妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第100話「最強の妖精たち」

 

 X784年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 魔導士ギルド、妖精の尻尾。

 

「……つまり、みんなが生きている可能性があるってことか?」

 

「はい!」

 

 ギルドの一角。

 

 メイビス・ヴァーミリオンは、集まった魔導士たちに向かって力強く頷いた。

 

「天狼島が消えた海域で、妖精の球が発動していることを確認しました!」

 

「妖精の球……?」

 

 マカオ・コンボルトが首を傾げる。

 

「初代マスターが知っている魔法なのか?」

 

「はい。妖精の尻尾に伝わる、絶対防御魔法です」

 

 メイビスは、空中に小さな魔法陣を描いた。

 

「内部の時間を停止させて、対象を守る魔法なんです!」

 

「じゃあ、みんなは……!」

 

「まだ、確実とは言えません」

 

 そこで口を開いたのは、イリス・アストレアだった。

 

「ですが、希望はあります。少なくとも、天狼島が単純に破壊されたわけではないことが分かりました」

 

「……そうか」

 

 マカオが、深く息を吐いた。

 

 その隣で、ワカバ・ミネが目元を擦る。

 

「ったく……あいつら、心配かけやがって……」

 

「……本当だぜ」

 

 二人の声には、安堵が滲んでいた。

 

 しかし。

 

「……それで、いつ帰ってくるんだ?」

 

 マカオの問いに、メイビスは少しだけ表情を曇らせた。

 

「……分かりません」

 

「……そうか」

 

「外から強制的に解除することも考えました。でも、中にいるみんなへの影響が分からないんです」

 

「…………」

 

「だから、私たちは待つことにしました」

 

 その言葉に、マカオは静かに頷いた。

 

「……分かった」

 

 そして、集まった仲間たちを見渡す。

 

「だったら、俺たちがやることは一つだな」

 

「……?」

 

「みんなが帰ってくるまで、このギルドを守るんだ!」

 

 その声に、何人もの魔導士が顔を上げた。

 

「そうだな!」

 

「ナツたちが帰ってきたとき、ギルドがなくなってたら笑えねえもんな!」

 

「俺たちだって、妖精の尻尾の魔導士だ!」

 

 少しずつ、ギルドに活気が戻っていく。

 

 そんな光景を見て、メイビスが嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふっ。やっぱり、妖精の尻尾ですね!」

 

「ええ」

 

 イリスも、穏やかに頷く。

 

 そして。

 

「ところで、マカオさん」

 

「ん?」

 

「マカロフさんが戻るまで、ギルドマスターをお願いできませんか?」

 

「…………は?」

 

 マカオの動きが止まった。

 

「……今、なんて?」

 

「四代目マスターです!」

 

 メイビスが、にっこりと笑った。

 

「マカオなら、きっと大丈夫です!」

 

「…………」

 

 マカオは、二人を交互に見た。

 

 初代マスター。

 

 そして、創設者の一人。

 

 しかも、どちらも自分など足元にも及ばない実力者。

 

「……いや、待て待て待て!」

 

「はい?」

 

「なんで俺なんだよ!?」

 

「皆さんから信頼されていますし、ギルドのこともよく知っていますから」

 

 イリスが、当然のように答えた。

 

「私も適任だと思いますよ?」

 

「……!」

 

「私たちも、できる限りお手伝いしますね!」

 

 メイビスも笑顔で頷く。

 

 その瞬間。

 

 マカオの背中に、冷たい汗が流れた。

 

(……初代マスターと創設者に推薦されちまった……!)

 

(しかも、二人とも笑顔だ……!)

 

(断れる雰囲気じゃねえ!!)

 

 そんな親友の様子を見て、ワカバが吹き出した。

 

「ぶはははっ! よかったじゃねえか、マカオ!」

 

「ワカバァ!!」

 

「歴史に名を残せるぞ! 四代目マスター!」

 

「お前は気楽でいいよなぁ!?」

 

 ギルドに、久しぶりの笑い声が響いた。

 

 こうして。

 

 妖精の尻尾の四代目マスター、マカオ・コンボルトが誕生した。

 

 本人の胃痛と引き換えに。

 

◇

 

 それから数か月。

 

 妖精の尻尾には、ある変化が起きていた。

 

「……また、達成したのか?」

 

 マカオが、机の上に置かれた依頼書を見つめる。

 

「はい!」

 

 メイビスが、元気よく頷いた。

 

「山岳地帯に出現した魔物の群れ、全部片付けてきました!」

 

「……全部?」

 

「はい!」

 

「……百体以上いたって聞いたんだが」

 

「イリスが、光剣で一気に倒してくれました!」

 

「…………」

 

 マカオは、ゆっくりとイリスを見た。

 

「……本当か?」

 

「ええ。幸い、周囲に人もいませんでしたので」

 

 イリスは、穏やかに微笑んだ。

 

「それほど難しい依頼ではありませんでしたよ?」

 

「…………」

 

 マカオは、依頼書に書かれた文字を見下ろした。

 

 危険度、極めて高。

 

 推奨、S級魔導士複数名。

 

 報酬、三百万ジュエル。

 

