あれから貴方はシームレスに超かぐや姫の世界と行き来出来るようになっている事に気がつきました。また遊びに行くのもいいですが、そこで貴方は一ついい事を閃きます。
──向こうで金稼ぎできるんじゃね???
と。発想がパチンコ沼に浸かるダメ人間みたいなカス思考ですが、ちゃんとした道筋が貴方の脳裏には完成されています。
ツクヨミ内で稼いだ『ふじゅ〜』は現金として使うことができます。作中でヒロインが稼いだふじゅ〜で高層マンションに引っ越ししていました。
つまりふじゅ〜を稼ぎ、それで物品を購入して自分の世界で売却。これには貴方も勝利の法則は決まった!とドヤ顔です。これを思いついた貴方は自分が天才だと確信した事でしょう。
ですが、あの、それマネーロンダ……いえ、言っても貴方は恐らく聞かないでしょう。故に貴方はカスなのです。貴方は毒の塗られたナイフを相手に自慢しながらナイフをペロペロと舐めますし、殺された親友の姿で焔の錬金術師に襲いかかる系のカスです。
そんな目的を持ってツクヨミにいる貴方の姿ですが、珍しくコスプレをしていません。というのも、ふじゅ〜稼ぎにコスプレを使うのは、どうにも不純というか、不義理な気がして使う気がしなかったのです。
妙な所で真面目になるくらいなら最初からそうして欲しいものですが、随分と今日は大人しい。それもその筈。貴方は内弁慶とか呼ばれる類のカス。コスプレをすると気が大きくなるタイプです。
いつものようにゲリラ路上ライブをする気分ではない貴方が選んだのは、『KASSEN』と呼ばれるゲームの中で1対1モード。作中において大変な人気を誇り、プロゲーマーもこぞってやるほどのもの。貴方は数々のMOBA系ゲームにて煽り行為でBANされた経験があります。これほど適性のあるゲームもないでしょう。
武器も様々。よりどりみどりなそれらを見て、これも良さそう、あれも良さそうと服屋で悩む主婦の如く考え、最終的に面倒になって全部使うという選択をしました。
始めたてで、誰が相手になるのか。ワクワクしながらマッチングを開始すると数秒でマッチします。ピコン、と接続された事を知らせる通知音と共に、視界に映る風景が切り替わっていきます。
「すご……」
自分の世界でもこんな風には出来ない。流石ヤチヨの技術力、と驚きを隠せない貴方でしたが、その視線の先には、一人の対戦相手が既に佇んでいました。
赤い髪に肌露出の大きい服装。そして髪の間から生える鬼の角。もしかしなくても、超かぐや姫に出てくるメインキャラクターの一人でしょう。うっわ、めんど……と少し気後れする貴方ですが。
「見るからに初心者って感じだな。ほら、怖くないからどっからでも来な。俺の胸を貸してやるぜ、子猫ちゃん?」
等と言われて貴方はカチンと来ました。煽るくせに煽られる耐性ゼロの貴方は『ヒダリデウテヤ』と挑発された野球選手の如く怒り狂い、野郎オブクラシャー!!と突撃します。
ですが、ひらひらとかわされては手加減された攻撃がジワジワとこちらの体力を削っていきます。それでも貴方は怯む事なく攻撃を重ね、なんとか一撃を入れる事に成功しましたが、そこが限界。倒されてしまいました。
相手に楽しかったとか、またやろうとか言われましたが疲れたので適当に返事して貴方は帰りました。しかし、何故かふじゅ〜がプレイ前と比べて凄く貯まったのでホクホク顔で買い物をしていました。
高校生活を謳歌する傍ら、趣味兼仕事としてゲーム配信をしていた彼は夜も更けてそろそろ止めるかー、とコメント欄にいつものように締めの挨拶をしようとしていた。
その時、マッチングした事を示す通知音が響いた。
「ありゃ、タイミング悪いな」
しかし、マッチした後で切断というの憚られる。じゃあこれをラストにするか。そう判断し、緩めていた手に、再び力を込める。
そうして、マッチングした相手は見るからに初心者だった。マッチしたのに全然構えてないし、その姿は隙だらけ。しかし、それを一方的に打ちのめすというのはゲーマーとしても、個人としても許せない。どんな界隈も新規が入らなければ廃れていくだけ。
「見るからに初心者って感じだな、ほら、怖くないからどっからでも来な。俺の胸を貸してやるぜ、子猫ちゃん?」
昔は羞恥心もあったが、配信としてのキャラ付けに慣れて今では澱みなくキザなセリフを言えるようになった俺の言葉に、向こうは即座に腰に差した刀を引き抜き、跳躍しながらこちらへと刃を叩きつけるようにぶつけてくる。
「は、いいねぇ。威勢のいい子猫ちゃん」
──ハ?ブッコロ
鋭い視線が交差する。こちらに対する敵意が体を叩く。このヒリつく感覚こそが自分の求める楽しさの全て。目の前の彼女は有望だな、と笑みを深くするが、向こうはそれを余裕と受け取ったようで、更に攻撃が苛烈になっていく。
「だけど──」
勢いだけじゃ倒せない、そう呟きながら自らの武器、攻撃を受け止めた金棒に納められた仕込み刀を抜き放ち、一閃。それで終わる。初心者を相手にした時の必勝パターン。
「な──!?」
しかし、そうはならない。片手に持った刀とは別に、身の丈を超えた十文字の大槍を片手で振い、こちらの攻撃の相殺に成功したのだ。
「ははっ!」
──なにあれ!?
