【MMOで〇〇作り】配信で作った川に水竜が住み着いた 作:荼枳尼天
ザクッ、ザクッ
押し固まった土にクワが入る音が森の中に消えていく。
貼り着く黒髪、流れる汗。
「おあああ…」
川作りを始めたナナイ。
そんなナナイは現在、ドロドロの化物のような姿になっていた。
土を掘って、アイテムボックスに放り込んで、また掘るの繰り返し。
「お、うああああ」
身体的な疲労は感じない。
これ精神的な疲労なのだ。
:流石に草
:ちょっとくさ
:かわいそう
:手伝い行ってやりたいけど行ったところでなにができんの?って感じ。
「死にます…しんじゃいますぅ…」
穴の縁にいたナディアもすでにどこかに消えている。木の実でも取りに行ったのだろうか。正直心細い。
穴は現在、ナナイの腰辺りまで掘り終わっている。
だが川の始点にするには不十分に感じる。
縦幅は十分だとしても、もう少し横幅が欲しいところだ。
「…や、やらねば、おわらぬ」
どこかおかしい口調で続行の意思を表明。
:よう言った!
:それでこそ男や
:女だけど
「きゅぅ!」
「あ、ナディア帰ってきたの…?」
穴の縁にいたのは、木の実を両手にこんもりと抱えた2匹のカーバンクル。
「…あ、ナディアともう一人…?どちらさま?」
「きゅ!きゅきゅ!」
「もきゅー!」
「もきゅ…?独特な鳴き方だね?」
ナディアの隣りにいたのは、比較的ふくよかで穏やかな表情をした赤色の宝石を額につけたカーバンクルだった。
:かわいい
:俺こういうまるっとした動物に弱いんだよ…
:いいなあ!魔獣が訪ねてくれるなんて!
「……」
ここで考える。
この子が川作りを手伝ってくれるのか。好奇心に任せてここに来ただけなのか。
「むむむ」
「もきゅ?」
「あーしの言葉はわかる?」
「もきゅ!」
当然!と言っているのか、胸を張って木の実を食べている。
「食いしん坊だねぇ」
手伝って、と言うのは簡単だがカーバンクルに働かせるのも気が引ける。
というわけで、止まっていた作業を再開することにした。
川作りに興味を持ってもらえれば万々歳。
拠点でゆっくりしていくだけでも可愛いのでオーケーという判断である。
◇ ◇ ◇
「…もう、夕方…」
周囲の影が長く伸び、黄昏色が空に根差している。
アレから相当量の作業をし、満足の行く横幅の穴を掘ることはできた。
一般家庭の浴槽2つ分ほどの横幅の穴を掘ったが達成感は薄く、疲労感が大きく勝っていた。
「…もっと楽な方法ないかなぁ」
:zzz
:寝てたわ
:ある意味見逃せねぇから視聴者は残ってるで
「ある意味ってなんだ…?」
穴の縁によじ登って座りアイテムボックスを見る。
どうにも時間がかかりすぎる。もきゅっと鳴くカーバンクルは結局ナディアと共にどこかへ行ってしまったし、踏んだり蹴ったりである。
ナディアの願いで呪いが消え、自分の窮地を救ってくれた白い斧を取り出す。
「…あんさ、アニメで見たんだよ」
:?おう
:なにを?
「…地面を斬ってるとこ」
その言葉にリスナーたちは騒然となる。
当たり前といえば当たり前で、突拍子のないことをするナナイだが、まさか地面を斬りたいと言い出すとは考えていなかった。
「…なんでもいいから、刃筋に沿って掘れてくれればいいの…!お願い…!」
たしかに、アニメなどで何らかのエネルギーを纏った剣を振り下ろし、レーザーのような何かで地面を薙ぎ払う描写はある。
自然破壊級の技を知っているリスナーも多い。
:だからって川作りに使うか…?!
:ちょっとおかしいよ…
:ちょっとどころではない!
白い斧を上段に構えて、かつてないほどの力を腕に込める。
それはナナイの腕からビキ、ビキ、と音が鳴るほどのものだった。
白い斧から燐光の奔流が溢れ出す。
神聖なオーラと絡み合い、それは一種の光の柱のようでもあった。
そして、その光景を見てリスナーも気付く。
:アニメで見たやつやこれっ!!
:うせやろ?!
:え?なに?チャージ式なの?
(どうせなら、新しいアーツを使う…?いや、ここは使い慣れてる方を使おう…!)
「【大切断】ッッ!!!」
ズアッ!
土と光の奔流が衝突。
とてつもない爆音を響かせたあと、膨大な土煙を発生させた。
固唾をのんで配信を見守るリスナーたち。
やがて、土煙の中から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「げぇっほっ、げほっ、やっばあ!!なにこれ?!」
それはこちらのセリフだとリスナー全員が思った。
土煙と共に、爆風に巻かれて空に上がった細かい石が降り注いでくる。
「いて、いててっ!」
思わず斧を傘にするナナイ。
ナナイの背丈より大きい斧は傘としての役割を十全に果たす。
やがて、土煙が晴れていく。
そこには、ナナイが手ずから掘った穴の1.5倍ほどのクレーターが広がっていた。
「はえ……これ正解?」
:なわけあるか!!
:灌漑工事の勉強してこい!
:あほたわけ!
「いいすぎ!!」
だが、クレーターはクレーター。
穴とは呼べないため、ナナイの微調整は必要だろう。
逆に言えば、必要なのは微調整のみだ。
それを考えれば、自作の道具のみの時代からは大きく進化したと言えるだろう。
感想ありがとうございます。