「……これが、難しくない……?」

 

「マカオ」

 

 隣から、ワカバが肩を叩いた。

 

「考えるな。あの二人だぞ」

 

「……そうだったな」

 

 マカオは、遠い目をした。

 

 しかし。

 

 それだけでは終わらなかった。

 

 翌週。

 

「古代遺跡で暴走していた魔法装置、停止できました!」

 

 その翌週。

 

「盗賊団の皆さんには、きちんと反省していただきました」

 

 さらに翌週。

 

「湖に住み着いていた巨大な魔物も、無事に討伐できました!」

 

 次々と積み上がっていく、高難度依頼の達成報告。

 

 それに伴い、ギルドの収入も大幅に増加していった。

 

「……なあ、マカオ」

 

「……なんだ、ワカバ」

 

「うちのギルド、主力がいなくなったんだよな?」

 

「……そのはずだ」

 

「なのに、前より稼いでねえか?」

 

「……言うな」

 

 マカオは、静かに頭を抱えた。

 

 一方。

 

「イリス! 次の依頼が終わったら、ケーキ屋さんに行きましょう!」

 

「ふふっ。いいですね。新作のタルトが出たそうですよ」

 

「本当ですか!?」

 

 二人は、今日も楽しそうだった。

 

◇

 

 X785年。

 

 フィオーレ王国では、新たな催しが始まろうとしていた。

 

 その名も、大魔闘演武。

 

 各地の魔導士ギルドが集まり、競い合うことで、王国最強のギルドを決める大会である。

 

 当然、その案内は妖精の尻尾にも届いていた。

 

「……大魔闘演武?」

 

 メイビスが、興味深そうに案内状を覗き込む。

 

「はい。各ギルドに参加を呼びかけているそうです」

 

 イリスが、隣から説明した。

 

「面白そうですね!」

 

「ええ。ですが……」

 

 イリスは、少しだけ考え込んだ。

 

「今は、ギルドの立て直しを優先した方がいいかもしれません」

 

「……そうですね」

 

 メイビスも、静かに頷く。

 

 天狼島組が不在となり、まだ一年も経っていない。

 

 ギルドの運営は安定しつつあったが、残された仲間たちには、まだ不安も多かった。

 

「それに、私たちが出場したら……」

 

「……?」

 

「少し、大変なことになりそうな気もしますし」

 

 イリスが、苦笑する。

 

 メイビスは、首を傾げた。

 

「そうでしょうか?」

 

「……ふふっ。どうでしょうね」

 

 こうして。

 

 妖精の尻尾は、第1回大魔闘演武への参加を見送った。

 

 翌年の第2回大会も、同様だった。

 

 その間も、イリスとメイビスは数々の高難度依頼を達成し、ギルドの名声と財政を支え続けていた。

 

 そして。

 

 X787年。

 

 第3回大魔闘演武が開催された頃。

 

 ある噂が、王国中に広がり始めていた。

 

『フィオーレ最強のギルドは、剣咬の虎である』

 

 そんな噂だった。

 

◇

 

 X787年。

 

 妖精の尻尾。

 

「……剣咬の虎?」

 

 イリスが、首を傾げた。

 

「はい!」

 

 メイビスが、週刊ソーサラーを広げる。

 

「最近、すごく勢いのあるギルドらしいですよ!」

 

 誌面には、剣咬の虎の活躍が大きく掲載されていた。

 

 大魔闘演武での好成績。

 

 実力派魔導士たちの活躍。

 

 そして、王国最強の座へ近づいているという評価。

 

「……なるほど」

 

 イリスが、興味深そうに頷く。

 

「確かに、強そうな方々ですね」

 

「そうですね!」

 

 メイビスも、楽しそうに笑う。

 

 しかし。

 

「……なあ、イリスさん」

 

 マカオが、恐る恐る声をかけた。

 

「はい?」

 

「……最近、妙な噂が流れてるんだ」

 

「……?」

 

「妖精の尻尾は、もう昔ほど強くないってな」

 

「…………」

 

「天狼島の主力が消えて、最強の座から落ちた……なんて言われてるらしい」

 

 その言葉に、イリスは少しだけ目を細めた。

 

 しかし、怒った様子はなかった。

 

「……そうですか」

 

「……ああ」

 

 すると。

 

「……それは、ちょっと困りますね!」

 

 メイビスが、頬を膨らませた。

 

「妖精の尻尾は、今だって立派なギルドなのに!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスが、穏やかに微笑む。

 

「ですが、噂だけでは仕方ありません」

 

「……?」

 

「実際に、見てもらえばいいんです」

 

 その言葉に、メイビスの瞳が輝いた。

 

「……あっ!」

 

 そして。

 

「イリス!」

 

「はい?」

 

「来年の大魔闘演武、出場しましょう!」

 

「……ふふっ」

 

 イリスが、楽しそうに笑う。

 

「私も、同じことを考えていました」

 

 その瞬間。

 

 マカオの背中に、冷たい汗が流れた。

 

(……あれ?)

