考えてみたらおかしい事があった。
「──私、名前言ってない」
あの時、あの人は私の事を彩葉、と呼んだのは本来おかしい。いや、かぐやに何度も注意したけどポロッと言うことはあったから説明がつくのだけど。
「彩葉、大丈夫なの……?」
「そーだよ!私はまだいけるけど彩葉は」
8千年を文字通り見てきた彩葉を泣きそうな顔で心配するヤチヨとかぐやだが、悪いが今は思考を止めたくない。
「大丈夫。それより多分、ヤチヨが出会ったっていう……ファン?まぁ偽ヤチヨでいいか。それがジョンだよ」
──もう膝枕してやんないもんね!!
そう、あの人は最後に言った。あの人に膝枕なんてしてもらった記憶はない。だけど、過去に一度私はヤチヨに膝枕をしてもらった事がある。あの時は夢だと思ってたけど。ヤチヨが見た偽ヤチヨの話を加味するとあれは現実。
今のヤチヨに現実の姿はない。だから必然的にあの時に出会ったヤチヨは他の誰かだ。そして、その事実を知るのは私とあの人だけ。
「ヤチヨ!」
「え、あ、はい!?」
ガバッと起き上がった私は汗まみれで肌に張り付く髪もそのままにヤチヨの肩を掴む。突然のことに目を白黒させるヤチヨ。こんな時でもヤチヨの表情にグッとくるものがあるが今はいい。
「まだハッピーエンドは先!かぐやもヤチヨも。全部引っ張るから!最後まで付き合って!」
「……無茶言うなぁ」
「フツーでいい、って言ってたのにねー?」
三人は顔を見合わせて、笑った。
「それで、どうするの?」
「翁──ジョンを捕まえる」
確かお兄ちゃんがフレンドだったはずだ。誘い込んで、罠に嵌めよう。だけど、そこで逃げられたら警戒されてツクヨミに来なくなるかも。だから一発勝負。
「ふふん、そう言うことならヤッチョにお任せ!いい作戦があるよ」
私の話を聞いたヤチヨはいつもの調子でピンと指を立てた。
「イベント用ステージを少し弄って、そこに誘導する。多分抵抗するだろうから……そうだね、彩葉、お願い」
「えー!かぐやじゃないのー!?」
こんな事したジョンには1発くらいやってもいいじゃん!と身の丈を超えたサイズのハンマーをブンブン振り回すかぐや。
「適材適所ってやつかにゃー?もちろんかぐやが悪い訳じゃないよ」
「でも、私でいいの?それこそ帝とか」
「ノンノン、これは彩葉にしか出来ないよ」
そう言うヤチヨには確信めいたものを感じた。そうして、ヤチヨは作戦内容を語り出す。その内容を聞いて私達は半信半疑だったが、ヤチヨは絶対成功する、と断言していた。
そうして、私は目的の場所に身を屈め、潜むようにして物陰に隠れる。チラリと覗けば、既にターゲット。翁が待っていた。
誰も来ず手持ち無沙汰で暇だからなのか。ギターを取り出してなんか歌ってる。ていうかギターの位置低っ、低すぎて猫背じゃん。よく見たら弾いてないし、エアだあれ。
最後に会った時は大人しい印象だったけど、あれがあの人の素なのかな?
「どうも」
「あ、どうも」
徐に私は物陰から飛び出て、翁の正面に立った。向こうは本当に気づいてなかったみたいで、気まずそうにギターを片づけて、そのまま無言でこちらを見ている。
本当に大人しい人だ。ほんとにあのかぐやのフリやヤチヨのフリをしていた人物なのか。あまりに乖離が激しくて同一人物かどうかも疑わしく見えてしまう。だけど、多分私の考えは合っている。だから、単刀直入に言った。
「……貴方が、ジョンだったんですね」
その言葉にピタッと、体が硬直していた。表情こそ狐のお面に隠れて見えないけど、視線は左右に揺れていて、明らかな動揺。
「ワタシ、ジョン、チガウ」
「それ私の真似ですか?」
当てつけみたいな誤魔化し。しかしその手は食わない。ヤチヨも言ってた。ジョンのペースに乗せられたら終わるって。
「かぐやは……ヤチヨは、貴方をずっと待ってるんです」
武器を呼び出し、握る。手に力が籠る。私は見てきた。どんな日でも、愛おしそうに髪飾りに触れて来たヤチヨを。思い出を優しそうに語るかぐやを。
「何も言わないで、消えるつもりなら」
ここで、止める。それで引っ張り上げる。
アイエエエエ!?イロハ=サン!?イロハ=サンナンデ!?思わずそう叫びたくなる貴方ですが、必死で攻撃をガードします。
どうしてこうなった……!と言いたくなる貴方は、呑気にテーマパークに来たみたいだぜ〜テンション上がるなぁ!と呼び出された場所に来たものの、そこで彩葉によるアンブッシュを受けました。
しかもなんか色々バレてる気がします。ひじょーに不味いと焦る貴方。酒飲んでやらかしたのだけは絶対にバレたくない貴方は必死で抵抗します。
そうだ、ログアウトすれば月に戻れる!そう思い、ウィンドウを開きますが、案の定と言うべきか。ログアウトボタンそのものが消失してます。
ファッキンツクヨミ!何処の茅場さんですかヤッチョさん!?と悪態をつく貴方ですが、状況は悪くなるばかり。このエリアはどうやらヤチヨ特製のステージらしく、いつものような和風なものではなく、何処かの崩れかけのビルの様です。しかもステージギミックなのか、崩れた特大サイズの瓦礫が降り注ぐ中、その壁面で斬り合いを続けています。
「何がそこまで君を動かす?」
「今の貴方には言いたくないです!」
空中で鍔迫り合いをしながらの問いかけは、必死な彩葉からの返事があった。その僅かな緩みを狙って貴方は膝蹴り。彼女は崩落するビルの頂上まで瓦礫を巻き込みながら派手に吹き飛びます。
