今の貴方は絶不調。バットコンディションというやつです。それもそのはず。かぐやが月に帰る日に合わせとんでもないハードスケジュールを組んでいた為です。
今も空っぽの部屋で真っ白に燃え尽きている貴方を月人がナマモノに触るみたいにツンツンと突っついています。
コラボライブが終了した後、貴方の前に現れた月人はすごく馴れ馴れしく肩を組んできました。なに、何なの、怖いよぉ!?と恐れ慄いていた貴方でしたが、身振り手振りで貴方に説明してくれた月人によってその疑念は晴れましたが、代わりに死ぬほどの自責の念に駆られました。
おいは恥ずかしか!生きてられんごっ!と徐に台所から包丁を持ってきた貴方は慌てた月人に後ろから羽交い締めされる形で制止されました。HA☆NA☆SE!と何処ぞの決闘王みたいなテンションで叫ぶ貴方。
あれほど憎むジョン何某がまさか自分であったとは……読めなかった、このカスの目を持ってしても!と節穴の貴方はほざきます。暫くして、現実逃避と後悔で錯乱していた貴方もようやくそこで不定の狂気から抜け出せました。
そして、冷静になって考えて貴方は思いました。いや、今もちょっと肩が震えています。主に恐怖で。
──これバレたらあかんやつや。
酒に酔っている時の貴方は記憶が飛んでおり何をしていたのか把握していません。しかし、酒を飲んだ回数はそれなりにあります。つまりその数だけやらかしが存在している筈です。
バカな、こんなの私のデータにないぞ!?と慌てるデータキャラのカスですが貴方は閃きます。こんなタイミングで閃くものに碌なものはありませんが一旦聞いてあげましょう。
──どうしようもない状況にすれば有耶無耶に出来るんじゃね……?
と、やはり天才か……となる発想ですが悪知恵だけは働く貴方です。早速実行に移すべく、今も家具が全然ない貴方の部屋で寝転がる月人を作戦会議の話の時間だ!ゴラァ!と蹴り飛ばします。
背中痛ァ!と吹き飛ぶ月人でしたが、案外ノリはいいもので、顔を突き合わせて会議の時間です。
貴方の作戦を聞いた月人は、えーっ!それバレたら怒られるの俺なんですけどー!と拒否しますが、貴方は無駄にかっこいい声で「また夢、見させてやるよ……」と帝アキラ直伝の殺し文句で月人を説得。それでいいのか月人よ。
そこから次の満月まで、詰めに詰め込んだスケジュールをこなす貴方は普通に仕事するより動いていたでしょう。まぁ貴方は既に自分の世界で仕事を辞めてきてますが。身辺整理を済ませた貴方に隙はありません。
これも全て、既にパンパンの予定表に勝手に予定ぶち込んできた帝アキラってやつが悪いんだ……と天を仰ぐ貴方はしかし、ようやくゴールである満月の夜まで耐えました。
現場に着いた貴方は既に他のメンバーが揃っている事を理解します。皆真剣な顔で月を睨み、貴方も月をファッキン中秋の名月〜!と思いながら見ています。疲れた体に鞭を打つ為、前もって酒をしこたま飲んできた貴方に死角はありません。
ここからが本番。そのために貴方は普段運動しない体を鍛えてきました。全ては逃げる為に。やはりカスですね。
1人、また1人と倒れていく。残っているのは、帝アキラと翁、そして私だけ。ありえない速度で跳躍する帝は、その腕に抱えた翁を空高くぶん投げた。
翁もまた、空中で体を捻り、溜めに溜めて、力を解放。遥か彼方まで届くであろう斬撃が刀から飛び出し、今もこちらを叩き潰さんとする四本腕の獅子を断ち切った。
「行け!!」
迫る敵に武器を振るいながら帝が叫ぶ。その声を背中に受けながら走る。走って走って、しかし、それでも。かぐやの傍でせめて少しでも居たかった。だけど、それを阻むように突然出現した月人が幾重にも取り囲んだ。
「だめ、かぐや……!」
かぐやの歌が、終わった。踊りが止まった。それを待っていたかのように、空の色が変わる。見上げた空には月人の大軍。初めからそのつもりだったのか。或いはこちらの抵抗をただの儀式だと思っていたのか。
「はるばるようこそ」
敗着を受け入れたように微笑むかぐやの表情が、まるでヤチヨのように見えた。
月人がかぐやの前に跪く。
「逃げちゃって、ごめん。それでも、すっごい楽しかったんだ」
その言葉に、目の前に跪く月人は表情を変えないまま、笑ったように見えた。
そうして、足元に現れた光る雲の上に乗って、ゆっくりと登っていく。ツクヨミの月へと。
「最高の卒業ライブでした!いっぱい土産を貰っちゃった。みんなありがとう!」
その時だった。卒業ライブを見にきたファンの1人だろう。小さく、次第に大きく声に出して言った。
──アンコール!