 

(……なんか、とんでもないことが始まりそうな気がするんだが……)

 

◇

 

 X788年。

 

 妖精の尻尾、屋外訓練場。

 

「……そこです!」

 

「うおおおっ!?」

 

 黄金色の光剣が、アルザック・コネルの頬を掠めた。

 

 アルザックは慌てて飛び退き、銃を構える。

 

 しかし。

 

「……遅いですよ?」

 

「なっ!?」

 

 次の瞬間には、イリスが背後に立っていた。

 

「ま、参った……!」

 

 アルザックが、両手を上げる。

 

 少し離れた場所では。

 

「よーし! 今度こそ!」

 

 ジェットが地面を蹴った。

 

 その姿が、一瞬で消える。

 

 高速移動魔法。

 

 目にも留まらぬ速さで、メイビスの背後へ回り込む。

 

「もらった!」

 

 しかし。

 

「残念でした!」

 

「……え?」

 

 ジェットの手が、空を切った。

 

 目の前にいたメイビスが、ふわりと消える。

 

 幻影だった。

 

「こっちですよー!」

 

「うわああっ!?」

 

 背後から声をかけられ、ジェットが飛び上がった。

 

 その隙に。

 

「今だ! ジェット!」

 

 ドロイが植物魔法を発動する。

 

 地面から無数の蔓が伸び、メイビスへ迫った。

 

「おっ!」

 

 メイビスが、楽しそうに目を輝かせる。

 

「今の連携、いいですね!」

 

 次の瞬間。

 

 蔓は、空間ごと別の場所へ移されていた。

 

「……え?」

 

 ドロイが固まる。

 

「でも、相手の能力をよく観察しないといけませんよ?」

 

「……はい」

 

 こうして、三人の修行は続いていた。

 

 天狼島組が不在となった今、ギルド全体の戦力を底上げする必要がある。

 

 そこでイリスとメイビスは、残された魔導士たちに稽古をつけるようになっていた。

 

 特にアルザック、ジェット、ドロイの三人は、二人から直接指導を受けていた。

 

 イリスは、戦闘技術と魔力制御。

 

 メイビスは、魔法の応用と戦術。

 

 その指導は、決して楽なものではなかった。

 

「……なあ、アルザック」

 

「……なんだ?」

 

「俺たち、強くなってるよな?」

 

「……たぶんな」

 

「なのに、全然勝てる気がしないんだけど……」

 

「……俺もだ」

 

 三人が、遠い目をする。

 

 そんな彼らへ、イリスが微笑んだ。

 

「皆さん、確実に成長していますよ」

 

「本当ですか!?」

 

「はい。以前なら、もっと早く決着していましたから」

 

「…………」

 

 褒められている。

 

 間違いなく、褒められている。

 

 しかし、素直に喜んでいいのか分からなかった。

 

「ふふっ。大丈夫です!」

 

 メイビスも、楽しそうに笑う。

 

「この調子なら、大魔闘演武でも十分に戦えますよ!」

 

「……大魔闘演武?」

 

 アルザックが、首を傾げた。

 

 すると、メイビスはにっこりと笑った。

 

「はい! 今年は私たちも出場しましょう!」

 

◇

 

 X788年。

 

 フィオーレ王国。

 

 第4回大魔闘演武、競技会場。

 

『さああああ!! 今年も始まりました!!』

 

 実況者の声が、会場中に響き渡った。

 

『フィオーレ王国最強の魔導士ギルドを決める祭典! 大魔闘演武!!』

 

 観客席から、盛大な歓声が上がる。

 

 そして。

 

『続いて登場するのは、今年初参戦!!』

 

『妖精の尻尾ォォォ!!』

 

 その名前に、観客たちがざわめいた。

 

「妖精の尻尾?」

 

「天狼島で主力が行方不明になったギルドだろ?」

 

「今さら出てきたのか?」

 

 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。

 

 しかし。

 

『今年の妖精の尻尾は、一味違います!!』

 

 実況者の声が、さらに大きくなった。

 

『まずは、幻影と戦略を自在に操る、天才魔導士!!』

 

『妖精軍師!! メイビス・ヴァーミリオン!!』

 

 金髪の少女が、元気よく手を振りながら入場する。

 

「皆さーん! よろしくお願いしまーす!」

 

 その可愛らしい姿に、観客席がざわめいた。

 

「……あれが妖精軍師?」

 

「女の子じゃないか!」

 

「本当に強いのか?」

 

 そして。

 

『さらに!!』

 

 実況者が、声を張り上げた。

 

『妖精の尻尾が誇る、無敗の剣士!!』

 

『妖精の聖剣!! イリス・アストレアァァ!!』

 

 黒髪のハーフツインテールを揺らし、一人の少女が姿を現した。

 

 青と金のオッドアイ。

 

 可憐な容姿。

 

 そして、腰に佩いた星の意匠を持つ聖剣。

 

 イリスは、観客席へ向かって優雅に一礼した。

 

「よろしくお願いします」

 

 その瞬間。

 

「……かわいい」

 

「……めちゃくちゃ美少女じゃないか?」

 

「……あれで無敗の剣士?」

 

 会場が、別の意味で騒がしくなった。

 

 続いて、アルザック、ジェット、ドロイが入場する。

 

