生き返ってもコミュが下手! ~熱血系ホビーアニメ主人公になろうとしてるクセにハンデスデッキ使ってるヤツ~ 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
「【木】をセット! 3マナ払い【大盛御膳】をプレイ! 効果で山札から【木】を二枚持ってきて、一枚をタップで更にセット!」
「【闇】をセット! 【万属の石碑】をプレイ! 石碑からマナを出して【脳掠め】をプレイ! 【碑文:
「がああっ、こんのクソガキがああぁッ! 【木】をセット! 1マナで【ケーキ専用竈】、4マナで【盗み食いする大口】をプレイだ!」
【ケーキ専用竈】!
好きなタイミングでタップすることで自分の生物を自壊させ、『お菓子』トークンに変える異物だ。
また、もしもその生物の防御値が4を超えている場合は、出てくる『お菓子』トークンの数が2つになる。
更にこの竃は、5マナを注ぎ込むことにより、生物を自壊させずとも無から『お菓子』トークンを1つ生み出せるのだ。
これでもうシェフは『お菓子』トークンの供給に困る事は無い……!
例の恐らく違法なカードの出現により勢いづいたヴェルサスは猛烈なプレイの応酬となり、様々なカードが絶え間なく行き来していた。
もはや叩きつけるような勢いで怒りのままカードをプレイするシェフに、明日乃がみなの窮地を救うためと勇敢に立ち向かっている……構図ではある。
しかしその実態は、堅実にランプしマナを伸ばして、ついに『お菓子デッキ』のキーとなる遺物【ケーキ専用竈】や、『お菓子』を一つ消費することでそのターン破壊耐性を得た上で+1カウンターの載る3/3生物【盗み食いする大口】を盤面へと揃えたシェフに対し、明日乃はハンデスしてマナ加速置いてもっかいハンデスしただけであった。
最初はシェフに怯えながらも勇気を振り絞って明日乃を応援していた周りの生徒たちも、なんとなく顔を見合わせては目を逸らしたり、腕を組んで口に片手を当ててあらぬ方を見たりと、明らかな混乱が見られる。
さっきから隣の弟の視線も簡易ボードと俺を行ったり来たりしていた。
わかんないよ、俺も。
「【闇】をセット! 【穢れた秘術館】をプレイ!」
「は!? なんだそのあり得ないフォールカードは!! オマエのデッキはどうなっている!!」
「おう! 初めてお小遣いで買ったパックから出てくれた、俺の最高の相棒だぜ!」
「そんなガキの時からフォールカードを……!? コイツ、ただのガキじゃねぇってことか……!」
しかしそんなよくわからない空気も、明日乃がフォールカードを出したことにより一変する。
神芝気学園の学生らしく、知らない強いカードが出ればそれだけで一気に興味がそちらへ移るのだ。
まさか一年でフォールカードを既に手に入れているとは……!
しかもその性能は、もはやそれ一枚でフィニッシャーとなり得る凶悪なモノ。
これに対応できなければ、遠からずシェフは敗北することとなるだろう。
しかし、それでも。
シェフはただそこに居るだけで足が竦むほどのオーラを放つ、紛れもない強者なのだ。
「チィッ──鬱陶しいが、致命的じゃあねぇ。……それに、オマエだけが精霊に愛されてるワケでもねぇ」
どうしてかむしろ先程よりも冷静になった彼は、舌打ちを一つしてから、デッキトップよりたった今引いた一枚のカードを、見る事すらなく頭上に掲げた。
遠い遠いどこかから、地響きが響き渡る。
シェフの指先が光り輝き、その為にある切り札が、窮地を前に彼の下へと舞い降りた事を報せる。
しかしそれは当然の事。
運命とは畢竟、強者の為に用意された言葉なのだから。
「【木】をセットし、6マナ支払い【がらがらどんを食べた怪物】をプレイ!」
簡易ボードの上のホログラムが、おどろおどろしい石室から一転して、険しい山峡にかかるボロボロな吊り橋に変わる。
今にも崩れ落ちそうなその橋を見下ろす、切り立った山の尖峰を、下から伸びた巨大な腕が掴む。
山肌を握り砕きながら、ゆっくりとその怪物が姿を表した。
