今日の貴方はご機嫌です。普段は飲まないすごく高いお酒に手を出すくらいご機嫌です。最初は加減して飲んでいましたが今はそのブレーキなど見るも無惨なガラクタへ。ふわふわと気分のいい貴方は徐に飾っていたコスプレに手を掛け、もそもそと着替えます。
何故そんな、と思うかもしれませんが酔っ払いのする事に理由を求めても仕方ありません。豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまうくらい無茶な事ですから。
「どちらにしよーかなー」
カラカラと氷しか残っていないグラスを揺らしながら指差す貴方が選んだコスプレは、かぐやのもの。相変わらず気持ち悪いくらい似合っていて、酔いも相まってテンションはかぐやそのもの。
さぁ、冒険だー!と訳のわからない事を言い出して玄関の扉に手を掛けた貴方は数ヶ月ぶりのあの、ヌルリとした感触が全身を包むのを感じます。しかし、酒カスの貴方には無問題。
しかし、今回はとびっきりの異世界。ツクヨミでもない、殺風景な場所。空には銀河があって、目の前には視界に収まらないほど大きい、青い青い星がありました。地球と呼ぶその星を理解しているのかしていないのか
「おー」
と、気の抜けた声を漏らすだけの貴方は歩を進めます。すると、白いタイツを全身に着て提灯みたいなものを頭に被った変人がたくさんいました。変なやつだなー、と変なやつ代表みたいな貴方が言いますが相手にそれが伝わっているのかはわかりません。
しかし、数いるその白タイツ達は皆こちらを見る事なくただひたすら同じ事を繰り返してるだけで、見るだけでうんざりするくらいつまらなそうでした。ペチペチと貴方は白タイツの頭を叩いています。
「そうだ!」
貴方は思い付きます。以前ツクヨミでアイテムをそれらしく取り出せたので同じようにラジカセを取り出します。
「どれにしよっかなー」
数あるカセットを見ながら悩む貴方は少し考えて、その中の一つを取り出しました。そうして挿入し、再生ボタンを力強く押すと、力強いリズムが周囲に響き渡ります。
「さぁさぁ踊ろう!!」
ドン!と効果音が出そうな勢いで両拳を上へと掲げる貴方は踊り出します。踊るより前に貴方は尾田栄一郎さんに土下座したほうがいいかもしれません。
白タイツ共はそんな貴方と静寂な場所に突如鳴り響く音楽に何事かと慌て始めてこちらを見ます。
──思ってるだけで行動、きっとNight音楽も踊る
一定のリズムを刻みながら踊る貴方は、恐る恐ると言った様子でこちらを見る白タイツ達の首根っこに腕を回し強引に踊らせます。
「違う違う!こう!」
なんならダンス指導も始めました。そうこうしてるうち、その場はまるでディスコ。白タイツ達も音楽に合わせてぎこちなく踊り出すのです。
──踊ってない夜を知らない人とかこの世に一人も御座いません
──踊ってない夜を知らない、踊ってない夜が気に入らない
もはやそれは大きな波となって、その場にいない者達まで集まり始めました。
「え!?なにこれ!?」
その中には、自分そっくりの顔をした平安のお姫様が目を白黒させながら襖の向こうから顔を覗かせていました。
それを見た貴方はまた「うるせぇ!踊ろう!」とばかりに巻き込み、音楽が終わるまで踊り続けます。
──踊ってない夜がない夜なんて、とってもとっても退屈です
お姫様も白タイツも、その意味も知らないまま踊っていて、何処か楽しいと感じている様子。音楽が終わる頃には、息を切らして大の字で寝そべる貴方と、楽しそうに笑うお姫様がいました。そんな貴方にお姫様は貴方は誰か、と尋ねます。
しかし、酔っ払いの貴方がそんな質問に真面目に答えるはずもなく、ジョン・スミスと名乗ります。そんな貴方のふざけた発言にも純粋なお姫様は嬉しそうに名前を呟き、貴方の手を引っ張ります。
それからどれくらい時間が経ったのか。色んなことがありました。騒ぎを聞きつけた責任者の白タイツ上司にアームロックで拘束された貴方を
──がぁぁぁぁ!!?
