廃材マニア007 〖投稿者〗
六分街の外れで、ちょっと変わった場所を見つけたので報告。
廃品置き場の入口近くにボンプが何体も集まっていて、故障した機体の修理や部品交換をしてる。名前は「ンナンナ広場」。修理屋というより、ボンプたちが自分で作った小さな仕事場、という感じだった。
仕事で使う古いボンプの修理について相談したら、症状を聞いた上で、できることとできないことを説明してくれた。受付はボンプ二体で、修理内容や費用については、行き違いがないよう端末にも文章を表示して確認してくれる。少し時間はかかるけど、対応は丁寧だったよ。
写真は許可をもらって撮ったもの。作業場の奥や修理中の機体は写さないでほしいと言われたので、そのとおりにしてる。
《添付画像:古い金属板に手描きされた「ンナンナ広場」の看板。その下には《試験利用中》と印字された案内が貼られ、片耳の欠けた灰色のボンプと、小柄な黄色いボンプが並んでいる。二体の後ろには、整頓された部品棚と作業台の一部が見える》
修理代で破産した | 1F
なにこれかわいい。
ンナンナ広場って名前もいいな。声に出したくなる。
機械仕掛けの月曜日 | 2F
ボンプだけで修理屋?
修理するのもボンプなの?
廃材マニア007 〖投稿者〗 | 3F
そうらしい。修理担当は別の機体を見ていて、俺は会ってない。
灰色の方は倉庫仕事が長かったみたいで、在庫の説明がすごく詳しかった。黄色い方は質問への返事が早い。二体とも慣れてる感じだったよ。
家賃が払えない | 4F
廃品置き場って、勝手に使って怒られないのか?
ンナンナが止まらない | 5F
近所だけど、今は管理会社の使用承諾が出てるらしいよ。写真の《試験利用中》って、その案内。
使ってるのは入口の狭い一角だけで、奥はちゃんと立入禁止になってる。
廃材マニア007 〖投稿者〗 | 6F
まだ二週間の試験利用だってさ。ずっと借りられると決まったわけじゃないので、そこは誤解しないであげてほしい。
回路図は読める | 7F
古いボンプの修理って、部品の規格が合わないだけでも面倒なんだけどな。
どうやって直してるんだろ。
型落ち万歳 | 8F
直せないものは直せないって説明するなら、むしろ信用できるんじゃない?
いつかは最新型 | 9F
うちの仕事用ボンプ、もう廃番なんだよ。本人はまだ働きたいのに、新しい機体に替えた方が安いって言われる。
見てくれる場所があるだけでもありがたい。
元倉庫勤務 | 10F
古いから何も分からないわけじゃないからねえ。中身の計算や部品が追いつかないことはあるけどさ。
充電残量3% | 11F
ボンプが書き込んでる?
元倉庫勤務 | 12F
何か問題でも?
充電残量3% | 13F
いや、すまん。ないです。
スクラップには夢がある | 14F
あそこ、修理担当がちょっと変わってるんだよ。
前に通ったとき、背中から黒い触手みたいなのを何本も伸ばして、部品をいじってた。
充電残量3% | 15F
急に怪談始まった。
修理代で破産した | 16F
かわいい広場から触手修理屋が出てくるの、落差がすごい。
回路図は読める | 17F
柔軟な作業アームじゃないの? 細かい作業向けのマニピュレーターならありそうだけど。
スクラップには夢がある | 18F
そういうのかもしれない。遠目だったから、自信はない。
写真は撮ってないよ。作業中の人を勝手に撮るのも悪いし。
充電残量3% | 19F
怪談の語り手がいちばん常識的なの、何なんだよ。
廃材マニア007 〖投稿者〗 | 20F
とにかく、見物だけで大勢押しかけるのはやめてあげてくれ。まだ始めたばかりみたいだし、修理の相談なら先に連絡した方がいいと思う。
*
六分街のビデオ屋、Random Play。
夕方の店内には、古いビデオケースの樹脂と紙製のジャケットが混ざった乾いた匂いが漂っていた。入口から差し込む西日が貸出棚を斜めに照らし、カウンターでは第18号ボンプが返却品を一本ずつ確認している。アキラが貸出記録の照合を終えたところへ、奥の部屋からリンが端末を持って現れた。