ここでの勝利条件は、目の前の彼女を倒してこのエリアを脱出する事。でなければログアウトは出来ないでしょう。
「……」
しかし、このステージはよく考えられている。狭く、瓦礫がこうも多いと武器の取り回しに影響がある。いつも使う大槍は使用不可と見ていい。今の貴方が使えるのは刀だけです。
このシチュエーションに貴方は見覚えがあります。いやまさか、と考えつつも。貴方には乗る以外の選択肢がありません。何故なら、貴方はいつだってネタに対してだけはマジだからです。
そこまで見通して相手が来ているのなら酷い話です。だってそれは、貴方に勝ち目がないのだから。
瓦礫の煙に隠れて見えない彼女。貴方は刀を構え突撃していきます。辿り着くより先に、煙を振り払いながら同じく突進してきた彼女と再び交差。
「なんで逃げるんですか!そんなに怖いんですか!?」
埃に汚れた頬をそのままに、彼女は貴方を糾弾します。言葉なく貴方は同意します。その通り。貴方は怖がっています。バレたくないのも本当ですが、それはあくまで理由付け。
貴方はカスです。人の心とかないんか?とか言う系のカスで、クハハ……と笑いながら雨を奪う砂漠の王様系のカスです。そんなカスである貴方は自分がそこにいるべきではない、と考えているからです。百合に挟まるべからず。これは不文律なのです。
「逃げるな!善意から逃げるな卑怯者!」
その叫びは、貴方を突き刺します。臆病で怖がり。自分勝手で、そのくせ相手から何かを受け取る事をしない卑怯者。カスと呼ぶ他ありませんね。
ほんとに、居ていいのだろうか。
ええ、居ていいでしょう。貴方はカスですが、決して悪い訳では……いえ、結構貴方はワルです。沢山人を泣かせています。痛い目を見た方がいいですね。
実はね、本当は。楽しそうにしているあの子達の横で、笑ってみたかったんだ。
そう言えば、貴方は人を笑わせ楽しませていましたが、いつもその横には誰もいませんでしたね。
「絶対その手を掴む!じゃなきゃハッピーエンドなんて辿り着けないんだから!」
彩葉は吠えた。そうして、空中にいる貴方目掛けて跳んで、武器を振います。幾度目の衝突。しかし、今回は違います。
衝突の寸前、彩葉が持つ、キーボードをあしらったブーメランのような武器が二つに分かれたのです。虚を突かれた貴方の一瞬の硬直。その隙を見逃す彼女ではない。
目の前から消えた、と思った時には、分身した幾つもの彩葉が貴方を空中で囲んでいます。持っている武器もそれぞれ、ハンマー、番傘、双刀。ブーメランと違うもの。
貴方はそれを防げません。
「これで!」
突撃しながら彩葉はかぐや達二人との会話を思い返す。
──ジョンはね、ふざける時こそ真剣なの。それこそ妥協なんて出来ないくらい。
──あ、わかる!真面目なんだよね!
だから、この形に持ち込めた時点で勝ち。ジョンの弱点は予定調和に逆らえない事。
ヤチヨはそう言っていた。その役目はヤチヨでもかぐやでも出来ない。例えば帝アキラであればこんな事しなくても倒せただろうし、ヤチヨならもっと楽だろう。
でも、それではきっとジョンを連れ戻せない。彩葉だから出来る事。
「……ダメだな」
貴方は武器を握る手から力を抜き、攻撃を受け入れました。
そうして、貴方は負けました。抵抗する気もなくなった貴方でしたが彩葉によってワイヤーでぐるぐる巻きにされ身動きが取れない状態にされました。日頃の行いですね。
その状態で待っていると、ヤチヨとかぐやが現れます。開口一番、ヤチヨが放った一言は。
「──正座」
「え、あの」
「正座」
身動き取れない、そう伝えようとした貴方ですが問答無用。芋虫みたいにうねうねしながらなんとか正座します。
「一応弁明は聞くけど、何かある?」
底冷えするような、恐ろしい声でヤチヨは言います。恐る恐る
「あの、えーっと……気の迷いと言いますか」
モゴモゴと言い始める貴方をヤチヨは、ニッコリと笑顔を貴方に向けます。
「……言葉、選んだ方がいいよ?今際の際だから」
笑ってはいますが、細められた瞼から覗く瞳は全く笑っていません。据わった目をしています。あかんやつや……とカスは震えています。
「これでも結構、けーっこう我慢してるんだからね?」
今すぐかぐやっほーして
──ヤチヨさん?
Ex-otogibanashiしてもいいんだよ?
──ヤチヨさん!?
嘘じゃない。やるといったらやる、その凄みを貴方は肌で感じています。
「はいはい、少し抑えてヤチヨ」
「こわー……」
流石に、とフォローしてくれた彩葉とかぐやですが、その目は外れる事なく貴方を見ています。いつの間に超かぐや姫はホラー作品になったのかと真面目に考える貴方。
「でも、洗いざらい話してもらうからね」
おっと、味方かと期待していたかぐやから死刑宣告されました。貴方はこれでおしまいです。
カス
遂に捕まった。何故だ、何処に間違いがあった!これは罠だ!私を陥れる為の罠だ!
彩葉
八千年を見た影響でカスに対する感情は割とかぐや達に近い。
かぐや
やっと会えたね。
ヤチヨ
やっぱりあの時閉じ込めてでも逃さなければ良かったなー。でもこれから時間はたっぷりあるし。あ、でも彩葉の家だと手狭かな?私の天守閣ルームにいてもらおうかなー。八千年分、受け取ってね?