貴方は現在うわあああ!と情けない声で落下しています。時間移動を頼んだのは貴方ですが、まさか即行動に移るとは露知らず、時間の狭間で滑り落ちるような感覚だけが全身を包んでいます。
そうして、貴方が顔面から着地する形で到達したのは、正しく八千年前の日本。何処かの海岸のようで、砂浜に埋まった顔に引いては寄せるさざ波が水責めの如く押し寄せ、ガボガボガボ!ともがく貴方はなんとかして顔を引き抜きました。ギャグにしても少し微妙ですね、そこはもう少しリアクションが欲しかったです。
ふぅ、と一息ついた貴方は自らの肩にちっちゃい月人が乗っている事に気がつきます。どうやら貴方の旅をサポートしてくれるナビゲーターのようです。
任せろ、とサムズアップする姿は頼もしいですね。
そこから歩く事数分、貴方は第一村人ならぬ現地住民と遭遇。言語が分からない貴方には何を言っているかわかりませんが、貴方は以前自分探しを目的に色んな国を旅した経験があります。特に印象に残った国はインドですね。……なんで日本人がインドで自分を見つけられると思ったんですか??
警戒して今すぐにでも手に持つ手槍で一突きにされそうな貴方は、徐に取り出すのはラジカセ。そうですね、いつも通りですね。
この手に限る*1、と再生するのはいつもの音楽。踊ってない夜を貴方は知らないのです。
何が何だか分からなかった現地人も、突如踊り出す貴方に次第に釣られていき、1人、また1人と踊り出し、いつしか武器を捨て皆で踊り始めるのです。
ヤック・デカルチャー。ここまでくると洗脳か何かを疑いますが貴方は至って正気。むしろ狂っていた方が救いがありますね。
踊り終わる頃には貴方達はマブダチ。肩を組んで歩くくらいには仲良くなりました。言葉もわからないままに。
そうして仲良くなったので改めて話を聞いてみると、とある人物の元へ案内してくれました。
そこは掘っ建て小屋もかくや、と言った様子の家。中に入れば、少年が1人。突如来訪した貴方の姿に少年は目を見開き驚いています。
そう、あなたの目的とする人物は彼です。月人のサポートでその場にウィンドウを表示すると、あまりに隔絶した現象に少年は目を白黒させながらも、興味ありげにこちらを観察しています。
ボディランゲージとパッション、そして月人の翻訳で貴方は少年に意図を伝えると、快く同意してくれました。多分月人の翻訳が一番仕事してますけど。
貴方は表示されたウィンドウを少年の元に寄せて、選んでもらおうとします。っと、その前に、これは言わなくてはなりません。今の貴方はかぐやの姿で少しチグハグですが、恒例行事は外せません。
「……出かける前に、そんな格好じゃあ、つまらない!」
パチン、とウィンクを決める貴方をよくわからないまま拍手をする少年は神的にいい人です。貴方はカスです。
そうして、貴方は目的を果たし、少年に自分の事は誰にも話さないで欲しい、とお願いしておきます。何が未来を変えるのかわからない以上、できるだけ貴方の存在が知られるのはマズイのです。少年は理解してくれたようで、頷いています。
それじゃあ、と貴方は再び時間を跳びます。
時間を進め、跳んだ先は、何処かのお屋敷。ガダカタガッシャーン、と調度品をぶち壊しながら落下する貴方。二度目ですが着地はもう少しどうにかならないのでしょうか。
その言葉に月人は首を横に振ります。無理ですかそうですか。
諦めた貴方が改めて周りを見れば、外からの月明かりと、仄かに光る切灯台と呼ばれる油皿に灯された火の光だけが辺りを照らしています。
「──何者か」
ギシ、と踏み鳴らす木床の音が聞こえ、部屋に入ってきたのは背の高い男性。その手には月明かりに反射して光る太刀が。
ひぇっ、と縮こまる貴方を見て、彼は一瞬驚いたものの、何かを悟ったように刀を納めてくれました。
「──其方が、かぐやの想い人か」
そんなふうに、貴方を見て言うのです。ふぁっ!そんな、私は彩葉ではないですよ?と慌てふためき否定する貴方ですが、彼は首を横に振ります。彼の笑みに込められていたのは、納得と諦め、でしょうか?