「お兄ちゃん、ちょっとこれ見て。六分街に新しい名所ができてる!」
「名所? 新しい店でもオープンしたのかい?」
「店というか、広場というか……とにかく見て!」
リンが差し出した画面には、灰色と黄色のボンプが並んでいた。後ろの看板は古い金属板を塗り直したもので、文字にはずいぶん癖がある。アキラは最初、その手作りの雰囲気に目を留めたが、拡大すると部品棚に貼られた分類札や、作業台まで確保された細い通路が見えてきた。
「ンナンナ広場……。修理屋なんだね」
「しかも、やってるのがボンプたちなんだって。エンゾウおじさんのお店みたいに、人間の整備士さんがいるわけじゃないみたい」
「なるほど。でも、ずいぶん準備してるね。置き場所が決まってない部品も少なそうだ」
「最初に見るところが部品棚なの?」
「道具が見つからないと、修理って意外と時間がかかるからね。うちだって、返却されたテープが一本違う棚にあるだけで大変だろう?」
「それはまあ、そうだけどさあ。ほら、二体ともかわいくない? 黄色い子なんて、ちょっと小さいよ」
リンは写真をさらに大きくし、黄色いボンプの丸い手や、灰色のボンプの欠けた耳を指で示した。新品とは言いがたい二体だが、揃って看板の下に立つ姿は、店の記念写真のようにも見える。
「18ちゃんも見てよ。この子たち、自分で修理屋さんを始めたんだって」
呼ばれた第18号ボンプは、最後のビデオを棚へ戻してからカウンターへ近づいた。
「ンナナ?(修理屋さんですか?)」
「そう。受付も、部品の管理も、自分たちでやってるみたい」
「ワタ、ンナンナ。(それは大変そうですね。修理を受け付けるなら、預かった部品と持ち主の記録を間違えないようにしないと)」
「18ちゃんまで記録の話をするんだ」
「ンナッ。(大切です!)」
「そうだね。いつも助かってるよ、18号」
アキラが言うと、18号は嬉しそうに耳を動かした。そのまま返却台へ向かい、今度は棚から取り出したケースの状態を確認し始める。リンはその後ろ姿と写真のボンプたちを見比べ、少し考え込んだ。
「そういえば、18ちゃんが自分で修理屋さんを始めたいって言ったら、どうする?」
「具体的な事業計画の相談から始めるかな」
「そこ、引き止めないの?」
「もちろん寂しいけど、18号が本気なら話は聞きたいよ。……それに、帳簿を誰が引き継ぐかも決めないと」
「お兄ちゃん、現実的すぎ!」
「ンナナ!(私はまだ辞めませんよ!)」
三人で笑っているところへ来客を知らせる音が鳴り、18号が素早く入口へ向かった。リンは端末を脇へ寄せ、アキラも客の貸出カードを受け取る。普段どおりの店番が始まると、さっきまで写真の中だけにいたボンプたちも、どこかで同じように受付や片付けをしているのだろうと想像できた。
客が帰ったあと、リンはまた掲示板を開いた。
「ねえ、修理担当の子、写真には写ってないんだって」
「忙しかったのかな」
「それがね、背中から黒い触手をいっぱい出して、機械を直すらしいよ」
「……触手?」
「ほら、この書き込み。何本も同時に動かしてたんだって!」
アキラは投稿を読んだが、目撃者自身が遠くから見ただけだと断っていた。写真がない以上、工業用の補助アームなのか、それとは別の何かなのか、見当はつかない。
「作業アームなら、手が何本もあるのは便利そうだね」
「お兄ちゃん、もっとこう、びっくりしない? 黒い触手だよ?」
「本当に触手だったら驚くと思うよ。今は、どんな形かも分からないから」
「むう。……でも、ちょっと会ってみたくならない?」
「見物だけで押しかけないでほしいって書いてあるよ」
「分かってるって! 何か修理を頼めるものがあったらの話!」
リンは笑って端末を閉じかけたが、写真の中のボンプたちをもう一度見た。小さな広場には、修理を待つらしい椅子や、手入れされた工具箱が並んでいる。どうしてそんな場所を作ろうと思ったのか、尋ねてみたいことはいくつもあった。