 こうして、妖精の尻尾の代表五人が揃った。

 

 そして、大会が始まった。

 

◇

 

『しょ、勝者!! イリス・アストレアァァ!!』

 

 試合開始から、わずか数秒。

 

 対戦相手の魔導士は、地面に倒れていた。

 

「…………」

 

 観客席が、静まり返る。

 

 相手は、他ギルドでも名の知れた実力者だった。

 

 しかし。

 

 イリスが光剣を一本生成し、軽く踏み込んだだけで決着してしまった。

 

「……え?」

 

「……何が起きた?」

 

「……見えなかったぞ?」

 

 そんな声が、会場中から漏れる。

 

 一方、イリスは。

 

「ありがとうございました」

 

 いつものように、丁寧に一礼していた。

 

 そして、次の試合。

 

『勝者!! メイビス・ヴァーミリオン!!』

 

「やりましたー!」

 

 メイビスが、両手を上げて喜んでいる。

 

 その足元では、対戦相手が呆然と座り込んでいた。

 

「……一体、何人いたんだ……?」

 

 相手が戦っていたのは、数十人ものメイビス。

 

 しかし、そのすべてが幻影だった。

 

 本物に一度も触れられないまま、試合は終了していた。

 

 さらに。

 

 アルザックは正確な射撃で相手を制圧。

 

 ジェットは高速移動を生かして勝利。

 

 ドロイも植物魔法による拘束で、見事に白星を挙げた。

 

 そして。

 

『優勝は!!』

 

『妖精の尻尾ォォォ!!』

 

 会場に、盛大な歓声が響き渡った。

 

 こうして。

 

 妖精の尻尾は、初出場にして大魔闘演武を制覇した。

 

 そして、この年を境に。

 

 イリスとメイビスの名前は、王国中へ広がっていくことになる。

 

◇

 

 X789年。

 

 第5回大魔闘演武。

 

『今年も妖精の尻尾が優勝!!』

 

『二連覇達成です!!』

 

 会場には、前年とは比べものにならないほどの歓声が響き渡っていた。

 

「イリスちゃーーーん!!」

 

「メイビス様ーーー!!」

 

「今年も最高だったぞーーー!!」

 

 観客席には、二人の名前が書かれた横断幕。

 

 イリスの似顔絵を掲げるファン。

 

 メイビスの人形を抱えた子供たち。

 

 さらには、二人の肖像画を使った応援旗まで存在していた。

 

「ふふっ。イリス、すごい人気ですね!」

 

「メイビスもですよ?」

 

「えへへ。そうでしょうか!」

 

「ええ。ほら、あちらにもメイビスの応援旗がありますよ」

 

「本当です!」

 

 メイビスが嬉しそうに手を振る。

 

 すると。

 

「「「メイビス様ぁぁぁ!!!」」」

 

 観客席が、再び沸き立った。

 

「……すごいですね」

 

 イリスが、思わず笑う。

 

「イリスも手を振ってみてください!」

 

「え?」

 

「ほらほら!」

 

「……では」

 

 イリスが、観客席へ向かって小さく手を振った。

 

 そして、微笑む。

 

 次の瞬間。

 

「「「うわあああああああ!!!」」」

 

 会場が、爆発したかのような歓声に包まれた。

 

「……あら?」

 

 イリスが、目を瞬かせる。

 

 メイビスは、楽しそうに笑っていた。

 

「あははっ! すごいです、イリス!」

 

「ふふっ。少し驚いてしまいました」

 

 そんな二人の隣で。

 

「……なあ、アルザック」

 

「……なんだ、ジェット」

 

「俺たち、必要なのかな……」

 

「……それは言うな」

 

 三人は、静かに遠い目をした。

 

◇

 

 X790年。

 

 第6回大魔闘演武。

 

『さあ!! いよいよ最終決戦!!』

 

 会場は、熱気に包まれていた。

 

 妖精の尻尾。

 

 二年連続優勝を誇る、絶対王者。

 

 その前に立つのは、今年こそ王者を倒そうと意気込む強豪ギルドだった。

 

「……今年こそ、勝たせてもらう!」

 

 相手チームのリーダーが、力強く宣言する。

 

 その視線の先には、イリスとメイビス。

 

 しかし。

 

「ふふっ。頑張りましょうね、イリス!」

 

「はい。せっかくの大会ですから、楽しみましょう」

 

 二人は、いつもどおりだった。

 

 そして、試合開始。

 

『始めえええ!!』

 

 次の瞬間。

 

 相手チームの魔導士たちが、一斉に魔法を発動した。

 

 炎。

 

 雷。

 

 氷。

 

 風。

 

 様々な属性の魔法が、二人へ殺到する。

 

 しかし。

 

「……では」

 

 イリスが、静かに右手を上げた。

 

 黄金色の光が、空中に集まる。

 

 一本。

 

 十本。

 

 百本。

 

 無数の光剣が、彼女の背後に展開された。

 

「……っ!?」

 

 相手チームの表情が、凍りつく。

 

「いきますよ?」

 

 イリスが、微笑んだ。

 

 次の瞬間。

 

 黄金色の光剣が、一斉に飛翔した。

 

