【MMOで〇〇作り】配信で作った川に水竜が住み着いた 作:荼枳尼天
先程見つけた呪われた斧ではなく、ゴブリンが落としたボロボロの鉄の剣を取り出したナナイ。
リスナーから手痛いお叱りを頂いたナナイだったが、今はそれどころではない。
腹部に蹴撃を食らったホブゴブリン。
ダメージはほとんどなかったにも関わらず、虫ケラに反撃を食らった事に腹が立っているのかその表情は般若のように歪んでいる。
「GURURURU」
「……剣術?スキル持ってないけど…やるっきゃない」
見様見真似で、部活紹介の催しの際に剣道部がしていた構えを取る。
:この際、剣が敵に当たればいい
:スキルも無いし
:重量は石器よりあるはずだから気をつけて
「……確かに重い。でも、関係ない…!いくよ!!」
ズシリとした重み。
だが、ドワーフの強みはその重量を十全に扱うためにあるようなものだ。
「…おりゃあああっ!!」
「?!」
今まで避けるだけだったナナイの気迫に押され、ホブゴブリンは両手剣を頭上に掲げ、防御の構えを取る。
だがナナイは武器の耐久度という点でホブゴブリンに遅れを取っている。
武器と武器で競り合わせる訳には行かない。
そして、力押しも意味が無い。
だからこそのフェイント。
上段からの斬り落としはフェイント。
勢いそのままにナナイから見て、胴体の右側を切り裂く。
ナナイの知るところではないが、これは剣道の観点から見れば“逆胴”と呼ばれる技であった。
:技巧派
:通った!
:このまま攻めろ!!
「GUAAA?!」
「まだああああっ!!」
それだけでは終わらない。
切り返し、下腹部を薙ぐ。
2連撃がホブゴブリンの胴体をズタズタにする。
ホブゴブリンのHPが全体の7割ほどまで減少していた。
「GAAAAAA!!!」
ホブゴブリンの怒り任せの唐竹割り。
凄まじい速度の攻撃は回避を許さない。
(死…)
「ぐぅっ!!」
鉄器の耐久度を信じたゴリ押し。
受け止め、瞬時に去なす選択。
膂力の差にナナイの両腕に、一瞬違和感が迸るが天性のセンスで剣を回転。
その暴力的なまでの一撃を直撃を避ける形で去なし、返して切り付ける。
その一撃は肩口に叩き込まれ、傷を付けた。
:はあ?!
:上手い!!
:行ける?!行けんのこれ?!
リスナーの反応に対して、当事者の反応は渋い。
(浅い!)
“返し技”が決まるも、そのリターンが余りにも薄い。
剣へのダメージの方が大きい。
(…なんか、グラグラしてる…)
柄と刃の接合が、ダメージで揺らいでしまっている。
「GIIII!!」
唸りながら、嵐のような振り回しを繰り出してくるホブゴブリン。
流石に、いまのナナイにその攻撃を全てどうにかする術はない。
飛び退き、石を取り出してから【投擲】。
「これでも喰らえ!!」
石が光を引きながら飛び、また眉間に命中した。
ダメージはない。
ないのだが、ホブゴブリンが更に怒る。
:学習してもろて
:また怒ったよ
:まあ、駄々っ子攻撃以外には反応できてるから
「そ、そうそう。あのブンブン攻撃を止めるためにやってんのよ」
「GIAAAAA!!」
大振り、テレフォンパンチならぬテレフォンスラッシュだが、ゴブリンと異なりスピードも威力も乗っているとなると事情が違う。
ナナイにとっての必殺の攻撃を避け、太腿を切る。
HPに変化が出る攻撃だったが、ホブゴブリンは痛みを無視し、怒りに任せて連撃を試みた。
「それ困るっ!!」
両手剣ではなく拳による攻撃だったが、ナナイは直撃を嫌い剣で防御。
膂力の差は埋められない。
そのためバックステップを挟み、可能な限りダメージを減らそうとする。
ナナイは吹っ飛び、ゴロゴロと転がる。
「ぐ、う…」
フラフラと立ち上がろうとするナナイを影が覆った。
「…は?」
「GIHYA」
醜悪な笑みを浮かべるホブゴブリン。
遊びは終わり、そう言うようにホブゴブリンは両手剣を頭上に振り上げた。
「ぐぅっ!!」
振り下ろされる両手剣を狙って、剣を振る。
耐久度がどうとか、それどころではない。
:は?は?
:これだからホブゴブリンは舐めプモードのうちに倒すに限る…
:同レベなら鬱陶しい程度なのに…
死ぬ。遊びをやめたホブゴブリンの攻撃をどうにか凌がなきゃならない。
ガキンッ
ナナイの手から嫌な金属音が響く。
どうにか直撃は免れるが、ナナイに立ち上がる余裕はない。
なぜならもう一撃、ナナイに攻撃が繰り出されたからである。
「やめ、ろぉっ!!」
もう一回、剣を狙って振る。
また凌ぐことができた。
ナナイの隣の地面に両手剣が突き刺さり、土埃が舞う。
そして剣も、柄と刃に分かたれる。
ガランと音がし、ナナイの手の中に柄を残し、鉄の刃が地面に転がった。
:にげ、にげ、逃げられねぇ…
:あばばばば
:このままじゃ…
「っ!」
「GYAHAHAHA!!」
(やばっ…!)
万事休す。
アイテムボックスから、伐採斧や、武器未満の農具達を取り出す時間はない。
両手剣が迫る。
そのとき、フードが動いた。
:は?
