……後悔しました
今回もまた、始まりは博麗神社であった。
「さぁさぁ長い長い夜の幕が開く瞬間だ!!今宵は善も悪も人も妖怪も騒ぐ一大イベント!ダンシング東方だぜぇぇぇ!!!」
「いぇぇぇい!!」「騒ぐぞぉ!」「酒だ、酒だ~」「文ちゃん可愛いよぉー!」「踊れや踊れ!!」
少し前までは風が奏でる音色に耳を傾け、博麗神社の賽銭箱の前で各々が持ち出した酒に肴にと酔いしれていた。そして見計らったかの様に何処からか取り出してきたマイクに口元を当て、幻想郷文屋の射命丸文は声を荒げる。
その声を合図にその場に居た殆どの者達は、より一層騒ぎだした。ある者は豪快に酒を口に入れ、またある者は博麗神社内を走り回り、またある者は巨大化する。それを治める者は一人と存在しない。
《ダンシング東方》
───誰が考えたのかは理解不能。目的も無ければ意味も無く、その場に委ねて騒ぐだけ。ダンシングと言い表されているが踊る者は数少ない。また、そこに深く追求する者は一人も居ない。目の前で起きてる事象を受け入れる。まるで一夜の幻想の如く、夢幻の如く、彼女達は疑問を抱かない。
それは喜劇の様であり演舞の様な宴だから。
「霊夢~酒だ酒ぇ~」
「ちょっと萃香!?あんた飲み過ぎて巨大化しないでよね!?」
「んぅ~?霊夢が小さくなった~?」
「アンタが大きくなったのよ!!」
萃香は何時もの如く酒を体に浴びて酔いに流される。しかし今日に限っては他の者にも言えていた、まるで今行われてる宴にサブリミナル効果があるかの様に、博麗神社に集う者共は酔いに流されている。
幾度となく摂取される体内のアルコール成分がアドレナリンの発生を増幅させているのだろう。だがしかし、その現象に疑問を抱かないのがダンシング東方なのだ。
「あ、賽銭箱が空を飛んでるぞ~」
「おお、霊夢の一発芸だな!」
妖精が声で示したのは空飛ぶ賽銭箱。溢れでる賽銭は宙に浮かび、月より照らし出される宵闇の光を四方八方へ乱射する。その何とも言えない幻想風景には目を見張るばかり。
「あっ!私の煎餅が歩いてるわ!?」
続いて声を出したのは宴の舞台である博麗神社の唯一の巫女、博麗霊夢。その視線の先には手足の生えた360度の角度を誇る丸型煎餅。その見た目のギャップからは何故だか愛らしさを感じ、見るもの全てを惹き付ける。
『何故煎餅が動くのか?』そんな野暮ったい質問を投げ掛ける奴は此処には存在しない。これがダンシング東方なのだから。
そして手足の生えた煎餅は宵闇の森へと消えていく。他の者は決して後を追わない、その現象を不思議とも感じない。それが…ダンシング東方。
「あらあら、愉快に騒いでるわね」
ふと現れたのは妖怪の賢者、八雲紫。その手に持つのは凜とした美しさを体現している一つの扇子。
「そりゃ騒ぐわよ、何たって今日は…ダンシング東方なんだから」
「そうね、今日に限って全ての境界は無くなるわ。地底の妖怪も顔を出してる様だし」
そう言いながら八雲紫と博麗霊夢は酒を酌み交わす。親子の様に、そして絆を示す様に。
「また、忙しくなるかもしれないわ」
「あっそ、なら私が何とかするわよ」
普段は皮肉の言い合いを見掛ける彼女達も今日と言う日は穏やかだ。何故ならダンシング東方と言う舞台だから。
「はいはーい!それでは皆さん記念に一枚!」
ふと霊夢の耳に流れたのは甲高い声、それを出したのは烏天狗の射命丸。視線が集まる彼女の右手に抱え込まれてるのはズッシリとした金属が作り上げる一眼レフ。
「文屋しては撮らせて貰います!はい、ピース」
【ダンシング東方】
それは間違い無く、参加する者を笑顔にする。
【お題】
博麗神社の賽銭箱が飛んでおせんべいがダンシングする話。
既にカオスでした。