボードをパンッ! と広げ、コック帽の中からデッキを取り出した。オッチャン、そこはデッキを出し入れするトコじゃねぇ! 不衛生!
てか一番調理師になっちゃいけない名前してんじゃねぇか。しかもセンター長なのこの人、こんなトリッキーなナリして管理職なのかよ。トリッキーって一番管理職と相性悪い属性なんじゃないか?
それに学校の管理運営者側に悪の組織の構成員みてーなキャラが居るのはそもそもおかしいだろ。
……あっと……うん、まあ、悪の組織みたい……悪の組織みたいなね、人がね……。
なんだかちょっと色々察してしまったが、しかし取り敢えず解決法は提示された。
なら、後はやるだけだろ!
「そいつは話がはえーや! こっちもムシャムシャしたくてムシャクシャしてたとこだからな!」
「ワタクシを前にしてなんたる不遜なビッグマウス! 決めました! ワタクシが勝てば、あなたの昼食は卒業までレタス一枚とメザシ一匹デス!」
やめておけ、文科省からなんらかの指導が入るから。
困るのは記者会見させられる自分なんだぞ。
えぇい、ともかく!
「「Ready!」」
【毒沼亭の道楽主人】フレーバーテキスト──『ウチのスープは美味いぞ! なんせまだ飲んで文句を言ったヤツが居ない!』