*
夜になり、店の奥で翌日の貸出予定を確認していたアキラの端末に、Fairyの通知が浮かんだ。
『マスター。先ほどの地域掲示板について、補足があります』
「まだ読んでたの、Fairy?」
『表示された情報を整理しただけです。無断で現地調査を行ったわけではありませんので、ご安心ください』
「そこまでは聞いてないけど……何か分かった?」
『投稿者の証言だけでは、修理実績や装備の詳細を検証できません。ただし、添付画像には《試験利用中》の案内と、複数のボンプが管理していると見られる部品棚が確認できます』
「うん。その辺は僕たちも見たね」
『また、話題になっている黒い触手について、画像解析による識別は不可能です』
ちょうど飲み物を持ってきたリンが、モニターを覗き込んだ。
「Fairyでも分からないんだ?」
『対象が画像に写っていませんので。これは私の演算能力の問題ではありません』
「いや、それは分かるけどさ!」
リンが笑うと、Fairyは何事もなかったように続けた。
『なお、対象の撮影されていない画像を追加で解析しても、結果は変わりません。現地での情報収集をご希望ですか?』
「そこまではしなくていいよ。気になるだけで、困ってるわけじゃないし」
『承知しました。対象に関する自動追跡も実施しません』
「……頼んでないことまで、わざわざ言うんだね」
『誤解を防ぐための適切な説明です、マスター』
リンが吹き出す横で、アキラは苦笑して通知を閉じた。顔も名前も知らない修理屋について、これ以上調べる理由はない。そもそも、ようやく使える場所を得たばかりの相手なら、こちらが面白がって覗きに行くより、今は仕事を続けてもらう方がいいだろう。
*
その頃、掲示板には新しい返信がいくつか付いていた。
スクラップには夢がある | 21F
触手の話、もう一つ思い出した。
修理してたのは白っぽい古いボンプで、右腕がなかったと思う。だから、あの黒いのが代わりの腕なのかもしれない。
機械仕掛けの月曜日 | 22F
右腕がないのに、ほかのボンプを修理してるのか。
修理代で破産した | 23F
自分の腕は直さないのかな。
回路図は読める | 24F
適合する部品がなければ簡単じゃないだろうね。自分の機体だと、手の届かない箇所もあるだろうし。
型落ち万歳 | 25F
ほかの子を直せるのと、自分を直せるのは別の話か。
いつかは最新型 | 26F
俺は明日、うちの相棒を連れて相談してみるよ。本人も行きたいって言ってる。
直せるかどうかは分からないけど、あの写真を見たら少し安心した。
廃材マニア007 〖投稿者〗 | 27F
そういう相談なら歓迎してくれると思う。いい結果になるといいな。
*
Random Playでも、閉店前の片付けが始まっていた。第18号ボンプが返却台を拭き、アキラは翌朝の準備を終えて照明を落とす。リンは最後に掲示板を見たらしく、カウンターに戻ってきて小さく声を上げた。
「お兄ちゃん。触手の修理屋さん、右腕がないんだって」
「そうなんだ」
「ほかの子の修理はできるのにね」
リンは端末を覗き込み、少しだけ眉を下げた。アキラも新しい書き込みを読むと、昼間見た写真を思い返した。看板の前に立っていたのは、灰色と黄色の二体だけだった。
「自分の機体となると、難しいこともあるんだろうね」
「うん。……いつか、直るといいな」
それだけ言って、リンは端末をポケットにしまった。入口の鍵を確かめに行く彼女の後ろで、18号が最後のビデオケースを棚へ収めると、乾いた樹脂の音が静かな店内に響いた。
翌朝になれば、またいつもどおりの客がやってくる。店を閉めるころには、二人ともそんな当たり前のことを考えていた。
画面を消す前、アキラはもう一度だけ広場の写真を開いた。片耳の欠けた灰色のボンプと、小柄な黄色いボンプが、手描きの看板の前に並んでいる。
写真の端には作業台へ続く通路がわずかに写っていたが、右腕のない修理屋の姿は、結局どこにも見つからなかった。