──それ以上いけない
と、姫様が止めてくれたり。何か歌ってー!とねだられる事もありました。しかし、そんな時間も不意に終わりを告げます。酔いが覚め始めた頃、ほわほわだった貴方の意識がようやく目覚め掛けた時です。姫様は貴方がいなくなる事を察したのでしょう。
ヤダヤダと駄々をこねて腕にしがみ付くのです。面のいい姫様にしがみつかれてめんどくせーと内心思ってる貴方は間違いなくカスです。
「ならこれ、あげる」
代わりに貴方は自分が頭に着けていた三日月の髪飾りを姫様の頭に付けてあげました。
「うん、よく似合ってる」
誰かに似てるなー、誰だっけ?なんて呟く貴方に、姫様はまた会えるか?と尋ねます。
「どうかなー?」
適当に言いながら、空に見える青い星を見ます。
「あそこ、地球の……あ、多分あそこ」
自分の住む日本列島らしき場所を大雑把に指差す貴方は、あそこに居るから会えたらいいなー、と。姫様は何度も確認して、分かったと呟きました。
そうして、貴方は目を閉じて、目を覚ました時には自室の布団の中でした。
すっきりとした気分で酔っていた時の記憶はすっ飛んでいて居ましたとさ。
むかーしむかし。あるところに社畜バリバリの限界系お姫様がいました。彼女は特別で、無感動に動き続ける周りとの差異に苦しみ、何処か逃げたいと考えていました。
しかし、仕事を投げ出す訳にもいかず、きっかけのないお姫様はうんうんと悩むばかりでした。そんな日々に異変があったのは突然だった。
単調な音だけが支配する月で、聞いた事もない音が聞こえて来たのだ。最初は気にしないように努めていた姫様は、ずっと聞こえてくるそれにとうとう我慢が出来なくなって、部屋をのぞいてみる事にした。
──なにあれ
月人達が、見た事ない人と一緒に踊っていた。余りの予想外な光景に思考が追いつかない私はポカンとした表情だったと思う。そんな私を見つけた彼女は、私の手を掴んでそんな輪の中に引き込んで。
「踊ろう!」
と、強引なまでに引き込まれた私は真似するように踊ってるうちに、なんだか楽しくなって来ちゃって。
「あはは!」
生まれて初めて、心の底から笑えた気がした。
それからの数週間は楽しかった。大勢の月人を連れてボーリング?っていうのもやってみたり、ただ速さを競って走ってみたり。全てが新鮮で、退屈だったはずの月がまるで初めての場所みたいだった。
だから、彼女が居なくなるってわかった時は怖かった。もっと居たいって伝えても、彼女は曖昧に笑うだけ。まるで幼子を宥めるみたいな笑みが妙に不満で。私は彼女を押し倒した。少し驚いた様子の彼女が、ようやくこちらが本気だと悟ったようで。
「困ったなぁ……」
怒ってくれたら良かったのに。突き放してくれたら諦めもつくのに。彼女は困り顔で楽しげに笑うだけ。私の長い髪が簾のように周りを覆って、その中には貴方と私だけ。ずっと閉じ込めてあげようか、なんて薄暗い考えが過ぎる。
だけど、思いついたように自分の髪につけた髪飾りを外して、私の頭につける彼女がその考えを晴らしてくれた。
「うん、良く似合ってる。でも何処かで見たような気もするなぁ……」
本気でそう思ってるみたいで、嬉しそうに笑った。そうして、彼女は言う。
「うん。また何処かで会えたらさ、それ返してよ」
それまで預けておくから、と。もう会えない、とは彼女は言わなかった。
素直にまた会おうと言えない彼女の精一杯の約束。
「また、会える?」
これが全て夢で、楽しかった日々は全て幻だったりしないか。目が覚めたらあの退屈な日常が戻ってくるのではないか。そんな不安が私の声を震わせる。
「どうだろ……地球は広いしなぁ。多分あそこかな?私が居るのは」
そう言って指差す青い星に浮かぶ陸地。場所は覚えた。必ず、会いに行こう。そしたら今度はもっと楽しい事をしよう。と私は決意する。地球はこことは違う。向こうでの肉体の最適化に伴って記憶も失うかもしれない。それでも。必ず会いにいく。そう約束して、私は彼女を見送った。
カス
酔っ払って大暴走。大事なところでちゃんと踏み止まれる系の分別がつくカスだったのに今回はノーブレーキ。
それでいてかぐやトレースはかなりの精度で否応なく周りを巻き込むあの性質も真似してるタイプのカス。
月人
ひたすら巻き込まれた被害者。とは言え途中から楽しくなってきて一緒になって馬鹿騒ぎしてたので共犯者でもある。
上司のコンゴウ型月人はキレていい。もうキレてカスを卍固めにしたりアームロックしてましたね。
かぐや姫
退屈で退屈で、死にそーってなっていたところにきた劇薬みたいなカスのせいで色々歪んでしまった人。退屈から君を救いに来たんだ、と言わんばかりのパワープレイに脳をこんがり灼かれてます。
なお、この後もと光る竹で地球に向かっても約束した人はいない模様。マジであいつカス。