 迫り来る魔法を正確に打ち消し、相手チームの周囲へ突き刺さる。

 

 その数、数百本。

 

 逃げ道は、完全に塞がれていた。

 

「…………」

 

 相手チームが、動きを止める。

 

 そして。

 

「……参った」

 

 リーダーが、両手を上げた。

 

『しょ、勝者!! 妖精の尻尾ォォォ!!』

 

「「「うおおおおおおおおお!!!」」」

 

 会場が、歓声に包まれた。

 

 しかし。

 

「……あれ?」

 

 メイビスが、首を傾げた。

 

「イリス!」

 

「はい?」

 

「私、まだ何もしてません!」

 

「……あ」

 

 イリスが、少しだけ申し訳なさそうに笑う。

 

「すみません。つい……」

 

「もう! 私も活躍したかったです!」

 

「ふふっ。では、次の大会ではメイビスにお任せしますね」

 

「約束ですよ!」

 

 そんな会話を交わす二人。

 

 その様子を見て、相手チームの魔導士たちは思った。

 

(……今のが、全力じゃないのか……?)

 

(……しかも、もう一人は何もしてない……?)

 

 こうして。

 

 妖精の尻尾は、大魔闘演武三連覇を達成した。

 

 フィオーレ最強の座は、今年も揺るがなかった。

 

◇

 

 X791年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 妖精の尻尾。

 

「……出場停止?」

 

 イリスが、首を傾げた。

 

「はい……」

 

 マカオが、申し訳なさそうに頷く。

 

「大会運営委員会から、正式な通達が来たんだ」

 

 その手には、一通の書類が握られていた。

 

「……私たち、何か悪いことをしました?」

 

 メイビスが、不思議そうに尋ねる。

 

「い、いや! そういうわけじゃねえ!」

 

「では、どうしてでしょう?」

 

 イリスが、穏やかに問いかける。

 

 マカオは、しばらく言葉に詰まった。

 

 そして。

 

「……その……」

 

「……?」

 

「……強すぎるんだとよ」

 

「「…………」」

 

 沈黙。

 

 そして。

 

「……強すぎる?」

 

 メイビスが、首を傾げた。

 

「ああ……」

 

「……それだけですか?」

 

「……それだけだ」

 

 マカオが、遠い目をする。

 

「他のギルドからも、競技にならないって声が多数寄せられてるらしい……」

 

「…………」

 

 イリスが、少しだけ困ったように笑った。

 

「……メイビス」

 

「……はい、イリス」

 

「私たち、普通に参加していただけですよね?」

 

「……そのはずなんですけどね」

 

 二人は、顔を見合わせた。

 

 そして。

 

「……まあ、仕方ありませんね!」

 

 メイビスが、あっさりと笑った。

 

「今年は、観客席から応援しましょう!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスも、穏やかに頷く。

 

 しかし。

 

「……それで、マカオさん」

 

「ん?」

 

「今年の代表選手は、どうするんですか?」

 

「……あ」

 

 マカオが、固まった。

 

 その瞬間。

 

「……くくっ」

 

 隣で話を聞いていたワカバが、肩を震わせた。

 

「……大変だな、四代目マスター」

 

「ワカバァァ!!」

 

 ギルドに、今日もマカオの悲鳴が響き渡った。

 

◇

 

 X791年。

 

 妖精の尻尾。

 

「……イリスさん!」

 

 一人の少年が、駆け寄ってきた。

 

「……ロメオさん!」

 

 イリスが、嬉しそうに目を細める。

 

 ロメオ・コンボルト。

 

 七年前は、まだ幼い男の子だった。

 

 しかし、今では立派に成長し、魔法の腕も磨いている。

 

「今年の大会、出ないんですか?」

 

「ええ。残念ながら、そうなってしまいました」

 

「……そっか」

 

 ロメオが、少しだけ肩を落とす。

 

「イリスさんとメイビスさんの試合、楽しみにしてたのにな……」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 イリスが、優しく微笑む。

 

「でも、今年は皆さんを応援する側ですから」

 

「……うん!」

 

 ロメオが、元気よく頷いた。

 

 しかし。

 

 少しだけ、表情を曇らせる。

 

「……でも」

 

「……?」

 

「ナツ兄たち、まだ帰ってこないですね……」

 

「…………」

 

 その言葉に、ギルドの空気が少しだけ静かになった。

 

 七年間。

 

 長い年月だった。

 

 幼かったロメオは成長し。

 

 アルザックとビスカは結婚し、娘のアスカが生まれた。

 

 ギルドの仲間たちも、それぞれの人生を歩んでいる。

 

 けれど。

 

 天狼島へ行った仲間たちは、まだ帰ってきていなかった。

 

「……ロメオさん」

 

 イリスが、そっと少年の頭を撫でる。

 

「大丈夫ですよ」

 

「……!」

 

「きっと、帰ってきます」

 

「……本当に?」

 

「はい」

 

 イリスは、穏やかに微笑んだ。

 

「私たちは、ずっと待っていますから」

 

 その隣で、メイビスも頷く。

 

「そうです! ナツたちが帰ってきたら、びっくりするでしょうね!」

 