緑6コスト【がらがらどんを食べた怪物】 7/6 貫通
顕現:このカードが場に出た時、『お菓子』トークンを三つ生成する。
不死:あなたのターンに、このカードが墓地にある時、『お菓子』トークン三つを自壊させる事で墓地からこのカードを場に戻す事ができる。
──なるほど、たしかに。彼らの言っていた通り、大きく、強く……美味くて食いでのある肉だった。これからは、胃の中で仲良く暮らす事だろう。
山羊の形をしたクッキーを三枚場に叩きつけると、毛むくじゃらの怪物の王は一際大きく吠え大気を震わせた。
だらりと垂れ下がった右手で握りしめた石塊で山を叩き、対峙するプレイヤーを威嚇する。
そのあまりの異様と迫力に、後ろの女子から小さな悲鳴があがった。
エインシュリアの並み居る生物の中でも、上から数えた方が早いほどに強力なスタッツのカードだ。
そんなフォールカードともなれば、もはや精霊の分け御霊が宿っているようなものだろう。
ホログラム上の映像は、けっして単純な作り物のCGではない。
人智を超えた存在の欠片が、このカードやそこから映し出されるホログラムには宿っているのだ。
凡人では普段から目にする事のできない精霊という存在を、もっとも身近に感じられる瞬間と言ってよかった。
正直なところ俺も、その圧倒的な存在感に呑まれかけている。
この不死なる怪物の王を前にして、果たしてどのような対処を取れるだろうか。
……取って、意味などあるのだろうか。
「誰がワタクシのフォールカードが一枚だけだと言った? オマエが忘却領域へ送ったのは、片割れの内の一つよ!」
「おわー、うんうん……! 改めてこうして実際に見てみると、やっぱりカッコいいぜ、そのカード!」
「……言ってろ、バカが。さぁ、どうするクソガキ。今までの動きからしてオマエは、ハンデスで相手の手札を見て勝ち筋を潰し、最終的に秘術館で削りきろうって算段だ。その調子じゃあ、デッキにロクに生物なんか入れてねぇんじゃねぇか? 得てしてコントロールを握るヤツは、生物を軽視する傾向があるからな」
シェフがゆっくりとサングラスを押し上げ、明日乃のデッキを分析する。
たしかに……秘術館がバーンし続けるだけで並のデッキは吹き飛ぶ。
シェフのように置物でドロソを確保しない限り、明日乃のハンデスは相手の勝ち筋を極めて高い確率で潰し、よしんば生物が出せたとしても除去でなんとかなる。
ならば生物よりも除去に寄せた方が、デッキコンセプトとしてうまく回るだろう。
だからこそ、看破したのだ。
アイツのデッキは生者の息吹がない、死の静寂に満ちた不毛の荒野なのだと。
「だが、ワタクシの盤面には破壊不能の大口や、死んでも戻ってこれる怪物が居る。特に怪物はオマエにとって致命的だ。なんせ除去しようとすれば先手を打って【ケーキ専用竈】で怪物が焼かれ、2つの『お菓子』トークンに早変わり」
「そして……それら自分の成れの果てを貪って、墓場から再び怪物が起き上がってくる」
「更にそのタイミングで1マナずつ払えば、ワタクシの手札はいくらハンデスしようとすぐに満タンだ。……オマエがワタクシから奪った【がらがらどんを食べた怪物】をプレイしてもいいが、相打ちで死ねばそいつが送られるのはワタクシの墓場。ほどなくして双子の怪物の王が、オマエの前に姿を現すだろう。オマエのとっておきのドレインだってたった2点、大口と怪物は合わせれば10打点。今のオマエのライフは秘術館のドレインで22──おっと、大口で直接攻撃。これで19点か。いくら遅くとも、あと3ターンも殴ればワタクシの勝ちだ」
その勝利宣言は、観戦している生徒たちを深い絶望へと叩き落とした。
なんか結構いろいろヤバい事をしていたが、明日乃はあの酷いランチ制度を止める為に今戦っているのだ。
もしも彼が負ければ、俺たちは明日から毎日アレを食うハメになる。
まあその場合、コンビニで弁当でも買ってくれば良いだけなんだが……。
しかし350円で腹いっぱい食べれたここの学食が使えなくなるのは、学生生活にとってあまりの痛手……!
