花火が激しい閃光を撒き散らし空に咲いた。でも、それを楽しそうに見つめるかぐやの瞳の方が私は綺麗だと思った。
言うべき言葉が、見つからない。いや、言うべきじゃない。私が言いたい言葉。でも、目の前のかぐやにどう言ったらいいのか、私には分からなくて。
「月ってさ、味も温度もなくてまぁじつまんないの。決められた役割をずーっとこなすだけ」
不意に、打ち上がる花火から目を離さずかぐやは語った。コロコロと変わる表情には嫌だーっていう嫌悪であったり、それでいて懐かしさも、哀愁もあった。
「……そう、なんだ」
そんなかぐやに私は気の利いた返事も返せなくて開く口ばかりが重くなっていく。
「こっちでいえばゲームのNPCみたいな感じでさ、真似っこすら誰もしてくれない、終わったら始まって、始まったら終わる。その繰り返しで」
新しいものなんて一つもない。そうかぐやは月での生活を語るのだ。全然想像なんてつかなかった。
「そもそも、そんな事におかしさを覚える事自体が異常でさ。かぐやだけ浮いてた」
そんな事言わないでよ。そんな笑顔で言われたって笑えないよ。
「寂しい、退屈、死にそう、どこか行きたい。そんなふうに思ってたらさ、ある日突然歌が聞こえたの」
……歌?
「退屈なんて知らないって、笑い飛ばすような歌。なんだなんだ?って歌の聞こえる方に向かってみたら、居たんだ」
周りを巻き込んで大騒ぎしてた人。気がついた時にはあれだけ無機質だった月の人達は輪を囲んで踊ってた。
「私ね、生まれて初めて腹の底から笑ったんだ」
つまんないって感情はあったのに、楽しいって感情を知らなかったの。疲れ果てて地面に転がりながら、あぁ、これが楽しいって事なんだって初めて知ったんだ。
「……前に言ってた、友達?」
最初の頃に言っていた、ジョンという友達の事。そう言えば、どんな人なのか私は聞いた事が無かった。
「どんな人だったの?」
「……優しい人だったよ。いっつも笑ってこっちのやりたい事に付き合ってくれた。それでいつの間にか向こうのペースに巻き込まれてこっちが疲れちゃうの」
私より破天荒で、彩葉も私より振り回されるんじゃないかな。
「でも、今はいないんでしょ」
ずっと探してた。ツクヨミも、現実も、私も巻き込まれて。でも一回も見つからなかった。
「うん。数週間くらいかな。それっきり消えちゃった」
「なにそれ、酷いね」
そこまでしといて、無責任に消えるなんて。と私は思った。
「酷いよねー」
たはは、と少し寂しげに笑うかぐやはしかし、自身の頭についた髪飾りにそっと触れた。
「それ、ずっと付けてたよね」
赤ん坊の頃から手から離さず持っていた髪飾り。三日月をあしらったもの。
「うん。友達がくれたの。預けるから、また会えた時に返してくれって」
「じゃあ……」
約束。かぐやがいつも言っていた言葉の意味を私はそこでようやく理解した。
「じゃあさ、まだまだ探さなきゃダメじゃん」
世界中なんてまだまだ広くて、探すところなんて山ほどある。
「そうなんだけどね」
「……帰っちゃうの?」
「うん」
あれだけ重かった言葉は、口に出してみるとあまりに軽く、そうして帰ってくる返事もまたあっさりとしていた。
「いやー、月の仕事放り出して来ちゃったからさ。強制送還的な?あはは」
かぐやの苦笑いに被せるように、一際大きい花火が打ち上がる。そんな花火を目で追いかけかぐやは言う。
「……かぐやは、かぐや姫だったみたい」
次の満月に、お迎えが来る。かぐやは言った、
「また、逃げたらいいじゃん」
気がついた時には口から言葉が出ていた。それは雪崩みたいに崩れてポロポロと。
「かぐやは、かぐや姫じゃないよ。もっとハチャメチャで、めちゃくちゃ。お伽話とは違うじゃん!」
友達だってまだ見つかってない。いつもなら子供みたいに泣き喚く暴れたらいいじゃないか。それが、私の知るかぐや。いつの間にそんな──
「そんな、ハチャメチャなかぐや姫にも迎えが来ましたが、最後の日までめちゃくちゃ楽しく過ごしましたとさ。って、そんな感じでいいじゃん?」
これが私のエンディング。楽しく運命に向かって走ってく。きっと友達ならそうした。だけど、それは。
「そりゃあ、かぐやだってもっともっと彩葉と歌いたかったよ。新しい曲だってたくさん、お迎えがくる日にライブだってやりたい。ジョンに会いたい」
だったらそうすればいいじゃん。だけど、そんな言葉はかぐやに届かなくて。受け入れて覚悟してた。
「もう、おうちに帰らなくちゃ」
そんな寂しそうに言わないでよ。でも、それがかぐやの気持ちなら尊重しなくちゃ、なんて思うのに、胸が苦しくなるばかりだった。
私は知り合いを全員ツクヨミ内で集めて、説明した。これまでの事。そしてかぐやが月へ帰ってしまう事も。
信じてくれるのか、という所から心配してたけどそれは杞憂で、皆すんなりと信じてくれた。かぐやを守る。その意思で一つになった私達はそれぞれが作戦を立て話し合って決めた。
最後まで足掻く。その決意を私は固めた。
「あ、なら一人誘ってもいいか?」
お兄、もとい帝アキラがその時手を挙げそう言った。
「別に構わないけど……誰?」
あまり無関係な人を巻き込むのは、と思っていた私だがそれも理解していたのか
「頭数は多い方がいいだろ?それに、彩葉も知ってるぜ」
知っている……?本当に心当たりがなくて眉に皺が出来る。
「それじゃここに呼ぶぜ」
少しして、この場に現れたのは──
「どうも、初めまして」
狐のお面に、紺色の着流し。その姿を私は知っている。
「あ……」
以前戦ったことのある人だ。あの時は凄い、なんというか、癖があったけど。
「こいつの実力は保証するぜ、こっちの事情もあんま気にしないだろ?」
バシバシと背中を叩かれ咽せる彼女はよろけながら着流しの裾にさっと手を隠した。
「あー、えーっと、翁と言います。どうぞよろしく」
前会った時みたいなテンションではなく、すごくこう、ローテンションな人だった。
「ま、紹介はともかく。後は出たとこ勝負だ。俺らは準備あるから。翁も行くぞ。期間中鍛えてやるから」
「──うぇっ!?」
「乃衣、準備しとけよ」
「えー、あれー?めんど〜」
「リーダーは絶対」
「はーいはい」
いつもの調子を崩さないブラックオニキスのやり取りに少しだけ肩の力が抜けた。きっと彼らはいつもこうなんだろうな、と思わせるやり取りだった。
彼らがログアウトするまで、発言することなくその場に立っていたヤチヨの視線がずっと彼らに向いていたのが少しだけ気になった。
カス
おや?カスの様子が……?
彩葉
絶対阻止してやる!と意気込んでる。かぐやが探してるという友達に関しては友達ならこの状況くらい助けにこいや!と義憤してる。
ヤチヨ
予定調和だった筈のお話に、また想定外が現れた。これが果たして輪廻を崩してしまうものなのか。それを警戒してる。
偽ヤチヨはあれ以来ツクヨミに一度も姿を現していない。いたら説教するつもりでいた。
月人
は?それマジでやるの?上司に怒られるの嫌なんだけどー?