──バカデカい槍だ!
──あれ扱い難しいんだよな、かっこいいけど
配信のコメント欄が急展開に加速する。
それを横目に楽しげな笑みが、より好戦的になっていく。一刀一槍。変則的な二刀流。その扱いの難しさは初心者にだって分かるはず。しかし、一旦距離を離し、刀を正眼に、槍を肩に担ぐように構えたその姿は中々堂に入っている。
向こうが迫る。刀の細かな攻撃を捌き、その隙間を縫うように振るわれる、遠心力を伴った槍の振り回し。隙だらけのように見えて、実に嫌らしい。
「ほんとに初心者?すげーよく考えられてるじゃん」
刀による細かい攻撃と、ゆったりとした腕の動きから放たれるディレイの入った槍の一撃。そのコンビネーションは攻めづらさを感じさせた。
しかし、俺はプロゲーマー。この程度で根を上げてちゃ話にならない。確かによく考えられているが──
「守りにゃ不向きだろそれ!」
金棒で刀を弾き、その隙を狙う槍の一突き。体をずらし回避。振り戻そうと引っ張る槍の長い柄を足で踏みつけて地面に突き刺し固定。そのまま仕込み刀で相手の片腕を切り落とした。
ゴア表現を規制した、血の代わりに桜のエフェクトが飛び散る。
「俺の勝ち──」
勝利宣言する寸前。桜のエフェクトに紛れてギラリと、光が奔ったと思った時にはもう遅かった。
ズドォン!!と激しい銃声と共に自らの腹から桜のエフェクトが散った。
「は──やるじゃん」
派手に散った桜のエフェクトを目隠しに利用して、刀に仕込まれた散弾銃でゼロ距離射撃をかましたのか。とようやくその時理解して、思わず相手が初心者という事を忘れて賞賛の言葉が漏れ出た。
──すげぇ……ほんとに初心者?
──いやいや、まぐれでしょ
──でも、武器の変形機能を最後まで残してたのはセンスあるよ
コメント欄は予想外の展開に盛り上がりを見せていた。
しかし、一矢報いたと言えど勝ちは勝ち。大きく表示されるwinnerの文字。お互い向かい合う形でゲームは終了。武器の装備を解除して俺は彼女を称えた。
「君、初めて?才能あるよ」
「……あ、うっす」
人見知りなのか、攻撃の苛烈さとは裏腹に彼女の声は小さかった。まぁ、狐のお面をしてたりとあまり露出をしたくないのかもしれない。
「始めたばっかで何もわからないかもしれないけど、楽しかったろ?」
勝ち負けは重要だ。だけど、ゲームは楽しいからやるものだ。初心者の彼女がその楽しさを少しでも感じてくれたなら、それは何よりも俺にとって嬉しい事だ。
「まぁ……そうですね、楽しかったです」
「だろ?またやろうぜ、今日はもう無理だけど」
考えときます。そう言って、彼女はお辞儀して退出しようとする。その前に。
「あぁ、待ってくれ。俺は帝アキラ。ブラックオニキスってグループの──」
「知ってます」
「そうか?まぁ俺様も有名だからな……それで、君の名前を教えてくれるかい?」
少しキザに尋ねる。その言葉に彼女は少し考えて
「そうですね……翁。──翁って言います」
女の子がつけるには少し渋い名前だ。俺は手を差し出し、彼女の手を握る。
「そうか、翁か。また、会おうぜ?俺が夢見させてやるからさ」
ファンサービスするように、パチンとウィンクしながらそう言えば、狐のお面の奥の彼女は少し笑ったような気がした。
翁のカス
この後計画通り自分の世界で売っぱらってある程度の資金をゲットする事に成功。うーん、グレーゾーンのカス。アキラの言動がキザすぎて半笑いしてたカス。
名前は適当な思いつき。なーんでかぐや姫のキャラクター名そのまんま使うかなー。どう見ても意味深やろがい。
帝アキラwith酒寄朝日
将来が楽しみになりそうな初心者を見つけた。ごめんなさい、そいつカスなんで近づかないほうがいいっすよ兄さん。
ヤチヨ
うぇっ!?なんかツクヨミ内でバグ発生率上昇してるぅ!?な、なんで!?修正大変なのにー!
がんばれヤッチョ。お前がナンバーワンだ。
ちなみに彼女のサーバールームには色のくすんだ髪飾りが大事そうに飾られている。一日に一回は見てるらしいっすよ、なんでやろなぁ