息を呑む戦いに集中していた観衆も、ハッと目的を思い出したかのように慌てて手を組んで彼の勝利を祈り始めた。
その中には、明日乃と親しげに話していた青い髪の一年も混じっている。
頼む、どうにかしてこの絶望的な状況をひっくり返してくれ……明日乃……!
「……オッチャン、ターンエンドか?」
「あぁ?」
「他に何か動くかって聞いたのさ。なんせオッチャンの場には、いつでも起動できる竈があるからな!」
「ンッフ……破れかぶれでワタクシのプレイミス待ちか? たしかに今竈を
「ならターンエンドタイミングに、黒2マナを支払い【死の閃光】をプレイするぜ! 対象は【盗み食いする大口】!」
「……なんだァ、テメェ」
一転劣勢に追い込まれているというのに、明日乃は変わらないケロッとした顔で、元気よくカードのプレイを宣言する。
【死の閃光】は……たしか、4コスト以下の生物に対する除去の『詠唱破棄魔法』だ。
しかし、『お菓子』トークンさえあれば破壊耐性を付けられる大口に、今そんなものを撃ったところで……。
「フゥ……オマエは確かにカードに恵まれているし、プレイだって悪くねぇ。目先の大口や聖域を取るのではなく、ワタクシに一枚引かせてまで得られる情報を広げ、結果的にワタクシが引いた自分のデッキでは対処困難な怪物を忘却領域送りにした。オマエの誤算はたった一つ……怪物が二枚あったことだけだ。……ワタクシは敵ながらオマエを高く評価している。ランチだってこれからはゴールドクラスを出してやる。……今更見苦しい無駄な足掻きはやめろ」
「俺は撃ったぜ。後はオッチャンが対応するかどうかだ」
「チッ……やはりまだまだガキか。つまらねぇ事しやがって……『お菓子』トークンを一つ自壊させ、大口に破壊耐性を付与、ついでに+1カウンターが載る」
「わかった、じゃあ【死の閃光】は墓場に落ちるぜ」
当然、明日乃の除去は空振りに終わった。
興が冷めたとでも言うように、シェフはひどく冷めた目で明日乃を見下ろしている。
その眼を見て、俺の身体が無意識に小さく震えた。
強者はよくそんな目をする。
強さという高みに立つ者は、いつだって眼下の弱者どもを見下しているからだ。
同じ高さに立てなかった者達に、彼らは常に心底失望しつづけている。
「じゃあ俺のターンだな、ドロー! 『属性』はセットせず黒5マナを支払い、プレイするのは【
「……どんな効果のカードだ」
もはや覆らぬ勝利を前に、この試合に対する興味を失いかけていたシェフは、対面する子どもがボードに出したカードを目にした瞬間動きを止め、微かな呟きを漏らす。
それだけに止まらず、彼はガバリと机に両手を付いて身を乗り出し、そのカードを凝視し始めた。
サングラスの奥の瞳孔は微かに痙攣し、気付けば額に脂汗が滲んでいる。
あの強者が、縦9cm横7cmに満たないその小さなカードを、それほどまでに恐れているのだ。
「盤面の全ての生物を破壊する全体除去だぜ! ただプレイしただけなら、な!」
「違う、そこだ、詳しく話せ。そのカードは、何をすれば、どんな効果を発揮する!」
黒々とした【闇】の蠢く明日乃の盤面に、いつの間にか真っ黒な分厚い書物が開いて置かれていた。
無論彼がそんな物を鞄から取り出したわけもなく、であればこれはボードが映し出したホログラムなのだろう。
艶やかな黒い毛で丁寧に編み込まれた装丁は、まるで誰か俺の大事な人の髪を使ったかのようで。
開かれた頁に記された読み取れぬ言語は、であればきっとその人の血液をインクとして記されていた。
俺は思わずバッと振り向き、隣に立っているハズの弟の姿を急いで確認する。
すると弟も、同じように俺の方を見ていた。
どちらもがどちらもの無事を確認し、脳裏に過ぎったあるはずもない想像は掻き消える。
「このカードを使用する際、俺の墓場にあるカードを総コスト6になるまで忘却領域へ送っていい。もしもそうしたならば全ての生物を破壊した後、対戦相手の墓場からカードを一枚忘却領域へ送る! そして、それのオーナーの墓場と手札と山札から、同じ名前を持つ望む枚数のカードを探し、同様に忘却領域へ送れるんだ! いや~強いよな~、この効果!」
……それは、それはつまり。
全除去をした上で、手札からも墓場からも山札からも、一種類のカードを完全に喪失させるという事。
カードの精霊が聞けば引きつけを起こして倒れそうな効果を、今彼は発動させようとしているのだ……!