それは次第に伝播していき、会場全体を揺らす一つの塊へ。
──アンコール!!アンコール!!
その声に、かぐやは、いえ。貴方は驚きます。目を瞬かせて。そして、とても嬉しそうに、楽しそうに、口の端を吊り上げて笑います。
そうです。貴方の考えるかぐやはここで終わりなんてしません。何処までも我儘で、楽しんでいなきゃいけない。
「そうだよね、もっともっと!」
十二単を纏っていた貴方の衣装が変わります。それはいつも着ていたかぐやの衣装。袖の短い赤い和服にロップイヤーのウサ耳。アクセサリーのない頭。
「もう少しだけ、付き合ってもらっちゃう!」
貴方はカスです。傍観者気取りで全然そんな事なくて、やらかしたことに対して無責任で。しかし、今の貴方はかぐや姫です。カスのかぐや姫なのです。ならば、これからやる事もまたかぐやなのでしょう。
貴方が取り出すのは、いつものラジカセ。幾つものカセットテープが貴方の周りをぐるぐる回り、その一つを掴み取ります。
カセットを差して、再生ボタンを勢いよく押せば、音楽が流れ出します。
踊ってない夜を知らない!踊ってない夜が気に入らない!
その歌声は、会場全体に響いた。
「卒業でも関係ない!皆、着いて来れるかーッ!!」
観客を煽る。ペンライトを振っていたファンが踊り出す。泣いていた子が続くように歌い出す。誰も彼もが笑顔で笑っていた。
踊ってたい夜を知りたい!
『待ってる!』
歌声に合わせて、合いの手が観客席から飛んでくる。夢中になって歌ってたら、月人も1人、また1人と踊り出していて。可笑しくて笑った。
踊ってたい夜を気に入りたい!
『ダンスは笑顔で待ってる!』
皆が笑顔でいる中で、彩葉は見た。たった1人。歌うかぐやの姿を見ながら泣いていた者がいた事を。
「ヤチヨ……?」
──待って、待ってよジョン。私まだ
震える手を、もう届かない場所にいるかぐやへと伸ばしていた。
踊ってない夜に泣いてるなんて!
『待ってる!』
とってもとっても退屈です!
『ダンスは笑顔で待ってる!』
曲も終盤。願いを込めた合いの手を入れ続けていたファン達も、その終わりが近い事を悟って、皆笑いながら泣いていた。
踊ってたい夜が大切なんです!とってもとっても、とっても大切です!
歌い切り、伴奏が止まると、今度こそかぐや姫は月へと登っていき、その姿を消しました。
「──」
呆れるくらい、明るくて。まるで別れをそうと感じさせないくらい力強い形で、彩葉の前から姿を消したかぐや姫。
吐き出したい感情を吐き出せず、その場を繕う様に協力してくれた人たちに一方的にお礼を言って、彩葉はログアウトした。
「え──」
目を開けて、彩葉が見たのは。
「うにゅ──」
寝ぼけて自分の肩に寄りかかるかぐやの姿でした。
カス
や、やったぞ!これで私は自由になれる!
バレないようにする為、衣装作り、歌の練習、ダンスの練習。そして帝とトレーニング。この全てをこなしたカス。まぁ最後にやらかしたんですけどね
彩葉
なんで、じゃあ、あのかぐやは……?
かぐや
眠らされてすやすや。
ヤチヨ
八千年探し続けてもいなかった友達が目の前で消えていった時の気持ちを述べよ。
月人
言われた通りかぐやを確保したぞ!え!?その後に翁の代役やれって!?できらぁ!