「……何に?」

 

「もちろん、今の妖精の尻尾にです!」

 

 メイビスが、胸を張る。

 

「三年連続、フィオーレ最強ですよ!」

 

「……あはは!」

 

 ロメオが、ようやく笑った。

 

「ナツ兄、絶対に驚くと思います!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスも、楽しそうに笑った。

 

◇

 

 その日の夜。

 

 妖精の尻尾、屋上。

 

 満天の星空が、マグノリアの町を照らしていた。

 

「……七年、ですね」

 

 メイビスが、ぽつりと呟いた。

 

「……はい」

 

 イリスが、静かに頷く。

 

 二人は、並んで夜空を見上げていた。

 

「早いものですね」

 

「……そうですね」

 

 メイビスが、小さく微笑む。

 

「いろんなことがありました」

 

「ええ」

 

「依頼も、たくさん受けましたし」

 

「はい」

 

「大会でも、三回も優勝しました!」

 

「ふふっ。メイビスのファンも、随分増えましたね」

 

「イリスだって、すごい人気ですよ!」

 

 二人は、顔を見合わせて笑った。

 

 けれど。

 

 やがて、メイビスの表情が少しだけ寂しそうになる。

 

「……みんな、元気でしょうか」

 

「…………」

 

「マカロフも、ナツも、エルザも……」

 

 その声は、とても小さかった。

 

 イリスは、そっとメイビスの手を握った。

 

「……メイビス」

 

「……はい?」

 

「覚えていますか?」

 

「……?」

 

「七年前、天狼島が消えた海で話したことです」

 

 メイビスが、目を瞬かせる。

 

 そして。

 

「……はい」

 

 ゆっくりと微笑んだ。

 

「帰ってくる場所は、私たちが守る」

 

「ええ」

 

 イリスが、穏やかに頷く。

 

「その約束、守れましたね」

 

「……はい!」

 

 メイビスが、嬉しそうに笑った。

 

 七年間。

 

 決して短くはなかった。

 

 しかし、二人は一度も諦めなかった。

 

 妖精の尻尾を守り。

 

 仲間たちを支え。

 

 そして、帰ってくる日を待ち続けた。

 

「……イリス」

 

「はい?」

 

「みんなが帰ってきたら、何をしましょうか?」

 

「そうですね……」

 

 イリスが、少しだけ考える。

 

 そして。

 

「まずは、おかえりなさい、と伝えたいですね」

 

「……!」

 

「それから、みんなでご飯を食べましょう」

 

「はい!」

 

「七年間のお話も、たくさん聞いてもらわないといけませんね」

 

「ふふっ。きっと、びっくりしますよ!」

 

 二人は、楽しそうに笑った。

 

 そのときだった。

 

 ――コンコン。

 

 屋上へ続く扉が、叩かれた。

 

「……?」

 

「どなたでしょう?」

 

 イリスが、振り向く。

 

 すると。

 

「……イリスさん! メイビスさん!」

 

 扉を開けて現れたのは、マカオだった。

 

 しかし、その表情はいつもと違っていた。

 

 息を切らし。

 

 肩を震わせ。

 

 そして。

 

 目に、涙を浮かべていた。

 

「……マカオさん?」

 

 イリスが、不思議そうに首を傾げる。

 

「何か、あったんですか?」

 

「…………」

 

 マカオは、しばらく何も言えなかった。

 

 そして。

 

「……帰ってきた」

 

「…………え?」

 

 メイビスが、目を見開く。

 

 マカオは、震える声で続けた。

 

「……天狼島が……!」

 

「……!」

 

「天狼島が、戻ってきたんだ!!」

 

 その瞬間。

 

 二人の時間が、止まったように感じられた。

 

「…………」

 

 イリスが、ゆっくりと目を見開く。

 

 メイビスは、口元を両手で覆った。

 

「……本当、ですか?」

 

「ああ……!」

 

 マカオが、何度も頷く。

 

「連絡が来たんだ……! あの島が、海に戻ってきたって……!」

 

「…………!」

 

 メイビスの瞳から、涙が溢れた。

 

「……イリス」

 

「……はい」

 

 イリスも、静かに微笑んでいた。

 

 その青と金の瞳には、涙が浮かんでいる。

 

 七年間。

 

 ずっと、待ち続けた。

 

 仲間たちが帰ってくる日を。

 

 もう一度、笑顔で会える日を。

 

 そして。

 

 ついに、その日が訪れた。

 

「……メイビス」

 

「……はい!」

 

 イリスは、そっと彼女の手を握った。

 

 そして、涙を浮かべながら微笑んだ。

 

「……迎えに行きましょう」

 

「……はいっ!」

 

 メイビスが、力強く頷く。

 

 その笑顔は、七年前と何も変わっていなかった。

 

 ――妖精たちが、帰ってくる。

 

 百年近く前、五人の仲間から始まったギルド。

 

 数え切れないほどの出会いと別れを重ねてきた、妖精の尻尾。

 

 その歴史は、今も続いている。

 

 そして。

 

 七年間、帰る場所を守り続けた二人の少女は。

 

 大切な家族を迎えるため、再び歩き出すのだった。

 