や、やっていいのか!? ソレって本当に!?
か、勝ってくれとは言ったが、たかだかランチの為になんか寿命とかカード愛とか精霊との親和性とかまで犠牲にしてくれとは言ってないぞ!!
やめといた方が、やめといた方が良いんじゃないかなぁ!! 絶対に後遺症が残るって明日乃ぉ!!
「俺の墓場には1コスの【脳掠め】が二枚、2コスの【慈悲無き夢奪い】が一枚、そしてさっき空振りになった2コスの【死の閃光】が一枚。それら全て、総コスト6を俺は忘却領域へと送るぜ!」
明日乃が自慢のカードの効果をウキウキで説明している間にも、頁は捲られ続ける。
そうしてちょうど本の半ばまで開いたところで、何も書かれていない白紙の頁が姿を現した。
本は徐々にその身体を起こすと、まるで壁のようにシェフの生物二体の前に立ちはだかる。
「っ、ぐッ……なんっっだ、その無法はあああぁぁぁッ!! 竈を起動! 【がらがらどんを食べた怪物】を自壊させ、『お菓子』トークンを2つ生成! 大口もトークンを消費し破壊耐性を付与!」
瞬間、シェフの生物二体を巻き込んで、まるでトラバサミのようにその本が勢いよく閉じられた。
再びゆっくりと開かれたそこには、お菓子を食べて無敵となり+1カウンターの載った大口が、上機嫌に無数の牙をギラつかせ無傷で佇んでいた。
すんでのところで自壊した怪物はすでに墓場に送られており、ヤギの形をしたアイシングクッキーだけが二つ転がっている。
けれど、そんな些事に構うことなく、『魔法』は進行してゆく。
開かれた白紙の頁に、知らない言語の文字が浮かび上がるように書き足されてゆく。
しかし、どうしてか、今度は俺にもその名前が読めた。
「ッだああぁぁぁ! 知ってる! 無理だろうよッ! だが頼むッ! 頼むから、がらがらどん……ッ! その前に『お菓子』トークン3つを自壊させ──」
墓場のカード一枚を対象とするならば、逆説的にその時墓場に無いカードは指定できないと即座に見抜いたのだろう。
これまでのエインシュリア人生の中で、きっと一番長く共に戦ってくれたのであろうカードに、彼は縋るように黄泉返りを願った。
己の信頼する相棒である、幾度もの激戦を乗り越えてきたであろうフォールカードの、その能力の限界を知りながら。
「おっと、ダメだぜオッチャン。がらがらどんのその能力は、自分のターン限定だぜ!」
そうして、この世で最も名を記されたくないその書物に、新たに『【がらがらどんを食べた怪物】』の名前が書き入れられた。
ご丁寧に、橋から谷底へと落下していく毛むくじゃらの怪物の絵を添えて。
「指定は墓場の【がらがらどんを食べた怪物】……まあそもそもこのカード、破壊してから忘却送りするまでに割り込むタイミングが無いんだけどな!」
その瞬間、墓地から一枚のカードが銀の粒子となり、次いでシェフの山札と手札が独りでに浮き上がると、明日乃だけが見える形でバラララとその構成を開示してゆく。
「いやぁ、やっぱこの時間が一番嬉しいよなぁ! なんせ『対話』の答え合わせができるんだからさ! えーっと、どれどれ……あぁ、なんだ。スゲーなオッチャン。それもブラフだったのかよ」
シェフの誰にも見られたくない機密の山を小さな指でスワイプしていた明日乃は、驚いたように目を丸くすると、真っ白に燃え尽きている対戦相手を褒め称えてニカリと笑った。
「本当は、怪物こそが三つ子だったんじゃねぇか」
ポン、と山札の中の一枚を指で触れる。
するとそのカードも追加で飛び出して粒子となり、さっきのカードと合わせて本の中に吸い込まれ……パタリと、無銘の本は閉じられた。
無慈悲にも、戦闘に入る事すらなく。
彼の化け物の王の童話は、ここに終わりを迎えたのだ。
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