「天女を思わせる出で立ち、そして彼女の言う通り、周りを引っ張らずには居られない者。じょん、とは其方の事であろう?」
どかりと、壊れた調度品を他所に床に座った彼は、貴方の手を取ります。え、と貴方は驚きます。だって、貴方にとってヤチヨが待っていたのは彩葉だったからです。
とっくに知ってる癖に、今更驚くフリをする貴方は相変わらずカスですね。
「幾度なく彼女が話してくれたわ……なるほど、これは勝てんな」
はは、と乾いた笑いをする彼に、貴方はどうしてか、そうじゃないと否定したくなりました。
彼にとっては遥か未来で。貴方がかぐやの心にずっと残り続けている事を伝えました。
「……そうか、少しでも彼女の重しになれたのなら、それは嬉しい。醜い話だが」
彼女の様に長い時を生きることはできない、と彼は言うのです。
ヤチヨは、ずっと貴方と彩葉の話をしていた、と。ヤチヨの口から語られたものしか知らない貴方にとって、当人から聞かされたその事実にどうにも居心地の悪さを感じていました。
何処まで行っても貴方はカスである。臆病で、逃げ出したくなるほど及び腰なカス。ですが、そろそろ年貢の納め時ではないでしょうか?……いつまで逃げる気ですか。
口にするには貴方は臆病で、向けられた好意を無視するほど貴方は無関心では居られない。
「それで、其方は何用でここに?彼女なら今眠っておるが」
呼ぼうか?と尋ねてきますが、それは断固として固辞します。ここでヤチヨと会ってしまったら、未来でヤチヨの存在がどうなるか分からないからです。
貴方の目的は目の前にいる彼ですから。いつもの如くウィンドウを開き、それを彼に見せます。
「これは……なるほど、彼女が生きる時代にはこれがあるのだな」
彼は、彼女が知るものの一端を知れて嬉しそうに笑うのです。だから、貴方は説明しました。貴方がしようとしている事について。
「……それは、嬉しいな。直接この目で見れないのは残念だが」
それを見た時の彼女が思い浮かぶようで、とても嬉しそうに、楽しそうに彼は笑いました。自分の事はヤチヨには内緒にしてね、と頼んで貴方はいつものセリフを言います。
──出かける前に、その格好じゃあ、つまらない!
そうして、貴方はさらに時を進めた先に跳びます。次に貴方が付いたのは、戦火散る時代の真っ只中。木々が燃えて、梁がゴトン!と燃えながら落下してくる城の中でした。
アチアチ!と火の粉が髪につきそうで慌てふためく貴方は、目の前にいる女性に気が付きます。
「其方は──」
驚いた様子を見せた高貴な着物を纏う女性。その柄には豊臣の家紋があしらわれていました。そんな彼女は貴方を見るなり袖を片手で捲り
「ふんっ!」
女性の手から放たれたビンタが貴方の頬を撃ち抜き、アバーッ!?と地面を転がる貴方。
「ふん、スッキリしたわ」
なんと強気な女性か。ふんす、と腕を組み此方を見下ろす姿には何処か怒った時の彩葉を思わせるものがありました。
「その姿、彼女が言っていたじょん、なる者であろう?」
何故か説明もしてないのに此方の正体を即座に見破り、その上張り手までしてきたのはこの人が初めてです。いいぞもっとやれ。
「何故彼女に逢おうとせん!お主に逢いたくて彼女はどれだけ泣いていたと思っておる!」
何故か貴方は憤怒の表情で此方を睨む女性に正座させられています。
貴方だって、彼女の想いを知らない訳ではありません。しかし、自分にその価値が、受け取るだけの資格があるのかとずっと考えていました。貴方はカスですから。
しかし、それを告げた所、彼女は呆れた様にため息を吐きます。燃え盛る城で今にも命が尽きようという女性のする表情にはとても思えません。
「全く……面倒な者を友にしたものよ、彼女も。いいか、よく聞け」
好意とは厄介なもので、そこに性根の善悪など関係ない。一度好いたものを手放すなど出来はしないのだと。
性根の善悪ではなく、行動の良し悪しで好意が決まる。どんな理由にせよその責任くらい果たせ、と女性は憤りながら告げました。
逃げようもないくらい正面からの言葉に、貴方は返す言葉を持ちません。
「はやく会って安心させてやらんか、全く……それで、何用じゃ」
もう時間もない、と燃え盛る城内を指差す彼女に貴方は気を取り直し、説明しました。
そうして、貴方が見せたウィンドウに。
「彼女が言っておったのはこれか……なるほど、これが未来であれば、日の本は安泰かもしれんな」
彼女は少し笑いました。
──出かける前に、そんな格好じゃあ、つまらない!
