私はお姉ちゃんでお姉さんだから、そこどいて。どけ! 作:ッピーターン
昔から好きだったお姉さんと付き合うことができて喜んでいたら、なんとおちんちんがついていた。
お姉さんは男だったのだ。どうりでミニスカートとか履いてなかったわけだ。オッケーオッケーよくわかりましたと涙目で逃げ出した僕は、飛び出してきた猫をひらりと躱してつるりと滑り、マンホールに後頭部を打ち付けて
直接の死因。マンホール。
間接的な死因。お姉さんのおちんちんと猫。
僕が何をしたっていうんだ。かなり真面目に生きてきたつもりなのにそんな結末って。ああ神様どこを見ているんですか可哀想な少年がここに! とか暗闇の中で泣き叫んでいたら、転生しました。
どこに?オープンワールドゲーム『原神』の舞台、テイワットという広い世界に。
「死因、お姉さんのチンポだよ。お姉さんのチンポ! あんまりだろ!」
「むにゃあ〜」
ここはテイワット。テイワットのはずだ。
にわかには信じられないが、これが幻じゃなければテイワットのはずだ。なぜなら、主人公でヒロインな人が目の前にいるから。
金髪ヒロインの
白とライトブルーを基調とした、軽やかかつ幻想的でアシンメトリーなミニドレス。なお肩出し。端正な顔立ちも間違いなく蛍ちゃんだが、どんな言葉をかけてもグースカ眠り続けている。
「せめて猫さえ出てこなければ……」
「猫ちゃん、へへへ、猫ちゃん……」
「蛍さん、もしかして起きてる?」
「ひゃひう〜……へへ、猫ちゃん」
「寝てるな。そのカプセル叩き割っていい?」
発する言葉は全て寝言。猫ちゃんが好きなのか猫関係の寝言が多い。ここまでお兄ちゃんって単語は一度も聞いてないんだけど大丈夫?
彼女には生き別れになった兄がいて、行方を探すために各地を旅する、というのが大まかなストーリーライン。旅してるので旅人と呼ばれることが多いが、旅人は他にもいるだろうに。他に誰も反応しないのは妙だと前々から思っていたが、この謎が解ける日は来るのだろうか。
「ひゅう〜……へへ、へへへへへ」
「大人しく眠れないのかこの人……」
蛍ちゃんはカプセルの中でゴロゴロしている。ガツンゴツン頭が硝子にぶつかっているんだが、一向に起きる気配はない。
カプセル。そうカプセルだ。
原神のストーリーはほとんど読んでないからあんまり知らない。だから今の正確な時期とかはわからないが、恐らく封印されている最中だろう。
まず、蛍ちゃんとお兄さんの空くんは
それらを踏まえて考察すると、おそらく現在の蛍ちゃんは封印されている真っ最中。彼女は好きで涎を垂らしているわけではないのだ。つまり、待っていれば物語が始まって、俺もここから出られるはずなのだが……。
「むにゃうううううんっ」
「これ、いつまで待ってればいいんだ……?」
今いるのは錆びた鉄に囲まれた小部屋である。窓から見える景色は
蛍ちゃんはカプセルに入ってて接触不能。たまにおデコから流血してて可哀想なんだが、これじゃ絆創膏を貼り付けることもできやしない。部屋にはなぜか救急箱が置いてあるが、これじゃ宝の持ち腐れだ。
「ところで蛍ちゃん。蛍さんって何歳?」
「猫ちゃんフゥーッ!」
「うるさいなこの人……物静かなイメージだったのに、なんでこんなやかましいの?」
透明感たっぷりで湿っぽい声だが、やかましい。どんな声の人だとしても、意味不明なことばかり叫んでいればうるさいものだ。
まあそれはいい。誰かいてくれるだけでも僕の精神はマシになるし、
問題は『いつまで待てばいいのかわからない』、ということ。朝も昼も来ないから時間感覚がバグってしまい、ここに来てからどれだけ時間が経ったのかは不明。半年くらいか、あるいはまだ数ヶ月程度なのか。
とりあえず暇だし、独り言のレパートリーはとうに尽きた。身の上話は腐るほどしたし、僕がいた世界の話もしたし、いよいよ無言の時間が始まりそうだ。
しかし、それは精神的によくない。大いに宜しくないので、僕は喋り続けるべく話題を探した。
適当に思ったことを口に出し続けていき、どれだけ時間が流れたか。
どうしてこうなったのか。
気づいた時には四六時中、
「養うから結婚してください! あなたは運命の人だ! 唯一無二の天使! 蛍さんマジでいい女! 幻想的な美女! うーん、ファンタジーってこんな感じでいいのか……?」
そんな日々を過ごしていたら、段々と眠くなってきて、気付いたらさざ波の音が聞こえていた……!
アレおかしいぞと思い、目を開けると。
そこには
『クックルー』
「ちょっと待ってね。誰だお前は」
ペンギンが『クックルー』とか鳴くなという感想と、ここはどこだという疑念が順番に生まれる。
周りを見渡すと青い地平線。僕が寝ていたのは広大な白い砂浜だった。遠くに大きな滝が見えてるんだけど、あれってフォンテーヌの滝じゃないの?
