そろそろ原作、超かぐや姫がスタートするところまで来ました。ヤチヨの握手券付きミニライブが間も無く始まる、というところです。
そんな中、貴方はツクヨミの道端の路上でいつもの如くヤチヨのコスプレでサングラスを掛けラジカセを肩に担ぎラップに勤しんでいました。
「joyが攘夷!」
ズラじゃないヤッチョだ、とふざけ倒す貴方でしたが、貴方に原作をどうこうしようという意思はありません。どうせこの世界で遊べるなら、と遊んでいましたがそれはあくまで本筋に関わらないからです。できるだけ近いところで原作のあれこれが見れるならいいな、程度で観客気分の貴方ですが、ようやく目的のものが見れます。
既に色々やらかしてるのに自覚がない貴方は相変わらずのカスです。出来立てのラーメンを人の頭にそぉい!するし、漫画のセリフ誤植をやっちゃったぜ☆と言っちゃう系のカスです。
彩葉とかぐや。初めてツクヨミにログインする瞬間です。ツクヨミの入り口から大通りを歩く姿を確認しました。周りのユーザーにヤチヨの分身の一人だと勘違いされている貴方は適当に繕ってその場を離れ、ヒラヒラとライブ会場へと向かいました。
チケットのない貴方に入る権限はありませんが、ツクヨミにいる貴方は例外です。仮想空間に生身で居るというバグみたいな存在故、そういった制限を抜けられるようです。
──ヤオヨロ〜!神々のみんな〜、今日も最高だったー?
そんな挨拶で、ライブが始まった。映像でも見ましたが、肉眼で見る本物のライブの迫力は凄まじく、貴方はそれを会場の外周、その縁に座って見ていました。本来誰も立てない未踏領域にいる貴方を見る者はいません。つまり特等席ですね。
──楽しい事、悲しい事、それぞれあったかな?
おや?と貴方は首を傾げます。こんな挨拶あっただろうか。いやしかし、全てが同じとは限らないし、原作で描写されなかっただけかもしれない。そう考え直す貴方です。
──でも、きっと楽しかった記憶が、貴方の背中を押してくれると思うよ〜。今日のライブがそうなれたなら、ヤチヨは嬉しいのです。
そう言うヤチヨはニッコリと笑いました。
──幾千の時を巡って今、僕ら出会えたの
歌い始めたヤチヨ。キラリ、と彼女の頭に飾られた三日月の髪飾りが幻想的な魚群の中で反射していました。
そんな細かい事に気が向く事はなく、リアルライブに興奮する貴方。ここにペンライトがあったなら華麗なオタ芸を披露していた事でしょう。しかし、時間は短い。すごく長く感じられたライブも観客の歓声を受けて、その終わりを告げていました。
ヤチヨカップの開催と、ブラックオニキスの乱入イベントを生で見た貴方は大満足。うんうん、こういうので良いんだよ、と後方腕組み面をしている貴方。
──ヤチヨぉぉぉぉぉおおお!!
かぐやの大声がここまで響いてきました。いとかわゆし。これにはニッコリの貴方とヤチヨ。そんなこんなでライブはお開き。分身を召喚するヤチヨに、貴方はヤベッ、バレる!と急いでその場を退散しましたとさ。
待ちに待った三連休。限界ムリムリ系高校生彩葉はようやく長い睡眠時間が取れる事に涙するほど嬉しがっていましたが、突如現れた宇宙人によってその予定は木っ端微塵。しかし一度決めた事を投げ出すこともできない彩葉は疲労とか諸々で乾いた笑いしかでません。
「あなた、どこから来たの」
そう尋ねてみれば、いたって当たり前って顔をした宇宙人は窓の外に見える満月を指差します。
「はー……その宇宙人が何しに地球に来たの。侵略?」
「うーん、よく覚えてないんだけど。毎日つまらなくて、楽しいところに逃げたいって思った気がする。ここには友達もいるし」
友達、友達と来たか。ならさっさとこの宇宙人を引き取ってほしいものだと心底思う彩葉。
「友達って……誰よ、宇宙人の友達?」
「ジョン!ジョンって言うんだ!私の友達!探しに来たんだ」
ジョンって……ここ日本だよ?明らかな外国人ネームじゃん。来るなら日本じゃなくない?
「──大事な友達なんだ」
そう言って、宇宙人は柔らかな笑みで自らの頭についている三日月の髪飾りに触れた。
「ふーん……」
なんだか、本当に大切そうで。それ以上深掘りするのはやめておこう、と彩葉は話を変えた。その話はお隣から壁ドンされるまで続く。
それから彩葉にとって一生を変えていく物語は始まったのでした。
「──太陽が沈んで、夜がやってきます」
ツクヨミ内に入ってかぐやを最初に迎えたのは、そんな言葉だった。果てしなく続く浅い湖と、大きな赤い鳥居。水面には灯籠が幾つも浮かんでいた。
「あ、ヤチヨ!」
指差す私を、ヤチヨは笑顔で私の手を握った。そうして、鼓膜に風が吹かすような涼やかさで
「──出かける前に、その格好じゃつまらない!」
と、キャラメイクウィンドウへと誘導するのだ。ほほう、と目を輝かせて自分の感性に従うままに服装、髪型を決めていって、そうして完成した自分の姿を鏡代わりのウィンドウが表示してくれて、息を呑んだ。
「これ……」
同じ服、同じ髪型。我ながら活発そうな瞳に何もかも吹き飛ばしそうな笑みをすればあの日のジョンがそこにいた。
「ヤチヨ!もしかしてここにジョンがいるの!?」
もしかして、と期待を込めてそう尋ねてもヤチヨの笑顔は変わらない。いや、楽しそうなものから憂いを帯びたものになったような気もする。
「それは分からない、かな。でも大丈夫。きっと彼女の残した足跡が貴方の道を照らしてくれるから」
なにそれ、と言うよりも早くヤチヨはこちらの手を取って引っ張り、鳥居の中へと投げ込むのであった。
「──いってらっしゃい、かぐや」
一人残った鳥居の前で、ヤチヨは微笑んでいた。
カス
原作が始まったので干渉せず外から眺めよーってツラでのほほんとしてるカス。既に観客じゃない事を理解してないカス。一回ヤチヨに土下座した方がいいよカス。
かぐや
友達を探しに来た。でもそれはそれとして楽しい事もしたいし彩葉とハッピーエンドに行きたい。どんな時も三日月の髪飾りを外す事はない。
ヤチヨ
さぁ輪廻の始まり。でも既に不安要素はたくさんあって大丈夫か心配中。それ全部カスのせいだから気にしなくて良いっすよ。
最後の最後、視線を感じてライブ会場の外周に目を向けたけどそこには誰も居なかった。