特別幕間「王国最強を見た者たち」

 X790年。

 フィオーレ王国。

 第6回大魔闘演武、閉幕。

 今年も優勝したのは、妖精の尻尾だった。

 三年連続優勝。

 そして、その中心にいた二人の少女。

 妖精の聖剣、イリス・アストレア。

 妖精軍師、メイビス・ヴァーミリオン。

 大会が終わっても、二人の話題は尽きなかった。

◇

【剣咬の虎】

「……くそっ!!」

 控室に、スティング・ユークリフの声が響いた。

「また負けた!!」

「……落ち着け、スティング」

 ローグ・チェーニが、静かに声をかける。

「落ち着いてられるかよ!」

 スティングは、悔しそうに拳を握りしめた。

「……一撃だぞ?」

「…………」

「俺の白竜の咆哮を、光剣一本で消しやがった……!」

 スティングの脳裏に、試合の光景が蘇る。

 全力で放った白竜の咆哮。

 しかし、イリス・アストレアは、その場から一歩も動かなかった。

 黄金色の光剣が、魔法を切り裂く。

 そして。

 次の瞬間には、喉元に光剣が突きつけられていた。

「……何もできなかった」

 スティングが、低く呟く。

「……ああ」

 ローグも、静かに頷いた。

「……あれは、俺たちの想像を超えている」

「……ちっ!」

 スティングが、拳を握りしめる。

 すると。

「……ふん」

 部屋の奥から、小さな声が聞こえた。

 ミネルバ・オーランドだった。

「……ミネルバ」

「妾とて、同じじゃ」

 その声は、普段よりも低かった。

「……まさか、空間魔法で後れを取るとはのう」

 ミネルバは、静かに目を細める。

 対戦相手は、妖精軍師メイビス・ヴァーミリオン。

 空間魔法による奇襲。

 相手の死角へ回り込み、一瞬で勝負を決めるつもりだった。

 しかし。

 メイビスは、最初からすべてを見抜いていた。

 空間が歪んだ瞬間。

 ミネルバの魔法は、逆に封じ込められた。

 そして。

「はい! 捕まえました!」

 そんな明るい声とともに、身体を拘束された。

 試合開始から、わずか数秒。

 完全敗北だった。

「……あの小娘」

 ミネルバが、悔しそうに呟く。

「……妾の術を、まるで子供の遊びのように扱いおって……」

「……ミネルバ」

 ローグが、静かに声をかける。

 しかし、ミネルバは小さく笑った。

「……ふふっ」

「……?」

「面白いではないか」

 その瞳には、確かな闘志が宿っていた。

「妾よりも遥かに優れた空間魔法の使い手が、この世に存在するとはな」

 そして。

「……来年こそ、雪辱を果たしてみせようぞ」

「……ああ!」

 スティングも、力強く頷いた。

「俺だって、次は絶対に負けねえ!」

 ローグは、そんな二人を見つめていた。

 そして、静かに呟く。

「……まずは、あの二人に一撃でも届かせることだな」

「「…………」」

 スティングとミネルバが、同時に黙り込んだ。

 それほどまでに、二人との実力差は大きかった。

◇

【青い天馬】

「メェェェン!!」

 控室に、一夜=ヴァンダレイ=寿の声が響き渡った。

「なんという美しさ……!」

「……また始まった」

 ヒビキ・レイティスが、呆れたように呟く。

「イリスちゃん! メイビスちゃん! 二人とも、まさに天上の花!!」

 一夜は、胸に手を当てた。

「そして、あの気品! あの優雅さ! まさしく、美の極致!!」

「……いや、強さの話をしようよ」

 レン・アカツキが、苦笑する。

「そうだよ! あの二人、普通じゃなかっただろ!」

 イヴ・ティルムも、真剣な表情で頷いた。

「特にメイビスさんの幻影魔法! どれが本物なのか、最後まで分からなかった!」

「……そうだね」

 ヒビキが、腕を組む。

「しかも、あの子の戦い方は、単なる幻影使いのそれじゃない」

「……?」

「相手の行動を誘導して、気づかないうちに勝利条件を満たしている。戦術の組み立てが異常なほど上手いんだ」

「……なるほど」

 レンが、感心したように頷く。

「妖精軍師って二つ名は、伊達じゃないってことか」

「そういうこと」

 ヒビキは、静かに微笑んだ。

「それに、イリスさんも相当だよ」

「……ああ」

「光剣の制御精度が尋常じゃない。あれだけの数を同時に操って、味方にも観客にも被害を出さないんだから」

「……確かに」

 イヴが、真剣に頷く。

 すると。

「メェェェン!!」

 一夜が、再び叫んだ。

「強さと美しさを兼ね備えた二輪の花!! 実に素晴らしい!!」

「……結局、そこに戻るんだね」

 ヒビキが、深いため息をついた。

◇

【蛇姫の鱗】

「……見事なものだったな」

 ジュラ・ネェキスが、静かに呟いた。

 その表情は、普段以上に真剣だった。

「……ジュラさん?」

 リオン・バスティアが、首を傾げる。

「どうしたんだ?」

「いや……少し、考えていた」

 ジュラは、ゆっくりと目を閉じた。

「妖精の聖剣と妖精軍師。あの二人の実力についてな」

「……ああ」

 リオンも、腕を組む。

「確かに、とんでもない強さだった」

「……そうだな」