原神の世界は七つの国から成っている。
風神なんとかロスの領域、自由の国モンド。
えっちなお姉さんがいる中国っぽい国、
江戸時代の日本っぽい国、
知恵の国スメール。
恐竜に会える素敵な火の国、ナタ。
怪しい組織『ファデュイ』の本拠地、謎多き氷の国スネージナヤ。
もしかしたら、今いる場所はナタなのかもしれなかった。フォンテーヌの滝が遠くに見える砂浜なら
『プココココ』
「お前も変な鳴き声なんかい。えっと、フクロウ?」
『プコォ』
「ごめん何言ってんのかわかんない」
フクロウもどきは誇らしげに胸を張った。小さいけど偉そうで、なんだか神々しい子だな。青い瞳がとても綺麗だ。お母さんフクロウの姿はないが、もしかしたらはぐれてしまったのかもしれない。
『プコココココ』
「ちょっとちょっと、どこ行くの。どこに連れて行こっていうんだ」
『プコ』
『クックルー』
ちっちゃい青フクロウがゆっくりと歩き始め、ペンギンが僕の臀をビンタしてきた。とっとと歩けと言われているような気分だが、どこに連行しようとしているのだろうか。
ナタの人里なら助かるけど、そもそもナタってどういう国なんだっけ。クイックスタートで飛ばして放置してたから、僕はナタについて何も知らない。スメールで博士なる悪役を倒したのが最新の記憶だ。石が欲しくて色々飛ばしてたから、メインストーリーはよくわかりませんでした!
『プココッ』
「あれ、もしかして神様の像?」
『クックルー!』
砂浜を歩くことしばらく、巨大な像が見えてきたんだが……恐らく
旅人が触れるとワープしたり回復できたりする、とても便利な構造物。僕も使えるのかなとワクワクしながら触れてみると、なんか力が宿った気がした。
ヒュッと体が冷えた感じがして、念を込めてみると手の平から冷気──氷の結晶がビュンビュンって。ザクザクと砂浜に突き刺さった。うん? 氷? ナタって火の国じゃないの?
『プコルル……ププッ!』
『クックルー!』
青フクロウと赤ペンギンは、嬉しそうにコクコクとうなずいている。
それでいいんだって感じの顔だな。知らんけど。
彼らの内心はさておき、これおかしいだろ。なんでナタで氷元素が手に入るんだ。
「神様、もしかしてバグってます?」
『……』
七天神像(ナタ)は沈黙している。
しかしまた変なところに立ってるな。ていうか刺さってる。ラクガキが書かれた崖に横向きに突き刺さってるんだけど、なんでこんなことになってるんだこの神様。
お約束のセリフ、『そなたが崇高をうんたら』とかも聞こえてこないし、文字で書かれているわけでもない。氷っていえばスネージナヤのはずだけど、まさか誰かが盗んできて刺したのか? 物語的には引っこ抜くことは可能なはずだが、よもやナタにこんな展開があるとは……知らなかったよ。
「とりあえず原素ゲット。テイワットで戦闘無しとか無理だし、心強いな」
ためしにその辺のサメに戦いを挑んだところ、氷の結晶でボンボン吹っ飛ばすことに成功。まさかの強さに感動した僕は、その後も見かけた敵をガンガン倒していき……調子に乗った。
これはいける自分は強いとか変なテンションに突入し、地元民と手合わせてしてみたところ、
二匹に連れられて洞窟の中に入った後のことだ。
スレンダーで綺麗なお姉さんがこっちを見ていたから、これは戦闘開始の合図だと思って氷を飛ばしていざ開戦!
激戦が始まって一時間ほど戦い、力尽きた。
ナタではフィールドを歩いている戦士達は、手合わせと称して普通に襲いかかってくる──と聞いたことがあったので先手必勝したのだ。勝てなかったけどね。素手じゃ無理だった。今、僕は洞窟の中にある小屋の中に寝かされている。
「また暇になってしまったか! 暇潰しに一発芸を見せてもらうよ!」
「すみません無理です」
「私は侘住まいの女! 暇を持て余した少女!」
「うっ……少女……?」
睡眠は、無理だ。
侘住まいらしいお姉さんの声がうるさくて、折角ベッドに寝かせて貰えたのに睡眠不可。なんかキャンキャン反響して頭痛がする。変な術でも使ってるんじゃないかと思うくらい、不自然に響き渡っている。
「神の目もなしに氷元素を操るとは! 侘住まいの少女として見過ごせないね! ボク、名前はなんていうのかしら? 私、とっても気になるわ!」
しかしまあ、口調の安定しないお姉さんである。そして侘住まいの女が侘住まいの少女になった。どこがどう侘住まいなのかは不明だ。こんなとこに一人で籠っているから侘しいって意味なのかも。
「僕は
「それは面白そうな話だね! 詳しく聞かせてもらうよ! お姉さんなのに生えているとはいかに!?」
侘住まいの絶対少女ではないお姉さんは、目を輝かせて話に食いついてきた。そういや蛍ちゃんはどうしたんだろうか。パイモンとは会えただろうか。僕はおもむろにガイド役の妖精のことを思い出した。
パイモン。高い声で喋り倒す浮遊する幼女。主人公のガイド役として、色々なことを解説してくれすぎちゃうありがたい存在だ。癒し系だから僕も欲しい。