もう少し先へ、と時間を再び飛ぼうとした貴方ですが、タイムリミット。一度元の時代に戻る事にしました。月人にお礼を言い、貴方はツクヨミから現世へと戻れました。残りは後日という事ですね。
アバターボディを起動し、周りをキョロキョロと見回しますが、特に変わった様子はなく、いつも通りの貴方の部屋です。
「ジョンー!いるー!?」
ふぅ、とバレてないことに安心したタイミングでノックもなしに大声で貴方を呼びながら扉を開けるかぐや。
シュワットッ!?と肩をビクン!とはねさせた貴方は心臓が嫌な跳ね方をした様な気がしました。
「……?ジョン、どうかしたの?」
そんな貴方にかぐやは首を傾げます。貴方としては良い加減ノックくらいはして欲しいと思いながらなんでもない、と首を横に振ります。それより何か用があったのではないか、と尋ねてみれば、思い出した様にかぐやは貴方の手を取ります。
「そうそう!復活ライブの細かい日程が決まったから、打ち合わせとかリハーサルとか!ジョンにもやってもらう事が沢山あるんだよ!」
かぐやが言わないと絶対自分から関わろうとしないでしょ、と彼女は貴方の目を見て言います。ぐぅの音も出ない正論です。貴方は隙あれば逃げるつもりでした。
その辺を理解しているかぐやが貴方を逃すはずがなく、爛々と楽しさだけを宿した瞳が貴方を捉えて離しません。
「今日は打ち合わせ!オタ公達とライブの段取り決めなきゃ」
オタ公、オタ公さんかぁ……と渋い顔をする貴方。それもその筈。貴方とオタ公との繋がりは無いに等しいですが、一度だけ直接顔を合わせたことがあります。
よりにもよってヤチヨの姿で実況席に連れて行かれたあの時です。その場を誤魔化すことに必死だった貴方は彼女に苦手意識があります。
というか、相手は貴方を知らない筈なので会ったところで「何処の馬の骨だ?かぐやいろPの間に挟まってんじゃねぇぞゴラ」くらいの事は言われそうで怖いのです。オタ公はかぐやいろPチャンネルのガチファンなので。
なので、今にも連れて行きそうなかぐやに一度待ったをかけた貴方は、クローゼットを開きます。相変わらず家具が全然無い貴方の部屋ですが、クローゼットの中身は充実しています。色んなコスプレ道具が所狭しと並ぶ中から取り出すのはかぐやの衣装with外でお忍びする時の私服verです。
これを着てかぐやと並べば双子だと思われるレベルで似ています。これでかぐやいろPとは関係あるんです〜、というツラで紛れ込む算段です。相変わらず変な所で頭が回るカスですね。
そうして、何処かのオフィスに連れて行かれた貴方がオタ公と対面した時。
──あぁ、貴方がジョンさんですね?
知ってたんかい!と全力でかぐやにツッコミましたとさ。
カス
相手の気持ちに気が付いてない訳じゃ無い。でもそれを受け取る事を怖がって逃げてる。
かぐや
んー?また何か隠してる?でもこういう顔した時のジョンは何かやろうとしてる時だし……
ヤッチョ
懐かしい夢を見た気がした。
忠犬オタ公
あ、話はかぐやさんから聞いてますよ。突如の新解釈に脳破壊されかけたけど推しが幸せならOKです。それにかぐやさんにめっちゃそっくりだし、姉妹なのかな?と考えた。