 ジュラが、静かに頷く。

「だが、あれでも全力ではあるまい」

「……!」

 リオンが、目を見開いた。

「……本気じゃなかったっていうのか?」

「少なくとも、余力は十分に残していたように見えた」

「…………」

 リオンが、しばらく黙り込む。

 そして。

「……面白いじゃないか」

 小さく笑った。

「いつか、俺もあの二人と戦ってみたいものだ」

「ふふっ。若いな」

 ジュラが、穏やかに微笑む。

 すると。

「でも、あの二人って、すっごく可愛いよね!」

 シェリー・ブレンディが、楽しそうに声を上げた。

「特にメイビスちゃん! お人形さんみたい!」

「……確かにな」

 リオンが、思わず頷く。

「イリスも、相当な美少女だったな」

「……リオン?」

「……ん?」

「……ふーん?」

 シェリーが、じっとリオンを見つめた。

「……何だ?」

「べっつにー!」

 そんな二人のやり取りを見て、ジュラは小さく笑った。

 しかし、その胸中には、一つの確信があった。

(……あの二人は、我々が知る魔導士の常識では測れぬ)

 ジュラは、静かに目を細めた。

(……実に、興味深い)

◇

【四つ首の番犬】

「ワイルドォォォ!!」

 控室に、バッカス・グロウの豪快な声が響いた。

「いやあ! 今年もすげえ大会だったな!」

「……そうだな」

 仲間の魔導士が、苦笑する。

「特に妖精の尻尾だ!」

 バッカスは、楽しそうに笑った。

「妖精の聖剣! あの嬢ちゃん、いい動きしてやがった!」

「……いい動き?」

「ああ!」

 バッカスが、拳を握りしめる。

「無駄がねえ! 速え! しかも、相手の動きを全部見切ってやがる!」

「……そんなにか?」

「おう!」

 バッカスは、豪快に頷いた。

「一度、手合わせしてみてえもんだ!」

「……相手は、あの妖精の聖剣だぞ?」

「がはははっ! だから面白えんじゃねえか!」

 バッカスが、大声で笑う。

「しかし、あの妖精軍師も面白えな!」

「……メイビス・ヴァーミリオンか」

「ああ! あの小せえ身体で、あれだけの魔法を使うんだからよ!」

 バッカスは、楽しそうに笑った。

「世の中、まだまだ面白え奴がいるもんだ!」

 そして。

「ワイルドォォォ!!」

 再び、控室に豪快な声が響き渡った。

◇

【大会運営委員会】

 その日の夜。

 大魔闘演武、運営委員会。

「…………」

「…………」

「…………」

 重苦しい沈黙が、会議室を包んでいた。

 机の上には、今年の大会結果が置かれている。

 優勝。

 妖精の尻尾。

 三年連続。

「……さて」

 一人の委員が、静かに口を開いた。

「来年の大会についてだが……」

「…………」

「……あの二人、また出場するのだろうか?」

 その言葉に、全員が沈黙した。

「……出場するでしょうな」

「……そうだろうな」

「……本人たちは、毎年楽しそうに参加しているしな」

 誰かが、深いため息をついた。

「……問題は、強すぎることだ」

「……ああ」

「……他のギルドからも、苦情が届いている」

 机の上には、大量の書類が積まれていた。

 その内容は、どれも似たようなものだった。

 妖精の聖剣が強すぎる。

 妖精軍師の魔法が対処不能。

 試合が一方的すぎる。

 そもそも、勝負にならない。

「……どうする?」

「……どうすると言われてもな」

「……実力があることは、悪いことではない」

「……もちろんだ」

 委員たちは、頭を抱えた。

 大会は、王国最強のギルドを決める祭典。

 強い魔導士が出場するのは、当然である。

 しかし。

「……あの二人がいる限り、優勝ギルドが決まっているようなものではないか?」

「……うむ」

「……しかも、本人たちは全力を出していないように見える」

「……それが一番恐ろしい」

 再び、沈黙。

 そして。

「……提案がある」

 一人の委員が、恐る恐る手を上げた。

「……何だ?」

「……来年に限り、あの二人の出場を制限してはどうだろうか」

「…………」

 全員が、顔を見合わせた。

「……出場停止、ということか?」

「……あくまで、特例措置としてだ」

「……しかし、反発があるのでは?」

「……当然、あるだろう」

 委員が、深いため息をついた。

「だが、このままでは他のギルドが参加をためらう可能性もある」

「…………」

 長い議論が続いた。

 そして。

 翌年の第7回大魔闘演武。

 妖精の聖剣、イリス・アストレア。

 妖精軍師、メイビス・ヴァーミリオン。

 この二人に対する、特例の出場停止措置が決定された。

 その報せを受けた二人が。

「……強すぎるから、ですか?」

「……私たち、普通に参加していただけなんですけどね」

 と、困惑することになるのは。

 もう少し先の話である。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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