:え?!
「きゅ〜!」
(だ、だめ)
カーバンクルが、フードから飛び出しナナイの目の前、両手剣の剣線に躍り出た。
小さな身体で両手剣を受け止めようとしているのは、ナナイにも理解できた。
時間が引き伸ばされる感覚。
(それ、それだけは、だめ、ダメっ!)
選択を迫られる感覚。
そして、ナナイの選択は簡潔だった。
左手でカーバンクルを受け止め、小脇に抱えて右手をアイテムボックスに突っ込む。
「きゅっ?!きゅ〜!!」
ナナイにも分かっていたはずだ。
アイテムボックスから武器を取り出す暇は、ない。
「が、ふ…」
「???」
ホブゴブリンから見れば、それは奇怪な行動に見えた。
ナナイの身体に両手剣が埋まっていたからだ。
死ぬことはもう確定している。
このメスはもう死ぬ。
なのに、ネズミを守り、もう片方の手は魔法の穴の中。
なぜ?
何をしようとしている?
肩口から身体の正中線にかけて、ナナイの身体は切り裂かれポリゴンの欠片が宙を舞っている。
そして、ホブゴブリンが測りかねているナナイの選択と目的。
それは。
「あーしが、死ぬまでに…お前を殺す」
一気に、空間の歪みから呪われた大型の斧を引き抜き、カーバンクルを遠くに投げる。
(ごめん。カーバンクルちゃん)
「きゅーー!!」
コロコロと転がり、目を白黒させているカーバンクルを確認した。
この一撃に全てを賭ける。
斧を両手で握りしめ、振り上げ叫ぶ。
「【大せつ
だが、それは叶わない。
全身が崩れ落ち、視界が暗くなる。
『デスペナルティ 再度ログインできるまで05:00:36』
暗い空間、ナナイ、ひとり。
ナナイは…結衣は膝から崩れ落ちた。
「あ、あ、あ……ああああああッ!!!」
見守る視聴者も、ナナイとして守るべき対象であったカーバンクルも、ホブゴブリンでさえもどこにもいない。
結衣の視野にあるのは、無情に時を刻むデスペナルティの表示だけだった。
『デスペナルティ 再度ログインできるまで05:00:23』
「まも、まもれ、なかっ、た…!いや、いやああっ!!」
あの場に残っているのは、カーバンクルとホブゴブリンだけ。
カーバンクルの未来は想像にかたくない。
今まで、ナナイとしての結衣は配信を通して多くの人間と繋がってきた。
だがその実、孤独に一人で土地を開拓してきた。
そんな時、ただの寄り道だがダンジョンを見つけ出し、そこでカーバンクルと出会った。
カーバンクルの愛らしさ、向けられた信頼。
絆されるには十分な時間が経っていた。
カーバンクルは何かを求めている。
何かを期待してナナイを頼ったのだと。
ナナイはそれを理解していた、なのに。
「…期待に、応え、られない…?」
『デスペナルティ 再度ログインできるまで04:59:53』
「はやく、はやく…!!お願い!!…あたしを、ここから、出して…」
涙がボタボタと暗い空間に落ち、消えていく。
◇ ◇ ◇
《ナナイの死後 1秒経過》
「きゅ、きゅ」
ナナイを殺したホブゴブリンは、ナナイが守ろうとした小さな生物に近付いていく。
カーバンクルは、焦った様子でナナイがさっきまでいた場所を見ていた。
《ナナイの死後 2秒経過》
「GIHIHIHI」
醜悪な笑顔を浮かべたモンスターは魔獣に肉薄した。
咄嗟にカーバンクルは逃げ出そうとするが、ホブゴブリンは両手剣を手放し、カーバンクルの逃走を許さず素手で握りしめる。
「きゅ、ぅ」
「GIHYA!!」
《ナナイの死後 4秒経過》
死なない程度、だが獲物が苦しむ力で徐々にカーバンクルを絞めるホブゴブリン。
絶体絶命のカーバンクルの目に、地面に突き立った邪悪なオーラを放つ漆黒の大斧が映る。
一縷の望みに賭けて、カーバンクルはスキルを発動させた。
「【きゅううううう!!】」
カーバンクルの額の宝石。
緑色の宝石が輝いた。
その閃光にホブゴブリンは片手で目を覆う。
だが、カーバンクルを絞める手は離さない。
「GYAHI!」
それを悪足掻きと断定したホブゴブリンはカーバンクルを嘲笑し、そのまま絞め殺そうとする。
シャラン、と音がした。
《ナナイの蘇生後 1秒経過》
「【大切断】ッッ!!!」
刃が、暴虐的な膂力と凄まじい速度、質量を乗せてホブゴブリンの腕を斬り飛ばした。
「GYAAAAaAAaaAaaaaa!!!」
吹き飛ぶ腕からカーバンクルがこぼれ落ちる。
「きゅ、きゅ〜〜!!」
「ごめんね」
それを受け止め肩に乗せたのは、ナナイだ。
“神聖なオーラ”を放つ大斧を両手で握りしめ、痛みに呻き、怒るホブゴブリンを睨みつける。
「…何が起きたのか、あたしには分からない。でも、やるべき事は、変わらない…!」
“白く輝く”大斧を担ぎ上げ、ナナイは吠える。
「…アンタを倒すッ!!」
小説家になろうにて、日間VRゲームで1位にランクインしました。
感想含め、重ねて感謝致します。
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